企業分析アナトールの株式投資

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【1721】コムシスホールディングス~有価証券報告書の読み方~

結論

財務状態は悪くないが、あまり推奨せず

 

目次

 

事業概要

先ずはコムシスホールディングスの事業についてです。

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コムシスホールディングスは8統括事業会社、89子会社、18関連会社から構成され、電気通信設備工事事業及び情報処理関連事業等を主な事業内容としております。

 

ん~・・・それだけ?という感じです。

勿論、シンプルである事は重要だし、長々書くのが正解ではないです。よく分からない難しい専門用語を滔々と語られても困ります。

でも事業の説明って言ってみればその会社の存在意義みたいな部分だと思うのです。結構このあたりって会社によって特色が出ていて、中には凄く熱く語ってくれる会社もあります。そういう会社は結構何をしたいのかが明確なので、読む側に目指す先とかも伝わってくるし、経営陣が熱かったり社員の団結も強かったりします。

その点、コムシスホールディングスはちょっと事業に対する情熱とかポリシーみたいなものが見えにくいな、という気がします。

「THE 事務連絡」という感じ。

 

ちなみに、トヨタとか一般人でも何やっているのか分かるメジャーな事業なら別に良いんです。トヨタが「車作ってます」の一言で終わっても、まあ知ってるからいいか、と私ならスルーします。ただ、コムシスホールディングから「電気通信設備工事事業及び情報処理関連事業等をやっています」って言われて、少なくとも私はまあ知ってるからいいか、とはならない。もう少しどういう性質でどんな特徴がある事業なのか、ざっくりで良いから書いておいて欲しいです。。 

 

セグメント売上(業種ごとの売上)の状態も確認します。

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売上高がセグメント合計で前年対比で26%増えてますね。

どこのセグメントが増収しているのかと見てみると、そもそも前年には無かったセグメントが増えてます。

2019年3月期で「NDSグループ」「SYSKENグループ」「北陸電話工事グループ」とセグメントが追加されています。

セグメントが増える可能性としては、①新しく事業を始める、②事業を分割する、③買収などで事業が加わる、の3つほど考えられます。

事業の売上規模からいっておそらく3だと思うので、沿革を確認します。

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やはり株式交換で3社子会社化してますね。
株式交換というのは、もともと3社の株を持っていた株主にコムシスホールディングの株を渡して3社の株を貰うという交換の事です。結果、3社はコムシスホールディングに飲み込まれ、3社の株主はコムシスホールディングの株主となります。

買収はMBOやTBOなどのように、現金でやることもありますが、このように株式を交換する形でも行われます。

 

 

 

業績推移

買収の影響は業績を見てみると、良く分かります。

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売上高が前年対比で26%増えて、経常利益が17%増えてます。
これは既存の事業が成長した分も入っているのでしょうが、買収で増えた分が売上が67,335百万円あります。

これに関してはグループとしての成長というより、単に買収して規模が拡大しただけなので、素直には喜べません。

経常利益率を追っていくと、8.6%⇒7.6%⇒7.6%⇒8.1%⇒7.5%と、悪くなるか平行か、といった所です。ただ、特に2019年は売上が大幅に伸びている割に、経常利益が伸びていません。これは買収による影響と思われますが、こういった利益率を無視した買収を行う場合、会社の体質として、効率を見ていないことが多いです。

 

目標とする経営指標を見てみた所、案の定売上高と営業利益の絶対額が指標になっています。

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この目標は企業の質を高めることではなく、それなりの利益を出している会社を何社か買収すればこの目標は達成できてしまいます。

会社の経営目標に質ではなく量を求めてしまうと、企業は効率改善を止め、本質とは無関係な規模の拡大に走ってしまう事が多いと思います。

 

 

 

キャッシュフロー

フリーキャッシュフローが2019年だけ赤字になっていますが、それ以外は黒字です。工事関係の会社にしては悪くない印象です。

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ただちょっと直近の営業キャッシュフローの減りが多い気がしますから、キャッシュフローの明細を見てみます。

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黄色マーカーで塗っている部分が大きなマイナスになっています。

売上債権が増加したことによってキャッシュフローが減っています。

これは全てのグループ会社をまとめた合計なので、どこの会社で増えているのかは分かりませんが、今期で一気に増えているという事は、買収した会社が売上債権を抱えていた可能性が高いです。

ちょっと売上債権が気になるので、貸借対照表でも重点的に見てみます。

 

 

 

B/S(貸借対照表

やはり受取手形・完成工事未収入金等が結構増えてますね。

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ただ、売上債権は絶対値の増減で一概に良し悪しは言えません。売上が増えれば売上債権だって増えるのは当然です。

売上債権/売上で売上債権の質を見ることができます。

計算してみると32%⇒35%でやはり悪くなってますね。

これはつまり売上債権の回収が遅くなっているという事です。

 

売上債権は資産の中でも実は最重要といっても良いくらいリスキーな資産です。この入金が遅れると、当然キャッシュフローが滞って資金繰りが悪くなりますし、万一相手先が倒産などになるとその金額が全損となり、その金額が純資産から吹っ飛びます。なので売上債権の金額はかなり注意して管理されねばなりません。

この回収スピードの悪化は理由が何であれ、良くない兆候です。

負債を見ても、売上債権の増による資金繰り悪化の兆候が出ています。

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全体から見れば微々たる問題かもしれませんが、有利子負債が増えています。

 

 

 

キャッシュインの無い利益

これは先ほど言った売上債権が増えている事ともう一つ、キャッシュインのない利益が2つ発生していることに起因します。「負ののれん」と「その他の資産」の増減額です。

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これらの利益はお金が入ってくるわけでなく帳簿上の利益や評価益というだけで利益計上されています。

こういう利益を計上する事によって、会計上は同社は多く利益が発生しているように見えるため、配当支払や法人税でキャッシュが流出します。

おそらくは、このキャッシュインの無い利益と、売上債権の増というダブルパンチからキャッシュが少なくなり、銀行借入が必要になったものと考えられます。

 

 

 

顧客

コムシスホールディングスは特に売上債権の金額が目立った会社なので、売上債権のリスクについて色々書きましたが、これらは財務分析上の一般論です。結局は誰に対して売上債権を持っているかで滞留するかどうかは決まってきます。

コムシスホールディングスはそもそも一体誰に売上げているのかというと、以下。

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NTTグループが半分を占めているんですよね。。

NTTグループが潰れたり債権が滞留したりするというのは、正直あまり考えにくいですから、多少債権が増えたところであまり心配はないかもしれません。

ただ一方で、特定の取引先に偏ると、その得意先次第で業績が左右されますし、値下げされるリスクも高くなります。つまり利幅が落ちるかもしれません。将来的な成長という観点からいくと、特定の顧客に頼っている状況では、なかなか厳しいものがある気がします。

事業上のリスクの第一に以下の通りNTTへの依存を挙げているあたり、経営陣もそれは認識していると思います。

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まとめ

 結論から言いますと、財務的には手堅いのかな、という気がします。一応直近の決算短信を覗いてみたのですが、同社の営業キャッシュフローは大幅に増え、売上債権/売上の率が以前の32%弱に戻っていました。

つまり、35%と悪化したのは、買収、連結したことによる一時的な現象であり、恒常的なものではないかもしれません。そもそも債権自体がNTTグループメインということで手堅く、貸倒引当金の設定もほとんどされていないことから、顧客の質は高いものと推察されます。

(貸倒引当金は過去の貸倒リスクを勘案して設定されるため)

2019年以外はフリーキャッシュフローが黒字になっている点も評価できます。

また2019年は有利子負債を作っていますが、逆に言えばそれまではほとんど有利子負債がありませんでした。

 

ただ、会社としての成長性、体質としては疑問です。

元々ビジネスとしての利幅は決して多くはありませんし(8%~7%)、その傾向は直近の2020年でも変わってはいないようです。売上と営業利益の絶対額で経営目標を定めている点も方針として頂けません。ビジネスは費用対効果で見なければ、どんどん効率は悪化します。

売上の特性としても、特定の顧客に大きな割合を占められると、力関係として弱くなりますし、その特定の顧客の業績に左右されます。大きく売り上げを減らしたとき、利幅の低い事業でどこまで食い下がれるのか、若干不安です。

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有価証券報告書の事業を説明する部分や将来のビジョンを説明する部分は、具体性の無い文言(統合シナジー)や、景気の話題(ICT投資の拡大が期待されている)など、どちらかというと他力本願感が強いです。明確に「こういう付加価値を生み出すことで利益率を向上させる」というようなビジョンが見えません。

長期的投資や、就職や転職という観点から見ると、自ら具体的な価値を生み出し、効率を意識して改善をする意思のない組織は、良い選択とは思えません。

よって、コムシスホールディングスは、個人的にはあまりオススメしません。

 

本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

企業分析リンク

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