企業分析アナトールの株式投資

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【2326】デジタルアーツ~有価証券報告書の読み方~

結論

業績、財務共に良し。体質もクリーンな印象。

 

目次

 

事業概要

先ずはデジタルアーツの事業についてです。

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多分、分かりやすく書いてくれているのだと思います。

私はこういった技術的には門外漢なので、製品の名前を見てもピンとこないですし、その製品の将来性であるとか、競争優位とかは分かりません。
ただ、ごちゃごちゃと複雑な事を書いていないことは分かります。そういう意味では経営陣の頭の中はきちんと整理されていて、自身のビジネスについて何かを誤魔化したりせず堂々としているのかな、と感じます。

 

同社はセキュリティ事業の単一セグメントですのでセグメント情報はありません。

 

 

 

業績推移

経常利益率の推移は24.9%⇒35.8%⇒37.3%⇒45.0%⇒41.2% 

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エグいほどの高利益率です。。4年ほど前から急激に体質が良くなっていますね。。

一応それ以前の数値を追ってみましょう。

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20.9%⇒26.8%⇒21.8%⇒26.8%⇒24.9%と十分優良ではありますが、直近4年ほどではありません。

 

21期(転換点となった頃)と25期(現在)で何が変わったのかを見るために販売の内訳を確認します。

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市場構成は企業:146.6%、公共:134.8%、家庭:130.2%

いずれの市場も伸びてます。

成長度も絶対値的にも影響が大きいのは企業向け市場です。

しかし、特定の市場が急激に伸びた、という印象はないので、一時的な特需というわけでもなく、純粋な市場拡大と捉えてよいのではないかと思います。

 

販売が伸びる一方で、売上原価、販売費および一般管理費の合計は29.9億⇒33.1億と、110.7%の増加に抑えられています。

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売上が伸びる一方で、維持する経費がある程度の増に抑えられているのが、直近の利益体質の向上に繋がっています。

デジタルアーツは売上が伸びても、段階的に従業員を増やしているようなので、イケイケどんどんタイプの会社ではないのだろうと推測しますが、それだけでは何とも言い難いです。直近で売上が落ちているのに増やしてますし。。

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これらの数値をどう解釈するかが問題です。

効率を意識して売上の増に対してコストを徹底的に抑えた結果この業績を勝ち得たのであれば、体質として素晴らしいのですが・・・とりあえず経営方針を見てみます。

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達成すべき経営指標の中に営業利益率や自己資本当期純利益率という効率的観点を入れているのは、良い事だと思います。ただ、残念ながらどの水準を目指すなど、基準が明らかになっていません。

契約高成長率と売上高成長率の乖離に気づくあたり、数値分析をして科学的な管理をしている雰囲気は感じ取れます。

ただ、できればもう一歩進んで、そもそも経営トップは利益率としてどのレベルを望んでおり、そのためには契約高成長率をどのレベルまで伸ばし、一方で経費をどの水準まで抑えるのか、という所まで落とし込んでコミットして頂きたいところです。

設定したからと言って常に目標を100%以上に達成する必要はありません。

そうした数値的な指標値を持ち、何故それに達せないのか、という問いを追求し続けるPlan⇒Do⇒See⇒Planのサイクルができている会社は、状況の変化に対して自然と感度が高くなり、対策も先手先手で打てるため、事業環境が悪化しても、ある程度の被害に抑える事ができると考えられます。

現状の有価証券報告書の情報だけではデジタルアーツがその水準にあるのかどうかは、判断しかねます。

 

 

 

キャッシュフロー

IT業界で投資は少ないイメージでしたが、営業キャッシュフローに対して規則正しい比率での投資に使ってます。

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2020年3月期は定期預金の解約で若干プラスになってますが、無形固定資産にしっかり余裕のある投資をしている。

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ちなみに、この無形固定資産(ソフトウェア)は別に社外から効率改善のために購入しているわけじゃありません。同社はソフトウェアを開発している会社なので、販売用ソフトウェアです。いわばこれは棚卸資産(在庫)なのです。

明細は以下。

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この自社で作りあげたソフトウェアを、見込み販売数量を元に毎年経費にしていってます。

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キャッシュフローに関しては、印象としてはかなり良いです。

何が良いかというとこのキャッシュフロー、明らかにマネジメントできている感じがする所が良いです。営業キャッシュフローが入ってきている時に投資し、それでも十分余裕のある範囲に抑えてある。無茶苦茶な経営をしている会社ではこうはならないと思います。統制が取れている証拠です。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産状況の確認です。

現預金、投資有価証券(ほぼ債券)が占める割合が71.4%、無形固定資産が13.0%を占めるシンプルな資産状況です。無形固定資産の内容は販売用ソフトウェアであり、売れなければ当然減損するリスクこそありますが、デジタルアーツの純資産額からすれば、今の金額がゼロになっても余裕で耐えられる水準です。

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負債の方は有利子負債の一切ない無借金経営です。

実に健康的なバランスシートだと思います。

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まとめ

私は業種としてあまり馴染みがないので、製品の品質や競争力、事業としての将来性のようなものは分かりませんが、少なくとも業績数値上は素晴らしいパフォーマンスを出しており、バランスシートは非常にきれいです。体質については一部物足りない気もしますが、総合的に見て経営体質も悪くないかな、という印象でした。

社長である道具氏が17.9%ほどの株を持っていますが、全くもって独占というレベルではありません。一族経営の会社にありがちな、社長が会社を私物化するようなリスクは無い、クリーンな印象です。

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強いて言うなら、保養施設を自前で持っているのがなんだかな、という気はします。本社建屋の簿価の4倍以上あるって贅沢過ぎやしないでしょうか。。自前で持つ意味ある?という気がします。あと面積71.85㎡って狭くない?縦に長いの?土地は10,017㎡なのにどういう事?謎です。

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まあ、それでも金額にしてみれば1億弱ですから、76億のキャッシュを持つデジタルアーツからすれば大した話ではないのかもしれません。

こういった会社は特に社員の能力こそが資本ですから、社員を保養所でリフレッシュさせたり、クリエイティブな発想が浮かぶ環境を提供していると考えれば、全くの無駄とも言い切れません。

総じて同社はクリーンで優秀な業績とバランスシートを持っているといえるのではないかと思います。

 

本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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