企業分析アナトールの株式投資

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証券投資のお勉強③~数字編~

証券投資をするのであれば、会社の状態を知るために会計学を勉強した方が良いという意見がありますが、私は賛成しかねます。そもそも会計というのは、会社の財務状態を一般投資家が簡単にチェックするために考案された手法であり、投資家が専門的な勉強しなければ理解できないというのであれば、会計の目的に矛盾します

私自身は大学時代に会計士レベルの会計学を一通り学び、簿記一級も取得しました。しかし財務諸表を見る時は結局、6、7割方利益の推移だけを見ています。その会社の稼ぎ出す利益概念の推移(10年くらい)にだけ注目すれば良い、と考えてます。理由は後で説明するとして、とりあえず、投資家が見るべきと思う3つの指標をご紹介します。

①ROE(Return on Equity:自己資本利益率

その名の通り、純利益/自己資本で算出される指標で、自己資本に対してどれだけの利益を出しているのかを示す数値です。これは会社がどれだけ効率的に利益を稼いでいるかの指標となります。この数値が安定して高い会社は、営業上何かしらの強みを持っており、成長するスピードも速いです。

ちなみに一般的な水準を言えば、大抵の会社は0%~10%くらいです。これが10%を越えてくるとまあ優良、20%を越えてくるとかなり優良、という印象です。

注意したいのは、一時的な理由でROEが高くなるのは本当の実力とはいえないので、直近1年のROEが良いというだけでは判断できません。その裏にある理由が継続し得ると判断できれば買うのも良いですが、もし不安なら数年様子を見る事をお勧めします。

②PER(株価収益率)

株価/純利益で算出される指標で、~倍という単位で表します。一株当たりの純利益が100円で株価が1,000円であれば、10倍です。これは今株を買い、その会社が同じ利益を出し続ければ、何年で回収できるかという指標にもなります。10倍であれば10年、5倍であれば5年、といった具合です。純利益はイコール配当金ではないので、回収といっても手元にお金が戻ってくるわけではないですが、それでも本質価値でみれば、その年数で回収できる計算になります。

一般的には15倍以下が割安と呼ばれるようですが、この解釈は様々で、純利益自体がどんどん増えていく成長企業であれば、15倍どころか30倍でも安い(利益が将来30倍になるなら、1年で元手が回収できるから)場合もありますし、逆に利益が減少傾向にある会社は10倍でも高い(利益が半分になったらPERは20倍になるから)と考えられます。

私個人の意見でいえば、どれだけ優良でも、できればPER10倍以下で買いたいな~という感じです。

③FCF(フリーキャッシュフロー

この数値は厳密に言うと会計上の利益の概念からは離れるのですが、有価証券報告書キャッシュフロー計算書という資料の、「営業活動によるキャッシュフロー」と「投資活動によるキャッシュフロー」を合計した金額です。この数値は会社にどれだけのキャッシュが残るかを示しており、これが安定して多ければまず資金繰りに行き詰って潰れる心配は無い上、自由になるキャッシュが多いため、株主還元を積極的に行う可能性が高くなります。

これを見る理由は安全のためです。会計上の利益こそ多くても、例えば金額が大きく中々売れないものを扱う不動産会社などでは、一件売れても、次に売る不動産を仕入れるためのお金がかかりすぎて、FCFがマイナスになる事が多いのです。こういった会社は、運転資金を銀行借入に頼るので、1度でも経営環境が悪化して売れなくなると、含み損が一気に膨らんで融資がストップし、潰れるリスクが高いです。リーマンショックでは会計上は黒字で業績の良い不動産会社が資金繰りに行き詰ってバッタバッタと潰れました。よってこのFCFの数値は安全性を見る意味でも絶対に外せない観点です。

なお、この数値を載せているサイトは少ないので、有価証券報告書などを見て自分で計算してみると良いかと思います。

何故投資家は利益概念だけ見ていればよいのか?

そもそも、会計の起源はいくら儲かったかを適切に量る事であり、あらゆる会計理論はそれを適正に算出する方法論に過ぎません。そしてその算出過程が正しいかをチェックするための専門職として「公認会計士」が存在し、我々が投資できる上場企業は彼らの監査を受ける事が必須条件になっています。

会計に詳しい人には今の利益よりも将来に影響する貸借対照表(B/S)が重要、という人もいます。確かに経営上の貸借対照表の重要性は高く、おかしな売掛金や未収入金、棚卸資産に怪しい資産を見つける事は経営の基本と言えます。

ただ、売掛金や未収入金、棚卸資産に怪しい資産が含まれているかどうかなど、現実問題として部外者である投資家が分かるでしょうか。内部資料を閲覧し、ヒアリングまでしている会計の専門家が指摘できず監査証明を出しているのであれば、外部の投資家が数字を見て気づく問題など、あったとしても非常に稀です。

投資家が考えるべきはむしろ数値よりも、数値に現れていないその会社の潜在価値、競争力、ブランド力といった、将来にわたりお金を稼げるであろう能力になります。投資家は上記の数字を理解できていれば十分で、分かり難い会計学よりも、もっとその会社の業界や製品について理解を深める事が肝要ではないかと思います。

まとめ

投資においては数値は3つだけ押さえておけば良いと思います。長期のスパンでこの3つを眺めていれば、割安な成長企業を洗い出す事ができますし、大抵の粉飾は避ける事ができます※。

※この3つの指標を満たしつつ粉飾をする会社はほとんどいません。何故なら粉飾は経営に行き詰った会社が、他にどうしようもなくなって手を付けてしまう最終手段だからです。まともに稼げている会社はそもそも粉飾をする理由がありません。

どちらかというと、その会社の将来性だとか、ブランド力とか、そういった数字には表れない部分を考えるのが、投資家の腕の見せ所だと思います。