企業分析アナトールの株式投資

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【8113】ユニ・チャーム ~有価証券報告書の読み方~

結論

ワンマンの匂いが強いので当ブログはあまり評価せず。ただ、レジェンド企業と渡り合う数少ない日本発企業であるのは事実。是非持続するガバナンスを築く事を願う。

 

目次

 

前置き

ユニ・チャームは調査予定ではありませんでしたが、読者様にリクエストされたため分析します。

 

事業概要

まずはユニ・チャームの事業についてです。

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ユニ・チャームの事業内容はパーソナルケア、ペットケア、その他に分類されます。

非常にシンプルな説明です。事業領域としては対象がペットなのか人なのかの違いだけで衛生用品という特定の分野に限定されてます。実に分かりやすく絞られた事業内容かと。

 

セグメントの状況

ユニ・チャームはセグメントを先の3つのセグメントに分類してます。

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パーソナルケア:6,207.4億円(86.9%、利益率12.7%)

ペットケア:189.8億円(12.2%、利益率12.3%)

その他:65.5億円(0.6%、利益率3.3%)

あまり利益率は良くないですね。

たしか先日花王を見た時、ユニ・チャームと被った事業である生理用品やおむつは利益率がそんなに高くなかったです。

www.freelance-no-excelyasan.com

花王のヒューマンヘルスケア事業に比べれば利益率は高いものの、ちょっと心もとないです。元々工場を持つビジネスは利益率が低くなりがちですが、業界としても競争が激化してコモディティ化している可能性も考えておくべきかもしれません。

よく考えてみるとこの業界って、日本だけでも大手の花王大王製紙がいますし、アメリカだとプロクター&ギャンブル、キンバリークラーク、ジョンソンエンドジョンソンなど、経営学のテキストに必ず載ってくるような優良企業がひしめき合ってます。その中で差別化しろという方が無茶な気もします。

 

 

 

業績推移

利益率の推移は12.5%⇒14.5%⇒13.3%⇒9.7%

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直近で利益率が下がってます。理由を確認します。

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粗利率も悪化していますが、その他費用が大きく発生してます。

注記を見てみると、減損が196.5億円発生してます。

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もう少し内訳を見てみます。

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主にのれんや機械装置などについて減損を計上しています。

事業全体として赤字というわけでもないのに減損の計上が行われているというのは、BSの管理について目を光らせ、迅速な反映・管理ができている証なので、体質として信頼できます。

ただ、どれだけ体質として優秀であっても事業そのものの見込みが薄ければ会社として優良とはいえません。

バークシャー・ハサウェイがまだ繊維事業をやっていた時、バフェット氏が経営を任せていたケン・チェース氏はバフェット氏が手腕を認める優秀な経営者でしたが、結局繊維業は廃業となってしまったそうな。たしかバフェット氏は何かの折に「やる必要のないことをいくら上手くやったところで意味がない」という言葉を残してます。ちょっと寂しいですが至言かと思います。

ユニ・チャームのマネジメントや社員がどれだけ優秀であっても、業種として苦しければ努力をしても実を結ぶとは限りません。その点は体質と共に抑えておくべき注意点かと思います。

 

 

 

経営方針

同社は売上高、利益の成長、ROEを指標としているようです。

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絶対値の指標は拙速な買収による規模拡大、質的悪化を招きかねないため、当ブログはあまり賛同しません。具体的な目標値もここではかかれていません。これはあまり望ましくないです。

一方で、最新の中期経営計画も確認したところ、上記指標に加えてコア営業利益率の向上を目標として挙げてます。有価証券報告書には書かれていませんが、本気で営業利益率を守る気があるなら「売上、利益の成長率(GAGR)」「付加価値率」「資本効率」とバランスの取れた指標のチョイスかと思います。

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http://www.unicharm.co.jp/ir/library/chukei/__icsFiles/afieldfile/2021/03/08/J_The_11th_Mid-term_Management_Plan.pdf

しかし中計資料を見ていると、SDGsやらDXやら、流行りに乗った言葉がてんこ盛りな印象です。コンサルティング会社が作れてしまいそうな内容で、あまりユニ・チャームらしさ、みたいな考えが見えないな、と。

あと、あんまり内容が整理されてない気がします。例えばこれ。。

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戦略①、②、③ってこれそんなに特別な事やってない気がします。ビジネスを行う上で、「人材の強化」「ブランド強化」「プロセスの最適化」なんて言うまでもない話だと思うんです。しません、という会社はないんじゃないかと。

戦略⑤についても、反社会勢力でもない限り、社会課題を解決しなかったり、地球との共生をしないビジネスなど原理上あり得ないので、書くまでもなく全ての会社が従う前提条件ではないのかな、と。(強化する、という意味は勿論あるのでしょうが、それはやはり「やらない」という選択肢は無いと思うので戦略とはまた違うかと)

この中で「戦略」と呼べるのは「不織布吸収体ビジネスで市場シェア世界 No.1を獲得」で、これを実現する手段や前提としての他の事項ではないかな、と。

この後もそれぞれの戦略についてゴッテリ書いてるんですが、当然ですが計画というのは経営者や投資家が知っていればいいものではなく、むしろ実行する社員にこそ頭に入れてもらわなければならないものです。しかし、私が社員だったらこの内容を見てちょっとうんざりしてしまうかな、と。もっと整理しろ、と。

社是や設立意見書のように、会社が存続する限り永続するものであれば、長くともじっくり熟読できるのですが、特に期間が限られた戦略はシンプルでないとみんなが腑に落とせません。現場の人間は戦略だけ考えていればよい経営陣とは違います。シンプルじゃないと覚えてられません。

こういう資料を見るとマネジメントがSDGsやDXとか世の中の動きに過度に適応し過ぎて、頭を整理しきれていないんじゃないかな、と私などは感じます。

 

 

 

キャッシュフロー

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2018年のフリーキャッシュフローが赤字ですので内容を見てみましょう。

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子会社を買収しているようです。

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大人用紙おむつのビジネスを東南アジアで展開しているDSGCLグループを買収したようです。事業領域内の買収ではあるので質的に問題は無いと思います。

地域別売上を確認すると、中国とアジアの売上を合算すると日本を超える売上があります。

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アジアの成長可能性を考慮すると、ユニ・チャームの商品が受け入れられているというのはポジティブな話ですし、そこを強化する買収は戦略的にありだと思われます。

ただ、買収の結果のれんが257.8億円ほど発生しているため、これがBS内でどれくらいの存在感があるかは見ておく必要はあると思います。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び同等物が1,287.9億円(14.9%)と割合としては少なめです。

売掛金の金額は1,217.8億円(14.1%)で滞留は62日ほどです。一般消費者向けの商品ではありますが、自前で顧客に売るのではなく、基本的に小売に販売しているのでしょう。問題はないかな、と。

商品の金額は652.4億円(7.6%)で回転日数は53日。工場を持つ会社にしては短い方かと。消費財ですからそれほど滞留する事もないのかもしれません。

有形固定資産は2,841.1億円(32.9%)です。内容を見ておきます。

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国内は子会社が製造し海外はタイ、インドネシアサウジアラビア、インドです。

中国の生産拠点が載ってきてないのは意外です。売上から見れば大きいので地現地生産しそうなものです。どっかに載ってないかな、と探してみると、中国でも生産はしているようです。

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しかし主要な設備に載ってこないという事は、あったとしても規模としては小さいのかな、と。立地的に考えてタイか日本で作ったものを中国に売っているのか。。

と思ったら日本から輸出しているっぽいですね。

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海外での工場運営は大変ですから、既存工場からの輸出で済ませられるならそれに越したことはないですね。

 

無形固定資産は941.6億円(10.9%)で内容は以下。

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比較的リスクの大きいものが揃っている印象です。

これについては安全目に見るなら純資産から除いてみた方が良いと思います。

仮に5年償却で考えた場合毎年200億ほどマイナスになります。いずれはどこかで爆発するので、先5年の損益は▲200億で考えておいた方がいいかもしれません。

 

負債、純資産を見てみます。

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借入金は378.7億円(4.4%)と少し借りてます。工場を持っており、在庫も営業債権もそこそこあるので、それに加えて買収をすれば、借金をしても仕方ない気がします。

純資産は5,429.0億円(62.8%)です。資産側のリスク資産と比較しても十分な水準が保てているのではないかな、と。適度に減損も実施していますから、それほど心配する必要は無いと思います。

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

平均給与は平均よりちょっと高めの印象です。これだけの従業員規模でこの金額は中々だと思います。平均勤続年数も長いので職場環境も悪く無さそうです。

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一方、役員はどうかと言うと・・・

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1人当たり平均56百万円ほどです。

利益率やROEの水準は素晴らしいとは言い難いですが、グローバルブランドでこの規模の会社である事を考えれば、これくらいは貰っても問題ないかな、とは思います。

ただ社長の高原氏がそのうち半分の2億円というのは若干傾斜がキツイ印象です。

高原氏はユニ・チャームの創業者である高原慶一朗氏の長男です。

高原豪久 - Wikipedia

直接的には大株主にはなっていませんが、最大株主であるユニテックの株主名には高原という名字が複数あるので、ユニテックは高原氏の資産管理会社かと。

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ユニテックの大株主が以下。

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実質的な大株主である高原氏が多くの報酬を受け取るというのも、ガバナンス的に不安です。それが担った役割に対して不適切な報酬なら倫理的問題ですし、適切な報酬なら役割が傾斜しすぎているわけですから、ワンマンが過ぎます。

加えて高原氏の支配下にある会社と取引が多数。経営幹部への報酬とはなんぞ・・・?

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いずれにせよ、会社に圧倒的な支配権を持つ創業家との関連当事者取引はフェアになり得ず悪いイメージが付きまといます。上場企業はその内実が100%クリーンであったとしても、世間や社員たちから不公平感を持たれないためにもこういう取引はすべきではないと思います。

 

 

 

株主還元

株主還元に関しては良くできていると思います。

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株主還元においてROEの達成について触れている会社はあまり見ません。しかし本質的にはROEこそが株主にとってのリターンであり、配当はその一部に過ぎません。最初にROEに触れるというのは株主還元の本質をついていなければ出てこない話だと思います。

また、自社株買いを含めて総還元率50%というのも凄い率ですし、最終的にDOEについても触れています。文句の無い還元方針です。

ただ、大株主が創業家で、役員報酬も多く、関連当事者の取引がある部分とかを見ていると、この方針はフェアなのではなく自分の支配する会社に還元を多くしたいのでは、と思ってしまうのはうがった見方でしょうか。。

 

 

 

 

まとめ

従業員給与や株主還元方針は相当良いレベルではないかと思います。特に株主還元は素晴らしいので他社が手本にして欲しいな、と思います。しかしながら、ワンマンな匂いがするのと関連当事者取引が印象として悪いです。独裁国家が一時的に栄えても将来的な腐敗をまぬかれ得ないように、ワンマン経営もまたいずれ腐敗するのは歴史的必然かと。

利益率ももう少し欲しいな、という所ですが、これについては業界として競争が激しく、差別化も難しい印象です。正直、プロクター&ギャンブルとかキンバリークラークなんてビジョナリーカンパニーに出てくるレジェンド企業じゃないですか。。渡り合うだけで御立派だと思います。

ただ、だからこそその舵取りが一部の経営手腕で運営されていそうなのは残念です。日本企業でここまでの会社はそうあるものではないので、1,000年続くようなマネジメント体制を築かれる事を切に願います。

 

本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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