企業分析アナトールの株式投資

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【2395】ベネフィット・ワン~有価証券報告書の読み方~

結論

財務盤石、体質も素晴らしい。

ただ、親子上場の懸念は如何ともしがたし。。

 

目次

 

事業概要

先ずはベネフィット・ワンの事業についてです。

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つまり企業の福利厚生サービスの代行事業です。

ザックリいうと、ベネフィット・ワンの「ベネフィット・ステーション」というサービスに契約すると、提携企業のスポーツクラブ、飲食店、宿泊施設などが割安で利用できます。

私が前に勤めていた会社はベネフィット・ワンを利用していて、次に転職した会社は自前で福利厚生施設を持っていました。どちらのケースも体験している私から言わせて貰うと、企業は福利厚生施設を自前で作るより、ベネフィット・ワンを利用した方が良いと思います。
理由としては3つほどあります。

・福利厚生施設は維持、管理が大変

・施設が古くなると誰も利用したがらない

・自前の福利厚生施設は利用しても満足度が低い

当たり前なんですよね。

会社が自前で福利厚生施設を持っていたとしても、それでメシを食うために知恵を絞っている宿泊施設、スポーツクラブ、飲食店にサービスの質で勝てるわけないんです。

社員にしてみれば無料だったり安かったりするからとりあえず使うけど、何だかな、という施設がほとんどの印象です。そんなサービスのために建設・維持・管理費をかけるくらいなら、その分自分で色々選べるサービスを通常より割引で使えた方が、満足度は高いと思います。

インフレが進んでいた昔は、モノを持つことが正義とされていましたが、デフレの今はモノを持つのが負担になる時代です。常に自前主義の会社は早々に発想を転換し、こういったサービスをどんどん利用してバランスシートを綺麗にした方が良いと思います。

という事でベネフィット・ワンのサービスは実に的を射たサービスだと私は思います。

 

セグメント別

ベネフィット・ワンは報告すべきセグメントは会員制サービスのみという事で、セグメント別はありません。分かりやすくて良いですね。

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業績推移

経常利益率の推移は16.6%⇒19.4%⇒19.5%⇒22.4%⇒22.7% 

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優秀な利益率で安定していますね。売上が伸びると共に、経常利益率が上がっているという事は、無理な拡大を図らず、適切なコスト管理ができている証拠です。

 

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従業員数を見てみると、売上が増えているにも関わらず従業員数はむしろ減っています。臨時雇用者数は増えてますが、従業員数を絞り、臨時雇用者を増やす事で、フレキシブルなコストを維持しようとしているのかもしれません。

冒頭の事業の説明でもありましたが、ベネフィット・ワンの親会社は人材派遣のパソナグループですから、そのあたりの人員の融通が利くのかもしれません。逆に言えば変な人を押し付けられるリスクがありますが、現状の統制された利益率を見るに、それほど心配はいらないかもしれません。

 

 

 

経営方針

基準となるのは売上高経常利益率と、自己資本利益率のようです。

付加価値率と資本効率を元にした適切な指標を見ていると思います。

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上記はかなり立派な数値だと思います。
特にROEは立派です。これだけ経常利益率が高く、確実に儲かっている会社ですから、普通は母数である純資産が膨れ上がり、ROEは年々悪化していくものです。

これがむしろ改善されているという事は、配当や自社株買いといった株主への還元をすることにより、意図的にROEを改善しているものと推測できます。つまり経営陣がROEを指標としているのは口だけでなく、実績を出す行動をとっている事になります。

それを証拠にこちらをご覧ください。

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投資家視点からすると文句なしの考え方です。経営者の質の高さが伺えます。

 

 

 

キャッシュフロー

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福利厚生事業とは言っても、ベネフィット・ワンが施設を持っているわけではなく、あくまで提携企業を利用しているだけなので、投資によるキャッシュアウトはほとんどないようです。

冒頭の事業説明でも、あったのですが、同社はパソナグループのCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)を利用しています。

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これは要するに、パソナグループが全体としての資金を融通し合い、最適な資本配分をするために、余ったお金を全て親会社への貸付という形で吸い上げる仕組みの事です。

この仕組みを導入すると、無駄な投資などをする余裕がなくなるため、自然と保守的な統制がきくようになります。

ただ一方で、会社として例えば株主に還元しようと思っても、親会社の意向によっては預金を吸い上げられてしまう可能性も考えられますから、その点は親会社の性格に注意が必要です。

(全て資金を吸い上げ、株主に一切還元しないという選択もできてしまうため)

もっとも、現状のベネフィット・ワンの効率的な経営数値を見る限りでは、親会社はそれほどアンフェアな印象は受けません。

 

 

 

B/S(貸借対照表

先ずは資産の確認です。

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現預金+預け金(CMSでの親会社への貸付金)が129.6億円と、資産の43.3%を占めており、十分な水準です。

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特に自前で設備を持つ必要がないので、有形固定資産も全体の4.8%と少なめです。

資産項目が少ないので、売上債権の61.9億円が目立ちますが、売上で割って滞留日数を出してみると60.6日と約2か月分となり、問題ない水準だと言えます。

向け先も特定の顧客によるものでもないので、質的にはまず大丈夫でしょう。

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投資その他の資産が19.6億円ほどあります。

ただ、この内訳としては投資というより、事業上必要な提携関係のため、という事で、運用が目的ではないと思われます。

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総額としても全体にクリティカルな影響は無さそうなので、スルーで問題ないかと思います。

次に負債と純資産です。

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1.6億円ほど借入がありますが、ほぼ無借金です。なぜこんな少額を借りているのかは謎ですが、いずれにせよ大勢に影響はありません。

資産の半分近くが現預金で、売上債権もさしてリスクの無い低リスクなものばかりだったので、純資産が全体の55.3%というのは十分健全な水準であると思います。財務基盤は盤石と言えます。

 

 

 

大株主の状況

冒頭から書いている通り、ベネフィット・ワンパソナグループの子会社なので、親子上場している状況です。具体的に数値で見てみます。

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しっかり過半数を握っています。典型的な親子上場です。

ただ、ここまでの数値を見る限り、ベネフィット・ワンの経営体質はかなり優良であるため、親会社のパソナグループが、誠実であることが伺えます。

ただ、当然ながら親子上場というのは性質として利益相反を生みやすいのは間違いないので、注意が必要ではあります。パソナグループが今は優秀な経営陣に任せていたとしても、これからもそうとは限りません。

どこの会社でもそのリスクは同じではあるんですが、親子上場の場合、子会社に優秀な人がいたら普通は親会社に引き上げたくなるでしょうから、優秀な人がいなくなる可能性は常に警戒すべきかと。。

 

 

 

社外取締役の選任

社外取締役の選任基準がかなりきっちり決められているので紹介します。

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特に「2親等以内の親族が」とか親族の関係まで具体的に記載する所ってあまりないんじゃないかな、と。ぱっと浮かぶのはキーエンスくらいです。

書いてなくてもそれくらい当たり前、と思うかもしれませんが、それをきちんと意識して明示する、という所にフェアであろうとする姿勢を感じられます。

重要なのは「2親等以内の親族がいない」という事実では無く、「縁戚関係による甘えは許さない」という断固たる決意を示す事が、フェアで合理的な企業文化を醸成し、組織の体質を物語るのです。

 

 

 

 

まとめ

親子上場は大抵子会社の方が低利益率になってるケースが多かったり、親会社と利益相反のリスクが高かったりするんですが、ベネフィット・ワンパソナはそんなリスクはない印象です。並みの企業では比較にならないほど財務体質や経営体質はしっかりしています。

ただ如何せん、親子上場である以上は優秀な人材の吸い上げ、或いは不適切な人材の払い下げというリスクは、避けられません。どれだけパソナが誠実だったとしても、形式的なルールとしてその危険を防ぐ事は不可能です。

これだけ優秀な体質なら信じたくなる気もするのですが・・・親子上場というリスクは如何ともしがたし、です。

 

本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

企業分析リンク

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