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【6367】ダイキン工業~有価証券報告書の読み方~

結論

ところどころ良い取り組み、ポイントはあるものの、目指すべき目的地がぼやけているのではないか。「率の経営」の真価は次の不況に試される。

 

目次

 

前置き

ダイキン工業は調査予定にありませんでしたが、読者様にリクエストされたため分析します。

 

事業概要

まずはダイキン工業の事業についてです。

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事業の分類としては空調・冷凍機事業、化学事業、その他事業の3つです。

従業員数の割合が以下。

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圧倒的に空調・冷凍機事業の規模が大きく、化学事業も冷媒があることから、空調・エアコンがメインでそれに紐づく化学薬品、そこから派生した産業用機械や化成品が同社の事業領域なのかな、と。

どういう考え方で事業領域を決めているのか、方針を見てみると

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ここにはどんな会社でも該当しそうな、かなり幅広い方針しか書かれていません。

これでは何故ダイキンがこの事業を選んだのか分かりません。

グループ経営理念というものがあるので、そちらも確認してみます。

グループ経営理念 | ダイキンについて | ダイキン工業株式会社

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多い・・・覚えきれん。。

例えるならスターバックスで「トゥーゴーパーソナルリストレットベンティツーパーセントアドエクストラソイエクストラチョコレートエクストラホワイトモカエクストラバニラエクストラキャラメルエクストラヘーゼルナッツエクストラクラシックエクストラチャイエクストラチョコレートソースエクストラキャラメルソースエクストラパウダーエクストラチョコレートチップエクストラローストエクストラアイスエクストラホイップエクストラトッピングダークモカチップクリームフラペチーノ」を頼む感じ。

経営理念は会社がどうありたい、という姿であり、社員に対するどうあってほしいかという要望です。スターバックスの注文のように具体性があればまだ良いですが、これだけ長い抽象的な定義を社員が腑に落として業務に向かう事が現実的にできるのか疑問です。私が社員ならスルーすると思います。

理念はその会社の精神性を語るものから、目指すべき理想を表すもの、事業領域を特定するものなど、様々なものがあります。しかしいずれの場合でも、理念は会社の意思決定、アクションに影響する必要があるわけですから、実行部隊である社員が腑に落とす事のできるものでないと、存在する意味がありません。つまり多忙な社員がすぐに腑に落とせるだけの単純さや、応用力のある具体性が必要になります。この理念にはそれがあるのかな、という気がします。

「及ばざるは過ぎたるよりまされり」、整理できないならいっそ無い方が良いのではないかと。ちょっとこの理念設定は個人的にあまり印象良くないです。

 

セグメントの状況

ダイキン工業はセグメントを先ほどの3つに分類してます。

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空調・冷凍機:90.0%(利益率10.2%)

化学事業:7.6%(利益率12.3%)

その他:2.4%(利益率8.9%)

売上の9割が空調・冷凍機関連で、付加価値率はそれほど高くないです。

後、気になるのは空調・冷凍機ののれん償却額です。のれん償却が305.0億円という事はそれなりにM&Aもやっているようです。全体額は償却年数にもよるでしょうが、償却年数は固定ではなく、案件ごとに違う模様。

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最小でも305億円×6年で1,830億円以上ののれんが発生するM&Aをしていることになります。どういったスタンスでM&Aをしているのかも注意が必要かと思います。

 

 

 

 

業績推移

利益率の推移は10.3%⇒11.3%⇒11.1%⇒11.2%→10.5% 

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付加価値率はあまり高くないです。売上何兆円、という企業規模を考えれば致し方ない気はしますが、重要なのはこの付加価値率についてマネジメントはどう考えているのか、どういう方針でいるのか、です。

 

 

 

経営方針

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EVAなら知ってますが、DVAというのを初めて聞いたのでどういう数値かと調べてみると、こんな資料がありました。

https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/award/nlsgeu000002dzl5-att/2018-04.pdf

EVAをダイキン流に分かりやすくしたもの、ということですね。

「率の経営」という発想は企業体質を管理する良い手法ですし、その結果を評価する指標としてFCFというのも悪くないと思います。

その意気や良し、という感じなのですが、ここでいう重要指標の推移や分析が有報に載ってない気がするんですよね・・・重要指標って言うなら経営者の分析に推移を載せてほしいですし、その分析をして欲しいです。。

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経営者の分析には絶対値の分析しかない。。

こういう所に載せてないと、言ってるだけでは?と思ってしまいます。

仕方なしに先ほどの資料からROE/ROAの推移を見ます。

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99年から、率の経営を開始して以降、リーマンショックまで、体質は改善されているとは思います。

リーマンショック以降も一見すると売上、率の指標共に、素晴らしい伸びをしているようにも見えますが、一方でこの数値を見る上で忘れてはならない前提としては、

①OYLグループとグッドマン社を買収する事で、グループ範囲が拡大している

リーマンショック以降の景気回復、拡大

の2点です。

M&Aによってグループの範囲が拡大すれば、労せずして売上が増えますし、規模が拡大すれば景気拡大の影響は強く作用します。しかし、会社として強くなっているのかどうかはそこだけでは判断がつきません。規模の拡大は好景気時にはプラスに働きますが、不景気にはマイナスに働くためです。

 

また、質的な部分を考えたときに気になるのは、「ゴールはどこ?」という事です。

指標というのはゴールに向かうためのベンチマークでしかありません。ダイキンという会社が抱える理想の進捗を測るためのベンチマークです。

じゃあダイキンの理想って何?

そもそもどういう数値を達成、維持するのが目標なの?

そういうのが、少なくとも理念や記述からは見えません。

ダイキンにはこういう理想があり、それはすなわちこの指標を達成する事である、という所まで落とし込まなければ、実績数値を見ていても社員は「へ~」で終わります。

指標による管理というのであれば、せめてゴールの水準くらいは書いて欲しい所です。

 

 

 

キャッシュフロー

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FCFを最重視しているだけあって、FCFは安定してます。良く管理ができている印象ですからこのあたりの統制は文句なしです。

財務CFは直近年度が多いので一応内容を見てみます。

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安定しているFCFがあるなら自社株買いでもしているのかと思いきや、負債の返済がメインですね。これだけ返済をするというのは、件のM&Aの際に大きな借金をしたのか。。もう少し遡ってみますか。

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2012年くらいに財務活動によるCFがプラスになって、FCFが赤字になってますから、このタイミングで借り入れて買収したんじゃないかな、と。

時期から考えてアメリカのGoodman社の買収ですね。

https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/award/nlsgeu000002dzl5-att/2018-04.pdf

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詳細については下記がありました。

https://www.daikin.co.jp/investor/data/others/Goodman.pdf

業界におけるNo.1を目指す姿勢は立派で、理由としては十分なんですが、このために借金を増やするのは、結構怖い判断ですし、今この時点(好景気)の業績だけでは、この買収が良いものだったのかは判断できかねます。

「率の経営」によってダイキンがどれだけ強化されたのか、次の景気後退にこそ、その真価が問われるのかな、と。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び預金が3,707.9億円(13.9%)と割合としては少なめです。これはダイキンが自前の工場を持つ製造業だからなのと、かつてM&Aで増やした借金を頑張って返済しているためかと。確かにFCFを増やして現預金を充実させる事は、状況的にもダイキンの至上命題ですね。

売上債権は4,407.6億円(16.5%)で滞留日数は63日。2カ月程度ですから特に問題なしです。

在庫は4,337.8億円(16.3%)で滞留日数は95.1日と3か月分ちょいです。製造業では正常な水準であると言えます。

有形固定資産は5,800.0億円(21.7%)で製造業らしく多いです。設備の状況で内訳を見てみます。

そして、のれんと顧客関連資産が合わせて4,517.3億円あります。いずれも私はその資産価値を認めがたい資産です。やっぱりデカい。。この分は純資産から除いて考えるべきかな、と。

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ほぼほぼ生産設備です。古き良き典型的なモノづくりの会社って感じです。

国内の生産拠点は関西に集中している印象で、海外は米国のグッドマングループの1,037.7億円の工場が目立ちます。他は中国、タイ、ベルギーと、欧米とアジアに拠点を構えてます。

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債は4779.7億円(17.9%)です。直近で結構返済しているようにも見えますが、それでもまだ5,000億近く残っているというのは、やはり資金繰りが厳しいのだろうな、と。

元々ただでさえ製造業というのは有形固定資産や在庫、売掛債権をかかえる必要があり、資金繰りが厳しいビジネスです。そこに加えて大規模買収を連発したら資金繰りが厳しくなるのは当然です。。

 

ダイキンは率の経営においてROA総資産利益率)を採用してFCFを強化する、という事なので、在庫や固定資産、売掛金等の資産圧縮にも検討はされているものとは思います。しかし一方でマネジメントは大型のM&Aを実行して資産規模を拡大するという事もしています。

どれだけ現場レベルでKPIを設け、資産圧縮の努力をしても、マネジメントが一つM&Aを実行すれば、努力が帳消しになる可能性もあります。会社としてROAを標榜する以上、マネジメントはROAの改善を現場レベルに任せるのではなく、大胆な事業のリストラクチャリングや、廃止など、マネジメントにしかできない引き算の意思決定によってROAの改善に努めて貰いたいな、と。

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

給料水準は製造業の中では比較的高く、勤続年数も長いです。

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一方、役員はどうかと言うと・・・

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会社の規模を考えてもかなり多い方だと思います。これまで見てきた会社の中でも結構上位にはいるんじゃないかと。確かに「率の経営」やM&Aに伴う業績の向上は、高額報酬を主張できる成果と言えるかもしれません。

ただ、その上で思うのはダイキンROEの数値です。

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ROEはいわば投資家に対するリターンそのものですから、投資家がマネジメントの手腕を評価する基本的な指標です。有利子負債を借りて財務レバレッジをかけた上で12%というのは決して優れた水準ではないと思います。

ましてダイキンは重要な指標の一つにROEを入れているわけですから、これについて高いのか低いのか、何の説明も無く高額報酬を受け取るというのは姿勢として疑問です。

報酬の決め方は以下のようです。

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外部機関の数値を参考に、ということです。

勿論、報酬額に正解は無く、あくまで感覚的なものでしかないとは思いますが、個人的にはこれまで見てきた素晴らしい業績の会社の役員でもこんなに貰ってかな、と。

現状のROEでこれだけ高額な報酬を受け取るのであれば、せめて具体的な財務指標の目標値を掲げ、それに紐づく形で評価を決めなければ投資家に対してフェアではないのではないかと。

 

 

 

配当政策

配当政策として、利益の何%と決めるのではなくDOE3%としているのは良いな、と思います。

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この方針であれば、純資産が増えすぎるという事もなく、自然とROEも改善される事になります。

還元方法には自社株買いについても言及して欲しい所ではありますが、同社の場合はキャッシュ不足ですから、できなくても仕方ないかな、と。

 

 

 

 

まとめ

部分部分を見ていくと、良く練られている制度や考え方が見られるのですが、最終的に目指すビジョン(理念)が詰め込まれ過ぎで、結局どうありたいのかが分からない印象です。

制度や考え方というのはあくまで目標の場所へたどり着くための有効な手段であり、目的地にたどり着かなければ意味がありません。だから目的地というのは計測する事で明確に分かり、なおかつ覚えやすいシンプルなものである必要があります。

同社の場合、理念が長くあまり整理できていない気がします。

もう少しダイキンの核となるようなシンプルな何かがないかな、と思って探してみると、社是がありました。

CSR理念 | 経営戦略とサステナビリティ | ダイキン工業株式会社

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最高の信頼、進取の経営、明朗な人の和、という事でシンプルで結構深みもあるんですが、会社として数値で管理できる類のものではないです。。

そして数値で評価しない事には進捗も分からないですし、どうしても目指す先が曖昧になってしまう気がします。

やっぱりせめて経営理念についてはもう少し整理して具体性があった方が良いのではないかな、と思います。

 

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