結論
財務良し、現状の業績も良しだが、海外進出とその意思決定をする基準が見えず。今後の業績がどうなっていくのか不安が残る。
目次
事業概要
まずはエン・ジャパンの事業についてです。
エン・ジャパンの事業は人材サービス事業の単一事業です。
私も新卒の就活の際、同社のサービスに登録した気がします。
就活・転職エージェントは過去から何社か分析していますから、利益率や効率の良い業界なのだと思います。
始めるのに一切投資なども必要なく、HPや人脈があれば開業できてしまう事業ですから、参入してくる会社も多いですが、一定の知名度やSEO・マーケティング技術があれば、ある程度の需要は約束されている市場と言えます。
怠惰な就活生だった私が知ってるくらいですから、エン・ジャパンはそれなりの知名度を持っているのではないかと思います。数値上でその内容を追ってみましょう。
セグメントの状況
エン・ジャパンの事業は人材サービス事業の単一事業ですから、セグメントの状況はありません。
地域別売上を出しているため、一応見ておきます。
主力は今のところは日本ですが、アジア・オセアニア地域での売上が倍になってます。これは沿革を見るに買収によるものですね。インドのIT人材派遣会社「Future Focus Infotech Pvt. Ltd.」を2019年3月に買収してます。
買収時期は2019年3月と前期ですが、連結会計上、PLの数値は買収した以降の金額しか連結されないので、本格的に「Future Focus Infotech Pvt. Ltd.」の業績が反映されるのは2020年3月期となります。
つまり、2020年3月期に海外売上が伸びたのは、この買収による影響ではないかと推測されます。
業績推移
利益率の推移は19.3%⇒21.6%⇒23.9%⇒24.3%⇒19.5%
十分な利益率ですが、直近の2020年3月期に売上は伸びているものの利益率が悪化してます。先に見た通り、インドの会社を買収した結果売上が伸びていますから、利益率が悪化しているという事は、インドの会社の利益率が悪く、それに引っ張られた形と推測されます。
理由を確認してみます。
売上原価が倍以上になってますから、まずは単体決算の売上原価明細書を見てみます。
やはり、単体では大して増えてませんね。
連結は売上原価明細書がないので、素直に経営者による分析を見ますか。
おそらくFFI社は「Future Focus Infotech Pvt. Ltd.」の略称でしょう。
ただ単純計算すると、海外売上の伸びと売上原価の増えた金額がほとんど同じでしたから、FFI社は相当利幅の薄い会社かもしれませんね。。
と思ったら関連会社のところに業績が載ってましたね。
やっぱりエン・ジャパンの日本での利益率に比べると見劣りしますね。それでもエン・ジャパンが同社を買収したのは海外への事業展開を積極的に進める意思がある事の表れかと。
エン・ジャパンの足元のトレンドとしては、頭打ちの国内市場ではなくアジア・オセアニア地域をターゲットとして、買収による拡大を進めているということかな、と。
日本企業の海外事業進出って結構難しくて、うまくいっている事業ってあんまりない印象です。単純に為替の問題もあるので評価自体、難しいのですが、撤退する会社は多いです。
海外進出の傾向としては、単に規模の拡大を目指して海外進出をした会社は、あまりうまくいかず、理念、理想を叶える方法論として海外進出を選択した会社は成功する可能性が高い、というのが個人的なイメージです。
そのあたりがどうなのかを方針のところで読み取れればいいな、と。
経営方針
エン・ジャパンは経営の指標を指定してません。
さっき見た感じでは売上高利益率も高いですし、ROEも高いです。
特別経営指標を設けずとも、これだけの成果が出ているのはビジネス自体の強さと言えますが、今後も買収を続けた場合どうなるかは分かりません。
実際数値上、インドの会社の業績は足を引っ張っているようなので、方針として何の指標を基準にしているのかがわからなければ、今後も規模だけを求めて買収を続けて体質が悪化するという事も考えられます。方向性が指標で示されないというのは、株主に対しては勿論、従業員にとっても良くないと思います。
この点はマネジメントとしてマイナスの印象です。
キャッシュフロー
同社のビジネスモデルから考えると、せいぜい無形固定資産への投資くらいだと思うので、直近の2年は投資活動によるキャッシュフローが多い印象です。
内容を見てみると・・・
前年の子会社取得はFFIのことだろうな、と。
定期預金の預け入れはなんちゃって投資だとして、投資有価証券への投資をしているようなので、一応状況を確認します。
コロナショック直後だからとはいえ、評価額が半額になっているというのは、かなりボラティリティの高い株を買っているようです。運用をどんな考えでやっているのか。。若干不安のある結果です。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び預金が280.8億円(54.1%)と、十分な水準です。
売上債権は57.4億円(11.1%)、滞留期間は36日と問題なしです。
有価証券と投資有価証券を合わせると50.0億円(9.6%)です。先の記載の通り、ボラティリティが高そうなので、あまりこの数値にあてにしない方がいいかもしれません。
のれんも38.0億円(5.7%)と結構あります。とはいえ、経常利益110億の会社にしては許容範囲ではないかと。
負債、純資産を見てみます。
特別目立った負債はなさそうです。
有利子負債はゼロの無借金経営です。
純資産は386.5億円(74.5%)で十分ですね。現預金の比率が高いことからも、BSのリスクはほとんどないと考えて問題なさそうです。
従業員の状況、役員報酬
平均年齢が若いのと勤続年数が短いのは、会社自体が若いことと業種的に理解できないことはないですけど、給与が結構低いです。
システム系の会社だからでしょうか。。
いやしかし人材サービス事業って比較的高付加価値ですし、人材こそがネックというイメージなので、ここの勤続年数と年収が低いってちょっと不安ですね。。
一方、役員はどうかと言うと・・・
取締役の一人当たり平均は28百万円です。
上場企業の会社で高すぎるってことはないんですが、社員の給与との格差が激しいです。勤続年数が短い点も含めて考えると、社員と役員の間に壁があるんじゃないかな、という印象です。
大株主の状況
分散して持っているようですが、黄色いマーク部分は創業者の越智氏の財団だったり親族の資産管理会社だったりで、合計29.31%を保有しています。
結構な割合の意思決定権ですからよほどの事がない限り創業家の権力は揺らぐことはないかな、と。
株主還元
株主還元は配当性向50%と高いです。
ただ、事業が安定していることや純資産が相当な水準まで積みあがっている状況を鑑みるに、DOEで吐き出しても良いのではないかな、と思います。もう一歩ほしいところです。
あと余談なんですが、「連結配当規制適用会社です」という文言。
連結配当規制適応会社がなんなのか思い出せなかったため、一応調べました。
第8回:連結配当規制|会社法(平成26年改正)|EY新日本有限責任監査法人
要するに配当額を連結数値ベースで決めます、という話ですかね。
たしか配当額っていくらでも出してよいわけじゃなくて、銀行とか取引先みたいな債権者保護である程度の水準の資産を残すために、会社法で配当額の上限が決まってるんでした。で、エン・ジャパンの場合はその上限額を単体ではなく、連結で出しますよ、というお話じゃないかと。
(企業価値とは関係ない論点なんで記憶頼りのざっくり確認ですが、なんか違ってたら優秀なる当ブログの読者様がご指摘くださるでしょう・・・)
私が大学で会社法やら会計学、簿記とか勉強したのってもはや十数年前なんで、仕事で使わなかったり、あんまり詳しく見ても意味なさそうな知識は忘れてるんですよね・・・つか、仕事で使ったこともない十数年前の知識を朧気でも覚えているって、大学時代の自分、どんだけ必死で勉強してたんだ。。引くわ~
まとめ
財務状態は悪くなく、いかにも知名度のある人材サービス事業の会社の優良数値です。
現在は安定した国内から海外への展開を進めている印象です。
問題はその進出の方法や質なんですが、個人的にはあまり評価できないな、と。
海外進出する理由の「発展著しいから」とか「成長期待が大きい」とかはまあ、そうなんだろうな、とは思うんですが、エン・ジャパンがそこに進出して勝てる理由が分かりませんでした。
勿論買収した会社に自由にさせる純投資としてFFIを買収したのかもしれませんが、現状の業績を見る限りではFFIの利益率は決して高くなく、そんな会社を買収した理由は、安定しているから、です。
同社の売上高利益率は3%~4%という低さです。
そして利益率の低さは百害あって一利なしというのが当ブログの考えです。
なぜ、低利益率や赤字が顧客、社員、株主にとって望ましくないのか。|フリーランスのエクセル屋さん|note
何かエン・ジャパンとのシナジーがあれば変わるのかもしれませんが、少なくとも有報を見る限りではそういった要素は見つけきれませんでした。とすれば純投資としても失敗する可能性が高い気がします。
そもそも経営で基準となる財務指標も明示されていないようなので、今後どういった方針で海外進出が進むのかも見えないのも不安です。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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