結論
顧客と仕入先の板挟み。ビジネス自体の立場の弱さが目立つ。財務体質の健全性も道半ばではあるが、先ずはビジョンを数値目標に落とし込むところから始めてほしい。
目次
事業概要
まずはSUMCOの事業についてです。
SUMCOは半導体の材料であるシリコンウェーハ製造の会社です。
私は以前、半導体関係の会社に勤めていたので、SUMCOにも知人がいて話を聞いたことがあります。
最近頻繁に叫ばれるIOTの要となる半導体は、SUMCOが作っているようなシリコンウェーハ上に細い回路を刻んでできます。このシリコンウェーハは埃一つ、塵一つあっても問題になるらしく、クリーンルームで製造及び品質チェックを徹底していて、えらく神経を使う品らしいです。色々雑な私は絶対関わりたくない仕事です。
そんなデリケートな中間材料を専門で扱うSUMCOですが、ビジネスの性質から言えば結構難しい事業だと思います。理由は以下3つです。
・自前の工場が必要で品質管理上、外注しにくい
・付加価値率が低くなりがちな中間材料製造業
・需要の変動のある半導体業界
これらのリスクをカバーするには、儲かっている時に相応の見返り(利益率)があるか、会社としての体質がよほど優秀という確信が無いと厳しいのではないかな、という気がします。
セグメントの状況
SUMCOは単一セグメントのためセグメント別の数値はありません。
業績推移
経常利益率の推移は10.8%⇒4.7%⇒14.1%⇒25.6%⇒15.5%
直近3年は比較的高水準ではありますが、安定していません。半導体という事業の性質に加えて、中間材料という需要が変動しやすい製品ですから仕方ないのかな、と思います。
ちなみにシリコンウェーハの業界シェアは以下のようです。
トップを信越化学と競っている形ですが、2社独占というわけでもありません。業界の競争が激しい場合、値上げなどで付加価値を上げることも難しいでしょう。
予想通り厳しい事業環境のようです。
経営方針
具体的に挙げている財務指標としては自己資本比率50%以上、グロスD/Eレシオ0.5倍以下とする財務目標を立てていたようです。
これにより、株主還元策として自己株式の取得によりさらに10%の株主還元を開始するそうです。
財務体質を立て直し、株主還元を充実させるという姿勢は素晴らしいと思います。特にありきたりに配当性向をあげるのではなく、自己株式の取得という選択をする点も非常に良いと思います。株主に対して誠実な対応だと思います。
ただ、付加価値率や自己資本利益率について言及していないのは残念です。
株主への還元は勿論重要ですが、一方で本質的な意味で株主が求めるのは企業価値の向上です。目先の配当や自社株買いよりも先に、付加価値率や自己資本利益率の向上を達成してこそ、株主に報いる事ができるのではないかと思います。
同社はSUMCOのありたい姿として以下の通りビジョンを定めています。
このビジョンは結構具体的で良いと思います。
ただもう一歩踏み込んでこれらを数値に落とし込んで頂きたいところです。
例えば
技術で世界一の会社⇒付加価値率が高い
景気下降局面でも赤字にならない会社⇒在庫率が低く、固定費率が低い
従業員が生き生きとした利益マインドの高い会社⇒従業員給与が高く、ROEが高い
海外市場に強い会社⇒海外売上が高い(~%)
全て数値に落とし込める筈です。
数値に落とし込みさえすれば、その数値に至るまでの手段が明確になり、進捗管理も可能になります。
特に人の多い大企業は抽象的な言葉を連呼するだけでは変わりません。
経営陣がビジョンに見合った指標数値を示し、定期的に数値をフォローし、本気でビジョンの達成をする姿勢を見せてこそ、少しづつ目標に向かって進み始めるのだと思います。
折角具体的なビジョンをお持ちなのだから、あと一歩踏み込んで頂ければいいのに、と思います。
キャッシュフロー
投資活動によるキャッシュフローが直近大幅に増えています。
これは経営方針のところでも触れられていますが、300mm最先端半導体用高精度ウェーハの増強による投資がメインです。
伊万里工場だけで312.1億円かかってるんですが・・・凄いですね。。
未来への投資というのは重要です。特に半導体のように技術の進歩が激しい業界は一歩の差が大きなシェアを失う事になりかねません。
しかし、だからといって投資額が多い=将来性があると考えるのは早計です。投資は常に報われるとは限りませんし、減損も多く起こります。特に設備投資は資金繰りのために有利子負債を借りる事が多いので、減損が起きるとより純資産にインパクトがあります。
なので私は、基本的に投資キャッシュフローは営業キャッシュフローの6割程度に抑えるのが無難ではないかと思います。その考えでいくと、この直近の投資キャッシュフローは結構な冒険をしているな、という気がします。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現預金が502.2億円(8.7%)と、少なめです。ちょっと資金繰りが厳しそうです。
在庫が1,844.2億円(31.9%)とかなり多目の印象です。特に原材料が多くて原材料だけで1,494.5億円あります。これについては事業リスクの中に記述がありました。
シリコンウェーハの原料となる極めて純度の高い多結晶シリコンは製造者が限定されている事から、長期購入契約を締結しており、需要の変動に関わらず買わされるようです。これは資金繰りにとってかなりの弱みですし、同時にSUMCOが顧客に対してだけでなく、仕入先に対しても契約のアドバンテージを取れていない事が分かります。
仕入れ先からも売り先からも圧力がかかる、かなり厳しい事業環境が見えます。
ただ、逆に言えば、この多結晶シリコンの製造者は有利であるといえます。
ちょっと調べてみたところ、大阪チタニウムテクノロジーズという会社がSUMCO向けに多結晶シリコンを作っていたようですが、SUMCOは2019年に違約金100億円を払って長期購入契約の早期終了をしてます。(100億円・・・すごい・・・)
しかし、今の有価証券報告書にもまだ、長期購入契約の記述が残っているので、別の会社とも同じような契約を結んでいると考えられます。
他に作っているメーカーは以下があるようです。
参考:http://marketss.blog.jp/archives/52296530.html
これらの会社は少なくとも多結晶シリコンに関しては、売り手市場の商売をしていることになるため、別の機会に見てみたいものです。
SUMCOの分析に戻ります。
有形固定資産が1,967.8億円(34.0%)と資産の中では最も多いです。あれだけ機械装置に投資していれば仕方ないとは思いますが、膨らんだ在庫とあいまっていよいよ資金繰りが苦しそうです。
長期前渡金というのが358.4億円(6.2%)ありますが、注記を見てみると
また、多結晶シリコン分です。
となると、これも在庫の金額に含めた方が良いでしょうね。
そうなると在庫の金額が有形固定資産の金額を超えますね。。
とことん苦しい在庫の金額です。維持費も馬鹿にならないでしょうに。。
実に苦しそうです。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は1,511.2億円(26.1%)です。
在庫と有形固定資産が多いので仕方ないとはいえ、かなり多いです。
どうにか在庫が圧縮されれば借入金は返済できるでしょうが、果たして本当に今後は解消されるのかどうか。。市場における優位性は簡単に変わるものではないですから、保守的に見るなら今後も今の在庫水準が続くと見た方が良いのでは、と思います。
純資産は3,411.5億円と手厚いですからちょっとやそっとでは揺るがないでしょうが、資産を見るとリスク資産である在庫と有形固定資産の合計は4,170.4と純資産額を凌駕してます。勿論これらが全損するはずはありませんが、決して財務体質は盤石とは言えません。
自己株式による株主還元を実施する姿勢は素晴らしいと思うのですが、保守的な私はもう少し財務体質を良化した上で還元した方が良いのではないかな、と思います。
まとめ
SUMCOの人とは昔、同じ半導体業界という事で2013年~2014年くらいに少しだけ交流があったのですが、その時はなんとなく大変そうだな、という漠然とした印象でした。
今回の業績を見る限り、直近はかなり業績が持ち直してきており、財務状況も良化しているようなので、先ずは一安心、という感じです。
ただ、そもそもの課題であるSUMCOの事業的弱みは依然として根深いように感じられますし、それに対して根本的解決に向かうような姿勢は文章からは読み取れませんでした。
勿論、これらは事業の特性ですから、容易には変わらないと思いますし、そもそも変われる保証はありません。なので、まずは現状、SUMCOのビジョンを数値目標へ落とし込む事もしていないようなので、そういった部分をコツコツと進め、企業体質を良化していく中で、解決策を探してみてはどうかと思います。
私にとってはかつて交流のあった会社ですから、そうした活動を淡々と進められるマネジメントに恵まれ、よりよい企業となる事を切に願います。
本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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