結論
実にストイックな会社。ただ、筋肉質過ぎて風邪をひくと弱いかもしれないので、次の流行時に良く様子を見てみたい。
目次
事業概要
まずはトリケミカル研究所の事業についてです。
トリケミカル研究所の事業は「半導体等製造用高純度化学化合物事業」です。
なんのこっちゃ・・・。一通り読んでみるんですが、それがどれくらい独占力のある技術なのかとか、代替可能な技術なのかとか、私には読み取れません。私はもともと半導体系の会社の経理で、それなりに周辺情報に関心を寄せているため、チラホラ分かる単語はあるのですが、技術的全体像の理解が追いつきません。
以前私が勤めていた半導体系会社の開発の人も、「半導体の技術はあまりに多方面に渡るため、それぞれの受け持ち分野に特化して研究しており、開発者ですら全体像を包括して理解している人間はほとんどいない」と言ってた覚えがあります。
分野として見えない部分が多すぎる。
しかしながら、ビジネスである以上、その成果は会計数値に集約されます。どれだけ素晴らしい技術があってもビジネスの建付けが弱ければ結果には繋がらないし、逆にビジネスがしっかりしていれば、技術力の不足はアイディアで補える筈。
よって当ブログのスタンスは変わりません。
ここでは、実績数値を元にビジネスとしてのアウトラインやマネジメントの質などにフォーカスして、会社としての根本的なスタンス、企業文化や合理的判断ができているかを見ていくことにします。
セグメントの状況
トリケミカル研究所は単一セグメントですので、セグメントの状況はありません。
一方で、地域別売上を出しているためチェックしておきます。
日本:25.3億円(30.7%)
台湾:45.1億円(54.5%)
韓国:9.2億円(11.2%)
その他:3.0億円(3.6%)
7割くらいが海外売上で、台湾が全社売上の半分を占めます。
同社の製品はシリコンウェーハに使用するもののようですから、顧客はシリコンウェーハのメーカなのかな、と。
シリコンウエハ業界の世界市場シェアの分析 | 業界再編の動向
現在のシリコンウェハシェアは日本のSUMCO、信越化学が合わせて半分を占め、それを追う形で台湾のグローバルウェーハがあります。
しかもグローバルウェーハは4位のシルトロニックの買収を進めているため、シリコンウェーハ市場は台湾と日本の寡占市場となりそうです。
台湾半導体素材のグローバルウェーハズ、独社買収へ: 日本経済新聞
何故トリケミカル研究所の売上比率が、シリコンウェハのシェアが高い日本より台湾の方が多いのかは不明です。自然に考えると日本が多くなりそうですが。。
→理由を御存じの方は教えてください。
主要な顧客ごとの情報を見てみると、SUMCOや信越化学が出てくるかと思いきや、日本エア・リキード、台湾もグローバルウェーハではなくTOPCOという会社。
何でかな、と思ったので探してみたら、事業のリスクの所に書いてありました。
直で半導体メーカーに売るワケではなく、各国のガスディーラーを通して供給してるようです。
業績推移
利益率の推移は14.0%⇒17.8%⇒25.2%⇒26.8%→29.4%
直近の安定景気を差し引いても売上と利益率の伸びが著しいです。AIやIoTが盛り上がって半導体需要が急増しているそうなので、その影響によるものかと。
売上が5年間で167%に対して、経常利益は351%の伸びですから、徒に規模は拡大せず、落ち着いている印象です。
人員も直近で結構増やしてますが、それなりの規模感を維持している印象です。
この点も踏まえて、マネジメントがどのような考えで経営しているのかを見ていきます。
経営方針
売上高の伸びと営業利益率25%超を目標としているようです。
具体的な数値設定ができている点や利益率という観点は好感が持てます。
これなら好景気時に無茶な拡大路線に走り、不景気突入したら爆死というリスクは少ないかな、と思います。
しかし一方で、資本効率については触れていないので、ROEについて見てみます。
現在がかなり安定した景気であるとはいえ、特に意識せずにこれだけの率を達成できるというのは立派なものです。
ただ、今後これまで通り順調に利益をあげていくならば、ある程度配当や自社株買いで現金を適度に吐き出していかなければ、自己資本はどんどん重しとなり、自己資本利益率は悪化していく可能性があります。
個人的にはそれを防ぐ意味でも、資本効率を意識した方針も取っていくべきではないかな、と。
キャッシュフロー
結構攻めたお金の使い方をしてる印象です。
たまにフリーキャッシュフローは赤字になってますし、その分を財務キャッシュフローで補ってます。
一応投資キャッシュフローが投資有価証券や定期預金といった、なんちゃって投資ではない事を確認します。
純粋な有形固定資産の投資です。
資金に遊びが無く、目いっぱい資金を動かしてます。
一方で財務キャッシュフローはどうかというと。
借入の借り換えをしながらも、しっかり配当を増やしてます。
こういう所を見ていると、方針こそ資本効率に触れてませんが、資本効率を意識している気がします。もし意識していないマネジメントであれば、配当増やすより先に借入を返済するんじゃないかな、と。
一定の借入金の借り換えを続けることでレバレッジを利かせて、資本効率を向上させているのではないか。。そんな意図を感じます。
ただ、これについては実績に対する勝手な解釈なので、もし本当に意識しているのであれば、しっかり方針に織り込んで欲しい所です。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び預金が16.2億円(10.7%)とかなり少なめです。キャッシュをギリギリまで使い切ってる感じです。資金繰り担当の胃が痛くなりそうです。
売上債権は30.6億円(20.2%)で滞留日数は135日。4か月超と長めです。基本的に製造業は支払が遅れがちなのですが、半導体業界は特に支払が遅いです。私が以前いた会社も支払サイトが5、6か月の会社とかありました。4か月という滞留期間は支払が比較的早い海外売上が多いので、無難な水準かな、と。
有形固定資産は59.2億円(39.1%)と大きいです。ギリギリまで投資してるだけあります。。
投資有価証券は28.6億円(18.9%)と結構あります。
内容に関する注記は以下です。
非上場株式で時価が無い何か、という情報しか無くて(。´・ω・)ん?となったのですが、これは関係会社株式ですね。
連結子会社である台湾の会社は、連結決算上トリケミカル研究所と合体させ、一体のものとして扱われますが、韓国の会社とエアリキードとの合弁会社に関しては議決権の所有が50%未満なので投資額分だけの損益を反映させる「持分法」という手法が適用されてます。
「持分法」は簡単に言えば、この2社に対してトリケミカル研究所が所有している株分の利益をPLに反映させ、投資有価証券評価額の増減に反映させる手法です。
上記のような形で投資利益をPLに反映させ、投資有価証券が前年対比で同額増えています。
一般的にキャッシュリッチな会社は投資有価証券の内容を見ると債券運用で、実質現預金と大差ない、なんて事があるのですが、同社の場合はビジネスに紐づく関係会社株式ですから、簡単に換金する事もできません。
やはりキャッシュフロー計算書で見た通り、キャッシュを無駄に遊ばせることなくフルに使っているストイックな会社です。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は28.7億円(18.9%)あります。
純資産は95.8億円(63.3%)です。
資産状況を見る限り、中々キャッシュにならない資産が多いので、資金繰りが厳しく、運転資金のために借入金もやむを得ないのかな、という気がします。 結果的に純資産比率が低く保たれ、ROEが高くなっていますから、意図的にやっているのであれば、レベルが高いな、という感じです。
しかし、一方で同社のBSリスクは高いです。
半導体需要が旺盛な時期にはいくらでも生産量を出せて回収できるため、問題はありませんが、もしこれが半導体需要が激減するような事態になった場合、とたんに資産の減損リスクが生まれます。資産全体の40%を占める有形固定資産が減損になるとしたら、特にトリケミカル研究所のように純資産比率が低い会社は、大きく純資産を棄損する羽目になります。
有利子負債によるレバレッジは資本効率を上げる有効な手段ですが、使いすぎや使いどころを誤ると自らの首を絞めるもろ刃の剣です。次回の生産調整時期にどのように対応するかで質がはかられる気がします。
従業員の状況、役員報酬
平均年齢の割に給与が良いです。業績が良い事もあるでしょうが、やはり半導体業界は製造業の中でも給与が高い傾向があります。
一方、役員はどうかと言うと・・・
取締役は一人当たり2,440万円くらい。
意外に少ないな、と思ったら業績連動報酬が無いです。
何故かというと、以下。
支給しないって決断ができるのは凄いですね。。
達成できないにしても結構近いところまで行っているのですが、ゼロにするとは凄い。
他の会社では達成できなかったとしてもある程度は支給したりするものですが、自分達の報酬に関しても実にストイックですね。これは好感が持てます。
配当政策
書き方は正直不十分かと思います。
金額の決め方も書いてませんし、自社株買いについても言及がありません。
ただ、同社のキャッシュがかつかつで限界まで効率的にやっているので、あんまり攻める気にはなりません。配当で余分なキャッシュを吐き出さずとも、ROEは十分高水準ですから、あまり文句は言えないかな、と。
この会社はもう十分頑張ってると思われます。
まとめ
実にストイックな会社さんでした。ギリギリまでキャッシュを使っている所や、自らの報酬に対する厳しい評価を下せる所なんかは、中々できないのではないかと。
ところどころでもっと書いた方が良いのでは?という部分もある気がしますが、数値を追っていくと「あ~ちゃんとマネジメントしてるっぽい」と思わせてくれます。
現在は半導体需要が旺盛ですから、正直どんな経営陣でもそれなりの成果は出せると思います。これからもし何らかの理由で半導体需要が落ち込む時が来たら、このストイックな体質が裏目に出る可能性があります。BSのリスク資産と有利子負債が牙を剝くかもしれません。
(体脂肪率が低すぎると逆に風邪をひきやすくなる、人間と同じです)
そうなった時、このストイックな経営陣がどう切り抜けるのか、興味深いです。
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