結論
未だ生まれたばかりの会社で見えない部分も多いが、見える限り不安が多い内容。そもそもAIの未来が私には見えないんで。。
目次
前置き
PKSHA Technologyは調査予定ではありませんでしたが、読者様にリクエストされたため分析します。ただ、同社は歴史が浅く、これから企業体質を作っていく段階ですからあまり私の分析が意味を為さない可能性が高いです。
ただ、本当に株式投資で儲かるのは、生まれたばかりの有望な会社を長期で保有する事であるのは事実です。いつも通りの分析は淡々とするにしても、自身の勉強のためにその他項目として経営者の考え方や事業の性質についてもつらつら考えていこうかな、と。
事業概要
まずはPKSHA Technologyの事業についてです。
PKSHA Technologyの事業内容はMobility & MaaS事業、Cloud Intelligence事業に分かれていますが、内容は同じかと。要はあらゆるデータを収集してその規則性を最適化するモジュールの提供なのかな、と。
色々細かい用語説明まで書いてくれていて親切ですね。非常に分かりやすいです。
セグメントの状況
PKSHA Technologyはセグメントを先の2つのセグメントに分類してます。
Mobility & MaaS:52.5億円(70.8%、利益率6.2%)
Cloud Intelligence:21.7億円(29.2%、利益率22.0%)
Mobility & MaaSは利益率が低いですが、Cloud Intelligenceは高いです。一方で減価償却費はそれほど変わりませんから、設備規模はほとんど変わらないのかな、と。となると人員の配置がMobility & MaaSに傾斜しているのだろうな、と推測。
やはり人員もMobility & MaaSに傾斜しているようです。
通常セグメントはリストラクチャリングや撤退、テコ入れの意思決定に用いるものですが、同社の場合はいずれも事業領域が同じで、人員の行き来が可能と思われます。
以下に記載の通り、現状は仕組みよりもエンジニアに依存しているビジネスモデルのため、そうやすやすと人材は手放せないでしょう。
となればここから分かるのは、今Mobility & MaaSの開発を急いでリソースを集中しているということかな、と。
事業の特徴の所にも書いてある通り、機械学習は膨大な教師データを必要とするため、AIを作るにしても教師データの提供をしてくれる存在が必要になります。
同社はリーディングカンパニーと提携、と言ってますが、同社の大株主の中にトヨタがあるので、Mobility & MaaSのパートナーはトヨタなのかな、と。
確かに今後車の自動運転化が進めば、AIによって改善できそうなネタはありそうな気がします。今はそれをメインテーマとして進めているということかな、と。
ただ、ここで難しいのはパートナー企業との関係性です。もし仮に大きな成果を出せて素晴らしいAIが完成したとして、その所有権はトヨタにあるのか、それともPKSHA Technologyにあるのか。
もしトヨタが所有するのであれば、普通の下請けと変わりませんから、その果実はトヨタが持っていく事になり、将来的な利益率の向上はあまり見込めません。
逆にトヨタで培ったAIの技術がそのまま他の会社でも使用できるような応用力や独自性のあるものなら、完成後は爆発的に利益率が上がる期待もできます。
ただ、普通に考えれば他の会社のデータを元に開発したAIを他で使う事が、契約上できるのかどうかも微妙だな、と。
重要な契約にでも書いてないかな、と思ったのですが、特に何も書いてませんでした。
現状のビジネスモデルとしてはまだ下請けの域を出ていないのではないか、と。
業績推移
利益率の推移は41.1%⇒39.1%⇒19.4%⇒8.2%
加速度的に伸びる売上に対して、経常利益の伸びはイマイチなので、利益率は急落してます。何も考えずにそれだけ見ると、売上伸びているから急成長、利益が少ないのは成長にお金を使っているからかな~、と解釈しそうです。
勿論それも一部あるのかもしれませんが・・・私の考えは少し違います。
以下はPKSHA Technology単体決算の数値です。
多少は増えてますが、連結決算のようにびっくりするほどは伸びてないです。
なのに何故連結業績はあんなに伸びているのか。。
会社を買収して連結子会社が増えているからです。
アイテックという会社を2019年7月に買収して子会社化してます。
駐車場経営をするなら駐車場機器専業メーカーの株式会社アイテック
よって、2019年9月の連結決算では7-9月分の売上、2020年9月度では1年分のアイテックの売上が合算されていることになります。
要するに、連結決算で売上が2018年対比で2020年度の売上が5倍近く跳ね上がっているのはAI事業の成長ではなく、2018年と2020年では売上認識の範囲が違っているに過ぎないのではないか、という事になります。
買収があると財務諸表は一気に分かり難くなり、年の推移が追いにくくなります。悪質な経営者はそういったミスリードをむしろ意図的に起こすことで、増収増益を演出する目的で買収を繰り返すこともあります。
PKSHA Technologyの場合、買収したアイテックは駐車場関連の会社で、Mobility & MaaSの一環と理解できますし、それほど頻繁に買収もしていないので、財務の演出を狙っているとは現状では考えづらいですが、売上の伸びが本業のAIによるものなのか、グループの範囲拡大によるものなのかでは、印象がガラリと変わるはずです。
こういう部分はただ漫然と数値を追っていると、ミスリードしがちなので冷静に見ていきたいところです。
単体決算ベースでは利益率こそずっと高いですが、売上はそれほど伸びていないため、事業そのものが順調に成長しているとは言い難いです。一方で連結決算がガタ落ちしている事から分かる通り、利益率がかなり低いであろうアイテックを抱え込んでしまった事により、グループ全体として当面、業績の質的な悪化は避けられないかと。
PKSHA Technologyが、飲み込んだアイテックをAIで物凄い改善に導けば素晴らしい宣伝にはなりますが、正直あんまり想像つきません。。期待薄かな、と。
経営方針
同社は方針の中に目標とする経営指標を入れてません。
当ブログでは経営指標を設定してKPI管理する事が望ましいという考えですが、同社のように規模が小さく創業間もない会社にそれを求める意味はあまりありません。
会社には成長ステージがあり、ステージにあった経営手法を採った方が良いです。
創業間もないタイミングでは、目指すべきは先ず持続的に稼げる柱や事業領域の確立ですから、同社の場合は持続的な収益の柱となるソフトウェアを完成させ、業務委託や下請け的ポジションを脱する事ではないかな、と。
KPIが必要になるのは人員規模が500人以上になってくるか、安定した柱ができた後にでもゆっくり考えれば良いのではないかと思います。
キャッシュフロー
ま~創業期らしく荒れてますね。。
一応直近の動きの詳細を見ます。
2019年9月期はやはりアイテックの買収によって、フリーキャッシュフローは大赤字です。その資金は財務キャッシュフローの増資で賄ってます。200億弱増資するって凄いです。これは、アイテックの買収だけで終わらないかもですね。。
ここから何か経営者の考え方的な部分を読み取れるとすれば、やはりアイテックの買収に注目すべきかと。
この買収は自分の営業キャッシュフローの割に大きな決断だったように思いますが、大幅に利益率が悪化していることから分かる通り、投資効率としてもかなり厳しい選択じゃないかな、と。何かよほど大きなメリット、展望が無ければ、これをひっくり返すのは容易ではないと思います。
少なくともそのメリットの見えてない私には、この買収はマイナスの印象です。しかも買収額以上に増資してますから、今後も似たような買収をしないとも限らないかと。ちょっと危なそうな気配です。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び預金が241.4億円(75.7%)と相当多いです。増資効果ですね。この資金を果たしてどうやって使っていくのかで経営者の考え方が見えるのかな、と。
営業債権の金額は10.8億円(3.4%)で滞留は53日ほどです。問題ない水準かと。
有形固定資産は13.0億円(4.1%)です。アイテックの資産なのかな、と思いきや内訳を見てみると。
結構お高い土地付き自前本社を購入されているんですね。。
文京区ですか・・・そうですか。東大とか大学が多い場所ですから人材確保を狙って本社を置いたんですかね。。ただ、自前で持つというのはあまり感心しないです。
IT企業の強みというのは製造業と違って固定資産を持つ必要がほとんどないアセットレス経営ができる所だと思います。本社なんてそれこそ自前で持つ必要なんてなく、賃貸で十分だったりします。(ただ、オフィスは賃借しているようです)
今回のコロナの影響で本社ビルを売る企業が多く出てきている事で分かる通り、リモートワークが進んで行けば東京の賃料は安くなっていくでしょうし、自前の建屋の価値も下落する可能性は十分あります。そうなれば自前で持っている資産価値は減損、売るにしても間違いなく売却損です。
本社を自前で持つという考え方は現代の経営者の質としてあまり評価できないかな、と。こういう所からも、経営者のお金の使い方が怖いです。
のれんが19.4億円(6.1%)あります。おそらくアイテックの分かな、と思いますが、これを仮に日本の税制年数5年で償却した場合、同社は過去5年の利益は吹き飛びます。果たして今後こののれん分の利益をアイテックから回収できるのか・・・難しいんじゃないかな、と。。
投資有価証券は12.6億円(3.9%)で内容は非上場株式と投資事業組合ですね。
いずれも余剰資金運用とかではなくリスクの高い事業投資と思われます。
これも結構リスキーです。
増資して現預金が多いので目立たないですが、この使い方が広がっていったらかなりリスキーな資産リストになりそうな予感がします。
負債、純資産を見てみます。
借入金は21.5億円(6.7%)と割合的には大したことないですが、そもそも何で借りているのかな、と。
単体決算では借入金はないので、アイテックの分ではないかと推測されますが、これもなんだかな、という感じです。資金を241億寝かせるくらいならさっさと返してしまえば良いのに・・・という。。
純資産は274.4億円(86.0%)で資産は7割以上が現金預金ですから、現状は盤石と言えると思います。ただ、お金の使い方が雑な感じがするので、今のまま買収とか投資を続けていれば、早晩厳しくなるのではないかな、と。
従業員の状況、役員報酬
AI業界って給与が高いイメージでしたが、思ったほど高くはないです。
会社として新しいし、人員が増えているので勤続年数が2年というのは仕方ないにしても、平均年齢34歳でこの給与だと、所謂プロフェッショナル枠が入ってきてくれるのだろうか。。
一方、役員はどうかと言うと・・・
1人当たり7百万円ほどです。
下手したら社員より低いですね。。役員の方々はストックオプションや株式を持っている事で、勿論給与外の収入があるでしょうが、それでもこの金額設定は誠実な印象を受けます。会社に現金は結構ありますから、もっと貰おうと思えば貰える原資はある筈。
それをしないのは、会社の成長のために原資を使う意思があるんじゃないかと。
株主還元
株主還元に関しては以下。
まあ、そりゃそうかな、と。
これについては致し方ないと思います。
問題はどうやって成長するかなんですが・・・今までの情報だけだとう~ん。です。
まとめ
個人的には今の状況だけ見ると今後の不安が多いです。
買収とかお金の使い方とか。
あと業界についても個人的に不安です。
今AIって非常に盛り上がっている分野ではあるのですが、私は一歩引いて見てます。私の理解だと、AIは膨大な情報を取得することで、その規則性を自動的に見出して対処してくれたり、対処方法を提案してくれる事だと思ってます。
で、そこで不安なのは、規則的な仕事ってそもそも付加価値が少ない仕事が多いんですよね。。さらに言えば付加価値が少ない仕事って、そもそもやり方次第でやらなくてよくなる仕事もあったりするんです。
そういった仕事のために膨大な情報をティーチングするって考えると、相当な規模でやらないとペイしないのでほとんどの会社や個人は二の足を踏む気がしますし、上手くできてもちょっと環境や条件が変わったら使えなくなるのではないかと。
例えば、トップの上野山氏のインタビューがあったので読んでみたんですが、その中でコールセンターの応対のAIによる代行がありました。
コールセンターに掛かってくる案件にはクレームも多く含まれています。知らない人が知らない人に電話してきて、いきなりキレるという具合です。だから応対する側には心を痛めて辞めていく人が多い。ここにソフトウェアが組み込まれて何が起こるかというと、まず仕事量が減るメリットがありますが、もう一つはソフトウェアが応対する一次受付で情報を得た後に人間が電話を取るので、なぜ、顧客が困っているか理解しながら良好なコミュニケーションができる。これはAI(アルゴリズム)が人の仕事を奪っているように見えながらも、見方を変えるとAIがおもてなしの工夫という人間力を増大させているとも言えるのです
例えばこれとかって、最初に自動音声が「~のご用件の方は1を、~のご用件の方は2を押してください」って質問を層別するのとどう違うのだろうか、と。別にAIを使わなくてもできてしまうのではないだろうか、と。
他にも私が聞いたことのあるAIの活用事例に、野菜の格付けを目視でやっている農家の人の代わりに画像AIによる自動振り分けさせる機能があります。
膨大な野菜の写真と規格をAIに覚えさせ、AIに規則性を見出させる作業ですね。
ちらっと聞いたときは、「なるほど、便利」とか思ったんですが、よくよく考えてみると、それって規格なんてものを人間が作っているから必要になっている作業で、そもそもその規格いる?いらなくなる方法があるんじゃない?という議論が置き去りになってしまっている気がします。
なので、長い目で見ていくと、AIで解決できるのはむしろ目先の問題だけで、本質的な改善に繋がっていないのではないかな、と。余裕のある企業は今は技術的先行投資のイメージで発注しているかもしれないですけど、熱が冷めたらどうなるか分からないんじゃないかな、と。私はそんな風に思ってます。
ま~私は専門家でも何でもない経理屋ですので、「AIの未来に懐疑的な人間もいる」というくらいで捉えてくれるとありがたいです。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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