企業分析アナトールの株式投資

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【3765】ガンホー・オンライン・エンターテインメント~有価証券報告書の読み方~

結論

爆発力がある一方で守りの力もある。今の市場環境なら10%以下でポートフォリオにいれたい会社。

 

目次

 

事業概要

まずはガンホーの事業についてです。

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ガンホーの事業はスマートフォンゲーム、家庭用ゲーム機向けゲーム、コンシューマゲーム等、ゲームのの企画・開発・運営・配信・販売です。

有名な作品としてはパズドララグナロクオンラインだと思います。

特にパズドラに関しては、2012年頃に発売されてから大ヒットして業績が爆上がりし、株価が一気に150倍くらいになったのは記憶に新しい(もう7年前ですが・・・)と思います。

こうしたビジネスは構造がシンプルです。ヒット作を出すと売上が大きく伸びますし、大きな固定費もかかりません。アイディアさえ良ければあっという間に高収益企業になるため、爆発力はかなり高めだと思います。ただ、特にスマホゲームに見られますが、次々に新しいゲームが開発されているため、それこそパズドラ並みのヒットがなければ、収益は持続しません。つまり、継続的にヒット作を生み出していく必要がありますから、ゲームの持続的開発力が同社が今後飛躍できるかどうかの条件になると思います。

ところで・・・ゲーム企画(以前出資した会社で作ろうとしたんですが、データベース構築段階で会社ごと潰れました・・・まいったまいった)があるんで、ガンホーさん一緒にやりましょう~。一旗揚げたいガンホーの社員さん個人でも歓迎します、ご連絡をお待ちしております。

 

セグメントの状況

セグメントは単一セグメントが90%という事で記載省略されてます。

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その代わり地域ごとの情報が載ってます。

日本が半分以上を売り上げてます。

パズドラのヒットって日本だけなんですかね。。

 

 

 

業績推移

経常利益率の推移は47.0%⇒41.0%⇒37.2%⇒28.9%⇒28.2% 

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パズドラ影響で物凄く高かった利益率が、最近は売上の減少と共に落ち気味です。

落ち気味と言っても十分な利益率です。

加えて、私自身はガンホーのコスト体質は良いんじゃないかと思ってます。

少しコストの内訳を深堀してみます。

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粗利が52.5%、営業利益率は28.0%という高い付加価値率を誇りますが、さらに注目すべきはコストの性質だと思います。

先ず売上原価ですが、これは連結ベースの売上原価明細表が無いので、単体の数値を参考にします。

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売上原価はロイヤリティと支払手数料がほとんどです。

事業の概要を見る限り、ロイヤリティは他社からライセンスを借りる代わりに払う一定率の使用料と思われます。支払手数料は販売会社や配信会社に対して支払う手数料と思われます。

このコストの共通する特徴は、ゲームそのものの使用に応じた金額を支払うのが一般的という点です。つまり、売上に連動する変動費と理解する事ができます。

 

一方で販管費はどうか。

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広告宣伝費が結構入ってます。

広告宣伝費というのは比較的削りやすい経費で、変動費です。

つまり、ガンホーの経費は結構の部分を売上次第で削る事のできる変動費が多いという事です。これは実はコスト体質としては結構な強みだと思います。

会社というのは常に景気変動のリスクに晒されています。景気が落ち込んだ時にどこまで経費を削れるかは、その会社のリスク耐性として非常に重要です。

変動費というのは売上が落ちればその分減らす事が多く、リスク耐性の高いコストといえます。売上が増えようが減ろうが発生し続ける固定費が少なく、変動費が多い点、ガンホーは体質として強いように思います。

 

 

 

経営方針

目標とする経営指標は「MAUの拡大」のようです。

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意図するところは明確です。

同社の使命は「感動と楽しい経験」をお客様に提供する事ですから、MAUの拡大は同社の使命を測るという意味では悪くない指標かと思います。ゲームにアクティブに参加する人が多いというのは、感動や楽しい経験無くしてあり得ないです。

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ただ、この目標では投資家からすれば、MAUが拡大しさえすれば良いなら、赤字になってもバンバン広告を打ってMAUを求める、という可能性も考えられます。

できれば付加価値率の観点も含めた目標にしてもらいたいです。例えば一人当たり課金単価がいくらなのか、などです。

本当に人々が「感動と楽しい経験」をしているのであれば、課金してでも参加したいはずなので、この指標を見ることは本来の使命から逸脱するものではなく、むしろ厳格化するものです。

是非そういった観点を加えた方針にして、投資家から見た利益にも重点を置いて欲しいな、と思います。

 

 

 

キャッシュフロー

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フリーキャッシュフローに問題はありません。ただ注目すべきは4-5年前の投資活動によるキャッシュフローと財務活動によるキャッシュフローです。

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定期預金を解約して、手持ちの現金を放出してまで自社株買いしてます。

当時の株主の状況を見てみると、自社の25.3%株を購入してます。

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自社株買いは単にその時の株価を上げるためにやる行為と思われている方もいますが、長期的、本質的には以下のようなメリットがあります。

自己資本利益率(ROE)が上がる

購入した自社株は純資産の控除項目になりますから、ROEが上昇します。

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大幅な自社株買いを行った平成28年度、株主資本390.2億円になっていますが、自己株式がなければ、3倍くらいの株主資本を抱えていることになります。

この時のROEは43.8%という素晴らしい水準ですが、もし自社株買いを実施していなければ、その1/3ほどの比較的平凡な結果だったはずです。

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ビジネスの実態は変わらないため、体質を良く見せるお化粧的な側面もあるのですが、無駄に資金を寝かせ、資金効率を一切意識しない会社よりはよほど良い性質です。

 

②来年以降の配当を払う必要が無い

買い上げた自社株には配当を払う必要はないため、来年以降の配当による現金の流出を抑えられます。会社にとって配当は単なる現金の流出ですから、支払先を減らす事は、将来的な現金の流出を減らす事に繋がり、結果的に長期保有してくれる株主に対する還元になります。

 

③既存株主の持ち分を増やす

自社で購入した株式は株主総会ではノーカウントになります。つまり、25%の株が自社株買いされたという事は、既存の株主の発言権が133%(75%の逆数)になり、将来の利益に対する取り分も133%になります。

もともと使う予定の無い資金があるならば、浮動株を回収する事に使えば、それだけで長期で保有する投資家に対する取り分の向上に繋がるのです。

 

以上が自社株買いのメリットになります。

ただ漫然と配当だけをしていればよいと考えている、企業経営者は片目を閉じているのと同じです。株主還元は配当、自社株買いの両方を常に秤にかけ、どちらの方法がより還元方法として優れているのかを常に考える必要があります。

その点、異次元ともいえる1/4にも及ぶ自社株買いを実行できるガンホーは非常に優れていると思います。

 

ガンホーの創業者である孫泰蔵氏は、あのソフトバンクグループの孫正義氏の兄弟です。孫正義氏も先日ソフトバンクグループで大規模な自社株買いを行いました。このあたりのセンスはやはり並みの経営者とは違う、と思います。

孫泰蔵氏が孫正義氏と同じ合理的発想の持ち主で、ガンホーの体質にその考え方が反映されていると考えれば、ガンホーの株主還元の体質はかなり優良だと推測されます。
 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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手元資金は862.3億円(82.1%)と、凄い金額です。ほぼお金です。

コンテンツ会社だけにソフトウェア仮勘定といった無形固定資産もありますが、36.8憶円(3.5%)程度です。純利益が195.9億円の会社からすれば怖くもなんともないです。

資産のリストとしてはこれ以上ないくらい優良な部類です。

 

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債は2.7億円ほどで無視して問題ないと思います。なんであれだけの現金がありながら借金しているんだろう、と思うかもですが、おそらく子会社のどこかが借金をしているのだと思います。

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ガンホーは複数の国で子会社を持っていますから、統一した資金管理システム(CMS)を持つのは困難だと思います。それぞれが独自に資金繰りをして、その中の一部子会社が銀行に金を借りたのではないかと推測します。

いずれにせよ、金額からすれば大勢に影響はありません。

 

 

 

大株主の状況&役員の状況

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創業者である孫氏とおそらくその資産管理会社で30%ほどを所有しています。

創業者ほどではないですが、現在トップの森下氏も大株主に名を連ねています。

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孫氏の方針なのか、引き継ぐ家族がいないのか分かりませんが、同族経営の印象はありません。これも企業体質としてポジティブです。

 

 

 

 

従業員の状況 

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平均年収は決して低くはないです。しかし特別高いという印象もありません。

売上の増減の激しい同社の場合、単に体質が良いというだけで給料を上げてしまうのも難しいです。今年物凄い利益を上げても、来年には廃れるような事が頻繁にある業界ですから、固定費である給与を安定的に上げるというのは、同社の性質上難しいかもしれません。

私はストックオプションやESOPのように、半強制的に役員や従業員に株を持たせる制度に反対ではありますが、同社のような会社の場合は導入もやむなしかな、という気がします。

 

 

 

まとめ

財務体質はかなり良好で、企業としての体質も悪くないな、という印象です。ただ、かなりビジネス自体に変動要素が多いです。結局は如何に魅力的なコンテンツを生み出し続ける力があるか、という話になると思います。

不安要素としては、グループでの従業員数が結構増えてます。

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直近では買収などはやってないので、買収によるグループ拡大ではありません。

コンテンツ業界はどれだけ面白いアイディアかが重要で、頭数揃えてもあまり意味がないビジネスです。むしろ規模が大きくなったがために批判するだけの人間が多くなる事でエッジの利いた作品が出にくくなり、「無難」で「大衆受けする」コンテンツが出ばかりで没落する、というのはありがちなパターンではないかと。

どういう意図でグループ全体の従業員を増やしているのかが分からないので、その点は少々不安です。

 

以下、投資家目線のコメント(いずれ有料noteでまとめる内容)

ガンホーパズドラの大ヒットで大幅な収益増を達成し、株価が暴騰した夢のある会社です。見てくださいこの夢のような上がり方・・・持っていた方は実に羨ましい。。

【ガンホー・オンライン・エンターテイメント】[3765]チャート | 日経電子版

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私はパズドラもやってませんし、この暴騰を蚊帳の外で見ていただけの傍観者なので、「酸っぱい葡萄」のようにどうせ一発屋芸人のようなものだろう、とあまり興味を持っていなかったのですが、今回の体質分析で結構興味が出てきました。

少なくとも現段階の目に見える限りでは財務的なリスクはほとんどなく、株主還元に対する姿勢も並の企業より遥かに紳士的と言えます。

同社のようなビジネスモデルはパズドラのヒットで分かる通り、衝撃的なヒットが出ると一気に吹き上がる可能性があります。当時の株価は150倍くらいになったと言いますが、NISAで100万円を投資すれば1億5000万円になるという爆発力。それだけでちょっとした一財産です。

これだけの爆発力があり、なおかつこれだけリスクを抑えられているのであれば、例えばポートフォリオの中に10%以下くらいにこういう銘柄を一つくらい加えておくのも悪くないのではないかと。

 

しかも、現状ガンホーは不人気な銘柄です。

昨年の一株当たり純利益258円に対して現在の株価は2,307円とPERは8.9倍です。足元確かに利益は落ちてきていますけど、赤字なワケではなく、キャッシュもきちんと入ってきていて株価が下がれば安く自社株買いできる可能性もある。

これは今の市場環境ではかなりお買い得の部類ではないかと思います。

 

前々から出したい出したい、と思って全然書けてない有料noteですが、私が分析する中で投資しても良いな、と思うような銘柄をいくつか上記のような形で紹介するのと+おおよそいくらくらいで買いたいかなどを書いたものにしようかと思ってます。

note.com

ただ、季節的に今本業がかなり厳しくなってるのと、ビジネスプランコンテストが近くあるのでこのブログの毎日更新すらさぼり気味です。。コーヒー飲みながら座椅子で寝てる始末です。すみません。

有料noteはいつになることやら。。

以下の記事のように私は暴落待ちスタンスなので、いずれにせよ今の株価ではどこも買う気にならないのでのんびり行かせてください。

www.freelance-no-excelyasan.com

 

本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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