企業分析アナトールの株式投資

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【9795】ステップ~有価証券報告書の読み方~

結論

経営陣は優秀、利益体質も良い。ただ、財務的にもう一段上を目指せば素晴らしい会社になりそう。。

 

目次

 

事業概要

先ずはステップの事業についてです。

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The シンプル

子供でも分かりそうな分かりやすい事業説明ありがとうございます。

さすがは教育分野の会社、というところです。

学童・保育部門:小学校1年生~小学校4年生

小中学生部門:小学校5年生~中学校3年生

高校生部門:高校1年生~高校3年生

この学童・保育部門を漫然と小学生で区切るのではなく、4年生までで区切るのは何か根拠がありそうですね。中学受験対策?とかですかね。

 

セグメントとしては教育の単一セグメントではありますが、人員、および売上は小中学校部門(学童保育を含む)と高校生部門に分かれ、構成比は以下の通り。

人員:小中学校部門69.5%、高校生部門19.0%、事務部門11.5%

売上:小中学校部門81.1%、高校生部門18.9%

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主力は売上の8割を占める小中学校部門のようです。

個人的には学童・保育部門に書いてある「学習系及び、運動、将棋などの各種プログラムを実施」というのが興味深いです。教育を単なる「文部科学省のカリキュラムに沿った勉強」という枠で捉えていない雰囲気に好感を覚えます。

 

 

 

業績推移

業績は学習塾というビジネスの中では、かなり抜きんでた水準だと思います。

経常利益率24.3%⇒24.4%⇒24.9%⇒23.6%

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昔、学習塾系の業績を調べたとき、あまり利益率が良くなかった印象があったので、同業他社の短信を覗いて経常利益率出してみると。

リソー教育:10.3%

学究社:14.7%

東京個別指導学院:13.6%

明光ネットワークジャパン:9.6%

早稲田アカデミー:4.7%

 

やはりステップの利益率は傑出してます。

傑出した利益率が出るには何らかの優れた競争力か、優秀な経営陣、もしくはその両方があるのではないかと推測されます。

という事で、経営方針をチェックします。

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これは間違いないです。相当優れたマネジメント陣です。

ビジネスの数値的特性まで理解した上で、達成すべき数値を明示してます。

こうした性質的な管理ができていると、たとえ環境要因で業績が悪化しても、被害を最小限に食い止められます。

定めるべき経営指標の模範解答みたいです。

ビジネスの世界でも先生やれるんじゃないでしょうか。

 

 

 

役員の報酬

損益に対する意識が高いのはこういう所にもにじみ出てます。

学習塾という業態の特性を理解した上で、一般的な方針と違う方針を取ってます。

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漫然と他社のやり方に流されず、 きちんと自分のやっている事を理解して最善の方法を検討している証です。

 

 

 

キャッシュフロー

新しい塾の出店などで投資キャッシュフローが結構ありますが、営業キャッシュフローの無理のない範囲内でキッチリ収めてますね。本当に基本に忠実でセオリー通りです。

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B/S(貸借対照表

次に資産状況の確認です。

現預金は全体の28.6%とまあ普通くらいかな、という所。

ただ嫌なのは有形固定資産が73.9%を占めている点です。

さらに有形固定資産のうち53.6%が土地です。

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昔からある価値観の一つに、土地はいつまで経っても土地で、建物や機械のように老朽化しないから、資産として優秀、というものがあります。こういう考えは土地の価値が上がり続けていた世代の経営者に多いです。

しかし実は、経理的観点からは土地を保有するのには2つのデメリットがあります。

①見えない不良資産になりやすい

土地は一見してずっと土地であり、会計上も基本的にずっと取得時の価格のまま帳簿に載り続けます。昔、インフレで土地の価値があまりにも上がった時に、土地の帳簿価額を今の価格に合わせて、利益分は純資産の部に載せるという特例処理が認められた事例(土地再評価差額金で検索すれば出ると思います)がありますが、そういった例外を除けば原則日本基準ではずっと同額です。

しかし、現実問題として土地の価格は一定ではありません。特に日本では人口は減っていきますし、都市の立地としての価値は時代で変わります。そうなってくると、帳簿上の価値は変わらないのに実体として価値がない不良物件が混じりかねません。そうなれば、売るときや減損処理をする時に大きな損失インパクトとして反映されます。それは会社が将来的な見えないリスクを抱えて込んでいるのと同じです。

②資金繰りが苦しくなる

土地は他の固定資産と違い減価償却費が発生しません。減価償却費が発生しないという事は、その投資した分の金額はずっと経費にならないので売上と相殺できず利益が多く出ます。利益が出れば法人税を払わねばならないためキャッシュが会社から出ていきます。つまり土地を買えば買うだけ経営上、キャッシュが不足しがちになります。

これは損益ではなくキャッシュフローという観点から見た経営、キャッシュフロー経営と呼ばれる考え方なのですが、その考えからすると土地は自前で買うべきでない、という結論になります。

 

土地を持つというのは上記2点から、現代ビジネス的にはあまり望ましくはありません。私が同社の経理担当者であれば、土地だけでも良いので、金融機関やリース会社にセールスアンドリースバック取引(土地を一度、金融機関かリース会社に売って、賃料を払って借りる取引)をしてもらえないか相談すると思います。

そうすればキャッシュが潤沢になりますし、将来的な土地の大幅減損というリスクを抱え込むことは回避できます。

今の超低金利時代なら諸手を挙げて買ってくれそうな気がします。

 

次に負債ですが、有利子負債が10億近くありますが、土地建物を担保にしています。

担保にするくらいなら一度セールスアンドリースバックを検討したらどうかと思います。

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純資産は一見充実しています。

しかし、この純資産の多くが有形固定資産として帳簿上に載っているため、有形固定資産の減損損失のリスクを内包していると言えます。今はまだ事業が好調ですから減損は少ないでしょうが、10年先、20年先を見据えるなら、今のうちに資産を現金に換え、帳簿を綺麗にしておいた方が良いと思います。

私は早々に経営陣は有形固定資産を処分してリースや賃貸に切り替えた方が良いと思います。ステップという会社は教育事業が目的であって、土地や不動産を持つことが本来の目的では無い筈です。一時的な損失が出るかもしれませんが、長期的に見ればキャッシュフロー改善に役立つはずです。

 

 

 

特別損失

P/Lでも有形固定資産が多い事で、ちらほらとほころびが見えます。

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固定資産売却損が35百万円。全体額から見れば微々たるものではあるんですが、そもそも特別損失自体あまり見ないので過去(平成28年度、平成27年度)をさかのぼると。減損損失が頻繁にあります。

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損益上は微々たるものですし、ある意味きちんと有形固定資産の価値を管理している事の証でもあるんですけど、事業が上手く成長している今ですら減損がちらほらでているのです。これが何らかの理由で経営が悪化して減損が出れば、純資産は一気に棄損します。

むしろそういうアセット管理は銀行やリース会社、不動産業者さんに任せて、ステップ自身はB/Sを身軽にしてリスクを減らし、キャッシュを自由にした方が良いのではないか、と思います。

是非、キーエンスファブレス経営を参考にして頂きたい。

 

 

 

まとめ

説明を見るに、経営陣はかなりスマートでしっかりした印象ですし、利益率という形で結果も出しているため、体質は申し分ないです。ただ、その志向がP/L重視に偏り過ぎているのではないか、という感があります。私は基本的にはP/Lを重視して体質管理するのには賛成なんですが、長期的な事を考えたとき、大きなリスクを持つのはB/Sだと思います。大きな問題は往々にしてB/Sに現れます。

有形固定資産などは経理上のトラブル要因の最たるもので、減損リスクはある、維持費(税金や管理費)は掛かる、資金繰りが大変、の経営三重苦です。また、自前で買う前提でいると、出退店の意思決定も簡単にはできません。

現代の優れたビジネスモデルはこれを排除したスマートな体質を目指す事が多いです。キーエンスしかり、アップルしかりです。

ビジネスの本質は顧客の課題を解決する事であり、ステップの解決すべき課題は教育だと思います。ビジネスの本質たる教育に、その資産を自前で持つ事は必要でしょうか。

 

現時点でステップは既に十分素晴らしい会社です。

しかし、だからこそ非常に惜しい気がしてなりません。

この会社はもっと偉大な企業になれるポテンシャルを秘めている気がします。

 

本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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