結論
直近の経営の立て直しは見事。しかしながらガバナンスや事業領域の定義など、長期的に見たときに体質に不安あり。
目次
事業概要
まずはオリコンの事業についてです。
オリコンの事業はコミュニケーション事業、データサービス事業、モバイル事業、雑誌事業の4つがあります。
「オリコン」といえば私の世代ならイメージするのはミュージックステーションなどでよく聞いた「オリコン~位」という単語。子供のころ意味も分からず「オリコン1位」という単語を使った覚えがあります。 社名だったんですね。
データベース提供やマーケティングといった事業はコンサルティングと同様、大きな設備投資が不要なビジネスが多く利益率も高い印象です。しかしそれだけに参入障壁が低く、みんなやりたがるため、業界における信頼度やブランド力が重要になります。
その点、既に知名度のあるオリコンという会社はかなり有利ではないかと思います。
そういったことを踏まえつつ、同社の骨格、考え方を見ていきましょう。
セグメントの状況
オリコン事業は先に書いた通りの4つのセグメントです。
コミュニケーション:27.3億円(64.1%、利益率55.9%)
データサービス:6.5億円(15.4%、利益率33.1%)
モバイル:7.4億円(15.6%、利益率48.9%)
雑誌:2.1億円(4.9%、利益率7.4%)
雑誌事業以外は凄い利益率です。。
そして雑誌事業は2020年3月をもって休刊だそうです。いよいよ高利益率の事業しかやってません。これを意図的にできているのだとすれば、体質として期待できます。
あと、こういった高利益率の業界は変動も激しいので過去の推移も見てみます。
IRページにいい資料がありました。
過去五年は基本的に好景気なので、その分割り引いてみる必要がありますが、とはいえ、コミュニケーション事業とデータサービス事業はそれなりに順調に伸びてます。
一方のモバイル事業は急激に落ちてます。
確かにモバイル事業の音楽とか書籍の配信事業ってGAFAとか米国テック系企業の独壇場というイメージで、オリコンのイメージはあんまりないですね。。
オリコンのコアは、技術ではなく文系寄りのマーケティングやブランディングなんだろうな、と。
業績推移
利益率の推移は8.1%⇒15.3%⇒16.3%⇒22.7%⇒27.8%
(。´・ω・)ん?
なんかセグメントで見た時ほど利益率はよくないですね。
ということは各セグメントでの利益は粗利ベースで、配賦されない販管費割合が結構大きいのだろうな、と。オリコンのようなビジネスモデルで粗利ベースだったら確かに先のセグメント別の異常な高利益率も納得です。
しかし、重要なのはビジネストータルとしての利益率なので、全体としての流れを見ておきましょう。やっぱりIRの資料が見やすいので引用します。
面白いのは2016年~2019年で販管費が右肩下がりである点です。
販管費の詳細を一応見てみますと。
「その他」の経費が落ちて行ってます。
「その他」では分からないので全体の傾向から推測します。
2016年ー2017年の大幅減は、おそらく雑誌事業の縮小に伴うもの、2017年ー2019年の減についてはモバイル事業の売上縮小に伴うコスト削減なのかな、と。
そして2020年は販管費が増えていますが、それ以上にコミュニケーション事業の売上が伸びたためトータルとしては増益という形に着地してます。
つまり、ここ5年の同社傾向として考えられるのは、雑誌事業、モバイル事業の規模縮小と、コミュニケーション事業の拡大による利益率向上です。
景気拡大の好影響を差し引いてもこの変化は好感が持てます。
この変化を意図的に起こしているのであれば体質としても優良であるといえます。
方針でそれを検証していきます。
経営方針
経営上の指標としては営業利益、営業利益率及び前年比増加率、当期純利益、ROE、営業キャッシュフロー、自己資本比率です。
若干まとめ切れてない印象があります。
営業利益と当期純利益が目的がほとんど重複しますから意図が見えにくいですし、営業キャッシュフローと営業利益は長い目で見れば同じ概念です(特にオリコンの場合は)。これだけだと何を基準に意思決定しているのかわからないな、と。
個人的にはせいぜい利益率、資本効率、財務健全性程度に数を抑えておかなければ、ポイントを押さえられず、指標を掲げる意味が薄いと思います。
お~。見事に改善してます。
純資産の比率を高めながら利益率を上げるというのは、適切な事業整理と利益率向上ができているためです。
雑誌事業とモバイル事業の縮小・廃止、コミュニケーション事業の拡大によって効率の良化が進んでいるということかと。指標設定の仕方はともかく、結果だけみればポジティブな印象です。
キャッシュフロー
営業キャッシュフローが指標なだけあって、順調な伸びです。
しかし、5年間に投資活動によるキャッシュフローがとても大きく出てます。
詳細は有形固定資産の売却のようです。
詳細をみてみると
太陽光発電?なんのこっちゃ。
今はもうないようですが、5年前まで太陽光発電とかもやっていたようです。
ヤバい多角化の典型ですね・・・しかし今は体制としてだいぶん持ち直し、経営のスリム化が進んできたようです。
こういった経緯を見ていると、企業経営にとっては自らの事業領域を定め、そこに留まり極め続けるハリネズミ型経営がどれだけ重要な事かわかります。「カレー屋がラーメンを作り始めるといよいよヤバい」説は一理あるかと思います。
オリコンが多角化から足を洗い、定めた事業領域に資源を集中している最近の傾向は好ましい変化かと思います。
ただ、一口に事業領域の設定といってもかなり難しいです。
オリコンの場合、「調査分析して製品、サービスをランキングする」という部分に注力しようとしている印象です。カカクコムとかに近いビジネスモデルになりつつあるのかな、と。
ただ、ランキングって主観的な要素が大きいので、個人の1意見として出す分には問題ないんですが、事業としてやるのはかなり厳しいんじゃないかと。
例えばランキングを企業同士が競いあってやった場合、どちらのランキングが正しいか、と考えたとき、だれも判定できないんですよね。。消費者も何を信じてよいか結局のところ分からない。つまりこの分野には、こうしていけば勝てるという、明確な指針みたいなものが立て辛い気がします。
マクドナルドであれば、「安くて旨いバーガーを迅速に提供すること」だけを考えればいいですが、オリコンの場合、そもそも「信頼できる正しいランキング」ってなんだ?となり、顧客とは無関係のところで迷走しそうな気がします。
インターネットの普及前は、データの収集がアナログで行われていたため、「信頼できる調査データ」というオリコンの事業領域は、それだけでかなり強いパワーがあったように思いますが、適切な検索ができれば素人でもそれなりの情報が手に入る時代には、オリコンのビジネスはますますやり辛くなるのではないかと。
オリコンは事業の選択と集中というマネジメントの観点では、一時期よりかなり立て直した感はありますが、インターネット時代の自社の事業領域はもう少し掘り下げていき、「この方向で頑張れば必ず結果につながる」という部分を見つける必要があるのではないかと。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び預金が21.6億円(56.0%)と、十分な割合です。
保険積立金も2.7億円(6.9%)で、これも低リスクな投資ですから、ほとんど現金同等物という扱いでよいと思います。
売上債権は5.7億円(14.9%)で滞留日数は50日と問題ないです。
固定資産が少なく、ほとんど低リスクな資産リストです。
資産欄についてはかなりリスクが低く保たれている印象です。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は1.4億円(3.6%)です。
直近でほとんど負債は清算していますが、項目が結構残っているので、昨年まで頑張って返済していた感があります。
先の自己資本比率も急激に改善してますから、非効率事業を廃止もしくは縮小することで浮いたキャッシュフローで有利子負債を返済してきたものと思われます。今年あたり無借金になりそうな勢いです。
純資産は30.1億円(77.9%)と十分です。
過去はさておき2020年時点では財務健全性は優良であると言えそうです。
従業員の状況、役員報酬
630万円はそれなりのレベルではありますが、華のある芸能界関連の会社にしては控えめな印象です。歴史ある会社にしては勤続年数も少ないです。そういう業界だからなのか、労働環境があまり良くないのか。いずれにせよあまり良いイメージではないです。
一方、役員はどうかと言うと・・・
取締役の一人当たり平均は29百万円です。社員の給与水準を考慮すればまあ、それくらいかな、と。
事業の選択と集中ができている点は、経営陣がしっかり仕事をしているな、とは思いますが、一方で会社としての規模や従業員の給与水準を考慮すれば妥当なセンではないかと思います。
大株主の状況
有限会社リトルボンドが結構な割合を占めてます。
有限会社リトルボンドは創業者であり社長である小池氏の資産管理会社のようです。
代表取締役が大株主を兼ねる場合、やはりその倫理観が重視されます。
私的な取引などがないかは押さえておくべきかと。
普通に取引ありますね・・・
利息を受け取っているということは会社から小池氏に貸しているようです。
何に使っているのかはわかりませんが、こういうことをするのは印象としてマイナスです。少なくとも会社にとってのメリットはないハズですので。
いくら決定権を掌握していても、上場会社は個人の会社ではありません。こういった部分は規制できないからこそ、倫理観が試されます。
というか資産管理会社はオリコンの34.15%を持っているわけですから、それを売れば2,100万程度の金は簡単に捻出できる気がしますが・・・なんでそんな事をしているのかわかりません。。
株主還元
配当の決め方は具体的な指標なども特にないようです。
実際に出している配当性向は100%を超えたりしてますが、正直どういう意図でそれを出しているのかは見えないです。明確な基準がないと、単に私的な理由で社長が決めている可能性も考えられます。
貸付金の件の謎を含めて考えるとちょっと嫌です。
まとめ
過去、一時的に多角化に失敗している雰囲気はあるのですが、ここ数年はマネジメントが事業の選択と集中を行っているようで、スリム化、効率化しているように見受けられます。これは非常に素晴らしいです。
しかし一方で意思決定権をほぼ掌握している社長に対する貸付金や配当の出し方など、ガバナンス上疑問符のつく部分も見受けられます。
社長が圧倒的な意思決定権を持つ会社の強みは果敢な決断力であると思いますし、実際それのおかげでたった数年でここまで業績が改善しているように思います。ただ、それは逆にトップが気まぐれに新しい事業に進出したい、と言い出したら防げないことも暗示しています。
事業領域を特定して、創業者の経営手腕に依存しないハリネズミ的経営ができなければ、今後も体質としての不安は残ります。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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