結論
課題の多い会社ではないかと。とりあえず取締役会の人数を減らし、意思決定をスマートにし、その上で事業のリストラクチャリングの推進をする必要があると思われる。
目次
前置き
東洋水産は調査予定にありませんでしたが、読者様にリクエストされたため分析します。
事業概要
まずは東洋水産の事業についてです。
東洋水産の事業内容は水産食品、即席めん、加工食品、低温食品といった、食品絡みの事業を展開しているようです。大手食品事業は日常生活、生命に直結する分野である事もあって、利益率を上げ辛く品質チェックも厳しいです。
そのため量を売る事でペイするのが基本なのですが、それだけ生産力や運搬費などの維持費が嵩み、何か問題が起こるとすぐに赤字に転落しがちです。ビジネスとしてはかなり難しい部類にあたると思います。
その前提でビジネスの骨格を見ていきます。
セグメントの状況
東洋水産はセグメントを以下の6つに分類してます。
水産食品事業:8.3%(利益率▲2.2%)
海外即席麺:24.0%(利益率13.7%)
国内即席麺:35.9%(利益率8.3%)
低温食品:19.5%(利益率7.7%)
加工食品:6.5%(利益率▲5.4%)
冷蔵:5.9%(利益率5.8%)
こうして見ると、即席麺が半分以上を占めていて利益率もそこそこ高いです。
素直に考えると同社は即席麺以外は事業売却してしまって規模を圧縮するなり、資源を即席麺に集中投下してしまった方が良い気がしますが・・・難しいでしょうね。
沿革を見ると分かりますが、赤字だったり利益率の低いのに続けている事業は祖業だったりして、様々なしがらみがあります。
歴史が古ければ古いほど、それを捨て去る事は難しい。
世の女性が痩せたいと願いつつも、ほとんどが現状維持に留まるのと、同じ理由です。
逆にそれができる合理的な会社は、体質として優れている可能性が高く、エクセレントカンパニーとして飛躍する可能性が高いため、もし東洋水産がそっちに舵切するような事があれば要チェックかな、と。
あと、ちょっと気になったのは、海外即席麺より国内の方が売上は高いのに、セグメント資産の規模は日本が641.8億円で海外は1,124.6億円と海外の方が大きいです。新しい設備が多いのか、何なのか。。
主要な設備を見ておきます。
それなりに工場設備はあるのですが、国内即席麺に対して多すぎる印象は無いです。
となるとここでいうセグメント資産は、有形固定資産ではなく、無形固定資産や売掛金、在庫のような別の資産なのかもしれません。内容が分からないのは懸念です。現預金などのノーリスク資産なら問題ないのですが・・・ちょっと気になります。。
セグメント別の情報はここに書かれている事が全部で、後はグループ全体の数値として薄められた情報からおかしなところがないかを見ていくしかないかな、と。
業績推移
利益率の推移は7.7%⇒8.1%⇒7.3%⇒6.5%→7.5%
やはり低めの利益率だな、と。
予想通りなのですが、これをマネジメントがどう捉えているのかを見ていきます。
経営方針
経営指標は売上高、営業利益です。
具体的な金額目標を出しているのは悪くないですが、利益率や資本効率など質的な部分を見る気が全くなさそうですね。
だからこそセグメントが赤字でも構わないスタンスなのかな、と。全体で黒字になればまあいいか、というどんぶり勘定的な発想ではないかと。
正直、この方針では今後の質的な改善はあまり期待できないように思います。
不採算事業か、利益率が10%に満たないようなセグメントはリストラクチャリングを実施して体質改善を進めるべきかと思います。
以下は低利益率や赤字の企業に対する当ブログのスタンスを説明する有料noteです。
なぜ、低利益率や赤字が顧客、社員、株主にとって望ましくないのか。|フリーランスのエクセル屋さん|note
よろしければどうぞ。
キャッシュフロー
なんだか微妙な推移ですね・・・
フリーキャッシュフローがギリギリの年があったりかなり余裕の年があったり。
2、3年前の投資活動のキャッシュフロー内訳を見てみます。
定期預金や有価証券を増やしたり減らしたりしてます。
この差額次第で投資キャッシュフローが赤になったり黒になったりしているようです。これは本質的な増減ではないですから、東洋水産のフリーキャッシュフローは余裕の黒字であると考えてよい気がします。
しかし、安定した事業の低利益率で、年間の設備投資が213.9億円の会社が、有価証券と定期預金の出し入れ総額が1,000億円超って、何してんだろう・・・という感じです。
資金効率も悪そうなので、ROEを確認してみます。
超、とまでは言わないまでも低空飛行ですね。
財務健全性といえば聞こえは良いですが、投資家から資金を託されているマネジメントが別に必要もないお金を回し続けるというのは、怠慢と言わざるを得ないと思います。
配当なり自社株買いなりで還元を検討すべきと考えますが、還元方針を見てみると
具体的にどれだけ配当するとかも明記されてません。
内部留保をこれ以上充実させてどうするんでしょうか。。
事業展開とか急速な技術革新や顧客ニーズの変化に対応するって何をするんでしょうか。これだけの資金使って成長する気は絶対ないでしょう・・・EVに参入でもするんでしょうか。。
ここから見る限り、過去からのやり方を踏襲しているだけで思考停止したルールに見えます。今後もあまり変わる期待はできなそうです。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
キャッシュフローを見た時はかなり余剰資金を回しているように見えましたが、現金及び預金が1,127.5億円(28.0%)と資産総額に対して意外に余裕ないです。それに、定期預金の預入があれだけあったのに、投資その他の資産に定期預金が無い。。
おそらくですが、投資キャッシュフローの中の定期預金はワンイヤールールに抵触しない長さ(3か月とか)の短期の引出と預入を何度もやっているのではないかと。
実務面倒臭そう・・・そんな忙しく資金動かすリスクと動かす人の給与とストレスは、得られた利息にペイするのだろうか。。
売掛金の金額は571.1億円(14.2%)で滞留は50日ほどです。問題ない水準かと。
有価証券230.0億円(5.7%)もキャッシュフローの買い替えの金額ほどは大きくないです。内容が何かと見てみると株式でも債券でもなく「その他」だそうです。。なんなんだろう。。
良くわからないものを買う金があるのなら株主に少しでも還元するのが、誠実なマネジメント(管理者)ではないかと。配当の考え方と合わせて、あまり株主の事を真面目に考えてくれてない気がします。
有形固定資産が1,561.8億円(38.8%)で一番資産の中では大きいです。工場を持っている会社だから仕方ないといえば仕方ないのですが、同社のように低利益率の事業が多い場合、それに関わる資産などをリストラクチャリングしていかなくては、将来的な減損を先延ばししているようなものじゃないかと。
低利益率をマネジメントが放置する事は、顧客、社員、株主すべてにとって害であると私は思います。
なぜ、低利益率や赤字が顧客、社員、株主にとって望ましくないのか。|フリーランスのエクセル屋さん|note
負債、純資産を見てみます。
微妙な金額の借入金がありますが、余剰資金を運用に回している会社が借入れる必要があるとは思えないので、おそらく連結子会社が暫定資金のために借りたものではないかと。基本的な方針は無借金経営と考えてよいと思います。
純資産は3,179.9億円(79.0%)で、盤石です。
少なくとも財務的な不安は皆無と思われます。
従業員の状況、役員報酬
給料水準は普通と言えば普通ですが、やはり年齢や勤続年数の割に高くは無いです。
もっとマネジメントが適切な経営を心掛け、付加価値を生む事のできる事業にできれば、もっと貰えるのではないかな、と。
一方、役員はどうかと言うと・・・
1人当たり24百万円ほどと、これも無難な水準かと。
しかし、役員の数が14人というのは多い気がします。
同社のように事業変化の少ない食品業種で取締役が14人も集まって何を議論するんでしょうか・・・仮に議論していたとして、会社にとって有益な意思決定ができるんでしょうか。。人数の多い取締役会が、リストラクチャリングや配当方針の変更のような大きな変化を主導できるとは思えません。
「いやしかし、それにはこういう側面がある」
「いやしかし、こういう実務的問題がある」
・・・じゃあ、とりあえず保留で。。
そうして何も変わらない責任を大人数で分け合うだけの会議と化すのではないかと。
組織構成に正解はありませんが、とりあえず大人数でやるべきではない、というのは間違いないと思います。
どんな仕事でもそうだと思いますが、誤った判断があったからといって、チェックする人間を増やした所で真面目に見ない人間が増え、時間とコストがかかるだけで、何一つ改善しません。
会社としてのフェアな意思決定を、ある程度正しく下せる人間を常に数名トップに選出すべきであって、人員増などでその問題を解決すべきではありません。
まとめ
個人的には課題が多い会社ではないかな、という印象です。私は個人的には低利益率や赤字はマネジメント(経営者)の責任であり、もし大した展望も無くその状態を継続しているとすれば、それは、他に行けばもっと輝ける部下たちの人生を使い潰しているようなものだと思います。
詳細は以下有料noteから
なぜ、低利益率や赤字が顧客、社員、株主にとって望ましくないのか。|フリーランスのエクセル屋さん|note
同社のように赤字だったり低利益率の事業をそのまま放置するくらいなら、もっとその魅力を引き出せるであろう法人、人材の元に売却するのが、全ての利害関係者に対する経営者の責任ではないかと私は思います。
とはいえ、そういった大きな決断は今のマネジメントでは無理ではないかなと。
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