結論
創業家の支配下かと。ビジネス自体の利益率は高いけれど、それが還元されるかどうかは一部の人間の匙加減。あまり期待しない方が良いかも。
目次
事業概要
まずは扶桑化学工業の事業についてです。
扶桑化学工業の事業は「ライフサイエンス」と「電子材料および機能性化学品事業」の2つです。扱う製品は正直あまりピンとこないです。しかし、B to Bビジネスなので認知度は不要かと。
人員配置はどんな具合かな、と連結会社の状況を見ると、人員配置としては「ライフサイエンス」事業が一番多く、グループとしてはライフサイエンスがメインなのかな、と。
一方で提出会社の人員構成は「電子材料および機能性化学品事業」の方が多くなってます。
提出会社=親会社ですから、「ライフサイエンス」事業は子会社の人員が結構多いようです。
関係会社の状況を見てみましょう。
子会社の多くが「ライフサイエンス」事業のようです。
中国、アメリカ、タイの海外子会社があり、中国子会社に関しては一部「電子材料および機能性化学品事業」が含まれているようです。
セグメントの状況
扶桑化学工業はセグメントは「ライフサイエンス」と「電子材料および機能性化学品」です。
ライフサイエンス:241.2億円(58.4%、利益率17.9%)
電子材料および機能性化学品:171.9億円(41.6%、利益率33.4%)
これは立派な利益率です。
ここでは本社機能の費用が控除されていないとはいえ、工場を持つビジネスでこの利益率は凄いと思います。全体でも20%以上はありそうです。
ライフサイエンスの利益率が低めなのは、海外ビジネスのマネジメントで苦戦しているか、為替変動が悪い方に出ている可能性があります。
一応推移も確認しておきます。
前年
ライフサイエンス:13.9%
電子材料および機能性化学品:41.3%
さらに前年
ライフサイエンス:13.9%
電子材料および機能性化学品:52.1%
ライフサイエンス:18.0%
電子材料および機能性化学品:49.4%
(。´・ω・)ん?
ライフサイエンスが乱高下しているのは為替等の影響で説明がつくとしても、電子材料および機能性化学品の利益率低下が著しいです。
理由なんですが、下のその他項目に着目すると、4年前の減価償却費9.1億円に対し、直近は37.1億円と4倍以上になってます。
減価償却費は設備投資額を耐用年数で経費化している費用で、現状維持だけなら毎年それほど変わりません。よほど凄い投資をしなければこんな増え方はしない筈です。
売上は30億程度の増に対して、減価償却費だけで28億円増えたなら、当然利益は減りますね。。一体何に投資しているのか、詳しく見る必要があるかと。
業績推移
利益率の推移は20.7%⇒27.7%⇒25.8%⇒23.4%→21.7%
売上はほぼ横ばいながら、経常利益率がここ4年下がり気味なのは、セグメントで見た通り設備投資によって減価償却費が大幅に伸びている影響ではないかと。
一番差が激しい2017年3月と2020年3月のPLを見ておきますか。
2017年3月
2020年3月
粗利率が先ず42.9%→37.3%と5.6%ほど下がってます。
注記によるとその中には棚卸資産評価損が1.6億円ほど含まれているようですが、売上高に対する粗利5.6%悪化は23.1億円ほどですから、それでは足りません。
製造原価明細書が無さそうなので内訳が分からず断言はできないですが、先の減価償却費の増が大きな理由ではないかと。
あと、PL見ていて気付いたのは突発的に2017年に役員退職慰労引当金繰入が発生してます。
本来退職に際して支払う金額は、突発的にいくらと決めるべきではなく、一定のルールに則り長年に渡って引き当てていくべきものです。結構な金額が引き当てられているのは恣意性を感じるため、企業体質的に疑問です。
受け取っているのは赤澤良太氏ですが、同社の創業者の名が赤澤庄三氏のようなので、同姓の赤澤良太氏はその近親者ではないかと。
ちなみに創業者の赤澤庄三氏は2020年3月時点でも、役員に名は連ねていないにも関わらず、給与等の支払を受けているようです。
如何に偉大な創業者やその近親者であっても、株式公開会社が彼らに特別な便宜を図るのは倫理的にどうなんだろう、と思います。
で、よくよく役員を見てみると・・・
先ず代表取締役会長の藤岡氏が帝国製薬という会社の取締役社長を兼務しており、社外取締役の多田氏も帝国製薬の取締役です。
で、帝国製薬がどういう会社かというと以下。
1848年の赤澤庄蔵氏の開業に端を発した非上場の製薬会社です。つまり、赤澤家の支配する会社ではないかと。
扶桑化学工業は赤澤庄三氏が1957年に帝國製薬の大阪工場を独立させ設立した会社なので、現在に至っても帝国製薬は大株主に名を連ねており、かつ帝国製薬のトップと扶桑化学工業のトップが同じ人物。
しかも、扶桑化学工業の社外取締役としてまた「赤澤」敬助氏がいました。
こういう部分を見ていると、扶桑化学工業は株式こそ過半数を抑えられていないものの、実態として赤澤家の支配下にある会社ではないかと。。
特定の一族に支配される状態というのは、トップが血統に紐づくためフェアな社風が作られにくく、長い目で見た時におかしな方向へ傾くリスクが高いですし、何より一族以外の株主が軽視されがちです。
極端な話、会社の実権さえ握っていれば、下手に外部の投資家に配当などで還元するより、お飾りの役員になって役員報酬を貰う、私的な事に経費を使う、という事だって合法的にできてしまいます。私ならそうする
結構これは投資家や社員からすると致命的リスクです。
う~ん・・・ちょっとこの時点で萎えてきましたが、一応最後まで続けます。
経営方針
償却前営業利益を最重要経営指標としているようです。
考え方としてはEBITDAに近い概念ですね。ただ、当ブログではEBITDAを否定しているのと同じように同指標の採用は良くないと思います。
償却費を除いた数値は、「もう将来的に設備投資をせず、いずれ全て撤去する」という状況でも無ければ意味がありません。償却費はいずれ設備の買い替えを行うために必要な経費です。継続企業が売上から償却費を差し引かないのはナンセンスだと思います。
事実、先ほどの指摘であった通り、扶桑化学工業は著しく減価償却費が増加しているようですが、売上は見合うだけ伸びておらず、結果的に利益率が悪化しています。それは実際に発生している事象にも関わらず、最重要経営指標である「償却前営業利益」で見ると、それは反映されません。これはミスリードを起こしかねない視点です。
「設備投資の採算性を慎重に検討した上で」とも書いてありますが、採算性を検討したのであれば、利益に対して必要経費が増えるだけなので、猶の事営業利益から償却費を加える必要は無い筈です。
直近の業績評価から設備投資増の影響を除くための意図的な指標の選択なのかもしれませんが、いずれにせよ外部の人間からすると疑問符の浮かぶチョイスかと。
キャッシュフロー
フリーキャッシュフローがでっこぼこです。。
やはり昨年なんかも凄い額の投資をしてます。
やっぱり利益率の悪化は設備投資の影響ですね・・・もうなんか詳細を見るまでもないかな、と。パスします。
キャッシュ管理がいかにも一族の一存によって決まる「使うだけ使い、やりたいようにやる」といった印象。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び預金が164.7億円(23.8%)と若干割合として少なめですが、工場持ちの企業なら、まあ仕方ない水準かと。
売上債権は102.7億円(14.8%)で滞留日数は91日。3か月ほどと若干長めですが、顧客が製造業であればない事はないです。問題ないかと。
有形固定資産は288.9億円(41.7%)とやはり大きいです。おそらく直近の大量の投資によって一気に膨らんだのかと。資金繰りが大変になりそうです。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債はゼロの無借金です。
純資産は602.9億円(87.1%)です。
あれだけの有形固定資産を抱えつつも借金せずにいられるというのは、この潤沢な純資産のなせる業です。資本効率はあまり良く無さそうですが。。
従業員の状況、役員報酬
勤続年数はそこそこ長いですが、平均年齢と給与を対比してみた時、若干少ないかな、という印象です。ただ、現場作業員の方は給与が低くなる傾向があるため、平均を採った場合これくらいでも、あからさまにおかしくはないです。
一方、役員はどうかと言うと・・・
取締役は一人当たり4,372万円くらい。
う~ん、という感じです。
従業員給与や従業員数からすると結構格差があるんじゃないかな、と。
配当政策
株主還元に消極的な典型例ではないかな、と。
考え方は「長期にわたり安定的な配当を行う事」だけで、どういう基準でその配当金額(23円)を決めたかさえ記載してません。
実質的に一族支配の会社がこういう配当政策を掲げていると、「とりあえず世間からバッシングされない程度に少数株主にも多少恵んでやろうか」と思っているのではないかと邪推したくなります。
まとめ
当ブログはそもそも親子上場の会社や一族経営の会社の体質に否定的なので、分析対象から外して避けるようにしているのですが、今回は形式的には特定の大株主がおらず、一族経営ではなかったので気づかず分析してしまいました。
扶桑化学工業は金や人の状況を見る限りでは実質的な赤澤一族の支配下、というのが私の理解です。若干邪推が過ぎる部分があるかもしれませんし、関係者の中には(こんな過疎ブログにわざわざ来るとは思えませんが。。)ご不快な方もいるかもですが、小人の妬みと思って寛大なお心でスルーして頂けると幸いです。
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