企業分析アナトールの株式投資

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【8058】三菱商事~有価証券報告書の読み方~

結論

多くの事業を持つ福袋会社。しかし資源というお宝も眠っているため、バフェットの選球眼は健在という印象。今の市場環境から考えれば確かにこれは有望。

 

目次

 

前置き

ウォーレン・バフェットバークシャーが日本の商社株を買ったというニュースがあったため、三菱商事は分析リストにはありませんが寄り道します。

news.yahoo.co.jp

総合商社は様々な事業をしていますから、一貫した体質は読み難いです。ただ、何となくバフェットが買った理由は予想がつくのでその辺りも含めて、三菱商事を分析することで、今回のニュースに対する自分の見解をまとめておこうと思います。

 

事業概要

まずは三菱商事の事業についてです。

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三菱商事の事業内容は言ってしまえばビジネスの全てです。むしろ関わっていない業種の方が少ないのではないでしょうか。

事業の内容をシンプルに書く、というのは経営者の頭が整理できているという事であり、優良な会社は説明がシンプルになっている事が多いです。ただ、三菱商事の場合、整理できているというより、説明が不可能なため諦めている感があります。

これだけ多くの事業が色々あると、どこかで儲かってもどこかで損をする、という事で著しい成長が見込めないため、こういった複合的な企業は、一般的に投資家から好まれません。分かり難い企業は人気が出にくいのです。

 

ではなぜ、そんな会社をウォーレン・バフェットは買ったのかですが、ヒントは買い方にあると思います。

今回バークシャーは特定の企業を買ったわけではなく、大手商社(伊藤忠商事、丸紅、三菱商事三井物産住友商事)をまとめ買いしてます。

つまり、特定の企業の体質を見てその企業を購入したというより、総合商社に共通する特徴に対して投資したのだと推測されます。

 

私はその特徴とは天然資源の権益であると思います。

 

三菱商事をはじめ、総合商社は原油天然ガス、貴金属採掘の合弁事業を行っており、原油をはじめとするコモディティの価額が上昇すると、大幅に増益になる性質があります。

実際、前回2007年頃に中国の台頭によってモノの需給バランスが崩れると予想され、原油をはじめとするコモディティ価格が暴騰した際も、三菱商事は大きく利益を伸ばし、株価も急上昇していました。

(ガソリンの価額が200円/㍑を突破したあの時です)

当時の私は、著名投資家ジム・ロジャーズの著書、「商品の時代」を読んで資源株に興味を持ち、三菱商事を購入していたので、多少の利益をあげることができました。

ジム・ロジャーズが指摘する所では、原油天然ガスといった資源は十数年ほどの周期で上下を繰り返しており、その理由として需給バランスが崩れる事を挙げています。

 

原油の例を出すと、以下のようなサイクルを繰り返しているそうです。

原油価格が低いと採算の取れない採掘事業者が倒産していき、供給量が減る。

②需要に対して供給量が足りなくなると、価格は上がる。

③価格が上向いたのを見て業者が増産のための設備投資を慎重に始める。

④増産が需要に間に合わないため、価格は上がり続ける。

⑤上がり続ける価格を見て採掘業者が慌てて大量の設備投資をする。

⑥大量の業者が増産して供給が増えるため、今度は値が下がり始める。

 

で、今がどのタイミングなのかと考えた時、思い出すのは今年4月に話題になった原油の5月限の価額がマイナスになったというニュースです。

news.yahoo.co.jp

ロシアと中東の対立という突発的な事象が主要因ではありますが、何にせよ原油価格は暴落、現在でも40ドル前後です。

アメリカのシェールオイルの採算価格は50ドルほどと聞きますから、この価格のままでは採算が取れず、しばらくこの価格が続けば採掘業者は潰れていきます。

となれば、現在は①の状況ではないかと。

コロナの状況が続けばしばらくは原油の需要が増えず、価格は上がりにくい状態になります。そうなれば採掘業者は次々窮地に追い詰められて廃業して原油の供給が減っていき、数年後に需要が反転すると一気に原油価格が高騰、というシナリオが考えられます。ただでさえ各国の金融緩和、財政出動でお金がだぶついている状態ですから一度上がり始め、投機マネーが流れ込めば急騰する可能性は十分考えられます。

原油価格が高騰すると、原油は色々な原価に関係しますのでほとんどのコモディティは高騰します。そうなれば、大手商社の持っている権益は大きな利益を上げる事が予想されます。

世界中の株価が高い水準にある中で、これまで日本の総合商社の株価は純資産価値よりも低い状況で放置されていましたから、いずれも将来急騰する可能性の高い割安株であると判断できたのだと思います。

 

セグメントの状況

同社は自社の業績を以下のセグメント区分で分析しています。

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いつもは売上の構成割合や利益率を出すのですが、セグメントが多すぎるので割愛します。
ざっと見た感じではいずれも利益率が低いか、利益率が高くても売上に占める割合は低い印象です。

ですがこれだけ色々やって赤字が石油・化学だけ、というのもさすが三菱、という感じです。

チェックしたいポイントとしては、資源系の「天然ガス」と「金属資源」における損失です。

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やはり資源価格の下落を受けて減損損失を計上しています。

つまり今は元々の前提となる資源価格を引き下げている状態です。

いずれもし投資価額が向上した場合、収益が増えるとともに保有している権益が大きく価値を伸びることになり、大幅に利益を上げることが予想されます。

 

 

 

経営方針

目標とする指標は連結純利益9,000億円という絶対評価自己資本利益率の二桁ROEという資本効率です。

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当ブログでは結構付加価値率を目標に加える事を推奨していますが、この場合は仕方ないかな、と思います。

三菱商事ほど他業種を抱えている場合、事業によって置かれている状況やビジネスの体質が違います。合算した三菱商事全体での付加価値率を考えようにも、売上構成が変わっただけで変動するので、そこを目標に据えるのは困難かと思います。

せいぜい資本効率としてROEをどの程度を目指すのかを定めるのが限界かと思います。

投資計画などもきちんと基準を設けているようですから、フリーキャッシュフローもおそらく安定して管理されているのではないかと推測されます。

如何にもエリート集団の立てた合理的方針、という気がします。

 

 

 

キャッシュフロー

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これだけの規模になれば当然といえば当然ですが、フリーキャッシュフローは安定しています。きちんとキャッシュフローの統制は取れていると考えて良いと思います。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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手元資金は1兆4731.6億円(8.2%)と割合は少ないんですが、同社の場合、天下の三菱ですから手元資金が多い少ない言っても始まりません。バックには三菱UFJ銀行がついているんで、資金繰りに困るなんてまずあり得ないでしょう。

 

売上債権は3兆1680.1億円(17.6%)と多いようですが、売上の債権回収期間から考えれば78.2日と滞留しているわけではありません。

三菱商事は様々な業態が混ざっているため、売上と売上債権の比率で考えてよいのかすら分かりませんが。。)

それ以外の主要なリスク資産(棚卸資産、投資等、有形固定資産、無形資産およびのれん)も結構な割合を占めているので、経営環境が変わった際には大きく減損する可能性のあるリスキーな資産リストではあります。

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債は5兆7601.2億円(31.9%)と結構あります。

三菱商事株主の持ち分にあたる純資産は5兆2,273.6億円(30.0%)です。

リスキーな資産リストからすると決して盤石な数値とは言えないのですが、目標値にROEを据えている以上、財務安全性を強化するより負債でレバレッジをかけてROEを引き上げ、効率向上をさせている意図もあるのかもしれません。

そもそもバックに三菱UFJ銀行が控えている以上、財務健全性を高める意味も薄いと思います。

 

 

 

まとめ

当ブログはあくまで有価証券報告書を元に、体質を推測するブログなんですが、三菱商事ほど他事業に渡り、巨大な財務諸表を持っていると、さすがにどこにどんなリスクが潜んでいるのか全然見えません。

細かく見ていこうと思いましたが、挫折しました orz

経営方針などはさすがに良く考えて設定しているな、とは思いますが、規模が大きすぎてざっくりしています。三菱商事はやはり独立した複数の企業の集合体で、一社買うだけで投資信託買ってるのと変わらない気がします。

でも多分それはバフェットにしても同じことで、おそらく総合商社の全貌までは把握しておらず、バフェットが注目したのは、以下の三点かと思います。

①値上がりした現状ですら純資産以下の株価(PBR0.71倍)

②複数の業種を持ち、それなりに安定した収益をあげる企業体質

③資源株が高騰すれば、資産価値の上昇と収益の向上で2重の恩恵を受ける。

 

バフェットは株式の価値を将来その企業が生み出すフリーキャッシュフローの割引現在価値、と定義しているため以下の前提で算出してみます。

①毎期生み出すフリーキャッシュフロー=(直近実績:349,001百万円)

②株式数=1,485,723,351株

③割引率(期待収益率)=10%

(たしかバークシャーの鉄道とかもそれくらいだった気がするので仮置き)

株式の現在価値=①/②/③=2,349円

つまり、仮に2,349円で買えて、毎年直近の収益くらいのキャッシュフローが見込めるなら、10%程度投資リターンが見込める、という事になります。

しかもこの場合、資源価格が高騰したら大きな値上がり益も見込めるという特約付きになります。バークシャーほどの規模になると10%のリターンが見込めるような大型の投資先自体、今の市場環境では難しいでしょうし確かにお買い得かと思います。

 

本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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