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【4307】野村総合研究所~有価証券報告書の読み方~

結論

流石はコンサルが元の会社で戦略や財務施策は強い印象。ただ、ビジネスそのものは付加価値を生みにくいタイプではないかと推測。海外進出と共に強化されるかが注目される。

 

目次

 

事業概要

まずは野村総合研究所の事業についてです。

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事業の分類としてはコンサルティング、金融ITソリューション、産業ITソリューション、IT基盤サービスの4つです。

従業員数の割合が以下。

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どの部門もそれなりの規模っぽいですが、マンパワーはIT系に傾斜してます。

野村総研と聞くとコンサルのイメージだったので、これは少々意外でした。ほとんどITの会社みたいですね。。

考えてみれば現代はコンサルティングしたとしても、解決策のほとんどはITシステム構築になる事が多いでしょうから、本気でコンサル会社が問題解決しようとしたら、自前でITソリューション部門を持つのは必須という気がします。

どういう経緯で今のカタチになったのか、と沿革を見てみると。

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野村総研と野村コンピュータシステムという2社が合併して今の野村総研があるようです。となると野村総研という名称の源流はやはりコンサルで、他のITソリューション計事業は野村コンピュータシステムが元になるのかな、と。

 

 

セグメントの状況

野村総研はセグメントを先ほどの4つに分類してます。

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コンサルティング:6.2%(利益率24.0%)

金融ITソリューション:43.5%(利益率12.7%)

産業ITソリューション:28.5%(利益率10.9%)

IT基盤サービス:21.8%(利益率13.3%)

コンサルは流石の利益率ですが、全体に占める割合は少ないです。売上の主流を占めるIT系事業は付加価値率があまり高くないようです。

IT系の事業内容を見るに、企業からの受託開発事業なので、確かに付加価値率をあげるのは厳しい気がします。

 

地域ごとの売上を見てみます。

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ほぼほぼ日本なのですが、ほとんどの会社の海外進出は米国か中国が2番手に来ることが多いのでオセアニア地域が二番手というのはちょっと珍しいです。

理由を探します。

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あと、外部記事。

NTTデータと野村総合研究所 新中計で海外ビジネスの大幅成長を見込む 北米と豪州を最重要市場に位置付け - 週刊BCN+

少なくともここから読み取れる内容からは豪州・米国の両方に注力するとあり、豪州だけに特化しているわけではないのかな、と。

沿革を見るに、グローバル化への舵切をしているのは2010年頃。

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中国、インド、インドネシア、タイ、ヨーロッパ、アメリカ、シンガポールと拠点を次々設立してます。どちらかというとアジア圏の進出がメインぽい。

しかし、進出から数年経っている現在、その地域での売上比率が低いという事は、これらの進出はあくまで情報収集のためであって、現時点では市場開拓という積極的な意図は無いのではないかな、と推測されます。

一方で豪州に関しては2016年にASGグループを子会社化した直後、同業のSMS社を買収してます。

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さらに2020年4月には証券取引管理やポートフォリオ管理等のバックオフィスサービスを手掛けるAustralian Investment Exchange Limitedを買収。

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他の地域に比べると力の入れ方やスピード感が違うので、豪州に関しては確実に市場を取りにいってますね。しかし何故最初に豪州だったのか、そのあたりは良く分かりません。。上手く話が進んだのが豪州だけだったのか、何か他の意図があるのか。。

 

 

 

業績推移

利益率の推移は14.5%⇒14.2%⇒14.0%⇒14.5%→16.0% 

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付加価値率はそこそこ優良な印象です。

ちょっと気になったのは2016年と2020年に当期純利益包括利益に結構差が生じてます。

2016年の包括利益明細は以下です。

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その他有価証券評価差額金は投資有価証券の評価減ですから、投資有価証券を持っていればそれほど珍しくはないです。

珍しいのは退職給付にかかる調整額です。簡便的な退職給付引当計算はしたことあるんですが、本格的な退職給付会計となると、私も実務でやったことないので、細かい計算は私も調べないと思い出せないですが、原理的に退職給付絡みなんてあまり動くものではないです。

なので、一応詳細を見てみると。

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あ~・・・退職給付債務の基礎数値である割引率が落ちた事による影響ですかね。

この頃何か金利が動く事が何かあったかな、と調べてみると。

これだ。。黒田バズーカ第三弾。

日銀の金融政策(2016年1月) 「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を決定【デイリー】/マーケット情報・レポート - 三井住友DSアセットマネジメント | 三井住友DSアセットマネジメント

 

つまり、金融緩和によってお金の価値が下がるので、今引き当てなければならない退職給付債務が増えたのを上積みする事になったのかな、と。

金融緩和はこんなところにもちょいちょい影響があるんですね。。

 

2020年も理由としては同じですね。

2020年は為替換算もありますが、海外子会社の為替変動評価の問題なので如何ともしがたし、です。

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正直、これらに関しては、あまり経営サイドでマネジメントできる話ではないので企業体質的観点からはスルーします。

 

 

 

経営方針

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営業利益、キャッシュフローといった絶対指標と、ROEで資本効率も抑えておく形です。流石にコンサル系だけあってツボは押さえている印象です。

そして口だけではなくきっちり目標値に対する進捗フォローを行っています。

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ROE14%が当面の目標という事で、着実に毎年上げていっており、直近の年度は自社株買&償却によって一気にROEが伸びてます。

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個人的には14%目標というのは、決して高い目標とは思いませんが、着実に業績を積み上げて達成するというのは立派だと思います。また、安易に目標値に達成するために自社株買いをしたわけではなさそうなので、確実に事業の利益を増やして達成しようとしていそうなのも好印象です。

 

 

 

 

キャッシュフロー

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営業活動によるキャッシュフローは目標にしているだけあって、問題なしです。

2016年の投資キャッシュフローの多さは多分例のASGなんじゃないかな、と。

一応見てみますと。。

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有形固定資産とか無形固定資産、投資有価証券が大幅に増えているのは、ASGを子会社化した事で連結範囲が拡大し、資産分加算されているものと思われます。

元々がキャッシュリッチなコンサル系という事で、キャッシュフローに懸念はなさそうです。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び預金が1,025.4億円(19.4%)と割合としては少なめです。コンサル系はあまり他の資産を持つ必要が無いため、キャッシュの割合が高い事が多いのですが、野村総研はそれほど多くないです。

手元にキャッシュを置かずとも、キャッシュフローが十分あるため問題ないという事かもしれません。高効率のキャッシュマネジメントができているのかな、と。

で、考え方の所を見てみるとさすがにきちんと考えてらっしゃる。

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漫然と「金貯めとけばいいや」的発想ではなく、あくまで自己資金で賄うことを前提に資本コストを鑑みて有利子負債まで活用している点は信頼できるな、と。

売上債権は1,305.7億円(24.7%)で滞留日数は90日。3カ月程度ですからまあ、問題なしです。

有形・無形固定資産は1,485.4億円(28.1%)は固定資産の少ないコンサルのイメージには合いませんが、設備の内容を見れば合点がいきます。

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ソリューション系のデータセンターとかソフトウェアですね。単なるコンサルではなくソリューションまで提供するとなると、サーバーやらなんやらで結構投資も膨らむようです。スパコンとかも持ってんのかな。。
投資有価証券285.1億円(5.4%)と今期はそれほど大きくないですが、前期と比べるとずいぶん減っているので、差は何かな、と注記を見ると。

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株式と債券を派手に売ってます。

こういうのを売るって事は何かしら現金需要があっての事と思うんですが、B/Sを一見して前期対比で大きく増えている資産はありません。となると、目的は自社株買いではないかと。

余っていた株式と債券を売り、自社株買いに回して投資家に還元したのではないかと。

一応財務キャッシュフローを見てみるとかなりの額を取得に回してますから、先ず間違いないでしょう。

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となれば、これは投資家に対して誠実な良い兆候かと思います。

退職給付にかかる資産も563.8億円(10.7%)と結構あります。

退職給付にかかる資産というのは、負債の部の退職給付にかかる債務と対になっており、社員の将来の退職に備えて供出しておく資産になります。

基本的に貸倒とか評価損とかを気にする必要は無い資産なので、会社としての分析としてはそれほど意識する必要はないと思います。

 

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債は1,029.8億円(19.5%)です。やはり結構多いです。

社債の割合が多いのは珍しいな~と思いましたが、考えてみれば野村総研は元々あの野村グループですから社債発行による資金調達なんてお手の物なんでしょうね。むしろ野村グループの圧力があって、金利が高くとも社債を発行したのかも・・・?というのは行き過ぎた推理ですかね。。

投資有価証券を売却して得たキャッシュをこれらの返済に回さず、自社株買いと償却に使ったというのは、実質的なEDS(エクイティ・デット・スワップ)にあたり、株主に対する還元を厚くする有難い意思決定ではないかと思います。

純資産が2,821.4億円で十分な水準ではあるものの、対する負債が1,029.8億円になるEDSというのは、結構大胆な財務戦略だと思います。

野村系だけあって、財務に明るい人材が揃っているのかな、と。

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

給料水準は製造業の中では比較的高く、勤続年数も長いです。

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勤続年数も長く、給与も良いです。何千人という人員がいる中でこの給与水準と勤続年数ってのは立派ですね。従業員の待遇としては相当良いと思います。

一方、役員はどうかと言うと・・・

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億越えの方がお二人ですね。

ROEはじめ、目標を明確にセットしてきちんと成果を出している点や、経営としての戦略性、財務方針、一般社員の待遇や会社の質、諸々の点を考慮すれば、これくらいの報酬は決して一般的に多い額ではないと思います。

 

 

 

配当政策

個人的には配当の出し方は「配当性向~%」より「DOE~%」の方が良いと思っていますが、野村総研の場合は留保した額の使途が明確である点と、機動的に自己株式の取得に使用すると明言している点、そして実際に行動に移している点から、還元施策としては申し分なしと考えます。

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親子上場ではないか?

当ブログでは基本的に親子上場の子会社を、敬遠してます。 意思決定機関が他社の傀儡では、利益相反に繋がりますし、人事的なリスクも否定できないためです。

野村総研は名前の通り野村ホールディングスが大株主にいるので、影響力がどれくらいなのかは把握しておく必要があるかな、と。

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一見しただけでは、野村の名を関する持株比率は28.78%と、大株主ではあるものの議決権の過半数は持っていません。

一方で役員には

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副会長の百瀬氏と、監査役の佐藤氏が野村ホールディングスの方のようです。

この影響度は感覚的なものになってきますが、役職から言ってもこれくらいであれば、野村総研はある程度野村ホールディングスから独立性を保っていると言えるのではないかな、と思います。副会長も代表権の無い名誉職っぽいですし。それほど致命的な問題ではないのかな、と。

 

 

 

まとめ

コンサル系の会社は他社に指導する立場もあるので、さすがに経営戦略なども良くできているな~というのが印象としてあるのですが、野村総研も例にもれず、良くできている印象です。

ただ、一方でソリューション事業が売上のほとんどを占めているわけですが、これはシステム開発を受託するケースが多く、性質として付加価値を生みにくいビジネスかと。野村総研の場合、そこらの受託ビジネスよりは断然利益率が良いとはいえ、例えば自前のパッケージソフトを売り、利益率20%、30%を普通に稼いでいる企業に比べると見劣りしてしまいます。

ビジネス自体の弱みは財務戦略で成果を補っている印象はありますが、財務戦略は場合によっては会社を傾けるリスクと背中合わせのもろ刃の剣でもあります。同業の海外進出で規模を拡大するだけでなく、ビジネス自体の課題に向き合う事でROEを改善する事も考える必要があるのかな、と思いました。

 

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