結論
財務数値は文句なく、キャッシュリッチにも関わらず株主還元も手厚いという稀有な事例。ビジネス上のカタチをどうにかして克服して欲しい所。
目次
事業概要
まずは日本エス・エイチ・エルの事業についてです。
日本エス・エイチ・エルの事業は「人材アセスメントサービス」の単一セグメントですが、サービスの分類としてはプロダクト、コンサルティング、トレーニングの3つです。ただ、コンサルティング、トレーニングはプロダクトを使用したテストやトレーニングを代行するサービスですから、提供の仕方が違うだけです。
なお、「日本エス・エイチ・エル」社という名前から推測できる通り、同社の使用しているプロダクトはSHL社という英国発祥の企業から提供されているもののようです。日本エス・エイチ・エル社はSHL社の日本での代理店的立ち位置なのかな、と思われます。
ということで、契約はどんな形なのかを見てみます。
やはりSHL社のプロダクトについて、日本における排他的権利を有するようです。
2022年以降どうなるんだろう、というのとロイヤリティってどれくらいなのかな、と思ったので探してみると事業のリスクのところに載ってました。
ロイヤリティの料率が年々上げられてますね。。これは苦しい。。
代理店ビジネスの苦しい所は、どれだけ頑張って儲けたとしても、ライセンスを持っている所の意向次第で利益を吸い上げられてしまう点です。
今は勉強のために代理店をして、いずれ自前の商品を作るという事であれば良いですが、その辺りの開発がされているかというと。。
研究開発の金額的にも開発スタッフの規模的にも、あくまでSHLのプロダクトをどのように伝えるかを研究している程度ではないかな、と。これでは将来的な自主独立を期待するのは苦しいのではないかと。
余談ですが、個人的には、同社の「人・仕事・組織の個性を可視化するための測定ツールを提供し、測定データの適切な解釈を通して、顧客企業の生産性向上とそこで働く個々人の仕事を通しての自己実現をはかる」という理念は大いにアグリーです。
これはどんな組織でも同じだと思うのですが、企業というのは良くも悪くも「人」であり、最大のパフォーマンスをあげるには個々人の性質、チームとしての相性を知ることが不可欠かと。
それにも関わらず多くの会社でOJTという名の元、人員を職場に放りこみ、本人の自助努力と根性論で適応させているだけではないか。社員の特性判断や分析は、一切なされていないか、或いはそれぞれのマネジメントに一任されているのではないか。少なくとも私がいた職場ではそんな風に感じました。
組織としてのパフォーマンスを最適化するには、本来真っ先に「社員」に対して科学的アプローチを実践すべきではないかと思うのですが、それができている会社はどれだけいるのだろうか。。
マスプロダクツ全盛の高度経済成長期であれば、欧米が作るモノを欧米より「安く」「大量に」「品質良く」「一工夫加えて」という目標が概ね絞られているため画一的な軍隊式OJT教育でもそれなりの意味はあったのかもしれませんが、現代のように新たな価値を生むアイディア、イノベーションを生む個性の尊重が必要な時代に画一的な発想の人事制度は沿わないように思います。
どんな人材、チームでクリエイティブな発想が生まれるのか、どんなチームがパフォーマンスを発揮するのか、そもそもどうやってパフォーマンスを測るべきなのかなどなど、会社側が社員をしっかり分析して情報を蓄積し、科学できる会社が増えていかなければ、その会社はいつまで経っても各人の能力に依存した状況を脱せないと思います。
SHL社の製品がどれだけこのニーズを満たす事ができるのかは分かりませんが、現代企業にはこういった人事に関して、科学的アプローチで臨む姿勢が必要になると私は思います。
ちなみにフリーランスのエクセル屋さんはその評価の基本的骨子として360度評価を推します。是非導入のご検討を。
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セグメントの状況
日本エス・エイチ・エルはセグメントは単一セグメントです。
一方で主要な顧客にマイナビがあります。
この年の売上は29.6億円なので、46%がマイナビ向けという事です。
マイナビは筆頭株主であると共に販売代理店であり以下のような契約を結んでいます。
マイナビは筆頭株主で日本エス・エイチ・エルの30.28%の株式を保有してます。株式を過半数持っていないので形式判断では親会社にはあたらないですが、売上割合が半分を占めるという状況を踏まえると、その意向を無視するのは結構厳しいですから、事実上の意思決定を握る親会社と見てしまった方がよいかもです。
そうなるといよいよ日本エス・エイチ・エルの立ち位置はかなり厳しいです。
ビジネスで一番パワーが強くなるのは「最上流の企画・設計・開発」と「最下流の販売」ですから、いずれかを抑えるのが強いビジネスの必須条件なのですが、最上流は完全にSHL、最下流はマイナビに半分抑えられてます。
上流と下流のいずれを抑えられても苦しいので、2社の言う事を聞かざるを得ず、付加価値は下がりがちです。今は高利益率であっても、将来的にどうなるかは自身の努力ではどうにもなりません。事実、年々SHLへのロイヤリティ率は上がってきてますし。
事業のリスクの所にも2社との関係に関する記載があります。
ビジネス構造そのものを設計し直さなければ、このリスクを除く事はできないのではないか、と思います。
業績推移
利益率の推移は42.2%⇒42.9%⇒42.9%⇒42.2%→47.0%
利益率たっか!!!
ビジネス構造からは想像のつかない付加価値率です。
しかし、考えてみれば当然かもです。
プロダクトはSHLから供給され、自前での開発費や開発部隊はほとんど無し、販売は代理店を使っているとなれば、必要なのは商品を日本に適応できるように調整する機能のみかと。
無駄な固定費の掛かりそうにない低コスト構造で、これはこれで良いと思います。ただ一方で、日本の代理店がこれだけ儲かっているとSHLが知ったら、もっとロイヤリティを上げたいと思うのは自然かもしれません。大株主であるマイナビも、もっとマージンを減らすべきと考えるかもしれません。
ライセンス契約をメインとするビジネスは、三陽商会の例(バーバリー社とのライセンス契約終了後に一気に苦しくなった)もあるので、今現在の利益率だけで同社を高評価とするのはリスキーな気がします。
経営方針
シンプルではありますがROE重視のようです。
ROEという観点は悪くないですし、19.1%という数値もなかなかの数値だと思います。
できれば具体的に何パーセントが適正と考えているのか、まで書いておいて欲しい所です。
キャッシュフロー
フリーキャッシュフローは安定の黒字ですね。
投資活動キャッシュフローもほとんど使わず。
直近、例年より少し多いので内訳を見ると。
定期預金です。ガチガチに無駄がないです。
研究開発への投資も少ない所から薄々思ってましたが、無駄遣いを一切しなさそうな印象です。それは体質としてかなり安全ではあるし、信用できるのですが、現状のビジネスリスクについてどう考えているのか、対策を考えているのか、という点は懸念かな、と。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
長期預金を含め、現金及び預金が47.0億円(76.5%)と資産はガチガチのキャッシュメインです。
売上債権は2.8億円(4.5%)で滞留日数は34日。全く問題なしです。
投資有価証券は8.1億円(13.2%)はキャッシュだけでなく多少の運用もしているという事でしょう。内容を見てみたら、全部債券っぽいですね。実に手堅い。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債はゼロの無借金です。キャッシュが多いので当たり前っちゃ当たり前ですが。
純資産は52.9億円(86.1%)です。
ストイックなお金の使い方に加え、資産リストの頑強さ、そしてこの純資産比率ですから、ガッチガチです。BSのリスクは皆無かと。
従業員の状況、役員報酬
平均年齢が若いとはいえ、給料水準はあまり高くないです。会社として求められる役割だけ見れば、確かに社員の高収入を保証するのは難しいですが・・・実に渋い・・・。全体的に給与水準の低い飲食業クラスではないかと。
一方、役員はどうかと言うと・・・
基本報酬は一人当たり1,421万円くらいですね。
一般社員の給与水準からみれば無難な所なのかな、と。
配当政策
個人的には配当の出し方は「配当性向~%」より「DOE~%」の方が良いと思っていますが、50%という十分な配当性向である点や機動的に自己株式の取得に使用すると明言している点から、還元施策としては悪くないと思います。
実際、あれだけ現金を抱え込んでおきながら、ROE19.1%を達成しているのは立派なものです。
まとめ
かなり手堅い意思決定をしている会社さんだと思います。かなり短い記事になっている事から分かるように、財務数値上は指摘すべき事項がほとんど見当たりません。
キャッシュリッチの会社さんは、株主に対する意識が薄くて、配当とか自社株買いとかに消極的な所が多いんですが、同社の場合は経営指標も投資家寄りなROEを選択しており、実際結構高い率を維持してます。これは非常に稀有なケースで好印象です。
心配なのは、質的な問題で、ライセンスが切れたりロイヤリティの率が上がったりするリスクです。研究開発費や従業員給与水準を考えると、そういったリスクの対策投資には一切手を出していない気がします。勿論それは無駄な失敗を避ける事のできる手堅い判断ではあるのですが、ライセンス契約が断ち切られた場合、どうにもならなくなってしまうんじゃないかと。。
そのあたりの質的懸念が払しょくできれば、かなり投資先として良い会社さんなんじゃないかと思います。
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