結論
数値的、ビジネスモデル的には十分優良企業。しかし、還元については塩対応という印象。方針に体質改善のベンチマーク(財務指標)を明記して還元方針も明確にしてほしい。
目次
事業概要
まずはミルボンの事業についてです。
ミルボンの事業は化粧品の製造販売、およびその付帯事業の単一事業です。
事業系統図を見て気づくのが、同社の製品は必ず代理店や美容室を通して販売しているらしい点です。
一般的なシャンプーとかはテレビCMを出して、スーパーとかで売られている印象が強いのですが、同社の場合は髪の専門家である美容室を通して売っている。これは一つのポイントかな、と。
そもそも普通のシャンプーと業務用シャンプーは何が違うのか良く分からなかったので、ちょっとググってみました。
分かりやすかった記事がこちら。
市販シャンプーとサロンシャンプーの違い | 美容院・育毛サロン R(アール)
市販シャンプーとは、ドラッグストアやスーパー、バラエティーショップなどで販売されている大衆向けのシャンプーのことです。
市販シャンプーの特徴は、ズバリ【誰もが安心して使える万人受けするシャンプー】であること。
・・・
ですが万人受けする反面、【これといった特徴がない、強味がない】というのも市販シャンプーの特徴です。
そこで、各メーカーが特に力を入れるのが広告宣伝活動。
自社のシャンプーにいいイメージを持ってもらうためのテレビCM
商品棚に並んだ時に目立つボトルデザイン
どれだけコストを落として安く提供できるか?
など、【シャンプーの品質よりも多くの人に買っていただくためにはどうすればいいか?】というポイントを重視して作られているのが市販シャンプーなんです。・・・
市販シャンプーとは違い【とにかく高品質のシャンプーを追求して作られている】のがサロンシャンプー。 (サロン専売品と言われることもあります)
また、品質が高いだけでなく、
ヘアカラーの色落ちを抑える
くせ毛を扱いやすくする
ハイダメージ毛のケア用
頭皮に潤いを与えて保護する
など特定の髪質や悩みのケアに特化している商品が多いのもサロンシャンプーの特徴です。そのため、 一般の市場には卸されず、美容院などでカウンセリングを受けて購入することが推奨されています。
市販シャンプーの価格帯では配合できない高価なケア成分を使っているのも特徴のひとつ。
価格も2,000~5,000円と市販品に比べて高額です。
なるほどな~と。勉強になりました。
少なくともここに書かれている内容で考えるなら、市販用シャンプーと業務用シャンプーであれば、ビジネスとして優れているのは業務用シャンプーかな、と。
ポイントは以下の2つです。
広告宣伝費
広告宣伝費は非常にコスパの悪い費用です。一番最初に商品名を知らしめるために打つのはやむを得ないとしても、それだけでブランドを維持するのはかなり困難です。まして、同業他社がごぞって宣伝している激戦分野では猶更です。広告宣伝の過当競争に突入したら一巻の終わり、パフォーマンスはガンガン落ちていき、広告を出して喜ぶのは広告会社のみになります。
広告宣伝費について、ファストファッションの世界的なブランド、ZARAのオーナーであるアマンシオ・オルテガ氏が社員に向かって発した言葉を引用します。
広告によって利益を得るのは企業であって、顧客ではない。だからこそ私たちは広告に投資する分を、商品の質を上げて価格を下げることに使うと決めたんだ
それを意図しているのかどうかは分かりませんが、広告宣伝ではなく顧客満足に集中できる点で、ミルボンのビジネスモデルは優れていると思います。
付加価値
市販シャンプーは良くも悪くも特徴が無いのが特徴、という事ですが、要するに差別化が難しいコモディティ品という事になります。そうなれば行きつく先は価格競争で、付加価値の低下は避けられません。
一方の業務用シャンプーは特定の髪質や頭皮の悩みなど、ピンポイントのニーズに特化しているため、ターゲットとなる顧客に与える付加価値が大きいです。
私は既婚者なので今更禿げようが天パになろうが、もはやあまり気にならないですが、独身の頃は確かに自分のくせ髪とかは結構意識してて、それを本当に改善してくれる商品であれば多少高くとも買ってたと思います。
つまり同社が品質さえ保っていれば、価格競争などは起こるリスクは低いのではないかと。
以上2点から、ミルボンのビジネスは質的に有望な部類ではないかな、と。
また、ミルボンの資料によると同社の業務用ヘア化粧品のシェアは国内No.1だそうです。
https://www.milbon.co.jp/app/webroot/ir/pdf/20171222_presentation.pdf?e=1
業界のトップ企業は何かと有利な地位にあるため、これもプラスのイメージです。
セグメントの状況
ミルボンの事業は単一事業ですから、セグメントの状況はありません。
しかし、製品・サービスごと、地域ごとの売上高があるのでチェックします。
ヘアケア用剤、染毛剤、パーマネントウェーブ用剤で98.2%を売り上げてますから、ほとんど髪に関係する事業に特化しているとみて問題なさそうです。
売上の地域は日本がほとんどで、海外進出はそれほど進んでいない印象です。
事業系統図ではタイ、韓国、マレーシア、ベトナム、シンガポール、アメリカ、上海と、結構な国に進出している印象があったため、この売上割合は少々意外です。
海外進出はまだ発展途上なのか、苦戦しているのかもしれません。
国内で既にNo.1の地位にあるミルボンですから、ここからさらに大きく飛躍する余地があるとすれば、海外事業かと思います。そのあたりの成長が今後のポイントになるのかな、と。
業績推移
利益率の推移は16.2%⇒14.9%⇒17.2%⇒17.2%⇒16.2%
決して悪くはないですが、思ったより普通の利益率でした。
工場を持つ優良会社の典型的な利益率って感じです。設備や在庫の管理に加え、品質や安全の確保など、工場運営って本当に大変で、自前で生産工場持っている会社はどうしたって高利益率に持っていくのは困難なんですよね。。
ガチで売上高利益率を上げに行くなら、OEM生産にして品質チェックだけを行うビジネスモデルに持っていくのが理想ですが、問題はそもそもそれが可能なのか、仮に可能であったとしてマネジメントにその気があるのか。
経営方針とかにそういった部分に言及があれば、将来的に希望が持てるかもしれません。方針のところで雰囲気を読み取れればいいな、と。
経営方針
ミルボンは経営の指標を指定してません。
経営方針は会社としての目指すべきビジョンや信念みたいなものを強く感じる内容で、とても良いと思います。
ただ、そのビジョンを数値管理する視点に欠けている気がします。要はそのビジョンが達成されるまでのベンチマークが、ここではまったく見えないです。
大義や理想は重要です。それこそがその会社のアイデンティティであり、判断に迷った時にマネジメントや従業員が頼るべき指針になります。ただ、こうした大義や理想は言葉では人によって解釈がまちまちになり、足並みに乱れが生じます。
だからこそ大義や理想のベンチマークとして数値管理を徹底する必要があります。
私は企業にとっての数値管理の必要性を考える時、聖書のバベルの塔の逸話を思い出します。バベルの塔を築くとき、神が人々の言葉を乱した事で人々は建設をやめざるを得なかったエピソードです。
もし人々が例えば元々の目標を「1年に1階増やす」という数値目標にまで落とし込んでいたならば、言葉が乱れたところで、すべきことは変わりません。多少、言葉の混乱によって、建物の形は不格好になったとしても、トライアンドエラーを続けて淡々とベンチマークを達成していれば、いずれバベルの塔は天に届いていたかもしれません。
バベルの塔がそうであったように、企業規模が拡大すればするだけ「言葉の混乱」は避けられません。その点、数値というのは言語以上の普遍性を持った共通概念であり、それを管理することは途方もない理想を達成するために不可欠な要素だと思います。
それがため、私は企業の数値管理を重視しており、していない企業は体質評価としてマイナスだと考えます。
付加価値率などが方針に載っていれば、体質的な利益率改善の施策も期待できましたが、この方針を見る限りでは、多分検討すらされないだろうな、と。
キャッシュフロー
妙に投資活動によるキャッシュフローが動いてます。
先ずは直近2年
定期預金に預けたり戻したりしてますね。
これは本質的に影響の無い投資ですから、これを除いて考えると直近2年のフリーキャッシュフローは潤沢です。
一方で5年前のキャッシュフローを見てみるとフリーキャッシュフローが赤字になってます。
有形固定資産に大型投資してます。
理由としてはやはり製造工場への投資です。
工場を持つ会社は投資キャッシュフローでキャッシュを相当使いますし、一気にまとめて改修が必要になったりするので、単純に直近のフリーキャッシュフローが黒字だからといって安心はできません。
同社の力は営業利益の推移でみていった方が良いかと。
余談:営業利益は見せかけの利益で、フリーキャッシュフローこそが真の利益?
余談ですが、「営業利益は見せかけの利益で、フリーキャッシュフローこそが真の利益」なんて言葉が言われがちですが(私もちらほら使ってる気がしますが)、フリーキャッシュフローにも問題はあります。
フリーキャッシュフローは入ってきたお金と出ていったお金の差額でしかないので、例えば10年に1度の大型改修投資などがある会社の場合、投資の年だけ大赤字でそれ以外の年は異常にフリーキャッシュフローが潤沢、というケースもあり、投資の無いフリーキャッシュフローだけで企業価値を算定すると、大いにミスリードする可能性もあります。(フリーキャッシュフロー管理を徹底している会社ならそんなに心配はないですが、年によって荒れている会社は要注意です)
そもそも昔の会計は、今でいうキャッシュフロー計算書のように現金の動きだけを追う現金主義と呼ばれるものでした。つまり、ざっくりフリーキャッシュフローを利益概念としていたらしいのですが、それだと損益の年ズレが起こるってんで、減価償却費や引当金の概念を確立して、損益が平準化するようにしたのが現代会計基準です。
確かに現代会計基準は平準化するための「予測」が介入してきて粉飾や損益変動のリスクが高まりましたが、だからといってフリーキャッシュフローが真実の利益、と言葉通りに捉えるのは会計基準が歩んできた経緯を根底から覆す話だな、と。
営業利益もフリーキャッシュフローも一定の条件に基づいて算定された概念に過ぎないのですから、「この会社は営業利益で判断した方が良いな」とか「この会社はフリーキャッシュフローで見た方が安全だな」とか、会社の性質によって使い分ける必要があると思います。
会計というのはあくまで企業理解の一助とすべきであって、特定の指標を無条件に過信してはならない、という事かと思います。
余談でした。。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び預金が123.5億円(28.7%)と、工場持ちの会社らしい割合です。
売上債権は42.0億円(9.7%)、滞留期間は43日と問題なしです。てか、仲介業者を入れている割に随分滞留期間が短いですね。。業界の特色なのか、ミルボンだからなのかは不明ですが、キャッシュフローが潤沢なのはこういう滞留が短い所が理由なんでしょうね。。
商品~原材料は52.2億円(12.1%)で滞留期間は154日。ちょい長い印象ですね。医薬品業界なんかは6-7か月くらいだったりするので、業務用シャンプーとかも医薬品同様、高度な生産管理を必要とする分野なのかもしれません。
有形固定資産148.7億円(34.5%)はやはり大きいですね。
やっぱり設備で目立つのは製造工場ですね。製造工場が半分近く占めてます。
ここをどう圧縮するかで同社の資金効率が決まってくる気がします。
そういえばまだROEを見ていなかったので見ておきます。
悪くはないけど・・・って感じですね。
経営指標が無いので、こういう点は見ていないんじゃないかと。
投資有価証券が29.4億円(6.8%)です。
明細は以下です。
資金運用というより、取引に関係しそうな所を戦略的に保有している感じですね。
下手に運用しようとしているよりは良いですが、どういう意図なのか。。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債はゼロの無借金経営です。
純資産は363.1億円(84.3%)で十分ですね。
工場を含んだあの資産リストで無借金経営を保つだけに純資産が手厚い。盤石です。
逆に言えば資本効率からいうとあまり評価できないです。
還元意識が乏しい気がします。
会社としてのポリシーの問題ではありますが、当ブログの方針として財務指標を示さず、改善の目標もなく、ただ純資産を着々と積み上げるというのは、あまり評価できません。
従業員の状況、役員報酬
勤続年数も給与も良い方かと思います。
純資産を手厚くするのも従業員にとってはポジティブですから、勤めるには良い会社なのかな、と。
一方、役員はどうかと言うと・・・
取締役の一人当たり平均は42百万円です。
人数も8名いることを考えるとそれなりに高めですね。
確かに同社は売上高利益率、ROE、純資産の比率、従業員給与、いずれも傑出した水準とは言わないまでも、十分優良と言える水準に達していると思います。
個人的にはやり方次第でまだまだ改善できるんじゃないかな、とは思いますが、そこは会社として何を重視するのか、というポリシー次第の部分があるので、あまり突っ込まないようにします。
大株主の状況
個人の大株主もちらほら見えますが、特定の人物が影響力を発しているようには見えません。株主からの圧力は分散されているといえます。
株主還元
株主還元結果は配当性向43.3%とそれなりに高いです。
しかし、方針らしい方針が何も書かれてません。
正直、純資産が相当な水準まで積みあがっている状況を鑑みるに、DOEベースで考えてもっと吐き出してROEの改善を図って良いのではないかな、と思います。
まとめ
一般的な指標からすれば、十分優良企業と言えますし、ビジネスモデルも強いな、という印象です。ただ、具体的な指標を示して体質改善を図る意図が見えなかったり、具体的な配当指針を見せなかったりと、総じて株主への還元を軽視している印象を受けました。今後も淡々と純資産を積み上げるだけなんだろうな、と。
同じ利益を上げる会社が2社あったとしても、経営者の還元方針によって、株主のリターンは全く変わります。株主への還元は、いつも後回しになる一番弱い立場だからこそ、そこには企業側の誠意が現れるものだと思います。
ウォーレンバフェットが昔から日本株に投資しない理由は、資本効率が悪いからだと言われていますが、まさに賢人がこれまで日本株に興味を示さなかったのは同社のように優良体質にも関わらず保守的な還元策しか採らない会社が日本企業には多い事が原因ではないかな、と。
日本企業と米国企業とのパフォーマンスの差を見るに、残念ながらオマハの賢人は英断であったと言わざるを得ないな、と思います。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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