企業分析アナトールの株式投資

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【7309】シマノ~有価証券報告書の読み方~

結論

体質優秀、財務盤石。他の企業には無い優れた部分も多々あれど、今一歩体質を改良できるのではないかと期待。

 

目次

 

前置き

シマノは将来的に調査する予定でしたが、読者様にリクエストされたため前倒しして分析します。

 

事業概要

まずはシマノの事業についてです。

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シマノの事業は自転車部品、釣具、その他(ロウイング)の3種類に分けられるようです。ロウイングというのはボート競技の事らしいです。ボートでオールを漕ぐときに足を船に固定させるシューズみたいなものを作っているっぽいです。

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SHIMANO ROWING

何で自転車の会社が靴?という気もしましたが、ただのシューズではなく、バーチャルピボットという機構を搭載しているものらしいです。

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バーチャルピボット(Virtual Pivot)

私は技術は門外漢なので確証はないですが、こうして見るとシマノのやっている事業はコア技術のイメージが近いように感じます。釣具のリールとかは、まさに自転車の駆動の技術に関係しそうですし、ロウイングのバーチャルピボットなる機構も回転に関する機構のようですから、シマノはコア技術を活かして様々な分野に進出している会社ではないかと。

これは企業体質として良い兆候だと思います。

ボーイング社が戦後、軍用航空機から転身して民間用航空機市場を開拓したり、織機を作っていた豊田自動織機製作所トヨタ自動車を生んだように、持っていたコア技術を別分野に応用して凄い飛躍を遂げる例は多いです。

儲かっている会社の経営者は貯まったお金を使って、つい他の事業の真似をして失敗してしまう事が多いです。

任天堂の中興の祖である山内溥氏ですら、トランプでひと稼ぎした頃、畑違いのビジネスに手を出して失敗したそうな。

1958年にアメリカ最大手のトランプ会社であるU.Sプレイング・カード社の工場とオフィスを視察に行った際、最大手であるにもかかわらずオフィスの規模が想像以上に小さかったことに衝撃を受け、「トランプだけではちっぽけな会社で終わってしまう」と悟り、多角経営の道を探ることになる。親戚にタクシー会社の経営者がいたことから、1960年にダイヤ交通株式会社を設立したのを皮切りに、1961年には近江絹糸と共同出資で三近食品を設立し、いずれも代表取締役社長に就任。その他にも任天堂本社でも他業種に進出したが、ノウハウ不足などによりことごとく失敗。更にトランプブームが一段落付いた1964年に任天堂は一転倒産危機に直面することになる。山内は1965年に三近食品、1969年にダイヤ交通の経営から手を引いた。

山内溥 - Wikipedia

任天堂は結局、自社の強みである「玩具」で大きな飛躍を遂げる事になりますが、これもまた自社の事業領域を突き詰めていった事による飛躍であると考えられます。

企業というのは、運営の上でベースとなる理念と、それを突き詰めていった先に得られる「強み」が無ければ継続する事は困難です。創業したばかりで何したって上手くいかないベンチャー企業が色々チャレンジするのはアリだとは思いますが、大企業になると、関係する人間が多くなる分、目指すべきビジョンが分からなくなるような新規事業への参入は避けるべきです。

よって、シマノがしっかりと自身の事業領域を意識し、常にコア技術の応用展開を模索する企業であれば、体質として非常に良いと考えられます。

 

 

セグメントの状況

シマノは事業セグメントを自転車部品・釣具・その他の3つに分けてます。

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自転車部品:2,900.3億円(79.8%、利益率19.9%)

釣具:728.4億円(20.1%、利益率14.0%)

その他:3.5億円(0.1%、利益率▲16.7%)

利益率は工場を抱える製造業の会社としては健闘している方ではないかと思いますが、ほとんど財務的な優良企業しか見ていない私からすると、それほど高い水準ではないかと。

 

 

 

 

業績推移

経常利益率の推移は26.7%⇒21.7%⇒16.6%⇒21.1%⇒19.1% 

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ここ5年は景気は安定しているイメージだったのですが、その割に随分売上や経常利益に波がある感じです。特に極端なのは110期-111期は売上が伸びているのに経常利益が悪くなってます。

理由を覗いてみます。

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営業利益はほとんど変わらないのに為替で相当損してます。

確かに極端にこの時期は動いている感はあるけれど・・・それでも営業利益に対して17%は痛いですね。。

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為替 ドル円 リアルタイムチャート

よっぽど海外売上が多いのかな、と思い地域別情報を見ると、シマノの海外売上比率は88.8%です。ほとんど海外で売ってますね。

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となると、それほど2015-2019年に景気の乱高下はない気がするのに、シマノの売上が荒れているのも多分このせいですね。

国を跨ぐ多国籍企業の連結決算の場合、海外子会社の売上や経費を日本円に換算する際には期中平均レートが用いられます。

例えばヨーロッパで1万ユーロ売上げたとしたら、期中平均レートが122円/ユーロだとすると122万円の売上になります。来年に同じ1万ユーロの売上を上げたとしても、仮に期中平均レートが100円/ユーロであれば売上の売上は100万円になります。同じ売上をあげているにも関わらず、日本の財務諸表上は18%も減ってしまいます。

これは会計学上の前提である「貨幣的測定の公準」が抱える限界と言えます。会計学は貨幣価値は等価である前提だから比較できるのに、貨幣価値が変動してしまうと実態の認識が途端に困難になります。具体的にはインフレによる通貨価値の下落や国による通貨価値の変動がこれにあたります。

すでに確定した債権の為替リスクに関しては為替予約でヘッジする手もあるでしょうが、業績そのものとなると如何ともしがたいです。

これだけ海外売上の多い会社は無理に連結して単一通貨による開示をするのではなく、各国の通貨建の財務諸表も開示されないと、実際どうなのかはよく分かりません。単に日本円建のB/S、P/Lを見るだけでは判断しかねる会社です。

 

 

 

経営方針

シマノは経営指標を具体的には出していません。

私は基本的に経営指標を具体的にしない会社には否定的です。どれだけ崇高な理念を持ち、どれだけ熱い想いを持っていようとも、それを評価する指標が無ければ、会社が前に進んでいるのかすら分かりません。一般的にその指標となるのは財務指標です。

ただ、ことシマノに関しては具体的に出してなくとも致し方ない気がします。先に書いた通り同社の売上は海外が9割近くあり、母数となる売上額自体が為替変動の影響を受けます。売上の変化は全ての数値に影響が出ますから、少なくとも有価証券報告書上に開示されている情報だけでは、どうあっても適切な業績評価は困難です。

シマノがこれを意識して敢えて業績評価を設定していないのか、そもそも指標を出す気がないのかは分かりませんが、いずれにせよこれはシマノの過失ではなく会計の本質的限界の問題です。そこに対する分析はノーコメントとします。

その代わり、同社は経営方針および戦略を打ち出しているため、私の主観的評価を入れたいと思います。

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経営戦略については総じて良い設定をしていると思います。

コアコンピタンスの強化とマーケットの絞り込み、というのは自身の強みを知っている会社だけが言える戦略です。先に言った通り、同社の進出している事業には技術的一貫性のようなものが見受けられるため、言行一致していると言えます。

②自動車文化・釣り文化の創造とブランド強化については、「自転車・釣りの社会的価値向上を志す」という具体的に何をするのか分からない部分はありますが、既存事業に対してブランド力を強化する姿勢は悪くないと思います。現状の事業領域に対して誠実に向き合っている証拠です。

企業価値の向上も①、②よりも具体性に欠けますが、①、②以外に絶対に外してはならないポイントを上手く総括して一つにまとめています。「善の循環」という単語が何かの受け売りなのか、自前で考えたのかは分かりませんが、いずれにせよ軽薄な経営者からは出ない、的を射た言葉かと。

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会計上の都合で、財務指標の設定はしていませんが、株主への還元についてはきちんとしている、という印象です。財務指標による業績評価は難しいですが、それでも株主に対してきっちり結果を残すという意味で、配当を継続して払うというのには誠意を感じます。

1972年以来配当しているというのは地味に凄いです。その間にはオイルショックバブル崩壊リーマンショックといった歴史に残る事件があったわけですから、それらを乗り越え、きっちり配当を出していたのは一つの信頼に繋がると思います。自社株買いに触れているのも好印象です。

 

コーポレートガバナンスの面では「当社の会社役員の地位の維持を目的とするものではありません」という部分がありますが、これも良い言葉だな、と。

この言葉は暗に、会社の利益と役員個人の利益が往々にして一致しない事を示していますが、まさにその通りで、具体的に言えば、経営者に対する過剰な報酬やゴールデンパラシュートのような買収防衛策などに顕著に表れます。

こうした手段で私腹を肥やすような経営者をトップに据えてしまった会社は、どれだけ企業が優良であっても、体質が悪化していきます。

取締役会とはまさにこういった利益相反のリスクを防ぎ、株主の利益を守るために任命されている会※ですから、こういう言葉が出るという事は、少なくとも同社の取締役会は自分達の役割を正しく認識しているものと推測されます。

 

 

 

キャッシュフロー

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基本的には安定しているキャッシュフローです。若干投資活動によるキャッシュフローが暴れている感があるため、内容を見てみると

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なんちゃって投資活動の定期預金です。それを除けば営業キャッシュフローに比して安定した水準ですから、心配は不要です。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び預金2,700.7億円(50.1%)は結構な水準です。シマノは工場を抱えた製造業ですから、現金及び預金の割合は自然小さくなりがちですが、これだけ貯めている点を見ると保守的な経営方針であると推測されます。もっとも、同社のように海外比率が高い会社だとうまく資金を集約しきれないため結果的に蓄積された、というのも考えられます。

商品等は689.3億円(12.8%)は無難な水準だと思います。売上と比較してみるとざっくり在庫が3か月~4か月分といった所かな、と。

有形固定資産は1,247.1億円(23.1%)とこれも工場持ちの会社なら普通かとは思いますが、感覚的にちょっと建物が多い気がする。。

一応内訳を見てみます。

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本社と工場の建物代です。

おそらく耐用年数の差だけですかね。一般的に建物は30年~50年、機械装置は数年で減価償却を終えてしまうため、何十年も使っていると建物だけ評価額が残る形になります。機械装置は買い替えもしますけど、きちんと手入れしてれば法定耐用年数過ぎても使える機械とかありますから、自然と簿価は少なめになります。

私はアセットレス派の人間なので、できるだけ資産は持たない方が良いと思いますが、特にシマノの場合などは製造技術にコアコンピタンスがありそうなので、工場を持たず外注に出す、というのも難しい気がします。

 

のれん38.9億円(0.7%)も一応ありますがシマノ全体から見れば本当に微々たる額です。自社の事業領域に忠実なシマノが買収によってのれんを増やすような事をするとは考えにくいのでここはスルーで良いと思います。

 

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債が31.7億円(0.5%)あって、十分な現金があるのに有利子負債があるのは違和感があるかもですが、単体決算資料では、無借金です。

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つまり、借金はどこかの子会社がしているものと思われます。

特定の子会社でお金が足りなくなると、現地の銀行などで融資を受けて自前調達する結果、連結ではこういう矛盾した結果になっていると推測します。

 

純資産が4,892.4億円(90.8%)とかなり手厚いです。方針として堅実なのでしょう。資産リストで半分が現金預金なのも合わせて考えると製造業の中でもかなり基盤の強い会社と言えます。

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

従業員の勤続年数も長いですし、給与も高い水準だと思います。

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労働組合があるのは個人的にあまり印象が良くはないです。ただ、歴史の古い会社ですと時代背景もあって致し方ないかな、と。現状の給与は高めだとは思いますが、決して無茶な水準とは思いませんから、 良いのではないかと。

従業員側からすると良い会社かもしれません。

 

役員の報酬ですが、具体的な金額としてはトップである島野容三氏が1億超えの報酬を貰っていますが、シマノの事業規模や整備された会社の実情を鑑みるに、法外な報酬という気はしません。まあ、妥当か控えめな額かな、と。

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一方で特筆すべきは黄色部分です。

「業務執行に関わる取締役(外国人取締役を除く)は、中長期の業績を反映させる観点から月額報酬の一定額以上を拠出し、役員持株会を通じて自社株式を購入することとし、購入した株式は在任期間中、そのすべてを保有すること」

これは株主に対して素晴らしくフェアなルールです。

経営者に対してストックオプションを乱発する会社は是非シマノを見習って頂きたい。

やたらと事務作業を増やす上、株主利益を棄損しかねないストックオプションは即刻辞めて、役員の方々は普通に自社株を買ってください。これは私だけが叫んでるわけでなく、オマハの賢人も同意見だと思います。

 

 

 

大株主、役員の状況

シマノには過半数を持つ大株主はいません。したがって、理屈の上では役員の選任も一部の人間の一存ではなく、血統は関係ない筈です。

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しかし、現在の代表取締役社長は島野容三氏は名前からしても明らかに創業家の方です。保有している株式数も752千株で、現在の時価総額なら186.2億円に相当します。これは間違いなく創業家の方でしょう。

当時のシマノがどれくらいの規模だったのかは分かりませんが、入社して5年目で工場長になっているのは少々血縁の優遇があったように感じます。

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正直ここまで見てきた限りでは、シマノは優れた体質をを持っており、前時代的な同族経営などはしなそうなんですが・・・

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おそらく社長の息子さんであろう島野泰三氏が専務をやっておられます。

同族=無能、というワケでは断じてないですが、同族経営の会社の場合、社員にしてみれば、どんなに頑張ったところで創業家の人間の下でしか働けない事が決まってしまうわけなので、どう頑張っても普通の会社よりモチベーションは落ちます。それを補って余りある能力が島野家の方々にあるのであれば問題ないですが、何代に渡ってもそれが続くとは思えません。

ここまで筋の通った仕組みを作っているシマノなら、その辺りをしっかりする事もできるのではないかな、と思いました。

 

 

 

まとめ

シマノという会社が優良という噂はかねがね聞いてました。実際に有価証券報告書を読んでみて、確かに素晴らしい体質だと感服しました。他の企業さんが是非見習って欲しいな、と思う部分が多いと思かったです。特に役員に自社株購入に充てさせるルールは素晴らしいです。

ただ、個人的にはいくつか改善できる方法はある気がします。

例えば、業績評価の基準を置くことです。

記事内で海外売上9割が海外のシマノに業績評価の基準を置くのはかなり困難、という書き方をしましたが、それでも例えば数年単位での利益率ならば、一時的な為替変動などはあっても均されてそれなりの成果を出す事ができる筈です。

(数年平均にしても成果が出せないなら為替変動含めて実力と捉える他ない)

実際、現状のシマノROEはならされてもそれほど良い成績とは言えません。

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しかしこの数値は向上させようと思えば、決してできない事は無い筈です。

為替の変動による業績変動のリスクはあれど、余剰資金で自社株買を頻繁に行う事で、この利益率を向上させるなどの策は打てるはずです。

後は、次代からで良いので一族経営の見直しなどもして貰いたいです。これだけの企業を作ることができる賢明なる島野家であれば容易い筈。。キーエンス的な3親等以内は会社に入れないようなルールを設定してはどうかと。

 

本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

 

企業分析リンク

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