結論
本当の意味での背水の陣的戦略であれば良いが、さもなくばもって数年か。。確かに希望は見え始めているようなので、戦略としても興味深くフォローしていきたい。
目次
事業概要
まずはカルナバイオサイエンスの事業についてです。
カルナバイオサイエンスは設立されてから20年ほどの会社で、日本オルガノンから分離・独立して設立された会社です。
経緯は以下です。
ベンチャーらしいスタートの仕方で凄く夢がありますね。。
まずは同社が特化した分野に関する説明です。
キナーゼと呼ばれる酵素が同社のコアとなる分野だそうで、これをうまく利用すればがんやリウマチなどの困難な病について新たなアプローチの薬を提供できるようです。
私は素人ですがざっくりと分かるような内容になってます。
これまで分析してきた会社はがんに挑戦する会社が多い印象ですが、カルナバイオサイエンスもがんですね。
不治の病の代表例という印象のがんですが、こうして様々なアプローチが試みられることで段々と状況が改善するのは、一市民として心強いです。
カルナバイオサイエンスの事業は創薬事業、創薬支援事業です。
詳細を見ていきます。
非常に詳しく書いてくれている感じがしますが、得られるリターンや実現する可能性などは一切分からないな、と。(そんなもの分かるワケないので当然ですが。。)
研究開発の内容を見ると多少は数値に関わる部分が載ってます。
直近で収益が期待できそうな研究は
①中国のバイオノバ社
②米国のギリアド社
③日本の大日本住友製薬
の共同研究です。
特に米国のギリアド社に関しては2020年12月に契約一時金21億円を受領できたというのは資金繰り的にプラスですし、ある程度実現可能性も期待できるのかな、と。
具体的な金額まで出せるというのは、確度として現実味があるのではないかと。
ただ、問題はカルナバイオサイエンス自身が実現するまで存続できるのかどうかかな、と。どれだけ有望な研究をしていても、一つや二つの取り組みがとん挫したら潰れるような会社だと、投資というより丁半博打です。せめて損益ゼロくらいでいてくれると、Betしやすいのですが・・・果たして。
セグメントの状況
カルナバイオサイエンスは事業を創薬支援事業と創薬事業の二つに分けています。
創薬支援事業:95.3%(利益率42.5%)
創薬事業:4.7%(利益率▲2,858.7%)
当然ながら創薬事業が大赤字です。
創薬支援事業の利益を遥かに上回る赤字です。
本来、持続的な経営を目指すなら、創薬事業の赤字を創薬支援事業で賄って貰いたいところです。公的機関や大学では無いので、常にパトロンがいて養ってくれるわけではないですから、上手くお金が集められ無くなればいずれ研究自体ができなくなります。そのあたりをどうマネジメントしていくのかが経営者の技量の見せどころかと。
経営の考え方をしっかり見ていきたいです。
業績推移
利益率の推移は▲54.3%⇒▲108.2%⇒▲153.6%⇒29.8%→▲95.0%
凄いですね。。毎年のように損失が拡大してます。
良くこれで資金が持ちますね。
おそらく借入か増資で資金を注入する事で倒産を免れているのかな、と。
B/Sの状況をきちんとチェックする必要がありそうです。
2019年12月には黒字転換してますが、これは先述のギリアド社からの一時金である21億円を売上計上しているためと思われます。
あくまで一時金ですから、翌年にはまた赤字に転落してます。何らかのロイヤリティか、事業収入が安定して入るようにならない限り、事業は安定しないでしょう。今後それに対してどんな方針なのか、気になるところです。
経営方針
創薬支援事業は売上高と営業利益率の改善と指標とし、創薬事業については導出先からのマイルストーン収入、ロイヤリティの獲得が指標のようです。
まあ、妥当な目標かな、と。
ベンチャー、特に同社のように赤字の企業は質がどうのとか以前に安定した売上を立てなければどうしようもありません。 まずは動力となる金の流れを作るのが至上命題です。それができなければ単なる「研究機関」で「企業」とは言えません。
しかしながら会社の考え方としては以下のように書かれています。
画期的な新薬を世に送り出す事が第一で、損失の計上が継続する可能性があるという事です。言いたいことは分かるんですが、どこまで金が続くのか、本当に大丈夫なんだろうか、とキャッシュフローを見ておかないと金回りが不安です。
キャッシュフロー
露骨にお金が流出していってます。
2018年までドンドンお金が減っていって、2019年にギリアド社からの一時金に加え、財務活動によるキャッシュフローから大量にお金が入り資金は持ち直してます。
財務活動のキャッシュフローは以下
資金が増えたのは新株予約権の行使による増資ですね。
捕捉しておくと、新株予約権というのは、定額で株式を購入できる権利です。
例えば市場で一株1,000円の会社があったとして、その会社に1,000円で新株を発行してもらう権利を100円で売ったりします。この権利が新株予約権です。
投資家からすれば、例えば株価が800円に下落した場合に新株を発行して貰ったとしても、権利の値段100円+1,000円=1,100円で株を買うことになるので、市場から買った方が安くつきます。その時、投資家は100円を払っただけ無駄金になってしまいます。ただ、新株予約権を買わず、1,000円で株を買っていたら200円の損が発生していたわけですから、多少マシな結果になります。
一方で株価が1,500円まで上昇した場合、投資家は1,500-1,100円で400円の利益になります。つまり新株予約権というのは投資家からすると普通に株を買うより損失を限定することのできる金融派生商品(デリバティブ)という事になります。
企業にとっては、この新株予約権を行使してもらう事は増資を意味するので、資金調達ができて望ましい事なのですが、実はこれ、既存の株主からするとちょっと困ります。
先の説明から分かる通り、市場よりも安く新株を発行したい時にしか新株予約権は行使されません。つまり、既存株主にとっては、今の株価より安い値段で株主が増えてしまうので株の価値が落ちるわけです。
これを希薄化と呼ぶのですが、希薄化を容認してまで資本を調達するのは株主に不誠実な経営者か、資金が切羽詰まっているケースか、あるいはその両方なので、いずれにせよ印象が良くないです。
今後どれくらい希薄化していくのかは分かりませんが、いずれにせよ株価の上昇に歯止めをかけるマイナスファクターには違いありません。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び預金が43.0億円(88.9%)と、ほぼ現預金ですね。資産リストとしては実に無リスクで健全です。一応投資その他0.7億円(1.5%)の内容も見てみます。
株でも債券でもないとなると・・・譲渡性預金とかですかね??差額がそんなにないのでいずれにせよリスクとしては低いかな、と。
売上債権は1.3億円(2.7%)で滞留日数は42日と問題はないです。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は4.3億円(8.9%)です。あまり負債には頼らず、増資で資金を賄っているためか、それほど割合は多くないです。
純資産は38.2億円(79.1%)と結構手厚いですが、既に利益剰余金が赤字である事からも、累積で利益を出せておらず、出資額を食いつぶしている状況だと分かります。
営業利益ベースで年10億ほどの赤字を出していますから、あと3~4年もすれば債務超過に陥る可能性はあると思います。
ただ幸いなのは同社のビジネスは大量の在庫や固定資産を必要としないようです。資産リストがほとんど現預金なので、資金繰りに行き詰るリスクは少ないのかな、と。
従業員の状況、役員報酬
会社自身の歴史が浅いという事もあり、勤続年数は短めで、製薬会社にしては給与も少なめです。確かにずっと赤字では高い給与も出しにくい筈です。
ただ、果たしてこの給与でどれだけモチベーションを保てているのか。。
一方、役員はどうかと言うと・・・
取締役の一人当たり平均は28.8百万円、製薬会社の役員の給料としてはやはり控えめです。厳しい事を言うなら赤字だったら20百万円でも多いんでしょうが、正直同社はジリ貧で潰れるか、或いは大当たりをするかしかないので、役員報酬がどうこう論じても仕方ないです。
潰れるなら1千万円でも多く、大当たりするなら1億でも安い。
結果を出せるか出せないか、それだけです。
株主還元
株主還元に関しては以下。
まあ、この状況で株主還元を考える必要は無いと思います。
それよか創薬事業を軌道に乗せるのが先決ですね。
まとめ
今のままだと頑張っても4年くらいがリミットなのかな、と。それまでに収益源を確立しなければ存続も危ぶまれるかと。現状はどうにか輸血して凌いでいる状態なので、3件の有望案件から金の流れが生まれ、会社が潤えばやっと一息つけるのかな、と。
個人的には創薬支援事業の金の流れを強化して、その利益の中から創薬事業の開発費を捻出できないものかな、と思います。逆に言えば、創薬支援事業の金が少なければ、それだけ創薬事業の開発を遅らせてでも、開発費を絞るとかして、帳尻を合わせてくれないかな、と。
本来、企業において赤字というのは何を置いても避けるべきで、そのために打てる手を打つのがマネジメントの仕事であると当ブログでは考えます。赤字が常態化した企業というのは、経営者は勿論社員の収支感覚が薄れますし、給与などの配分の原資も減るわけですからモチベーションも下がります。
なぜ、低利益率や赤字が顧客、社員、株主にとって望ましくないのか。|フリーランスのエクセル屋さん|note
あえて赤字を続けてでも先行投資に全投入する「背水の陣」的戦略とも考えられますが、「背水の陣」は無茶な攻めをすることで退路を断つだけの勢い任せの戦略でない点は留意しておかねばなりません。
漢の劉邦に仕えていた韓信は兵力20万人の趙を約3万の兵で攻略しなければならないという難局に臨んだ。韓信は少ない兵力で勝つために、少ない上に更に川を背にして布陣し、兵法に疎い少数の軍が攻撃してきたように見せかけた。これは兵法道理に趙軍の総攻撃を誘い、空となった城と備蓄を別動隊が占領し韓信が勝利した。韓信の背水の陣軍が壊滅しなかったのは、敵が大軍であればあるほど、逆に、しばらく持ちこたえれば自軍が勝利することを知っていたから奮戦できたのである。
ところが通俗ではこの重要な戦略が伝わらず、戦術の定石を敢えて無視し、軍団を逃げ場の無い川の前に布陣させ、兵が逃げ場が無く、陣形の再構築もできないことを悟ることで決死の覚悟で奮戦する為に勝利すると誤解され、あえて自らを窮地に置き、最大限に力を発揮させようとする事を背水の陣と言うようになった。
故事通りの戦略であれば、社員や株主と言ったステークホルダーに「この赤字を耐え抜けば必ず大きく飛躍する」という確信を抱かせるだけの希望を示せるかどうかが同社が成功する鍵になるのかな、と。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
有料note
2020年の投資、分析をざっくりまとめた有料noteを作成しました。
Free-EX Report(2020年版)|フリーランスのエクセル屋さん|note
買って頂けるととても嬉しいです。
企業分析リンク
www.freelance-no-excelyasan.com