結論
財務基盤は優良、業績も超順調、ビジネスの性質上もアセットレスなコンサル業。数値や条件だけ見てれば相当評価上位にくる会社。しかし何かモヤっとする。。
目次
前置き
アイ・アールジャパンホールディングスは少し先に分析予定でしたが、IR専門コンサルという話を聞いて、どんな有価証券報告書を出すのか勉強になりそうだったので分析してみます。
事業概要
まずはアイ・アールジャパンホールディングスの事業についてです。
アイ・アールジャパンホールディングスの事業はIR・SR活動に特化したコンサルティング業です。IR(Investor Relations)活動を「上場企業が広く投資家全般を対象として行うリレーション構築活動」と、SR(Shareholder Relations)活動を「上場企業が自社の株主を対象として行うリレーション強化活動」と、それぞれ位置付けてます。
面白い観点のコンサルだな、と思います。
IRの部署は数値が絡むため経理の部署に置かれる事が多いです。大体決算に対して問い合わせが殺到しますから、私の会社も経理部門にIR部署が置かれています。
私自身はIR部署にいたことは無いのですが、IR部署に居た同僚に以前話を聞いたことがあります。曰くIRは闇が深い。決算の時は想定される質問に対して全て回答を準備して経営陣に伝えておかねばならないし(漏れたらシメられる)、普段は機関投資家の接待や個人投資家の対応など、キャリア形成に役立たない業務がほとんどだとか。。
確かに株主の動向調査やら扱い方ってかなり特殊なスキルな気がします。
冷静な投資家の対応だけならともかく、ただ「株価が下がった」という理由で怒りをぶつけてくるモンスター株主もいたり、一部株主が電子通知を認めないがために恐ろしいほどの紙媒体での発送業務もあるとか。
会社にとってのIRはほとんどの場合「無視する事はできないが、専門部署を置いて力を入れても、業績向上に直結しない」厄介な分野という印象です。
そう考えると幅広い会社を見てノウハウを蓄積している外注orコンサルにアドバイスが欲しくなる会社は結構あるだろうな、と思います。
同社のビジネスは個人的にはそれなりにニーズがありそうだと思います。
取引相手は基本的に上場企業でしょうから比較的客層も良さそうです。
セグメントの状況
アイ・アールジャパンホールディングスは単一セグメントです。
ただ、売上だけなら経営分析のところで3つの分類をしているようなので、一応チェックします。
メインはIR・SRコンサルティングで、株主の動向分析や議決権シミュレーション、コーポレートガバナンスなど、株主対策的な業務のようです。
ディスクロージャーコンサルティングはアニュアルレポートや株主通信といった株主に対して発信する文書等の企画・作成する業務のようです。
データベースその他は独自のシステムを使って株主の動向や意見を集め、まとめるもののようです。
前年対比でIR・SRコンサルティングが伸びており、受注案件が増えている模様。
ただ、これを読む限りでは、安定して業績を伸ばす事ができるストック型というより、突発案件が多そうな印象です。つまり、何もしないでも安定的に増える感じではない。
それに、支配権争奪とかMBO案件は、今の日本ではそんなに多い印象は無いですし、アクティビストとかもあまりいない印象です。
真剣に今後の同社の成長を考えるのであれば、日本のIR環境の将来展望を考慮した上で分析する必要があると思います。
業績推移
経常利益率の推移は22.5%⇒26.3%⇒28.0%⇒30.0%⇒47.0%
直近に大型案件が増えたために利益率が急上昇しています。
コンサルビジネスは製造業などと違い設備投資等がほとんど必要なく、固定費のほとんどは人件費です。つまり一人当たりで捌く案件を増やせたことで、損益分岐点売上を突破して急激に利益率があがったものと推測されます。
売上がこれだけ伸びているのに従業員数はほとんど変わらない、というのは凄いです。
現状の利益率を保てるのかどうかは案件受注次第でしょうが、案件さえ受注できれば一気に利益拡大する爆発力がありそうです。
経営方針
経営指標は「マーケットシェア」、「営業利益」、「一株当たり純利益」です。
いずれも具体的な目標値がない上、絶対値なので、個人的にはあまり好ましい目標設定の仕方ではないです。コンサル業という性質を鑑みるならコンサル一人当たりの利益額などの方が体質が見えて望ましい気がします。
キャッシュフロー
営業キャッシュフローの伸びは順調です。
投資活動などは無さそうなものですが、期によって増減があります。
内訳を見ると無形固定遺産と投資有価証券があるようです。
確かに同社は独自システムを使っているため、その分の投資があると思われます。
後は投資有価証券ですが、債券などの安全な資金運用ではなく、株式による比較的アグレッシブな投資姿勢のようです。
非上場株式や投資事業組合への出資なども行っており、今後これが増えていく場合、少々心配ではあります。
キャッシュが沢山あるとつい投資したくなる気持ちは分かりますが、そもそも投資事業組合などは本業の片手間でして上手くいくものなのか。。
金額の多寡というより、マネジメントの意識が隣の芝生に向いてしまい、本業にきちんと向き合えていないのではないか、という質的な懸念があります。
上場企業という立場から考えても、こういうのは配当として株主に還元し、マネジメント層は一株主として還元されたお金で投資事業を別に始めるのが筋ではないかと。儲かれば何でもいいだろ、という会社なら別ですが。。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
手元資金は48.1億円(62.4%)で十分な額だと思います。
売掛金の額が12.2億円(15.8%)と結構大きいので滞留期間を見ると58日ほどです。対して滞留していないので問題ないと思います。
後は敷金保証金2.7億円(3.6%)が多めかな、と。
建物が無いので、賃貸しているのでしょうが、敷金がこれだけ高いのはやはり良いところにオフィスを構えているのだろう、と思ったら丸の内にホールディングスのオフィスを持っているようですね。
特に大変な実務をしない筈の持株会社のオフィスなわけですが、7名しかいないオフィスに結構金かけてますね。。金銭感覚がちょっとバブリーな気が。大丈夫だろうか。。
稼いでる人間がどう使おうが文句はないですが、問題はそれが生み出す体質です。非合理的な金の使い方をする人間がトップの場合、企業風土にもそういう非合理的なパワーゲームが染みつくのではないかと。キャッシュが大量に入ってくるうちは余裕でしょうが、長い目で見るとちょっと心配です。。
負債、純資産を見てみます。
十分な現金があるはずですが、短期借入金が2億あります。
何か理由があるのかと思い、資金の方針を確認しますが・・・
単なる当座貸越なのかな、と。戦略として金融機関と密な関係を取る必要があるため付き合いで借りてる、とかならまだ分かるんですが、ただ貸越しているだけなら、金の管理が雑なだけ、という印象です。何らかの意図があるにしても、こういう所に書いてないのはなんだかな、という。。
純資産は52.1億円(67.6%)と十分にあります。資産もリスク性資産は少ないので盤石の財務状況と言えます。
従業員の状況
これは親会社である持株会社の従業員7名だけの給与なので、グループの給与とは違いますが、結構な高額です。
コンサル業という職種を考え、年齢等を考慮に入れれば、無難な給料かもしれません。
一方で、CEOである寺下氏は1.6億円ほどの報酬を受け取っています。
稼いでいる会社のCEOなわけですから、実績から見るとそれくらい貰っても良いとは思います。ただ、雑とも取れる資金管理の部分や目標設定の仕方、投資事業組合への出資などを総合して考えると悪い意味でワンマンな印象が強いです。そういった点があるにも関わらずこれだけの金額を貰うというのはあまり好きになれません。
しかも寺下氏は株の過半数を持っていますから、仮に暴走しても誰も止められる人がいません。否、過半数を持っているからの現状なのかもしれませんが、いずれにせよ体質評価的には好ましくないです。
配当の方針
配当政策も見ておきます。
何となく想像はできましたが、金額に根拠がありません。
同社は第一種金融商品取引業者であり、自己資本規制比率があるため、ある程度は内部留保に回して自己資本の充実を図る必要があるのは分かります。
ただ、それにしても、規制上一体どれくらいの金額の留保が必要でいくらまでなら配当できる余裕がある、といったような考え方が一切書かれておらず、金額だけドンと出されている感じです。
まとめ
IRのコンサル会社なので、これこそがモデルだ、と言えるような理想的有価証券報告書が見れるのではないかと期待していたのですが・・・私的には正直思ったほどではなかったです。勿論私が見ようとしているのはマネジメント層の考え方とか企業体質、性質みたいなものなので、IRが上手い=評価が良いとはならないのでしょうが、私はちょっと不満でした。。
あからさまにヤバいとかそういう話ではなく、少なくとも財務基盤は優良、業績も超順調、ビジネスの性質上もアセットレスなコンサル業。数値や条件だけ見てれば、現在上場している企業の中でも相当評価上位にくる優良企業だと思います。
ただ、私の個人的価値観に照らしてみると、ちょっと手放しで称賛できかねるかな、と。当ブログは内容のほとんどが私の勝手な意見に基づく価値判断なので、普遍的な評価でもないと自覚はありますが、なんかこう・・・モヤっとしました。
本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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