結論
ビジネススタンスは悪くなく、その他事業を除けば事業領域に忠実で好感が持てる。今後の飛躍には管理体制の構築が鍵を握るのではないか。
目次
事業概要
まずはHameeの事業についてです。
Hameeのメイン事業はスマートフォンケースや携帯機器用充電器、イヤホン等モバイルアクセサリーと主に雑貨の商品企画・開発、仕入れを行い、それをインターネットを通して消費者に売る小売り、雑貨店に売る卸売りをしているようです。
インターネットでは自前のサイトだけでなく、楽天、Yahoo!ショッピングモール、Amazon、ZOZOTOWNなどメジャーなECサイトで店を出しています。上場企業がそういう商売の仕方をするのは少し意外です。
メジャーなECサイトで店を出すのは自前でネット対応する人材を抱える余裕が無い会社が多いと思うのですが、上場している会社なら自前で持つのは余裕だと思います。
推測ですが、Hameeは企画・開発・デザインがコアで、販売するチャネルに重きを置いていないのかな、と思います。自前の店舗やショッピングセンターを持つのではなく、価値あるアイテムを作り、より多くの目に触れるようにしているのかな、と。
実際、もう一つのメイン事業であるプラットホーム事業はコマース事業で培った自社の自動化システムを他社に提供するものですが、「特に複数のネットショップ運営」に対応できると紹介しています。 逆に言えば、チャネルを複数持つ事を推奨している=場所に拘らない姿勢なのかな、と思います。
このビジネススタイルは悪くないと思います。現代ビジネスで一番付加価値が高いのは、最も上流の企画と、最も下流の販売です。
上流の企画の典型例はMicrosoftやGoogleといったソフト会社です。これらの会社はパワーアイディアさえあれば、後から無限の富がついてきます。
下流の典型例はAmazonやWalmartのような独占的な小売です。彼らは顧客をがっちり掴んでいるため、圧倒的なパワーを持っています。
Appleやキーエンスは上流と下流の両方を掴んでいるビジネスと言えます。
この分類で行くとHameeは上流の企画がメインのビジネスなのかな、と思います。
財務的に言えば、下流よりも上流の方がリスクは低いです。下流の場合、店舗や大きなサイトが必要になるため維持コストがかかります。これは財務としては大きな負担となります。上流の方は上手くいく可能性こそ低いですが、ブランドが確立できれば、低コストで大きなリターンが期待でき、体質として強いビジネスになる可能性が高いです。
Hameeがそれを意識してスタイルを選択しているなら、経営陣の質に期待が持てます。
セグメントの状況
コマース:92.1億円(81.3%、利益率23.9%)
プラットフォーム:18.5億円(16.3%、利益率31.7%)
その他:2.7億円(2.4%、利益率▲66.8%)
コマースの利益率は中々です。雑貨、しかも消耗品という利益率をあげにくい分野でこれだけの利益率をあげるのは難しいのではないかと思います。事業自体がファブレス+チャネルレスという固定費を避けられる体質のお陰ではないかと思います。
プラットフォームに関しては、本業の延長で特別な追加投資も必要ないため、この利益率は納得です。一方的にコンサルだけやる会社と違い、自分でコマース事業を持っている会社がするプラットフォーム事業は信用度が違います。2つの事業はうまく相乗効果を発揮して強い体質になっているのではないかと思います。
業績推移
経常利益率の推移は6.6%⇒12.3%⇒13.5%⇒11.4%⇒15.5%
過去からの推移を見てみると、ずっと安定的な利益率を保っているわけではなく、ここ最近ようやく10%を超えて、直近やっと15%超えをした、という印象です。
正直この理由はほぼその他事業の大赤字のせいです。
コマース、プラットフォーム事業は良い成績なのに、若干メインの事業領域からズレているその他事業のために大きく利益率を下げる結果となっています。私は早々にこのその他事業からは撤退し、経営資源をコマース、プラットフォーム事業に集中した方が良いと思います。
経営方針
同社は経営方針に財務指標は載せていませんが、経営者の分析のところでEBITDAを指標としているようです。
この指標はあまり良くありません。
EBITDAは減価償却費を除いた利益です。例えば1億円設備投資して1,000万円の利益を出した会社Aと、設備投資はなく1,000万円の利益を出した会社Bがあったとします。設備投資の償却がが耐用年数5年の定額法だったと仮定すれば、会社Aは赤字の会社でB社は黒字の会社です。つまり、この指標で見たところで、会社の実態は全く見えないのです。
減価償却費は会社の存続に必要不可欠な経費であり、それを除いた利益概念には何の意味もありません。それを採用しているのは、少々マネジメントの能力に懸念があります。
キャッシュフロー
キャッシュの流れに淀みがあります。2年に1度はフリーキャッシュフローが苦しくなっています。投資キャッシュフローが増えた、というより営業キャッシュフローが増減してます。前年のキャッシュフローで理由を確認してみます。
棚卸資産が増えてます。これはちょっと注意するサインかな、という気がします。
損益計算書しか見ない投資家が見落としがちなのが、この棚卸資産と売掛金の増加です。この2つの資産は損益を調整するのに一番利用されやすい勘定です。
大きく変動している=調整している、とは言えませんが、適度に警戒はすべきです。
また、たな卸資産の増え方に淀みがあると、その間の運転資金手当てが必要となり、借入などに頼る必要が出てきます。成長途上の会社とはいえ、在庫の管理は適正に行わなければ、資金的にも危険な状態に陥りやすいです。
そもそも棚卸資産が不良在庫であるリスクも増えます。棚卸資産が大きい会社は、将来的にその価値が減価する可能性についても考えておくべきです。
とはいえ・・・その点は実は経営陣もリスクを意識しており、対処すべきリスクの一つに挙げてます。
在庫の問題は成長途上の会社ではありがちな事です。とはいえ経営陣が注意しているし、ありがちなことだから在庫増えてもOK、とはなりません。在庫リスクを抱えているのは厳然たる事実です。企業分析をする上では、過度に経営者を信用せずに、数字を見て考えておくべきかと思います。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現預金は34.5億円(42.7%)と手厚いです。
売掛金は12.3億円(15.2%)と目立ちますが、滞留日数としては39.6日で1か月分ちょいですから、問題ない水準だと思います。
問題の棚卸資産ですが、10.6億円(13.1%)と思ったほど多くなかったです。回転率=棚卸資産/粗利(56.8%)/売上×365日が60.3日ほどなので、それほど問題のある水準ではないと思います。むしろ以前の水準が少なすぎたのかもしれません。
有形固定資産の水準も5.9億円(7.0%)と少ないです。これはファブレス、店舗レスというビジネスモデルの強みかと思います。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は17.4億円(21.5%)と結構あります。理由としては売掛金、棚卸資産が多いため、維持するための運転資金というのもありますが、コロナ対策のために当座借り越し枠を広げるとともに、手持ち資金の充実を図っているようです。
体質というより一時的なもののようです。
事業譲受について
Hameeは直近の2年で2社を事業譲受しています。
いずれも韓国の会社です。
Hameeは既に韓国、中国、米国、インドと、海外進出しており、この投資もその一環と思われます。買収の目的はHameeの事業領域の事業であり、理念に叶う良い目的だと思います。
一点懸念は2019年に企業結合したJEI DESIGN WORKS Inc.は製造事業です。これまでファブレス体制だったHameeが自前で工場を持つ方針に変えてきたのであれば、少々今後の展開が心配ではあります。
もっとも、何故かこのJEI DESIGN WORKS Inc.という会社、製造事業と言いつつ固定資産がほとんどないんで、手作業なんでしょうか?ちょっとその辺りはこの有価証券報告書の情報だけでは分からないですね。。
一般的には工場を持つと固定資産が多くなって財務的には苦しくなります。
まとめ
成長中の会社なので、在庫の変動によってキャッシュの流れに波はありますが、現状の財務状態はまあまあ悪くないと思います。ただ、指標にEBITDAを挙げたり、そもそも方針の中に明確に指標を記述していなかったりと、経営陣は指標管理に弱く、UX(User Experience)やUI(User Interface)といった主観的な指標を重視している印象です。
勿論、トップの人間の直感や感性というのは非常に重要で、特に規模の小さな会社においてはそれが全てと言っても過言ではありません。
ただ、今後組織的な成長を続けるのであれば、感覚だけではなく、組織全体に共有できる目に見える指標が必要となります。直感的な指標だけでは各々が勝手な事を言い始めて統制が取れなくなるか、トップが自身のエゴと価値観を押し付ける独裁的な組織しか作れません。
元々創造的な会社を目指しているようなので、数値での統制などがそぐわないと考えているのかもしれません。実際、数値での統制は事務作業を増やし、創造力を失わせ、官僚主義が蔓延る原因となる事もあります。
ただそれもやり方次第で、本来、創造力は優良な数値を生む源泉なので、正しいスタンスで試行錯誤すれば、創造力を高めつつ数値で統制する方法は見つけられる筈です。是非ともHameeは統制と創造力を共に高める管理手法を見つけて頂きたいな、と思います。
本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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