企業分析アナトールの株式投資

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【4521】科研製薬~有価証券報告書の読み方~

結論

マネジメントで損をしている印象。特定の一族の力があるわけではないので、体質改善していってほしいな、と。

 

目次

 

事業概要

まずは科研製薬の事業についてです。

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科研製薬の事業は薬業及び不動産事業です。

初っ端からですが、本業と別に不動産事業がある会社は印象が悪いです。

不動産事業には大別して販売と賃貸があり、本業以外でやる不動産業は大抵後者です。同社の場合も賃貸のようです。

不動産賃貸業というのは、元々が資金効率が悪いビジネスです。製薬会社のようなキャッシュリッチなビジネスを展開していれば、余裕でできてしまうので手を出したくなる気持ちは分からなくはないですが、資金が大きな固定資産として数十年固定してしまいます。そうなれば確実に会社の資金効率は悪化します。

しかも少子高齢化の進む日本の不動産を購入するのは、どんな物件であっても分の悪い賭けです。

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住宅用建屋の耐用年数は材質にもよりますが最大で47年と半世紀もかかるわけです。償却完了まで果たして今のようなキャッシュフローは見込めるでしょうか。。直近10年は収入が入っても、例えば築30年以降を過ぎたマンションに入居者が次々入ってくるでしょうか。将来的に訪れる大規模修繕、資産除去債務に対して積み立てを行った上で本当にペイするのでしょうか。

個人的には疑問です。現代のような変化の激しい時代にわざわざ回収に47年かかる投資をビジネスとして選択するのはいかがなものでしょうか。

将来的な減損の可能性も考慮しておかねばならないかと。

 

製薬会社のお約束として、研究開発を見てみます。

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イマイチここだけ読んでも何が強みで、どこに注力しているのかが分かりません。

HPを見てみると皮膚科、整形外科、その他という今の得意領域があるようです。

科研製薬を知る | 科研製薬株式会社 採用情報

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できればこういうのも有価証券報告書に書いて欲しいな、という気がします。

この得意領域からどういった開発方針でいるのかというと、以下。

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免疫系・神経系・感染症を柱とした研究開発テーマへの集中投資・・・。

集中投資と言いつつ領域が妙にざっくりしている気が。。

医薬品は特にそうだと思うんですけど、分野の絞り込みをしないと開発費がかかって仕方ない気がします。同社自身も経営環境についてコメントしてますし。

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理念や方針も分野を限定するものではないです。

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イマイチ会社としてどこに注力するのかはっきりしません。。

不動産賃貸を平行している点も含めて、ここだけの記述を見る限りではマネジメントの意思決定能力に難があるのかな、と。

 

セグメントの状況

科研製薬は薬業と不動産事業の二つのセグメントがあります。

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薬業:868.5億円(97.3%、利益率28.8%)

不動産事業:23.8億円(2.7%、利益率61.5%)

 医薬品業界はやはり利益率高いな、と。

一方で不動産事業も利益率は高いんですが、前述の通り不動産賃貸に関しては利益率高い=イイネ!とはならない。年を重ねるごとに重しとなるリスクあり。

何より、本業以外に手を出して資本を集中できていない分、経営の質的に疑問です。

 

 

 

業績推移

利益率の推移は32.2%⇒30.5%⇒28.3%⇒26.5%→30.2% 

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段々右肩下がりですが直近では戻してます。

何か状況改善したのかな、と詳細を見てみます。

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ところが粗利率は57.1%⇒56.6%とむしろ悪化してます。

改善は研究開発費が前年対比62.5%で40%ほどカットとなったお陰ですね。。

余分な研究開発費カットは経理的には歓迎すべきことですが、一方で将来的な成長余地を削っている可能性もあるので、経営全体から見れば単純に喜べる事ではないです。いたずらに削るのではなく、先ずはどこに研究の焦点を合わせるのかではないかな、と。

 

 

 

経営方針

質的なKPIを設けている印象は受けません。

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あまり数値管理が重視されていないのかな、と。

ちょっとこれもマイナスです。 

 

 

 

キャッシュフロー

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キャッシュリッチ・・・資金繰りに一切困りそうにないキャッシュインです。

確かにこれならそんなにキツキツの財務管理しなくても問題無さそうです。

ただ、将来的な成長を合理的に目指し、少しでも無駄なく株主に還元する意図があれば、財務管理は不可欠です。金が回っていて潰れなきゃいい、というわけではない。マネジメントは株主の資本運用代理人であり、効率について細心の注意を払うべきです。

不動産事業を手掛けているところなども、数値管理に対して鈍感な代理人なのかな、と。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び預金が592.2億円(37.8%)と、まあ無難です。有価証券136.0億円(8.6%)と投資有価証券150.4億円(9.5%)とあるので、このあたりが単なる資金運用という可能性もあります。有価証券及び投資有価証券の詳細は以下。

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満期保有目的有価証券については、ほとんどボラティリティは無いので、現金同等物と見ても良いと思います。

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取引円滑のための相互持合いですね。これもまた資本効率として悪くなる要因です。

最近の株高で含み益が出ているようですが、「ならば良し」とはならない。

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こういうのは結果ではなく、結果に結びつく姿勢があるかが問題です。

この姿勢は当ブログの基準ではマイナス評価です。

売上債権は218億円(13.8%)で滞留日数は89日と3カ月ですから問題は無い印象です。

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債38.5億円ありますね。。キャッシュ十分にも関わらず借りているのはレバレッジを利かせている、というより何かあった時のために資金融通してもらうためなのかな、と。方針にもそうありました。

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というか・・・キャッシュフローを見る限り絶対そんな資金要らんでしょう。。

金利を払ってお金を遊ばせているようにしか見えない。。

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

それなりに勤続年数も長く、給与も良いですが、製薬会社にしては低めかもしれません。この辺りは事業の質に見合った水準なのかな、と。

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一方、役員はどうかと言うと・・・

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社内取締役は一人当たり平均6.4千万円くらいでしょうか。

しかし会長職の大沼氏が億越えですね。。

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一般社員の水準とかけ離れているな、と。

それに本来後見的な立場である筈の会長職が一番報酬を受け取るのも印象が悪いです。。

如何なる理由があれ、職務として直接の指揮を執る社長が一番貰って然るべきです。一般的な認識から報酬制度が離れているように思います。
 

 

 

株主還元

株主還元に関しては以下。

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典型的な「バランスに配慮しながら」とか「業界水準に応じた柔軟な」フワフワした配当政策です。

こういう書き方の配当政策を見ていつも思うのは、バランスに配慮しているかどうか、柔軟かどうかを判断するのは、投資家の視点であって、会社が自画自賛することじゃないんですよね・・・。

例えばお金を貸している相手がどう見ても十分に裕福な生活しているのに、あんまりお金を返してくれなくて、「バランスに配慮しながら柔軟に返しております」とか言ってきたら「はあ?」とか思いますよね。。

どういう定量的な指標で決めているのか、目指しているのかだけ説明して欲しいです。

 

 

 

まとめ

質的な評価でかなりマイナスイメージの多い会社でした。

数値だけで見るなら、利益率は高水準ですし、ROEだって悪くないです。

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給与水準だって、製薬業界からみれば多くはないにせよ、一般的に見れば十分高い水準です。

ですが、逆に言えば上記のようなマイナス部分を修正していけば、もっと従業員にも株主にも還元できる余地があるんじゃないかな、と思います。

資本関係的には別にどこかの創業者が支配しているわけでもないと思うので、これについては過去からの企業体質に根差したものなのだろうな、と思います。

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本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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