結論
財務や株主還元から見ても信頼のおける会社。製薬会社をポートフォリオに組み入れるならば検討すべき会社。
目次
事業概要
まずは塩野義製薬の事業についてです。
塩野義製薬の事業は医薬品の研究開発、製造販売です。
アステラス製薬もでしたけど、非常にシンプルですね。
やっぱりこれだけだといまいち何の薬なのか分からないので、研究開発を見てみます。
会社としての8つの注力プロジェクトがあるようです。
ただ、ここに書いてある情報だけだと良く分からんので、説明会資料を持ってきます。
塩野義薬のR&D説明会2020年3月19日(資料開示) | iMarket(適時開示ネット)
ざっと見た感じでは、精神疾患やガン、HIV、アルツハイマーとか、一般的になったらもう治らないと言われている病気に注力している印象です。
そしてこれらの進捗が以下。
なるほど、分からん。
もっとも、内容が分かったところで、うまくいくかどうかは分からないかと。
創薬は人類にとって未知の領域の研究なワケで、上手くいくか分からないから挑戦する価値がある。上手くいかないのが前提です。
分かるのは、研究のスタンスが合理的であるかどうか、そして研究を継続するための収益を稼ぎ出すだけの収益性と経営能力があるかどうかかな、と。
ある程度の合理性と割安性が見えたなら投資して、後はひたすら祈るのみ。
製薬会社はそれくらいのスタンスで見ておいた方が良い気がします。
質的な部分を考えた時、見るべきは会社の考え方で、それは資料を読んでいくしかないかと思います。
とりあえず塩野義のこのR&D説明会資料は素人の私でも何やっているのか分かりやすかったな、と好印象でした。
先ずポイントとして、製薬会社で最も大きな課題であるパテントクリフ(特許権切れ)の時期を明確に言ってくれるのが嬉しいです。
塩野義薬のR&D説明会2020年3月19日(資料開示) | iMarket(適時開示ネット)
こういう風に書いてもらえば社員も株主も考えるべきことがクリアになります。
つまり、2028年までに新たなパテントが取れなければ、会社は危ういという事。
それさえ分かっていれば、保守的な株主は2028年までの収益である程度回収できそうな水準の株価で買う事を考えるでしょうし、社員は危機意識を持って働くことになります。夢だけでなく、こういった地に足の着いた喫緊の課題について言及しているのは、誠実かつ合理的な態度かと思います。
あと、コア領域とフロンティア領域の記述も分かりやすいです。
コア領域とフロンティア領域が技術的にどう繋がるのかは分からないですが、少なくともこれを見れば会社がこれから「何をすべき」で、「何をすべきでない」のか整理できそうです。
資料は社員から見て、会社が今どこにいて、どこに向かっているのかは分かる程度の方向性、具体性があると思います。
研究開発についてはコロナウイルスについても触れてます。
塩野義製薬もコロナワクチンを研究しているんですね。。
という事はコロナ関連銘柄で株価があがりそうなイメージですが、ここ1年上がったり下がったりであまりパッとしないパフォーマンスです。
これはちょっと不思議だな、と。
技術的に難しく、市場からあまり期待されていないのか何なのか。。
うまくワクチンが上市できればウイルスの注目度も高い分、相当有利です。
宝くじがついているくらいに思っていればいいかな、と。
セグメントの状況
塩野義製薬は単一セグメントですので、セグメントの状況はありません。
一方で、地域別売上を出しているためチェックしておきます。
日本:1,258.3億円(37.7%)
欧州:1,768.3億円(53.0%)
北米:114.6億円(3.4%)
その他:192.5億円(5.8%)
欧州が半分を占めてしかもイギリスがほとんどですね。
何でなのかな、と理由を考えたところ、技術導出の契約にイギリスの会社が複数ありました。
技術導出というのは「特定の医薬品を開発、販売するために必要な知的財産権の相手による使用を許可すること」だそうです。
つまりここに書いてある薬が良く売れていてロイヤリティーが得られているということなのかな、と。
主要な顧客に関する情報の所に、ヴィーブ社とあります。
イギリス3社のうち、HIV関連の契約を結んでいる会社(Viiv Healthcare Ltd.)が、そのヴィーブ社なのかな、と。
ヴィーブ社はHIV関連の薬を扱っており、塩野義製薬の最大の経営課題と呼ぶ「HIV製品」パテントクリフと符合します。つまり、2028年には少なくともこのヴィーブ社の売上がごっそりなくなる可能性があるということかな、と。
ヴィーブだけで塩野義製薬の全売上の1/3になりますから、確かにこれは怖いですね。
普通の売り上げと違い、ロイヤリティ収入は一般的にイコール利益の収入なので、無くなると利益率に直撃します。
どれくらい耐えられるものなのか、注意が必要です。
業績推移
利益率の推移は32.5%⇒36.3%⇒40.2%⇒45.8%→45.3%
維持コストの高くないロイヤリティ売上が結構な割合が高いだけあって、利益率は相当高いです。
以下は売上収益ですが、売上の半分がロイヤリティー収入です。
ロイヤリティビジネスは固定資産や在庫を管理する必要なく、ロイヤリティを受け取るだけという、ビジネスモデルとしては最強の部類です。
大手製薬会社の利益率が高いのは、創薬に成功すれば、特許権という法的な独占が保証されている事と、ロイヤリティビジネスがしやすい環境が整っているためではないかと。
膨大な研究費と訴訟リスクを差し引いても、投資家にとってはかなり魅力的な業界と言えます。
経営方針
同社は8つの経営指標を提示しており、その財務指標としてては以下です。
質的に必要な指標は網羅していますし、具体的な数値目標を立てているもの望ましいです。個人的にはコア営業利益と海外売上高比率、自社創薬比率は必要性が謎ですが。。
塩野義製薬はR&Dでも重点項目を8つにしてますが、8という数値に拘りでもあるんですかね。。
キャッシュフロー
流石の潤沢なキャッシュインです。
ざっと見た感じでは無茶な買収とかはしていないような印象です。
一応直近の投資の内訳を見てみますと
一応買収的なものもやってはいるようですが、そんなに大規模ではないです。これは買収を繰り返すより、方針として好感が持てます。
あと、株主還元の目標指標の中にDOEが入っていたことから察せられる通り、還元に結構力入れている感じがします。
財務活動によるキャッシュフローを見ると大量の自社株買い。
これは心強いです。
ついでに配当に関する考え方も見ておきます。
実績としての自己株の消却や、DOEによる還元設定もさることながら、内部留保資金の使い道までしっかり書いてあり、これまた完璧です。
こういう事が書ける経営陣はそれだけで信頼に値します。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び預金が2,088.6億円(24.0%)と少なめです。工場があるとはいえ、同社のメインはロイヤリティで大した規模では無い筈なので、もっと現金預金の割合が多くても不思議は無いのですが、先に見た通り自社株買いを積極的に実施しており、無駄な資金は株主に還元しているのかな、と。
これは資金効率という意味でポジティブな印象です。
営業債権は798.0億円(9.2%)で滞留期間としては87日です。それほど長くは無いので問題ないかと。
のれん108.5億円(1.2%)で割合としては少ないですがあります。しかし投資キャッシュフローで見た通り買収を積極的にするタイプではないようなので、それほど心配する必要は無いと思います。
のれんの詳細を見てみると、2019年度にも減損を実施しており、適切にB/Sを掃除しているようです。問題無さそうです。
無形固定資産は465.4億円(5.3%)で内訳は以下。
「製品にかかる無形資産」は多分特許権ではないかと。買収とかで発生するリスクの高い顧客情報やら販売権とかは多分「その他」に含まれるんじゃないかと。
「その他」は金額的にそれほど多くないため、無形固定資産はそれほど実態を懸念する必要は無いと思います。
その他の金融資産3,733.2億円(42.8%)が多いです。内訳は以下。
債券とか定期預金が多いです。これはほぼ現金同等物と認識してもよさそうです。
株式及び出資金はその他投資有価証券や関係会社株式ですかね。。内訳は以下。
その他投資有価証券とか関係会社株式は債券や定期預金に比べればリスキーですが、内容を見る限りでは事業に関係しそうな手堅い会社が多い印象なので、質的にはそれほど問題ないかな、と。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債ゼロの無借金のようです。
純資産は7,645.6億円(87.7%)です。
実に手堅い。。資産のリストもリスクが低く保たれている印象ですし、大量の自社株買いをしながらもこの純資産比率を保っているというのは脅威です。非の打ちどころがない。
マネジメントの質の高さを感じる内容です。
従業員の状況、役員報酬
従業員数がこれだけの規模なのに勤続年数が15.9年、しかも平均給与は943万円。。製薬会社は待遇が良いです。質的な部分を考慮に入れれば無難なところかな、と。
一方、役員はどうかと言うと・・・
社内取締役は一人当たり平均1.2億円くらいでしょうか。企業としての質の高さや、社員の給与から見て妥当なところかな、と思います。
塩野氏は役員報酬に出てくるのですが役員の一覧には出てきません。
何でかなと思ったら、ちょうど2020年6月に退任されて、特別顧問になられたのですね。
特別顧問・一株主として塩野義の成長見守りたい 塩野元三会長が退任あいさつ | 医薬通信社
塩野氏は創業家の出身ですが、経歴を見てみると1969年に入社して取締役になったのは1984年。入社から15年後ですからそれなりに下積み期間を経ている印象があります。
そもそも創業家とはいえ、塩野義製薬の大株主にその名は無く、それほど影響力は無いように思います。
創業家とはかかわりの無い社長である手代木氏が、会長の塩野氏より報酬が高い点から見ても、少なくとも塩野氏はフェアな人格の持主なのではないかと。
株主に対する還元方針などからもそういった部分は信用して良さそうです。
まとめ
パテントクリフという大きな経営課題こそあるものの、スタンスとしては信頼できる会社ではないかと思います。
結局のところ製薬会社は開発が上手くいくかどうかにかかっているわけですが、仮に儲かったとしても、会社の体質が良くない場合は投資家に還元されない可能性もあります。
その点、塩野義製薬の財務諸表の内容や還元の考え方はかなり立派で信頼が置けます。
製薬会社の性質上、全部をお金を塩野義製薬にBETするのはオススメしませんが、例えばポートフォリオに製薬会社を加えたいとかいう時は十分検討に値する会社だと思います。
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