結論
優等生企業。多くを望まなければ買っておいても損は無さそうな流石の体質。ただし規模増(売上増)を経営方針に入れている所は賛同しかねる。膨らみ過ぎた風船はいずれ破裂して縮むのが道理ではないか。
目次
前置き
花王は調査予定にありませんでしたが、読者様にリクエストされたため分析します。
事業概要
まずは花王の事業についてです。
花王の事業内容はコンシューマープロダクツ事業とケミカル事業です。一般的になじみがあるのがコンシューマープロダクツ事業で、化粧品とか洗剤とかはここに入るものと思われます。
ケミカル事業はおそらく産業向けのBtoBで何らかの化学薬品を作っているのかな、と。あまり詳細には書かれてないので、一応花王のホームページから事業内容を持ってきます。
やはりコンシューマープロダクツ事業の製品たちはテレビCMなどの常連という印象です。良く知らない化粧品でさえ、聞いたことがある製品が並んでます。
一方のケミカル事業の製品はThe 業務用といった印象で、デザイン性とかはほとんどなく、いかにも使いやすそうな機能性重視の形ですね。
花王はちらほらとブランド力上位の会社として紹介されている印象です。
私はウォーレンバフェットの投資法を信奉しているのですが、彼は
ブランド力や競争力といった他に負けない部分(堀)のあるビジネスを持つべき
と提唱しています。素直にその言葉を受けると、花王のようなブランド力のある会社は買っておくべきでは、と思うのですが、一方で彼はこうも言っています。
コモディティ(汎用品)企業は買ってはならない
コモディティ化とは汎用品化を指し、これはウォーレン・バフェットが、かつてバークシャー・ハザウェイを買収した際に学んだ事です。
ウォーレン・バフェットの居城、バークシャー・ハザウェイは今でこそ巨大なコングロマリット投資会社ですが、元々はスーツの裏地を作る繊維会社でした。バフェット氏はこれを「資産評価額より安値の会社」として買収したのですが、結局このビジネスは上手くいかず、工場をたたむことになり、バフェット氏は多くの時間とお金を失うことになりました。
何が問題だったのか。
バフェットはこの失敗についてこんな意味の事を言ってます。
「スーツの裏地がどこ製であるかは誰も気にしない」
バークシャー・ハサウェイの製品はどこ製であっても顧客があまり意識しない「コモディティ」製品だったのです。そういった製品は競合が現れると、値段だけの比較、競争になり、どんどん価格を下げざるを得なくなります。
この理屈からバフェット氏はバークシャー・ハザウェイでの失敗以降、シーズキャンディーズやコカ・コーラ、ウォルトディズニーなど、「ここの製品ではないとダメ」という会社を購入して大きく躍進しています。
直近でバークシャーの持ち株で最も割合の高いAppleなどもまさに「堀」があるビジネスと言えます。i-Phoneへの信者の執着は横で見てて恐ろしいものがあります。。
では、それを前提に考えたときに花王はどうなのか。
確かに花王の名前は興味がない人でも知っているビックネームではありますが、例えば花王の洗剤と他の洗剤が並んでいたとして、花王の製品だから高くても買う、というほどではないんじゃないかな、と。
例えば花王とLIONの洗剤が並んでいたとして、花王の方が値段が高くても花王の洗剤じゃなきゃダメ、という人がどれだけいるだろうか。
少なくとも私は「花王だから」買う事はないです。
となれば、ブランド力がある=堀があるよね、ではなくそもそも製品としてコモディティ化していないかは検討しなければなりません。利益率などからその傾向を推測していきましょう。
セグメントの状況
花王はセグメントを以下の5つに分類してます。
化粧品事業:3,015.5億円(19.5%、利益率13.7%)
スキンケア・ヘアケア事業:3,407.6億円(22.1%、利益率14.5%)
ヒューマンヘルスケア事業:2,552.2億円(16.5%、利益率6.7%)
ファブリックホームケア事業:3,595.1億円(23.3%、利益率20.0%)
ケミカル事業:2,859.4億円(18.5%、利益率10.8%)
意外な事に、洗剤やら柔軟剤といったファブリックホームケア事業が一番高い利益率で、ずいぶん高水準です。私などが買い出しに行くときは一番安い洗剤などを選びがちなのですが・・・案外気にする人は気にする分野なのか。使い勝手が良い、とかがあるのかもしれません。
一方で最も低いのはヒューマンヘルスケア事業ですね。
生理用品やおむつがあたるようですが、確かに妻に頼まれて生理用品買いに行く時に、羽根なしとか多い日用とかの要望はあるんですが、どこの会社のとかは指定されないんですよね。。
おむつは完全にうちはパンパース一択でメリーズは使った事ないです。とりあえずパンパースは漏れにくくて助かる。ただ、調べてみるとおむつってこんなにあるんですね。
この中でどれを選ぶか・・・うちは病院からサンプルを貰った中で、一番漏れにくかったのがパンパースだったのでパンパースにしてますが、そういうのが無かったらもう値段の安い順に試すしかないですね。。
花王だからメリーズを買おう、とはならない。
そもそもメリーズ=花王だと知っている人もそんなにいない気がする。
そういう意味では少なくともヒューマンヘルスケアという分野はかなり差別化が難しく、会社の努力とは無関係に今後も強くなれる分野ではないのかも。
しかもヒューマンヘルスケアは、償却費と資本的支出が一番大きいです。
利益率が悪く、資本効率も悪いとなると、これはマネジメントは放置すべきではない気がします。
リストラクチャリングを検討すべきではないかと。
なぜ、低利益率や赤字が顧客、社員、株主にとって望ましくないのか。|フリーランスのエクセル屋さん|note
業績推移
利益率の推移は11.3%⇒12.3%⇒13.7%⇒13.7%→14.0%
全社で見れば決して悪くなく、花王の会社規模からすれば立派な利益率だと思います。消費財ですから安定した収益が見込めるのも良いですね。
しかしながら、部分的に見るとまだ課題となる部分はあるため、そういった部分を放置するのか、現状に満足せずさらなる改善に向けたアクションを起こせる組織なのか、そこが重要かと思います。
経営方針
経営指標はEVAです。
個人的なイメージですが、ROICとかEVAを重視する会社はレベルの高い管理をしている印象です。単なる利益だけでなく、投下資本に対する効率も意識している事が分かるからです。(強いて言えばEVAは株主資本コストという、恣意的な概念を含んでおり、ROICの方が客観性があって私は良い気がしますが)
ちなみに花王の財務管理は書籍でも紹介されているようですね。
こうした指標を元に財務管理をしているなら、選択と集中、ヒューマンヘルスケアのリストラクチャリングにも期待できそうなのですが、一方で中期経営計画にはこんな事が書いてあります。
つまり、売上規模成長を目標の一つに据えており、なおかつ売上高1,000億円ブランドの中にメリーズ(おむつ)があります。こういう計画を掲げているマネジメントは、多分利益率が低い、とか効率が悪いとか、だけでリストラクチャリングをする事はないだろうな、と。
売上を目標にするのは花王のような大会社の場合、悪手だと思います。売上を求めるとどうやっても企業は生産量の拡大を強いられ、生産量を拡大すると投資を拡大して資産規模や固定費が増えます。本当に規模の小さな企業であれば売上成長を求めても問題は無いでしょうが、花王ほどの企業でそういった方針を採ってしまうのはかなり苦しいです。少なくとも非効率な事業を売却したり撤退したりという、売上減で効率良化の発想ができなくなります。
それは経営判断として結構致命的です。
マネジメント陣を見たところ、経理・財務畑の人間がいないので、もしかするとあまりそういう引き算発想をする人がいないのかもしれません。
経理は意思決定に重要な情報を集めて提案する事はできますが、会社の決定権は常にトップマネジメントにあります。どれほど良い管理、提案をしても、判断する人間がそれをうまく使えなければ意味はありません。
そして、経理数値は経営の質を高めるためには有用ですが、売上を伸ばすのに何の役にも立ちません。売上規模を目標に掲げるマネジメントでは、優秀な経理部門がいても宝の持ち腐れではないかと。
キャッシュフロー
フリーキャッシュフローは安定していますが、昨年に投資キャッシュフローが増えている印象です。
内容を見てみると。
事業買収をしたようです。
沿革を確認するとオリベヘアケア社とウォッシングシステムズ社を買収したとのこと。
子会社を通じての買収だからなのか、詳細な資産構成であるとか経緯みたいなのは注記で見つけられませんでした。どっかにあるのかな。。
ともかく、ジャンルが問題のヒューマンヘルスケアではないのは良かったです。
ただ、こういう買収を頻繁にしているとすると、花王の会計基準はIFRSなので、買収時ののれんが損益に反映されていない可能性がありますから、どれくらいのれんが残っているかはBSチェック時に注意が必要です。
のれん償却したら利益率は全部酷い、なんてことになってないか、規模感だけは見ておく必要があるかと。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び預金が2,896.8億円(17.5%)と資産総額に対して少なめです。
営業債権の金額は2,088.4億円(12.6%)で滞留は51日ほどです。問題ない水準かと。
棚卸資産が1,996.7億円(12.1%)で回収期間が86日。製造から販売までのリードタイムと考えれば早い方かと思われます。これも問題ないです。
やはり工場を持っているだけあって、有形固定資産4,368.3億円(26.4%)と大きな割合を占めています。ただ、結構大きな工場を持っている会社だと、有形固定資産だけで40%とかいってたりするんですが、割合的には20%台と抑えられている印象です。有形固定資産の水準は悪くないです。
やはり問題はのれんで1,797.1億円(10.9%)かな、と。日本の税法に照らした場合、のれんは5年償却ですから、仮にそれで償却した場合、毎年360億円(利益率▲2.4%)ほどのマイナスになります。
(。´・ω・)ん?大したことないか?
こうして見ると総資産に対する利益が多いですね。。結構B/Sがスリムになっている証拠です。万一減損とかが起きても、どうにかその年の利益で賄えそうな印象です。
きちんとリスク管理されてるからなのか、元々そういう業種なのか。。いずれにせよ、花王が優良企業と呼ばれる所以はこういう所なのかな、と。
負債、純資産を見てみます。
借入金は1,271.4億円(7.6%)で意外に借りてますね。ただ、ここまで見てきた内容からして経理・財務部門のレベルが高そうなので、多分この借入はROE等を計算された借入ではないかと。
もし自己資本だけでやってたらもう少しROEは悪化する筈。経理・財務部門は財務健全性と目標とするROEを計算しながら借入をしているのではないかと。
個人的にはもう少し自社株買い+借入しても問題ない気がしますが・・・そもそも財務レバレッジは本質的な話ではないので、後は利益率の向上で達成を目指すべきかな、と。
純資産は8,714.2億円(52.7%)と、若干薄いようですが、借方にある資産リストのリスク要因に対しては十分な額がある点や、そもそも総資産に対して利益が多い点を考慮すると、盤石と言えます。こういう会社の財務健全性を測る時には、自己資本比率はあんまり意味ない気がします。財務的には問題ないです。
従業員の状況、役員報酬
流石に給与も勤続年数も高いですね。
製造業でこの従業員数に対して812.4万円は中々だと思います。
一方、役員はどうかと言うと・・・
社内取締役だけ抜いて見ると、1人当たり66.6百万円くらいかな、と。
社長の澤田氏が133百万円取っているようですから、他の取締役はもっと少ないと思われます。
売上を目標に入れている点は経営方針としてどうかとは思いましたが、そうは言っても天下の花王をたった5人で見ている取締役達の報酬ですから、これくらは貰ってしかるべきか、むしろ少ないくらいかと思います。質的にも十分優良な企業ですので。。
株主還元
株主還元に関しては以下。
使途を明確にしており、実にバランスが良いです。
安定的・継続的な配当として設定している40%は結構高めですし、自己株式の取得と借入をバランスよく検討している感じもGoodです。
やはりこの辺りは優良企業らしく、誠実なのか良くできてます。
まとめ
さすがは優良企業、という印象。お手本とすべき点が多い会社です。
一点疑問符なのは売上規模を目標に入れている点です。
花王ほどの規模の会社になると、売上シェアを伸ばすのは困難で、どうやってもそれを実現させようとすると、廉価販売や無謀な新規事業開拓などを採りがちで利益率の悪化を招きかねません。同社の基本的な指標であるEVAも絶対値的な指標なので、利益率の悪化を食い止める効果は薄いです(利益率が減っても売上さえ増えればEVAは増える)。
一応中計では営業利益率とROEについて触れてはいますが、優先度から言えばEVAの方が上位に来る。方針の建付けとして、営業利益率が下がってEVAが上がる選択肢があれば、迷わず採用される筈。
そしてそれは、冒頭でも言った会社としてのコモディティ化の道に相違ありません。
規模を求める経営はコモディティ化への道。
質を求める経営は堀を作る道。
どちらを選ぶべきかは明白だと思いますが・・・なかなかどうして、世の経営者はシェア(規模)を求める方が多いようで。。難儀な事です。
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