結論
元々は強い力を持っていたが、買収で事業領域を拡大した事で雲行きが怪しく。。事業領域を広げる前に方針を数値に落とし込み企業体質の強化をお勧めしたい。
目次
事業概要
まずはRS technologiesの事業についてです。
RS technologiesは半導体シリコンウェーハの再生事業がメインの会社です。
昨日分析したSUMCOの中でも話に出てきましたが、半導体の原材料となるシリコンウェーハは非常に品質基準が厳しく、ほんの少し埃や塵がついただけで使い物にならなくなったりします。つまり、ちょっとしたミスで廃棄しなければならなくなるため、仕損となるシリコンウェーハが多いという事です。
これらのウェーハを再利用して販売するのがRS technologiesのビジネスのようです。
SUMCOの時もそうでしたが、シリコンウェーハ自体は半導体の原材料であり、中間材料になります。中間材料に関するビジネスはよほど特殊な技術を持っているか独占状態でない限り、高付加価値になりにくいです。
RS technologiesでいえば、この再生技術がよほど高度な技術であるか、独占企業でない限りは、難しいと思います。
セグメントの状況
セグメント別の数値を見てみます。
ウェーハ事業:107.8億円(43.2%、利益率37.9%)
プライムシリコンウェーハ製造販売事業:100.6億円(40.3%、利益率14.9%)
半導体関連装置・部材等:40.5億円(16.2%、利益率4.2%)
その他:0.6億円(0.3%、利益率9.2%)
ウェーハ事業の利益率が凄く高いです。
最初この数値を見た時はセグメント経費の割り振りを間違えているんじゃないか、と疑いましたが、昔のセグメントを見ても高利益率は変わらないので、おそらく正しいのでしょう。
となると、このウェーハ再生事業は高利益率を保てるほどの優位性があると見て良いと思います。その優位性が技術起因なのか何なのかは分かりませんが。。
しかし、ほんの数年前まで事業は高利益率のウェーハ事業1本でやっていたのに、最近は中国の会社を買収して半導体の他の分野にも進出しているようです。
私としてはこれはマイナスの印象です。
直近で買収した会社はプライムシリコンウェーハ製造販売事業と半導体関連装置・部材等事業ですが、前者はSUMCOと同様で競合多数の厳しい業界ですし、後者はセグメント成績が4.2%の低利益率です。
まだ買収したばかりですから、これから良くなるのかもしれませんが、いずれもマイナスからのスタートで先行している会社が凌ぎを削っているのですから、よほどの勝算がなければ、かなり分の悪い賭けではないかと思います。
折角、高利益率のビジネスをやっているのに、何故血で血を洗うレッドオーシャンビジネスに参入するのか。。これがもし単に規模を求めるためだけでやった買収なら、体質的にNGだと思います。
業績推移
経常利益率の推移は14.6%⇒16.3%⇒28.9%⇒24.1%⇒22.1%
直近3年の伸びはSUMCOの業績の伸びと同じです。
当然と言えば当然ですが、RS technologiesも半導体の需要変動に左右される業績のようです。ただ、企業規模が小さい分固定費が少ないのか、悪い時でもSUMCOほど利益率は下がってません。
直近2年は好調ですが、ウェーハ事業だけやっていればもっと高い利益率の筈です。プライムシリコンウェーハ製造販売事業の買収のために、相当利益率が薄められたものと思われます。
経営方針
当ブログの会社分析ではウェザーニューズに続いて2社目になります。
経営方針に数値目標を載せてません。
会社規模が大きくなればなるほど、数値での管理は重要だと思います。
小規模のベンチャー企業であれば社員一人一人の顔を社長が見えますから、数値目標など使う必要はないでしょう。意思を伝えるのも直接社員を捕まえて伝えれば良いだけです。
しかし、会社の規模が大きくなるとそうはいきません。
人が多くなれば価値観も分かれます。
「再生技術を確立」とは何をもって確立した、と判断するのでしょうか。
「販売を強化」とは一体どれくらいの数値で強化したと判断するのでしょうか。
「最先端設備を拡充」すること、というのは一体何を指しているのでしょうか。
どれだけ言葉を尽くした所で、1人や2人ならともかく、千人単位まで大規模になってしまった組織では、トップの考えをすべての人に理解してもらうのは困難です。
だからこそ、目標と進捗を誰でもわかる数値まで落とし込んだ管理が必要なのです。
内部的にやっている、という事なら良いですが、この有価証券報告書の文面からはあまりそういった雰囲気は伝わってきません。
もしそうした管理ができていなければ、ここ2年で組織が急拡大しているRS tecnologiesはマネジメントしきれなくなり、業績が停滞していくことが懸念されます。
キャッシュフロー
投資活動によるキャッシュフローが2019年は大幅に増えています。これはおそらく買収による支出が増えたためと思われます。ただ、それなら2018年度も買収している筈ですが、妙に少ないです。
キャッシュフロー明細を確認します。
2018年に買収した会社の持っていた現金及び現金同等物の金額が取得価額を上回ったという事ですね。
自由になるお金が増えたという意味ではプラスなんですが、この買収によってRS technologiesは本業よりも利益率の低い事業を抱えたことになるので、素直には喜べない変化です。
2019年の投資キャッシュフローですが、固定資産の増はウェーハ事業とプライムシリコンウェーハ事業の投資がデカい印象です。
プライムシリコンウェーハは特にデカいですね。。本当に回収できるのか不安です。。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
というか・・・直近2年は買収が多すぎて財務諸表が滅茶苦茶読みづらいです。。どっか間違ってたら指摘願いします。
現預金が221.6億円(45.6%)と、意外に潤沢です。工場を持っているとは思えないほどです。ただ、2019年のフリーキャッシュフローだけでは、この増加分は説明がつかないので、財務キャッシュフローで何かしら資金を増やしているものと推測されます。
財務キャッシュフローの明細を見てみると、借入による収入と非支配株主からの払い込みによる収入とあります。非支配株主からの払い込みというのはつまり増資の事です。借り入れよりはマシかもですが、これだけ急激に現金をため込んでいるのは、何をしようとしているのか気になります。また買収でしょうか。。
工場を抱えている事業ばかりなので有形固定資産が146.4億円(30.1%)と多いです。とはいえプライムシリコンウェーハ事業に参入しなければもっとリスクを抑えられるのにな、と残念です。
セグメントを見れば分かりますが、有形、無形固定資産増加額の73.3%はプライムシリコンウェーハ事業のためのものです。こんなに突っ込んで大丈夫なのか。。
のれんも5.0億円(1.0%)あります。全体にしてみれば軽微ですが2019年に子会社化した分です。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は36.3億円(7.5%)と全体の比率に対しては軽微です。あれだけ現金をため込んでいるならば大した脅威ではありません。
RS technologiesの純資産は486.3億円ありますが、純粋なRS technologiesの持ち分は株主資本の214.1億円です。非支配株主持分は会計理論上RS technologiesのものではありません。
非支配株主持分を簡単に説明しておきます。
例えばA社という会社の株をRS technologiesが60%の株式だけ持っているとします。
A社の過半数の株を握っているため、A社の意思決定権はRS technologiesにあり、連結決算上はこの会社の資産、負債、純資産は全てRS technologiesの帳簿に反映しなければなりません(これが連結決算のパーチェス法とよばれる会計処理です)
しかし、資産全てを反映しても、40%分は自分のものではないので、純資産の40%分は非支配株主持分として計上します。
RS technologiesはそういう中途半端な会社が2社あるんですよね。。
所在地が中国ですから仕方ないといえば仕方ないのですが、こういう状態だと資本利益率や財務体質をどう考えるべきか悩むので、分かり難くて厄介です。。
まとめ
ウェーハ事業だけであれば、非常に有望な会社という気がするのですが、プライムシリコンウェーハ事業に参入しているところから、段々雲行きが怪しくなっている気がします。元々方針としてもあまり利益率、効率という概念が無いようですし、そもそも経営方針を数値まで落とし込めていません。
今のままでは規模の拡大を推し進めて結局統制できずボロボロになってしまうのでは、という気がします。
P.S.
正直、かなり面倒な分析でした。連結会計でしかも複数会社の買収、それも非支配株主持分が大量にある事例とか、会計士試験の過去問で見て以来、リアルで見たのは初めてです。中途半端な親子上場を繰り返しているソフトバンクグループとかはかなりありそうですが・・・絶対分析したくないですね。もはやB/S数値による分析は意味不明だと思います。
もし真っ当に事業を営む気があるなら、中途半端な持分などは止めてきちんと100%所有した状態でやってもらいたいものです。勿論、場所や業種によっては国が100%支配を許さない、という事もあるのでしょうが、その状態では有報を見る側としてはそれを見てどう考えて良いのか判断に困ります。
それは多分、経営者側の視点でも同じで、自分の会社の財務状態がきちんと理解できないというのは、現在地があやふやな状態という事です。経営者の仕事というのは①現在地を理解し、②目指すべき目標を定め、③現在地から目標までの道を社員に示す事の筈。
現在地があやふやな状態では正しく前に進めません。
もう正直、子会社全部売ってしまって、元のウェーハ再生事業だけに戻せばよいのでは、と思います。
本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
企業分析リンク
www.freelance-no-excelyasan.com