結論
「ヤバい」と「ウェーイ」しか言えなそうなチャラい系の若者が、脱いだらケインコスギみたいな身体して論語を諳んじていた印象
目次
事業概要
まずは、あいHDの事業についてです。
あいHDはセキュリティ機器、カード機器その他事務用機器、情報機器、計測機器及び環境試験装置、設計事業、リース及び割賦事業、その他と結構多くの業務区分を持つ持ち株会社です。
事業に関係があるようなないような。。
企業というのはアイデンティティである理念を中心に事業を選択するもので、事業を見ればおおよそどんな形を目指しているのかは推測できるものですが、あいHDの場合はパッと見ではどこを目指しているのかが見えてきません。
なので企業理念を見てみます。
理念を見ても目指すべき場所が見えないです。。
事業領域をセキュリティ市場及びニッチ市場に絞り込む、というのは戦略的に有効とは思うんですが、それは戦略であって、戦う理由ではないんですよね。。
戦う理由(経営理念)がハッキリしないのに戦略だけ明確でも、「ただ勝ちたい=ただ儲けたい」だけではないかな、と感じてしまいます。
理念なき会社の拡大はいずれ内部分裂を引き起こし、烏合の衆となり果てる可能性が高いと思います。もう少し目指すべき理念、理想を具体的にしてはどうかな、と思います。
セグメント別
セグメント別を確認します。
セキュリティ機器:125.2億円(24.5%、利益率41.5%)
カード機器その他事務用機器:64.0億円(12.5%、利益率15.6%)
情報機器:157.1億円(30.8%、利益率9.5%)
計測機器及び環境試験装置:20.8億円(4.1%、利益率8.2%)
設計事業:45.7億円(8.9%、利益率8.6%)
リース及び割賦事業:57.2億円(11.2%、利益率3.5%)
その他:40.4億円(7.9%、利益率▲1.1%)
こうして見るとセキュリティ機器事業の利益率が凄まじいです。
他の事業はカード機器その他事務用機器が普通くらいかな、というレベルで、それ以外の事業はそれ単体だと非常に厳しい利益率です。
利益的にはセキュリティ機器事業が牽引して他の事業が足を引っ張る構図です。
実に勿体ないな、という印象です。。
リストラのススメ
事業系統図を見る限りでは、セキュリティ機器とカード機器その他事務用機器の事業を構成する企業がダブっているようなので、この二つの事業を残して残りの事業は他企業に売却する等のリストラを実施すれば、効率的観点からは非常に望ましいです。
そうすれば企業として目指すべき理想も描きやすくなり、会社としての質が向上するのではないかと思います。
特に日本ではリストラや事業売却は良くないもの、と思われがちですが、私は必ずしもそうは思いません。
利益率が良くない事業というのは、何らかの理由で付加価値が低いサービスです。付加価値が低いのはマネジメントの責任です。つまり、高い利益率をあげるサービスを提供できないのであれば、もっと適切なマネジメントに委ねるのがサービスの向上に繋がりますし、そこで働く人々にとっても有意義な筈です。いつまでもマネジメントがリストラを決断できずにいると、当該部門の社員は社内では利益率の足を引っ張る部門として肩身の狭い思いをし続けるだけです。
社員の例
社員について考えてみればピンと来るのではないでしょうか。
ずっと周りから見てパフォーマンスをあげられないで苦しんでいる社員がいたとします。上司が彼をどこかに配置換えしたり、或いはばっさりリストラしてしまえば、一時的にはショックかもしれませんが、彼はもっと輝ける場所を見つけられるかもしれません。しかし、上司がいつまでも放置すれば、その人はずっと苦しみ続け、新たな場所を探す時間すら失います。そんな人をフォローし続ける、周りのモチベーションも下がり、組織全体が険悪になります。これは全て上司が決断を先延ばしにした事が原因です。
業績が悪化したから事業を切り売りするようなリストラは最低です。しかし、事業を付加価値のあるものに絞り込み、会社の理念を明確にするためのリストラは、企業にとって非常に重要な決断だと思います。
あいHDのマネジメントにそれができれば、凄い企業になる可能性もあります。
経営陣にその気があるのか、その辺りの考え方も探ってみたいです。
業績推移
経常利益率の推移は20.4%⇒17.1%⇒17.8%⇒17.0%⇒16.9%
2018年まで売り上げは伸びているにも関わらず、経常利益率が段々と下がってきています。利益率に対する意識は感じられません。体質としては良くないと思います。
経営方針
やはり、といった感じです。
営業利益やEPSといった絶対値指標を重視し、M&Aによる成長を目指すと言ってます。効率の観点が見られません。確かに買収を繰り返せば利益の絶対額は上がるため、EPSや営業利益が増えるかもしれません。ただ、肥大化して利益率が薄くなった企業群は不景気になった時に赤字に転落する可能性が高くなります。規模の拡大は利益の絶対額を増やすには容易な方法ですが、同時にリスクを拡大するもろ刃の剣です。こういった安易な方法に頼ろうとするのは、体質が脆弱であると判断せざるを得ません。
買収・撤退についてどのような判断基準なのかを見てみますと
あくまで利益や付加価値は度外視の方向のようです。
勿論、一概に利益率一本で撤退を決めるのが正しいとは思いません。
ただ、例えば5年、6年も継続していれば、今後高いシェア、付加価値を生む可能性がある事業かどうかはある程度見える筈です。
しかし、6年前と比較しても事業内容はほぼ変わっておらず、低い利益率に甘んじています。
経営戦略的には事業撤退や売却を適切に行っているような雰囲気を匂わせてはいますが、本当にリストラの判断がいつかなされるのでしょうか。
今のままでは、問題を先送りしているだけのマネジメント、という可能性も十分にあり得ます。
キャッシュフロー
意外な事にフリーキャッシュフローは結構安定してます。
M&Aをする企業は結構無茶なお金の使い方をする会社が多いのですが、あいHDはある程度の節度を持っている企業のようです。もしくは、デキる財務参謀がきちんとトップの手綱を握っているのかもしれません。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
あいHDは製造業系の事業が多いので製造業のイメージだったのですが、現預金は233.2億円(39.0%)と、製造業系にしては結構手厚い印象です。有形固定資産も95.8億円(16.0%)と低く抑えられている印象です。
そしてM&Aに積極的、と聞いていた割には、26.6億円(4.4%)とそれほど無茶な水準ではない印象です。
一つ理由として考えられるのは、同社が古き良き日本基準に則り、きちんとのれんを償却していき、PLに反映させているため、です。
IFRSを採用している企業は基本的にずっとのれんをそのままにしているため、どこかでドカンと落としてきます。その点は財務的に誠実な処理をしてくれている感じがします。
負債、純資産を見てみます。
あのような経営理念、方針の会社にしては意外過ぎるんですが、無借金経営です。しかも純資産が非常に手厚い。何というか、マネジメントの言っている事と現実の体質が全然あってない感じがします。
例えるなら「ヤバい」と「ウェーイ」しか言えなそうなチャラい系の若者が、脱いだらケインコスギみたいな身体して論語を諳んじていた印象です。
まとめ
中々評価の難しい会社という気がします。
業績だけを見る限り、折角事業の中核であるセキュリティ機器部門で稼いだお金を、無駄に規模を拡大するために使って事業領域を拡大させた典型例、という印象でした。そしてそれに輪をかけた経営陣の買収で規模を拡大するという方針。
これはよほど酷い内容か、と思いきや、意外な事にキャッシュフローも財務内容もかなり頑丈なものでした。
考えられるシナリオとしては、元々質実剛健な企業体質を持っていたあいHDは、過去から着実に留保を貯めてきていたが、昨今の事情を鑑みて会社体質の変革の必要性を感じて、M&Aによる拡大戦略を取り始めた。しかし、まだ堅実な体質から抜けきれておらず、これから段々と大きな買収を始める所である、といったところでしょうか。
私は企業の存在価値は資産規模や売上高ではなく、その理念や体質、裏付ける利益率といった質的な部分であると思います。
どれだけ売上高が出ていても、その裏に実現したい理想がなければただの儲け主義の烏合の衆です。
どれだけ資産規模が大きくとも、しっかりした体質がなければ、リスクだらけの木偶の坊です。
高付加価値を生めそうにない事業から撤退し、自社のアイデンティティを掘り起こし、掘り起こしたアイデンティティ(理想)実現のために経営資源を集中する事が、あいHDがエクセレントカンパニーに進化する道ではないか、と私は思います。
さしたる理念もなく、他企業から事業(魂の籠らない入れ物)を集めてもできるのはごみの山ではないかと。。
本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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