結論
ハイレベルな優良体質お化け。私が知らないだけで凄い実業家は結構いるもんだな、と思わせてくれる会社でした。
目次
前置き
HOYAは調査リストには無かったですが、久々に読者様にリクエストされたため分析します。
事業概要
まずはHOYAの事業についてです。
HOYAの事業はヘルスケア、メディカル、エレクトロニクス、映像、その他の5種類に分けられるようです。一見するとゴチャゴチャしているようですが、主要製品を見てみると何となく特徴が見える気がします。レンズとガラスです。
「その他」以外の事業は主にレンズやガラスに関する事業をやっているようです。
レンズやガラスに関するコア技術を活かして様々な事業区分で展開しているのがHOYAという会社なのかな、と推測されます。
一応沿革を見てみるとやはり創業時の事業は光学ガラスです。
連結子会社145社、関連会社18社というグループ会社数はかなり多いです。
会社が多い場合に心配なのは、移り気気質で買収好きな会社であるリスクですが、このセグメントを見る限りでは、きちんと自らの強みの事業領域の範囲内にとどまり、筋の通った組織作りができている印象です。
セグメントの所に自社のドメインについても書いてます。
意外にこれができない会社が多い。
あと、地域別に統括会社を置き、日本の会社なのに重要な本社機能の一つである財務本部をオランダに置いているとか、発想が進んでるな、という感じです。
この時点でなんとなく独特の雰囲気を感じます。。
セグメントの状況
HOYAは事業セグメントをライフケア、情報・通信・その他の3つに分けてます。
ライフケア:3,750.5億円(64.9%、利益率16.6%)
情報・通信:1,967.6億円(34.1%、利益率44.8%)
その他:59.2億円(1.0%、利益率0.5%)
ライフケアの利益率は普通ですが情報・通信の利益率が凄いです。
これを伸ばしていく事ができればキーエンス並みの高収益企業にもなり得るのではないかと。
かつてキーエンスが自動線材切断機事業を売却したような判断ができれば或いは。。
【参考】
www.freelance-no-excelyasan.com
他にも売上収益の内訳とか地域別の売上とか、かなり詳しい数値も公開してくれています。
これはありがたいな、と思います。
規模の小さな会社においては管理部門は重要性が乏しく、資料を作るだけ無駄な事も多いですが、HOYAクラスの規模の企業になると、管理部門の質はそのまま経営陣の意思決定能力に直結します。管理部門は経営陣の頭脳そのものですから、経営陣が考えを整理できてないと、管理部門は疲弊するばかりで、こういう的を射た資料が作れません。
その点、HOYAはこの資料など一つとっても、非常に見やすく作られています。特に記載義務のない情報ですらこれだけの数値資料を提供できるというのは、管理部門の質の高さを伺わせます。これは経営陣の頭が整理されている事の証ではないかと思います。
業績推移
経常利益率の推移は23.6%⇒23.1%⇒23.2%⇒25.6%⇒25.5%
上々の利益率です。セグメントの状況から見て、売上構成は少ないものの非常に利益率の高い情報・通信が同社の利益率をけん引しているものと思われます。
経営方針
経営指標としてはSVAを重視しているようです。
SVAという指標を私は今回初めて聞いたのですが、EVAと同義のようです。
EVAとは、経営財務指標のひとつで、Economic Value Added の略称です。「経済付加価値」と訳されています。米国・スターン・スチュワート社が考案し、また同社の商標登録となっています。商標登録されているので、「SVA(Shareholders Value Added)」、「EVM(Economic Value Management)」と呼ぶこともあります。
マーケティング用語集 EVA(経済付加価値) - J-marketing.net produced by JMR生活総合研究所
SVA=(税引き後営業利益)-(資本コスト)で算出します。
上記式から考えるとSVAは絶対値評価です。個人的には、絶対値評価は質的な向上ではなく規模の拡大によって達成され得るためあまり良くないと思います。ただ、ここまで見てきたHOYAという会社の印象からして、無駄な買収をすることで規模によって目標を達成するようなタイプには見えません。そうした雰囲気のようなものを合わせて考えると、この指標でも問題ない気がします。
キャッシュフロー
如何にも統率の取れている感があるキャッシュフローです。
問題ありません。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
この資産状態を見た時、違和感を感じる人もいるかもしれません。
非流動資産(固定資産)が先に来てます。
普通の会社は流動資産が先に来て、固定資産、その他投資という順番で流動性の高い資産から書いていくのが一般的です。これは流動性配列法と呼ばれます。
HOYAのように非流動資産から記載する方法は固定性配列法と呼ばれ、日本では電力会社などで用いられる記載方法です。
その辺りどんなルールだったかな、と忘れたので調べてみると、日本基準では「流動性配列法」が原則となっていて、例外的に電力会社とかがあるだけのようです。
ただ、HOYAの準拠しているのはIFRSで、IFRS上は「流動性配列法」で表示するか、「非流動性配列法(固定性配列法)」で表示するかは各企業の判断に委ねられているようです。
制度自体は個人的にどっちでも良い気がしますが・・・こういう「当たり前」に流されない姿勢は嫌いじゃないです。漫然と他社の猿真似をしているだけの経理からは出てこない発想です。こういう所にも質の高さが滲む気がします。
手元資金は3,179.8億円(39.2%)で十分な額だと思います。
売掛金の額が1,033.4億円(12.7%)と結構大きいので一応滞留期間を見ると65日ほどなので、問題ない数値ではないかと思います。
有形固定資産1,523.0億円(18.8%)とそれなりにあります。
主要な設備を見てみると、販売店舗や工場のようです。
これまでの印象からかなり合理的発想と思われるHOYAならファブレス、アセットレスとかでも不思議はないですが、それなりの工場を抱える製造業のようです。
逆に言えば工場を抱えながらあの利益率を達成しているわけですから、大したものです。強靭な体質のなせる業という所でしょうか。
のれん420.8億円(5.2%)あります。HOYA全体の資産金額からみれば大した金額ではありませんが、私はのれんの価値を信用しない主義なので、この分は純資産から差し引いて考えようと思います。
負債、純資産を見てみます。
貸方の方も資本、負債という逆の流れなんですね。。攻めますね。
ちょっと意外ですが有利子負債が219.7億円(2.7%)あります。十分な現金があるのに有利子負債があるのは違和感があるかもですが、単体決算資料では、無借金です。
つまり、借金はどこかの子会社がしているものと思われます。
HOYAは為替リスクを避けるため、債権債務の決済を同一通貨で行う事にしているようなので、どこかの国の通貨が足りなくなったからといって、やすやすと送金しないのかもしれません。
特定の子会社でお金が足りなくなると、現地の銀行などで融資を受けて自前調達する結果、連結ではこういう矛盾した結果になっていると推測します。
HOYAは多くの国でビジネスを展開しているようですから、為替については細心の注意を払っている感じがします。
資産負債のそれぞれに載っている金融資産、負債は為替のヘッジを目的としたデリバティブ取引ではないかと思います。実に遊びの無い合理的なB/Sです。。
従業員の状況、役員報酬
従業員の給与はまあ無難なところかな、という印象です。並みの企業よりもかなり待遇は良いようですが、平均年齢や勤続年数、そしてHOYAの強靭な体質を見るに、これくらいは貰って然るべきかと思います。
しかし勤続年数が長いです。
それだけ従業員のモチベーションを保つのが上手いのか、もしくは新人をあまり採用していないのかもしれませんが、ただいずれにせよ勤続年数が長いのは悪い事では無いと思います。
良い職場に人は残り、悪い職場からは人が去ります。
もし悪い職場であればこの勤続年数は達成できないと思います。
役員の方もそれなりに貰ってますが、まあ、HOYAの体質から見て無難なところではないかと。少なくとも高すぎる事は無いと思います。
報酬の決め方とかもかなりきっちりしてます。
ここまで整備されている会社はそうは無いと思います。
優良体質お化けですね。。文句付けられません。
株主への還元
自社株買いと配当という複数の株主還元方法についても触れ、株主還元のトータルリターンについても触れてます。
ちょっと・・・完成され過ぎててケチのつけようがないですね。。
まとめ
HOYAという会社をあまり知らなかったのですが、内容を見てみたらとんでもない体質お化けでした。
強いて難をあげれば、有形固定資産を結構持っている事と、ヘルスケア事業の利益率が平凡という点です。ただこれについても事業の性質上不可避という可能性もあるので、無理には言えないですが、かつてのキーエンスのように、あまり利益率が芳しくないヘルスケア事業から撤退する事ができたら、HOYAは紛う事なき体質お化けでキーエンス2号であると言えます。
これだけの体質お化けの会社を創ったのは誰なんだろう、と興味が湧いたので調べてみると、現在の社長である鈴木洋氏のお父さんの鈴木哲夫氏が現在のHOYAの体質を築いた中興の祖のようです。
【参考】
あの「剛腕」名経営者の決定的汚点!追い出した創業家と壮絶バトル中に死去
現在、社長の鈴木洋氏と創業本家との争いがあるそうですが、普通に考えたら今のHOYAの圧倒的合理体質を構築できる鈴木哲夫氏が、我が子可愛さだけで自身の後任に長男を据えるとは考えにくい気が。。
実際1993年~2000年までは創業本家である山中衛氏に任せようとしていたようですから、試してみてダメだと決断したのではないでしょうか。
鈴木洋氏に引き継がせてHOYAがボロボロになったというならちょっと・・・と思いますが、今のHOYAを見た限りではダメな要素は見当たりませんでした。。批判している創業家は一体今のHOYAの何がダメだと思っているのか、ご意見を聞いてみたいものだな、と思います。
本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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