結論
当ブログの分析では、色々と課題が多い会社という印象。株主のためにも、この分析が的外れである事を祈る。
目次
前置き
スクロールは調査予定ではありませんでしたが、読者様にリクエストされたため分析します。
事業概要
まずはスクロールの事業についてです。
スクロールの事業内容は通販事業、eコマース事業、健粧品事業、ソリューション事業、旅行事業、海外事業、グループ管轄事業と多岐に渡ります。どうも内容が漠然としていて共通項目が見えないな、というのが第一印象です。
どういう会社かを知るために方針も見ておきます。
これまた結構抽象的で、どんな事業にも当てはまる社是です。ここからでは何が同社のコア部分なのかが見えません。
さらに読み進めてみます。
スクロールは自社をDMC(Direct Marketing Conglomerate)複合通販企業体と称しています。
Direct Marketingというのは
標的消費者として慎重に選ばれた個人あるいは法人から直接反応を獲得し、リレーションシップを構築していくマーケティングの方法
だそうなので、通販とかメルマガとかそういう顧客に直接アプローチしてモノを売るビジネスモデルを基軸とした会社なのかな、と。
「売るもの」に特化する会社は多いですが「売り方」に特化した会社というのも興味深いアプローチだな、と思います。
通販やダイレクトマーケティングのビジネスモデルの大きな特徴は、販売店舗を必要としない点かと思います。
販売店舗を持つビジネスは、立地さえ誤らなければ、比較的新規顧客を獲得しやすい一方で、維持するための資金繰りが苦しく、固定費も大きいです。特にコロナのように直接対面が難しい状況になると、かなり苦しくなってしまいます。
一方で通販やダイレクトマーケティングは顧客と直に結ばれる分警戒するため新規顧客を増やすのは難しいですが、維持するための資金や固定費は少なく済みます。顧客さえ捕まえる事ができれば、かなり儲けやすいビジネスモデルと言えます。
つまり、ダイレクトマーケティングに特化するのは、経理的に良い方針だな、と。
顧客の要望に合ったモノを見つけてきて顧客とお店を仲介すれば、在庫すら自分で抱える必要も無いです(アフィリエイトと同じイメージ)。これは大きなメリットです。
また、独自の経営管理手法を採用しているという事なので、一応勉強しておきます。
参考
スクロール【8005・東1】M&A活用でEC売上伸ばし売上高726億円 生協向けカタログ通販ベースに複合通販企業体へ
STEP(Small Teams Earn Profit)経営
「STEP」はSmall Teams Earn Profit のことで、ビジネスを形成する最小のユニット単位で損益管理をするやり方だ。課の下に数名~10名規模のユニットを置き、各ユニットに、利益予算の数字を課している。ユニット毎の業績は日次ベースで把握しつつ、月次を締めてから3営業日目にユニット長が前月の業績報告を行う決まりだ。現在はグループ全体で約60のユニットがある。
「STEPは我々の経営管理手法としては中心のど真ん中にあります。いわゆる幹部経営層だけでなく現場も、この仕組みがないと成り立ちません。言ってみれば、日々の決算ができるわけで、数字に対する意識が強まります」
SMS(Scroll Mission Standard)経営
「SMS」はScroll Mission Standardの略。原点は業務基準書の構築にあったが、現在では、事業ミッションや組織機能、プロフィットスケール(※)の管理を行うなど、進化している。経営指標の計画と実績との間に生まれるギャップを再分析し次の手を考える手立てとしている。
※目指すべきビジネスモデルの状態の売上を100とした場合の各PL科目を百分率で示したもの
読んだ限りでは、京セラの稲盛氏の「アメーバ経営」と似た概念なのかな、と。
これについては一概に独自の経営理論を持っているから良い、という評価はできません。アメーバ経営にしてもそうですが、経営管理手法は導入したらすぐに業績が良くなるというものではないです。
例えばSTEP経営の説明の部分「課の下に数名~10名規模のユニットを置き、各ユニットに、利益予算の数字を課している」という話ですが、この利益予算をどのように決めているのかが問題です。ユニットが能動的に現実的な目標を設定しているのであれば、その理論は有効ですが、上が勝手に決めた数字を下に押し付けているなら、ただのノルマです。
上の希望を配分しただけのノルマは、ともすれば社員への過度のプレッシャーとなり、職場環境の悪化に繋がりかねません。それは企業体質からすると、むしろ逆効果であると言えます。
社外の私からでは実際どういった運用をしているのかは分からないので、この経営を採用している期間にどんな業績改善が見られるのかで、その有効性を逆算推測したいところです。
この経営管理手法をいつから始めているのかははっきり分かりませんが、「同グループを支える二大経営管理手法」というからには、始めて1、2年ではないんじゃないかな、と。5年前の業績とでも比較してみます。
セグメントの状況
スクロールはセグメントを7つのセグメントに分類してます。
通販事業:356.4億円(45.9%、利益率6.8%)
eコマース:189.8億円(24.5%、利益率2.4%)
健粧品:32.2億円(4.1%、利益率▲34.9%)
ソリューション:164.2億円(21.2%、利益率2.2%)
旅行事業:7.0億円(0.9%、利益率▲16.6%)
海外事業:1.9億円(0.2%、利益率▲30.6%)
グループ管轄:24.6億円(3.2%、利益率8.0%)
総じてあまり高くない印象です。全体に対する影響は少ないものの、赤字の事業が3つあります。件の経営管理が成果をあげているのかを確認する意味でも、5年前のセグメントも見てみます。
通販アパレル:260.4億円(40.2%、利益率▲0.4%)
通販インナー:74.7億円(11.5%、利益率3.1%)
通販LF:149.8億円(23.2%、利益率▲4.0%)
通販H&B:80.8億円(12.5%、利益率▲15.0%)
ソリューション:81.2億円(12.5%、利益率4.9%)
う~ん。。5年前の業績もあまり良くないですね。。
この時に比べれば業績は良くなっていると言えるかもしれませんが、ここ5年はどこの会社も業績上向きなので、景気以上の改善と言えるのかは微妙です。
それと、気になるのはセグメントが大幅に変わっている点です。
組織再編や買収を繰り返す会社さんなのかもしれません。
沿革を確認してみます。
株式取得とか吸収合併とか多いです・・・
規模感とかはここでは分かりませんが、手当たり次第といった感じで買ってます。。
事業領域に関連する範囲での買収なら良いですが、同社の場合、自らをDMC(Direct Marketing Conglomerate)複合通販企業体と称していますから、どんな会社の買収でもそれなりの説明がついてしまいます。
規律無き買収で膨らみ過ぎたコングロマリットが成功した事例を私は知りません。(バークシャー・ハサウェイは成功したコングロマリットとか言われがちですが、その本質はウォーレン・バフェット氏の手腕によって異形と化しただけの保険業ですので)
これだけ買収しているという事は、売上が伸びていたとしても、それは買収によるグループ規模の拡大というだけで、本質的には伸びていない可能性があります。のれん爆弾も抱えていたりすると目もあてられません。
いずれにせよ、あまり期待できる印象では無いかな、と。
業績推移
利益率の推移は3.3%⇒2.3%⇒2.3%⇒2.0%⇒3.2%
ずっと低空飛行を続けています。
19年3月期に大幅に売上が伸びていますが、あれだけ買収を繰り返しているため、その影響によるものではないかな、と。
経営方針
同社は売上高成長率、売上高経常利益率、ROEを指標としているようです。
指標選択のバランスとしては悪くないですし、具体的な数値を出しているのは良いと思いますが2023年の目標があまり高くないですね。。
これくらいの目標であれば財務上のテクニックでどうにかなってしまいそうです。
①売上高の高い企業を買収(売上高成長率クリア)
②売上高経常利益率はほぼ達成している(売上高経常利益率クリア)
③買収資金を借入れてレバレッジを利かせるか、自社株買いをする(ROEクリア)
しかし、仮にこの手でクリアできても、買収という他力に頼っている限り、問題は増えていく一方です。もっと本質的改善に繋がらざるを得ない目標を掲げるべきではないかな、と。
キャッシュフロー
直近2年のフリーキャッシュフローが赤字ですので内容を見てみましょう。
2019年3月期に営業CFが減っているのは棚卸資産が増えている事によるものです。投資CFが減っているのは有形固定資産の増と連結範囲の変更です。
2020年3月期に投資CFが減っているのは有形固定資産の取得です。
普通に考えると質的にマズいのは棚卸資産の増加で、これがあるのは要注意なんですが、ことこの件については良く分かりません。
というのも、キャッシュフロー計算書というのは前年と当年のBSの変動から算出するのですが、大型の買収を行うと当年のBSと前年のBSの前提条件が変わってくるため、よく分からない数値が出てきます。
今回のケースでいえば、在庫が増えているわけなので良くないのですが、買収してグループの規模が広がっているので、在庫が増えるのは当たり前といえば当たり前です。一概に状況が悪くなっているとは言えません。
こういう意味でも、財務諸表が読み難くなるため、買収を繰り返す経営陣は自社の状況を見失いがちです。財務諸表は期間比較できてなんぼなので。。そういう場合、私は深入りを避けますし、投資家は慎重になる必要があると思います。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び預金が48.3億円(11.2%)と少なめです。買収をあれだけやっていれば当然といえば当然ですが・・・。
売掛金の金額は95.8億円(22.1%)で滞留は48日ほどです。比較的短めですが、一般顧客も相手にするビジネスですから、そんなものかな、と。
商品の金額は69.2億円(16.0%)で回転日数は54日
有形固定資産は127.0億円(29.3%)です。冒頭に書いた通り、いわゆるダイレクトマーケティングをメインに据えた会社の強みは店舗のような固定資産が必須ではない事です。しかし、それにしては随分多い印象です。内容を確認します。
物流センターですね・・・。確かにものを売るワケですから売るものの、一定の在庫ストックが必要になるのは分かりますが、あんまりダイレクトマーケティングの強みは活かしきれてない気がします。
考えて見ると経営指標もPL重視に見えますし、STEP経営の説明の部分「課の下に数名~10名規模のユニットを置き、各ユニットに、利益予算の数字を課している」という文言も、あまりBSのスリム化などは念頭には無さそうでした。
(そもそもBSのスリム化を意識する会社がこんなに買収しないですね・・・)
ただ、のれんについては1.7億円(0.4%)しかないですね。あれだけ買収してこの水準という事はそれほど割高な買収はしていないのかもしれません。
償却期間も具体的には書いてありませんが、今残ってないという事は、早々に処理してしまっているのでしょう。
この点については買収の多い会社にしてはポジティブな印象です。
負債、純資産を見てみます。
借入金は44.8億円(10.3%)と少し借りてます。あれだけ買収して物流センターも抱えていればお金も足りなくなりますよね。。
純資産は211.6億円(48.9%)です。資産リストの最大項目が設備投資の割に純資産比率が低いです。
そうなると現状でも多少レバレッジをかけているわけですから、ROEもそれなりじゃないとおかしい気がしますが・・・一応見てみます。
う~ん・・・これは低いです。。
レバレッジをかけてこの利回りだと、資産効率が相当悪いです。
利益率が低いのもありますが、やはりPL偏重志向で、BSのスリム化に取り組む気はないのではないかな、と。
従業員の状況、役員報酬
平均給与はそれほど高くないです。
年齢や勤続年数も考慮に入れると、上場企業の中では結構低い方ではないかと。付加価値率が低いため致し方ない面はあるとはいえ、企業買収に何十億と費やす原資がこういう所から来ていると思うと、切ないです。。
一方、役員はどうかと言うと・・・
1人当たり21.7百万円ほどです。
決して上場企業としては高くは無いですが、付加価値率や戦略の印象からすると、個人的にはなんだかな、という感じです。。
なぜ、低利益率や赤字が顧客、社員、株主にとって望ましくないのか。|フリーランスのエクセル屋さん|note
株主還元
株主還元に関しては30%の配当をずっと続けていたのですが、来年以降は40%を基本とすると豪語されています。
配当性向の引き上げ自体は株主を意識した誠実な対応で良いと思います。
ただ、「経済、マーケット環境の変化に左右されない経営体制及び中長期の事業成長に向けた基盤が整った」というのは何を指しているのか。。分かりません。
強固な財務基盤とは言えないと思いますし、利益率も資本効率も良く無い気がします。小規模とはいえセグメントの3つは赤字です。今後景気後退が起きた時、本当に継続できるのかは疑問です。
とても準備が整っているようには見えないのですが・・・私が見えてないだけですかね。。株主のためにも私の見落としである事を祈ります。
まとめ
残念ながら、当ブログの分析方針としてあまり評価できる内容ではなかった、というのが正直な所です。低利益率のビジネスは景気後退時の赤字転落リスクが高いですし、資本効率の低さは将来的な資産の減損リスクも抱えることになります。近年の買収の連続も、方針としての他力本願感が強く、マイナスイメージです。
配当を40%に引き上げるという決断自体は望ましいものなのですが、「基盤が整った」根拠があまり良く分からないので、本当に大丈夫なのかな、という気がします。
勿論、これは「過去の数値」を元にした分析なので、今後を決める質的な部分に光明を見出している可能性も十分にあります。
ただ、組織の変化というのは本当にゆっくりで、良くなるならなるで、その前兆が何かしらあるような気がします。少なくともそういうものは見当たらなかったな、と。
単なる私の見落としであってほしいですが。。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
有料note
2020年の投資、分析をざっくりまとめた有料noteを作成しました。
Free-EX Report(2020年版)|フリーランスのエクセル屋さん|note
買って頂けるととても嬉しいです。
企業分析リンク
www.freelance-no-excelyasan.com