企業分析アナトールの株式投資

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【9759】NSD~有価証券報告書の読み方~

結論

資金運用なども一切辞めて、事業領域を明確にし、事業の選択と集中を行ってはどうだろうか。。

 

目次

 

前置き

NSDは調査予定にありませんでしたが、読者様にリクエストされたため分析します。

 

事業概要

まずはNSDの事業についてです。

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NSDの事業は大別して2つでシステム開発事業とソリューション事業、システム開発事業は「金融」「産業・社会基盤」「ITインフラ」の3つに分けているようです。

書き方としてはシンプルで良いんですが、システム開発事業もソリューション事業もざっくりし過ぎて何をしているのかイマイチ見えません。

もう少し詳しく知りたいと思いNSDのホームページに行ってみます。

ソフトウエア開発|株式会社NSD

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かなり手広い印象です。

これだけ色々やっているとNSDの事業領域や理念が見えにくい気がします。

事業領域や理念が明確でなければ、社員が会社の進むべき方向が見えずに力を発揮できませんから、社員は上位職者から与えられた仕事・タスクを漫然とこなすだけに終始しがちです。さらに、会社としての明確な指針が無いと有力者の一言が大きな影響を持ち、社内政治が生まれがちです。社内政治が蔓延れば会社の決断は非合理的になり無駄が増えます。

なので、事業領域や理念が見えにくいのは、企業体質として望ましいものではないと思います。

どのような形で理念を設定しているのかは後で見るにしても、これだけ色々やってると、何にでも通用しそうなフワフワした理念を設定せざるを得ず、明確な指針は望めない気がします。明確な指針を立てる意味でも事業の選択と集中は重要だと思います。

 

セグメントの状況

NSDはセグメントをシステム開発事業3種とソリューション事業の4つに分類してます。

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システム開発(金融):31.5%(利益率16.5%)

システム開発(産業):45.8%(利益率15.9%)

システム開発(ITインフラ):11.8%(利益率14.5%)

ソリューション事業:10.9%(利益率6.9%)

 

システム開発の利益率はそれなりの印象ではありますが、ここから全社費用の2億を除く事を考えると全体の利益率もそれほど期待できないのかな、という印象です。

一般的にビジネスは「何でもできます」という万屋タイプだと、維持費も膨らみますし、顧客に対する差別化も難しいため、付加価値も生み辛い傾向があります。

NSDの利益率がそれほど高くないのはそういった所に課題があるのではないかな、と。

 

 

 

業績推移

利益率の推移は12.6%⇒13.3%⇒14.1%⇒14.2%⇒14.8% 

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ううむ・・・という感じです。

決して悪くは無いのですが、さりとて特別良くもない。

システム系は基本的に大きな設備投資もあまり必要ない業種で、利益率が高くなりやすいので、その中ではNSDの利益率は少々不満足という気がします。

 

 

 

経営方針

経営指標としては連結売上高、営業利益率、新コア事業売上高、自己資本利益率を挙げており、すべてに具体的な数値を設けています。

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具体的な数値を設けているのは良い事だと思います。

あまり目標が高いとは言えませんが、営業利益率と自己資本利益率という付加価値率、資本効率について言及するのも良いな、と思います。

ただ、問題はなぜこの数値なのかという所かな、と。

何となく過去より売上を増やして調子のよい時の利益率の平均を目指しているだけ、という理由だとあまり発展性が無いです。

重要なのはこれらの数値が「どういう会社を目指しているのか」というストーリーに結びついているかどうかです。

では、NSDがどのような会社を目指しているかというと。

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決しておかしなことは書いてないのですが、これを読んだ時にその会社の目指す先が私はあまりピンときません。

これを読んだ時社員は、この会社を将来的にどういう風にしていけばいいのか、というビジョンが頭に浮かばない気がします。そうなるとどうしても目の前の仕事をこなす「現状維持」にならざるを得ないのではないかな、と。

NSDの示している経営指標が目指すべき姿を達成するための指標ではなく、概ね現状維持するための指標だと考えると、諸々の数値設定も腑に落ちます。

ただ、高度経済成長期ならともかく、変化の激しい現代に現状維持体質の会社さんだと体質として少々心もとないかな、という気がします。

 

ちなみに新コア事業売上高の指標は、ある意味発展的な意味を孕んでいますが、「ソリューション・新技術関連事業の売上を増やすぞ~」という意図しか読み取れないので、スルーしております。

社員の方は自分が担当している事業の売上を増やしたら喜ばれるというのは、言われなくともわかってると思うので、あえて目標に掲げる意味はないと思うとです。。目標に掲げようと掲げまいと売れるなら売るし、売れないなら売れない。。目標というのはもっと選択肢を選ぶ場面で判断基準となるべきものでないと、ただ現場に過度のプレッシャーをかけるだけで終わってしまうと思うのです。

 

 

 

キャッシュフロー

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基本的にフリーキャッシュフローは黒字ですが、投資活動がエラく暴れてます。

NSDはシステム会社で、大きな設備投資は無いでしょうから多分投資有価証券とかではないかな、と。

最近4年分の投資キャッシュフローを見てみます。

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有価証券やら投資不動産といった財テク系のキャッシュの動きが派手です。

投資有価証券なら長期で保有する意図で持つことが多いのでまだ良いのですが、有価証券を持つ会社は、短期売買で稼ごうとしている可能性が高いので、経営陣がどういう意図でそれを持っているのかに注意が必要だと思います。

本業に投資したり、株主に還元すべきお金で経営陣が財テクをやっているのだとしたら、体質的に注意が必要かと。私などは投資不動産とか有価証券があると体質が信用ならないので、その時点で投資対象からは外したりします。

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一応注記の金融商品関係の所で「安全性の高い金融資産で運用」とあるんですが、実際の状況として株式はかなり取得原価から増減している印象。

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ちょくちょく売却損や減損を計上している所を見ると、あれ?安全性ってなんだっけ?という気がしてきます。。

 

2018年の減損にはあまり見かけない美術品とかありますね・・・

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1億円の減損っていったい何の美術品買ったのだろう・・・というか減損が1億って全体額いくらなんだろう・・・これは怖い。。

こういうのがチラチラあると、何となく経営陣は財テクが好きそうな気配がします。

NSD全体の損益からすれば致命的なレベルではないのですが、こういうのは金額の問題ではなく、そういったものに手を出すか出さないか、という経営者の考え方が重要ではないかと。

私は個人のお金でやるならともかく、上場企業の経営者が会社の金でこういったものに手を出すのはそもそも望ましくないという考えです。

 

 

関係会社株式の取得、子会社株式の追加取得なども随分色々やっているようです。

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一応沿革を見てみるとたまに、これって会社の事業領域となんの繋がりがあるんだろう、という会社を作っているんですよね・・・。

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他のは一見して明らかにおかしい会社はなさそうですが、財テクの話や経営指標の話も含めて考えると、会社としてどこを目指すのかという軸が見えてこない気がします。
 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び預金が252.3億円(46.8%)と多いですね。これだけ現金があれば美術品やら有価証券やら不動産といった投資をしたくなる気持ちも分からなくはない・・・。

所謂そういった投資に該当するのは有価証券、投資有価証券、投資不動産(純額)77.3億円(14.3%)。現金の有り余る会社の優雅な遊び金って感じですかね。。私が株主や社員なら「いやいや、そんなの買う金あるんだったら自社株買い、配当、給料とかで還元してよ」と思いますが。。特に美術品については青筋立てて怒ると思う。株主代表訴訟級ではないかと。

受取手形及び売掛金128.0億円(23.7%)と多めですが、滞留期間は72日と問題なさそうです。

のれん爆弾は17.2億円(3.2%)と割合としては大したことないですが・・・個人的に償却期間10年がちょっと引っかかります。

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別に会計基準上は20年で償却したって良いんですが、一般的には税務上の5年でやる会社が多いです。(5年以外で償却すると税務-会計の差異が生まれて税効果会計の調整が面倒だから)

実在の証明が極めて難しいのれんの償却期間に敢えて10年の耐用年数を選んでしまうのは個人的に損を先延ばしにしているように見えて、マイナスのイメージです。今の時代、5年でのれんを回収できないような買収ならそもそもしない方が良いと思います。。

のれんが生まれるのは仕方ないとしても、さっさと損益に反映してもペイしている事を証明するのが経営者として潔い対応じゃないかな、と。

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債はゼロの無借金経営です。

株主資本がが453.0億円(84.1%)と強固な財務体質です。さらに評価すべきは自社株121.0億円が結構あることかな、と。相当自社株買いしてますね。

財テクをやってしまうあたり、あまり株主に対して誠実でないのかと思いきや、株主還元はある程度やっているようです。(だから財テクOK!とはならないですが・・・)

ただし、これだけ自社株買いしててなお、自己資本利益率が以下の推移というのは少々頼りない気がします。。

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まだまだ財テクに回すほどの余裕資金はあるわけですから、自社株買いでさらに純資産を圧縮するなり配当出した方がいいんじゃないかな、と。

 

あと、株主優待引当金についても珍しいので触れますが、同社は以下のような優待を出しているようです。

【NSD】[9759] 株主優待情報 | 日経電子版

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個人的には優待券出すくらいなら配当と自社株買いを増やせ、と思うので基本的に手間とコストが増える優待には反対なのですが、もしどうしても優待を出すなら短期売買の投資家より、NSDのように長く保有した株主を優遇する仕組みが望ましい気がします。

同社は子会社に優待やIRコンサルの会社を持っているだけあって、結構考えてるな~と思います。

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従業員の状況、役員報酬

会社の規模の割には従業員の平均勤続年数も長いですし、給与もそれなりの水準だと思います。社員の定着率がいいというのは働く側の環境としては悪くないのかもしれません。

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一方、役員はどうかと言うと・・・

 

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取締役は1人当たり3,000万円ほどかな、と。決して多すぎる印象はありません。

 

ただ、これは投資家というより、財テクをやっている企業の経営者の方が注意した方が良いと思うのですが、会社のお金で財テクをしていると、投資家の心理として、素直に役員報酬の額だけを信じて役員が金銭的にクリーンと判断してよいのかな、と思ってしまいます。

具体的な例を挙げると「財テク用の不動産や美術品を会社の金で高く買って、後から意思決定した役員が買った業者から私的にキックバックを受けているのでは?」といううがった見方もできるのではないかと。

特に美術品なんかは公正な価値なんてないようなものなので、いくらでも高値で購入する理由がついてしまいますし、そういった不正を防ぐ術は事実上ない気がします。

しかもNSDのように現実として美術品に大きな減損が計上されている状況を見ると、事実がどうであれ、役員にそういった嫌疑がかかる可能性は十分考えられるんじゃないかと。

そういったリスクをあれこれ考えていくと、コンプライアンスコーポレートガバナンス的な観点から見て、やっぱり私は一般企業がアグレッシブな財テクをするのは、望ましくないんじゃないかな、と思います。

李下に冠を正さず、という言葉もありますんで。。

 

 

 

配当政策

NSDの配当方針は以下です。

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40%の配当性向は決して悪くないのですが、NSDはIRコンサルを子会社に持っているという点も考慮するとまだ不満かな、と。

何故利益に対する40%が妥当なのか、今現在の純資産に対して配当は妥当なのか、の検討が為されていないのは配当政策としてもう少し深堀して欲しい気がします。

 

 

 

まとめ

財テク云々の話は、全てを見る事のできる会社役員からすれば、「そんなことあるわけがない」と重箱の隅をつつくような話なのかもしれませんが、一面しか見る事のできない投資家からすれば一事が万事、結構気になるものです。

細かな所だからこそ、会社がどこまで徹底的に合理的にできるかを判断できる指標となるという考え方もあります。不動産や証券投資とかはしないで本業の選択と集中、それにさらなる株主還元にフォーカスできないものかな、と思いました。

 

本記事は有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

 

企業分析リンク

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