企業分析アナトールの株式投資

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【2670】エービーシー・マート~有価証券報告書の読み方~

結論

財務優秀、体質強靭。

創業者へ敬意を捧げるべき会社

 

目次

 

事業概要

まずはエービーシー・マートの事業についてです。

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エービーシー・マートは靴の小売りでおなじみの「ABC-MART」の運営会社です。事業の説明が滅茶苦茶シンプルです。

ここまでシンプルな事業説明も中々お目にかかれません。

こういうシンプルな事業説明は、その事業に物凄く自信がある証です。

本業に自信が無い会社ほど、新規事業を色々やったり、他社との差別化を図るために様々な取り組みをした結果、顧客や投資家から見て、よく分からない事業になります。

事業概要によれば、エービーシー・マートの事業は靴・衣料・雑貨などの企画、小売、卸売のみで、生産自体は米国子会社のLaCrosse GROUPでやっているみたいです。

 

ビジネスは企画⇒開発⇒生産⇒卸売⇒小売という流れが一般的ですが、最も付加価値が高いのが最上流の「企画」と最下流で顧客に最も近い「小売」です。現代の高収益企業は基本的にいずれかを特化、独占しているケースがほとんどです。

エービーシー・マートアメリカに製造工場を持っているという事は、ファブレス経営のような現代の潮流には乗らないビジネスをしているようです。自社で作る事に何らかの付加価値があるのか、それとも単に経営者の怠慢なのか、その辺りを探っていければと思います。

 

セグメント別

セグメント別を見てみます。

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セグメントと言っても、先に指摘した通りエービーシー・マートは一つの事業しかしていませんから、日本と海外を分けているだけです。

日本:71.1%(利益率19.9%)

海外:28.9%(利益率6.0%)

海外はかなり苦戦している印象です。

日本の商売の性質として、製造業の輸出などは海外でも相当稼いでいる印象がありますが、顧客に直に関わる小売りや飲食などは海外展開すると苦戦してる気がします。エービーシー・マートもその例外ではないのでしょう。

 

 

 

業績推移

経常利益率の推移は17.7%⇒17.9%⇒17.5%⇒16.9%⇒16.3% 

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利益が薄くなりがちの小売業で、自前の工場を持ち、この規模の事業で、という前提を考慮するとこの利益率は相当優秀だと思います。ただ直近で売上が上がっているのに利益が置いてけぼりになり、利益率が落ちてきているのは少々気になる所です。

何か経営方針の変更などがあったら怖いです。

 

 

 

経営方針

事業内容と同様、目指す目標も非常にシンプルです。

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営業利益率、つまり付加価値率を10%以上にする目標は、立て方としては悪くないと思います。きちんと体質を意識した指標ですし、具体的な数値基準も設けてます。

ただ、現状で経常利益率が16.3%ですから、現状で圧倒的に達成している基準を目標とするのはいかがなものかな、という気がします。

景気の変動などもありますし、長期的な成長投資をするときに一時的に利益率が下がある時の事を想定して低めに設定しているのかもしれませんが、それでも少々目標が低いのかな、と思います。

安全目の目標を立てることは一概に悪いとは言えませんが、基準設定の根拠となる考え方なども開示してもらいたいものです。

 

 

 

 

キャッシュフロー

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工場を持っている会社にしては、フリーキャッシュフローがかなり多いです。これならよほどの高額な投資をしない限りは借入などに頼る必要はないでしょう。

本業を説明する堂々とした態度から、余計な事はせず本業に注力する会社なのだろう、と踏んでいましたが、まさにそんな感じのキャッシュフローです。

手元資金も潤沢ですね。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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手元資金1,493.4億円(48.0%)と、小売りにしては相当蓄えているな、という印象です。小売りメインの企業というのは、現金が入ってきやすいので、それほどキャッシュを気にする必要がないため、手元資金が薄くなりがちですが、エービーシー・マートは結構手元に残してます。工場を持っているから、という意味もあるかもですが、投資有価証券もほとんどない所を見ると、慎重な手堅い経営者という印象です。

有形固定資産の金額を見て、あれ、と思ったのが、妙に少ないんですよね。。

エービーシー・マートは小売メインですから販売店の建物が多いのは納得なんですけど、工場を持っているというイメージからすると、有形固定資産が敷金を合わせても資産全体の20.3%程度しかないというのは、かなり低いな、という印象です。

なので一応、主要な設備状況を見てみると

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店舗ばっかりなんですよね。。

冒頭の事業の説明では、生産という言葉はアメリカのLaCrosse GROUPしかなかったので、そこで在庫を全部作っているとすると、結構な規模の工場を持っているのでは、と思っていたのですが、どうもそうではないようです。

 

考えてみれば、靴の生産は手作業が多くて、あまり大がかりな設備などが必要ないイメージです。もしかすると生産といっても職人さんが広い部屋でセコセコ作っているだけで固定資産はそれほど必要ないのかもしれません。

 

なので、関係会社の状況を良く見てみるとアメリカのLaCrosse GROUPの資本金が。。

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資本金が1.03ドルって。。缶ジュースじゃないんだから。。

莫大な設備投資が必要な事業ならこの資本金は普通あり得ないですから、もともと靴製造は大掛かりな設備投資が不要なビジネスなのかもしれません。

という事で事業内容の時に抱えていた疑問(なぜファブレスにしないのか)については私の仮説は以下です。

ファブレスも何も、作っている人がいるだけで工場らしい工場が無い」

全資産に対する有形固定資産の割合を見る限りでは、エービーシー・マートは元々がほぼファブレスの水準ですから、そこを削減してもあまり効果はなさそうです。

 

棚卸資産については、在庫回転率(利益率は分からないので無視)=棚卸資産/売上高×365日を算出すると、91日ほどで、店舗を構えている以上はそれほど異常な水準ではないかな、と思います。

 

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債も若干ありますが、全体からすれば軽微です。

2,718.1億円の純資産が積みあがっており、ちょっとやそっとでは揺らがないでしょう。

財務状態は盤石であると言えます。

 

 

 

大株主の状況&役員の状況

大株主の状況を見ると創業者の三木氏とその奥様?、それに三木氏が代表を務めている合同会社イーエム・プランニングで62.42%を所有しています。

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これだけの支配権を有していながら、創業者の方が引退しているっていうのは結構珍しいな、と思います。役員の中でも創業者の姻戚関係の人物が役職を持っているわけではなさそうです。

 

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さらにいえば生え抜きの人間も結構少なくて多様な人材を集めている感じがします。

サッパリした事業説明や分かりやすい経営方針、現在の財務の状況やそこから伺える本業への実直な印象、そして血縁等が幅を利かせておらず、自身も経営の役職から身を引いている事実。

これらを総合すると、創業者が誠意ある合理的な方である事が伺えます。

キーエンスもそうですが、こういう方が作り上げた組織はかなり信用度が高いです。

同社は靴の小売業からすると信じられない利益率であると一時期話題になりましたが、こういった体質であればそれも頷けます。優秀な体質だと思います。

 

 

 

まとめ

12年前のリーマンショック時、私が株を物色していた時、エービーシー・マートを見つけました。ただ、同社はリーマンショック後ですらPERが高くて買う気になりませんでした。つまりはそれは、100年に一度の危機下にあっても会社が市場から信頼されている表れでした。

そして事実として、その危機を乗り越えた同社は今も継続して高い利益率を保持し続けています。IT系のような派手派手しい利益率では無いのですが、靴小売という元々付加価値を載せるのが難しいビジネスの中で高い利益率を維持できるというのは、体質が非常に強靭であることに由来していると思います。

難しい業種ですし、着実に純資産を積み上げる堅実な経営スタイルである事から、今後の劇的な成長が見込めません。よほど株価が安くなければ投資先としては旨味が少ない会社ではないかと思います。

ただ、同社もまた、創業者に敬意を捧げるべき体質のしっかりした素晴らしい企業ではないかと思います。

 

本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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