企業分析アナトールの株式投資

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【9983】ファーストリテイリング~有価証券報告書の読み方~

結論

カリスマ経営者による独裁状態と思われ。財務上は強いが、規模的にも体質的にも今後長期的に成長するのは無理があるのではないか。

 

目次

 

前置き

ファーストリテイリングは調査予定にありませんでしたが、読者様にリクエストされたため分析します。

 

事業概要

まずはファーストリテイリングの事業についてです。

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ファーストリテイリングの事業内容はカジュアル衣料品販売事業です。事業名からも分かる通り「ユニクロ」と「ジーユー」という2つのブランドを持っています。

日本発の衣料品ブランドで「ユニクロ」ほどグローバル展開されている会社は他に無いのではないかと。今やソニートヨタなどと並び立つ、日本を代表する会社の一つであるといえるのではないでしょうか。

衣料品事業というのは、ビジネスモデルとしては決して儲けやすい環境ではないと思います。在庫を抱えがちですし、自分で売ろうと思ったら店舗やら倉庫やらといった固定資産を必要とします。新作を自分でデザインして制作して売る事まで考えると、工場設備も準備しなければなりません。おまけに古着屋などで転売もしやすい商材なので、ライバルの新規参入も多いです。

決して商売がしやすい環境とは言えません。

そんな業界で生き残っていくには、ブランド力か機能性(品質)などで他と違う傑出したものを持つ必要があるように思います。

それに向けた適切なスタンスが取れているのかどうかが、分析するときに抑えるべき一つのポイントかな、と。

 

セグメントの状況

ファーストリテイリングは同じ衣料品事業の中でも4つに分類してます。

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国内ユニクロ:40.2%(利益率13.0%)

海外ユニクロ:42.1%(利益率6.0%)

ジーユー:12.3%(利益率8.8%)

グローバルブランド事業5.4%(利益率▲12.1%)

利益率だけ見ると結構苦しそうな印象を受けます。ジーユーは人気があって優秀なイメージでしたが、それでも8.8%程度なのですね。。

衣料品業界が苦しいのか、ファーストリテイリングだけの話なのか。。いずれにせよ、今後これにどう向き合うかという姿勢が気になります。

 

グローバルブランド事業は新しいブランドの立ち上げ事業のようです。

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先行投資のようですから赤字も仕方ないとは思いますが、そもそもがブランドの立ち上げというのは容易なものではないです。

i-Phoneにせよ、ディズニーにせよ、シャネルにせよ、ブランドと呼ばれるものは、カリスマ的創業者のクレイジーな情熱とそれに呼応する狂信者が居なければ成立しない、ある意味奇跡的なビジネスです。

それは失敗も逆境をものともしない飽くことなき執念だけがなし得るもので、既に別の形で成功を手にしている企業や、そこで働いているサラリーマンがゼロから作る、もしくはどこからか買収した会社を盛り上げるというのは、原理的に無理があるのではないかな、と個人的には思います。

個人的には本業であるユニクロの利益率をどう上げるかに注力した方が良いのではないかな、と。

 

 

 

業績推移

利益率の推移は5.1%⇒10.4%⇒11.4%⇒11.0%→7.6% 

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売上何兆円、という企業規模を考えれば致し方ない気はしますが、利益率10%前後をうろうろしている印象です。ファーストリテイリングがこの現状をどう認識しているのか、それを見ていきます。

 

 

 

経営方針

弊ブログでは、どのような経営指標を採用するかで、スタンスを見るのですが、ファーストリテイリングの場合は具体的な指標を記載してないようです。

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方針からは目指すべき位置は伝わってくるのですが、「拡大」「強化」「向上」という言葉が多く、結構抽象的な印象です。具体的にどんな数値をあげていけば良いのかが明確でないと、バンバン拡大して、バンバン潰して結果的に低利益率に甘んじる行き当たりばったりなマネジメントになってしまうのではないかと。

何かしら指標として持っているものはないかと探してみると、経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析のところで、単位当たりの売上状況という記載がありました。

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しかし、これで何を判断し、何を考えるべきなのかは書いてません。

で?という印象です。

経営指標というのは自社が目指す理想の姿までの道順を示すベンチマークであり、会社の規模が大きくなればなるほど、その重要性は増してきます。

ファーストリテイリングほどの規模になるとその辺りの指標を明確にしておかなければ、社員は求めた数値が出なかったとしても、問題に向き合おうとせず抽象的な言葉遊びに逃げてしまうのではないかな、と。しかしそれは社員の責任ではなく、具体的な指標を示さないマネジメントの過失だと思います。

このあたりのざっくりした感じは、体質としてあまり評価できません。

 

 

 

キャッシュフロー

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4、5年前が投資キャッシュフローが乱れているので内容を確認します。

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単なる定期預金の増減でした。。肩すかしです。

となれば、少なくともこの5年は安定したフリーキャッシュフローを積み上げており、無茶な投資などは見受けられません。飲食業、小売業はお客さんから直接現金を貰えるという事もあり、キャッシュフロー周りは強いのではないかと思われます。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び預金が1兆935.3億円(45.3%)と相当ため込んでますね。しかもこれだけの現金を保有しておきながら投資有価証券とかで運用していないようです。効率よりも手堅い事を優先した実業主義的な雰囲気を感じます。

在庫は4,175.3億円(17.3%)で滞留日数は148日ですから5カ月ほどです。店舗に在庫を持っている小売ですから、それくらいでも仕方ないかな、と。

物流に関しては少し前に相当大変な目にあったそうな。

ユニクロ物流大混乱からのリベンジ、37歳幹部が語るほぼ無人化倉庫の全貌 | Business Insider Japan

小売にとって物流は資金繰上の頭痛の種ですから、改善に向けて動くのはポジティブな印象ですが、一方でユニクロレベルの規模の会社では、1年や2年の短期では根本解決できない気がします。

というか、ここで問題になっている2015年の在庫を見ても、そんなに今と在庫水準変わらない気が。。

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2,600.0億円に対して売上原価が8,322.4億円で114日の滞留。

むしろ直近の2020年の方が在庫は積みあがっている気がします。

物流の問題がまだ解決していないか、別の理由があるのか。。いずれにせよこういうプロジェクトは上手くいったとしても結果が出るのに10年くらいかかる気がします。

まだ今の段階では成果は見えないかな、と。

有形固定資産は1,361.2億円(5.6%)と意外に少ない印象です。ただし、下の使用権資産が3,999.4億円(16.6%)あるという事は、店舗などの多くは自前で持つのではなく、リースによる借店舗が多いのではないかと思います。これは資金繰りの意味でも、出退店が容易というリスクヘッジの観点からも、良い意思決定がされている印象です。

具体的に明細を見ておきます。

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やはり事業店舗の多くがリースっぽいです。

無駄に自前で持たずリースを使う資金的にもクレバーな戦略、小売りの現金商売という強み、それらが合わさってファーストリテイリングの潤沢なキャッシュフロー、資産に貯まった現預金は生み出されているのだな、と。

今後の利益率や成長性は分かりませんが、少なくとも財務的にはよほどの事がない限り大丈夫そうです。ここまで発展してきたのは伊達ではないのだな、と。

 

 

負債、純資産を見てみます。

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金融負債の内訳は以下です。

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長期金融負債の内容が何なのか内訳がないので、とりあえず有利子負債と仮定すると、有利子負債は8,552.8億円(35.5%)です。結構ありますね。。前述の通り、キャッシュフローに困らない体質のようですから、資金調達を多様化しつつ、レバレッジをかけてROEを引き上げる戦略なのかもしれません。

財務戦略についての考え方を見てみると以下。

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ROEとか資金効率の話は直接言及してませんが、手元資金の水準がどの程度なのか、ときちんと説明できているのは好印象です。これができればどれくらいを株主還元に回すべきなのかなども把握できる筈です。

配当政策を見てみましょう。

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書き方は平凡で、「グループ事業の拡大や収益向上のための資金需要、ならびに財務の健全性を考慮した上で、業績に応じた高配当を実施する方針」という事ですが、前述のようにしっかり財務の方針や手元資金を管理しているのが見えると説得力が違います。

実際配当性向はどうかというと。

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総じて高いです。言行一致で、不要な資金は株主に還元する方針なのかな、と。

 

財務方針は非常にしっかりしていて心強い印象です。

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

給料水準は結構高いです。アパレルはそんなに給与が良いイメージがないですので、これは意外です。ただ、勤続年数が非常に短いです。1,589名も居て勤続年数が4年3か月って、相当新人が多いんじゃないかと。。退職者が多そうなイメージです。

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一方、役員はどうかと言うと・・・

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ユニクロのレジェンド経営者である柳井氏がダントツに高いですね。。外から見た雰囲気からも何となく感じていましたが、かなりワンマン感が強いです。

一応役員の状況を見てみると

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柳井氏のお子さんが役員をやられているのですね。。典型的なワンマンの同族経営。。

元々ファーストリテイリングは柳井氏が一代で大きく飛躍させた会社ですから、その意思決定を担った柳井氏が高額報酬を受け取るのは良いとしても、お子さんを役員に据えるというのは会社の体質としていかがなものでしょうか。

お二人ともゴールドマンサックスに三菱商事と、折角優秀なキャリアをお持ちなのに父親の事業にわざわざ巻き込む必要あるのかな、と。そういう考え方から生まれる企業文化の影響が社員の離職率に繋がっているのではないかと勘繰りたくなります。

 

 

 

まとめ

 

財務的には強そうで、株主に対する還元もフェアな印象です。しかし、事業としての付加価値率は高いとは言えず、 社員の在籍年数を見ると短く、離職率が高そうな印象です。企業の3大利害関係者である「顧客」「社員」「株主」の中で十分に仕組みとして質を満たしているのは「株主」だけではないかと。

正直、「顧客」と「社員」は長期的な企業の力そのものですから、今後の成長に懸念があります。今後それが改善されるビジョン(経営指標等のベンチマーク)はあまり見えず、経営陣は同族役員を採用する。これはあまり良くない傾向かと。

柳井氏が傑出した経営者である事は周知の事実でしょうが、カリスマ経営者が作り上げた組織が、その人が消えた後で一気に衰退するケースは後を絶ちません。彼が去った後まで同社が伸び続ける事ができるのか、その準備ができているのか。

この有価証券報告書を見る限りでは、できてないのではないかな、と思いました。

 

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