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【2121】ミクシィ~有価証券報告書の読み方~

結論

財務優良、体質不安。不安のあまり人の採用を増やしたり、買収したりと若干他力本願の姿勢が見える気がする。ミクシィ本来の「コミュニケーション」に基づく新サービスの開発に期待。

 

目次

 

前置き

分析したガンホーが今の市場環境では有望かつ割安な気がしました。ただ、ガンホーだけが体質として良いのか、それともコンテンツ業界、ゲーム業界は大体凄いのか、その辺りが分からないので、似た印象の会社をピックアップして、何社か寄り道しておこうと思いました。今回はモンストでフィーバーしたミクシィを見てみようと思います。

 

事業概要

まずはミクシィの事業についてです。

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ミクシィはエンターテインメント事業とライフスタイル事業がメインです。

エンターテインメント事業では、モンスターストライクのようなコンシューマーゲームが有名ですが、公営競技の券、くじのオンライン販売、競馬メディアまでやっているようです。バスケットボールチームの運営もやっているようですね。。手広い。。

ライフスタイル事業は社名の元になったSNSサイトの「mixi」、サロンスタッフの予約アプリ、家族向け写真共有アプリ「みてね」などもやってます。

 

mixi」は私が大学生の時全盛期で、私も誰も読まない日記を書いていた覚えがあります。個人的にはリア充写真で溢れたFacebookTwitterより、長々とした文章の書けるmixiの方が好きだったのですが、mixiは今私はまったく見ませんし、知り合いからmixiの話などほとんど聞かれません。社会人になって忙しくなるとぱったり書かなくなり、人の日記も見なくなりました。

思うに、mixiというサービスは文章を長く書ける、というのが逆に弱みになってしまったのではないか、と。

当たり前ですが一般人のほとんど(私も含め)は文章を書くことについて素人で、つい取り留めのない事を長々と書いてしまいがちです。書く側は気持ちいいかもしれませんが、読む側にしてみれば、結構ダルいんです。よほど仲の良い友達とかじゃなければ自然足も遠ざかります。書く側は書く側で忙しくなるとダルくなりますし。

FacebookInstagramTwitterのように長々とした文章を書きづらく、写真や動画メインの仕様の方が、発信者側はもどかしいですが、見る側にとってはサクッと気楽に見る事ができるので、人が集まりやすい気がします。

これはYouTubeTikTokのような動画系サービスが盛り上がり、一方でブログがオワコンと言われる昨今の事情に通じる気がします。やはり、言葉での伝達に頼り続けるサービスは今後苦しいのかもしれません。mixiの衰退は、こうしてブログをやっている私も身につまされます。

 

「みてね」のサービスは私も子供が生まれてから親族内での子供の動画、写真共有に使ってます。使い勝手も悪くないですし、3か月単位でちょっとした音楽付き動画を自動作成してくれて重宝してます。この「みてね」の動画が遠方に住むの親族の数少ない楽しみになっているらしく、しばらく動画をあげないと催促される始末です。

 

mixi」や「みてね」のサービスに共通するのは、内輪向けのサービスであることではないかと。FacebookTwitterといったSNSはまったく知らない誰かに向けての発信であるのに対して、「mixi」や「みてね」はリアルで近しい人との新しいコミュニケーションツール、といった印象です。

どっちが人を集めやすいかというと、やはり知らない人への発信の方が人が集めやすい気はしますから、ビジネス的にはやはりFacebookTwitterの方が爆発力があると思います。

ただ、ミクシィFacebookとはそもそも立っているスタンスが違うので、同じSNSだからといって単純比較すべきではないのかな、という気がします。

 

モンストについては私は知らないので、ちょっと調べてみると以下のような記事がありました。

diamond.jp

モンストのヒットは「近しい人とのコミュニケーション」という一貫したテーマに基づいて設計されたもの、という事です。これは体質的にポジティブだと思います。

現在のミクシィはいくつもの事業を平行してやっているようですが、ヒットしていると思われるサービスに関しては、「近しい人とのコミュニケーション」という一貫性があるように思います。

事業に関して一貫性というのは非常に重要な要素で、それがとてもニッチな範囲であっても、貫いていると非常に強力な差別化になる事が多々あります。もしミクシィが今後もあれこれと寄り道をせず、このポリシーを貫く事ができるなら、今後もヒット性のあるサービスを生み出す可能性は十分あるのではないかと思います。

 

セグメントの状況

エンターテインメント事業とライフスタイル事業のセグメント別を見てみます。

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エンターテインメント事業:1,072.2億円(95.5%、利益率29.4%)

ライフスタイル事業:49.5億円(4.4%、利益率▲13.6%)

分かりやすいほどにエンターテインメント事業(モンスト)だけで成立してます。一方でmixiやみてねではほとんど稼げていないという印象です。

ここから推測されるのは、こういったサービスは「飽き」が来やすく、定期的に新しいサービスを開発しなければ収益を保てないのかもしれません。

 

 

 

業績推移

経常利益率の推移は45.4%⇒42.7%⇒38.5%⇒28.5%⇒15.1% 

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売上は5年前の半分程度、利益は20%ほどになってます。

おそらくは売上のほとんどを占めるモンスターストライクの収益が落ちてきているためと推測されますが、それでも提供開始の2013年10月から、7年もの間ある程度の利益を確保できているというのは脅威です。

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しかし逆に言えば売上に貢献できる他のサービスを生めていない事になります。

そのせいか、直近の2019年頃から買収や子会社化が多くなっていますが、もしこれが売上と利益の減少に対する焦りによるものなら、少々怖いです。

苦しい時に他社を買収して上手くいくことは稀です。

その理由の一つとしては、業績が苦しい時に他社を買収するというのは、大抵の場合、経営陣自身が本業の将来性にある程度の見切りを付けてしまった事を意味するからです。自社がそれまで挑んでいた課題に対して逃げ腰の状態で新しい事業領域に挑戦しようとすると、自社の本業が上手くいかない上に買収先の問題を抱えることになり、より問題が酷くなる可能性が高いです。

 

 

 

経営方針

目標とする指標は売上高及びEBITDAです。

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うわ~、という感じです。

当ブログでは何度も書いてますがEBITDAは好ましくない指標だと思います。

単なる営業利益ならまだしも、減価償却費やのれんの償却額を除いた数値に一体何の意味があるのか。ミクシィの場合は固定資産などはあまり持たないでしょうから影響は軽微にしても、問題はのれんの償却費です。

どれだけ高値の買収をしても、EBITDA上には現れません。しかし高額な買収をすればキャッシュは確実に会社から失われます。それを反映させない指標はフェアではないですし、経営者がミスリードすると思います。

こういった指標を普通に使ってしまうというのは、個人的には体質が心配です。

 

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これまでの「コミュニケーションサービス」という事業ドメインからエンターテインメント事業へと方針を変えようとしているようです。 その方針変更があってからの直近の買収の連続、というワケですね。。

評価指標をEBITDAにしているのも、買収によって出てくるのれん償却による業績悪化の予防線を張っているのかもしれません。。「実体のないのれん償却によって営業利益は減少しましたが、付加価値指標であるEBITDAは増え続けています」といった感じで。

しかし、減価償却費ものれん償却も現実に発生している先払費用です。

それを除いたら都合のいい部分だけ切り取った、誤魔化しの数値になります。

売上10億円、経費15億円、損失5億円の会社があって、経費がなければ10億の付加価値を生んでいると胸を張ったところで、15億円の経費は既に発生しているもので、現実としての5億円の損失は消えません。

EBITDAは内外問わずミスリードを生むだけなので使うのはやめた方が良いと思います。

 

 

 

キャッシュフロー

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ずっと潤沢なフリーキャッシュフローがあったのですが、直近の2年で投資活動が活発になってます。先の沿革でもわかっていたことですが、最近企業の買収が目立ちます。

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B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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手元資金は1,254.3億円(62.7%)で十分な額です。グリーもそうでしたが、正直これだけキャッシュが豊富なら、面白そうな事業を買収したくなる気持ちは凄く分かります。

ただ、買収というのは元々かなりリスキーな賭けです。

良い買収案件というものはそうそうあるものではないです。本質的に考えて、売り手よりも買い手の方がそのビジネスについて情報を持っているというあり得ません。

売り手が売るには何らかの売る理由があり、その現在価値が支払われる対価以上になることはないです。100円のものを50円でくれるお人良しがいるでしょうか。

つまり、買収は最初からほとんどが負け戦です。

だからこそ買収は慎重に吟味しながら進めるべきですが、ミクシィの場合は一気にいくつもの会社を買収しています。これで事業を上手く軌道に乗せるのはかなり厳しいのではないかな、という気がします。

その結果、のれんも173.2億(8.7%)と結構積みあがってます。

現金預金が大きくて目立ちませんが、決して小さくない金額です。

有形固定資産が103.4億円(5.2%)と昨年対比でかなり増えていますが、これもまた買収した会社の固定資産が一気に増えたものと推測されます。

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債は36.2億円と若干あります。現預金があれだけあるのに何で?という気がしますが、これも直近で買収した会社に一部借入金が残っていただけでしょう。

その証拠にミクシィ本体の単体決算の負債の部には一切有利子負債がありません。

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買収したばかりでその辺りの債務整理がまだ終わっていないだけと思われます。

事実上の無借金と考えて問題ないと思います。

事実上の無借金で純資産が1,793.7億円というのは立派なものです。

衰えたといえどmixi、モンストと大ヒットを飛ばした会社ならではの優良財務だと思います。

 

 

 

大株主の状況

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創業者である取締役会長の笠原氏が45.26%を保有しています。浮動株の中の議決権未行使分を考えれば実質的に笠原氏がミクシィの実権を握っています。

興味深いのは、笠原氏は社長ではなくあくまで会長兼取締役であるという点です。

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笠原氏はモンストがヒットする少し前くらいから会長になり、2016年からVantageスタジオの本部長になってます。Vantageスタジオは「みてね」や以下の記事の「ゆずもと」など、コミュニケーションに特化したアプリなどを開発している部署のようです。

ミクシィVantageスタジオ、アニメ・ゲーム・マンガグッズの交換アプリ『ゆずもと』iOS版をリリース | Social Game Info

いわばミクシィ本体の開発中核組織と言えるのかもしれません。今後ここからmixiやモンストのようなメガヒットアプリが誕生すれば良いですが、収益性を見る限りでは「みてね」や「ゆずもと」がミクシィの中で存在感を発揮するのは今の時点では考えにくいです。

ここから収益源となるアプリを生み出す事の出来ていない焦燥から、マネジメントは外部の買収に舵を切ったという流れではないかな、と。

「みてね」というアプリに関して言えば、私も使ってますし魅力的でセンスも良いと思うんですが、そこから収益を生めるかはまた別問題なんですよね。。

 

 

 

 

従業員の状況 

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従業員がこの5年で2倍近くになってます。

直近で買収しているので買収企業の従業員が増えているのは当然なのですが、売上がこの5年で半分になったのに対して従業員数は2倍になるというのは、ちょっと大丈夫なのか心配になります。

単に人件費がどうという話ではなく、それだけの人をマネジメントしてきちんと付加価値を上げる事ができるのか、というのは難しい課題です。売上が成長している途中ですら従業員を増やすのは控えるべきところを、売上は半分になり人員が倍になるというのは、きちんとしたマネジメントが利いているのか不安になります。

 

 

 

まとめ

mixi、モンストと大ヒットコンテンツを生み出したミクシィの創造性は素晴らしいと思います。数値上の結果は出ていないようですが他のアプリもセンスの良さを感じます。何よりその元となる発想が「コミュニケーション」というミクシィの一貫した着眼点に基づいて発想されているという点が良いと思います。

ただ、モンスト以降に大ヒットするコンテンツを生み出せておらず、業績の低迷に際し、マネジメントに焦りが見え始めている気がします。

経営指標としてのEBITDAの採用や直近の複数の買収は、明らかに買収による拡大を意識しています。さらに業績の低迷に反比例する人員の増は社内の統制が取れていないちぐはぐ感が否めません。

こうした環境変化の著しい中、ミクシィの持ち味である「コミュニケーション」をテーマとした新サービスの提供の開発や維持継続ができるのか、個人的には疑問です。

 

本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

企業分析リンク

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