結論
同じ業界でシェアトップのミルボンに追いつけ追い越せ、というストーリーを期待していたのだが、内容を追っていくとどうにも釈然としなかった。
目次
事業概要
まずはコタの事業についてです。
コタの事業は美容室向けの頭髪用化粧品、医薬部外品の製造販売の単一事業です。
前回見たミルボンとモロ被りの事業領域ですね。これは比較しやすいです。
この事業領域においては、ミルボンがシェアNo.1という事だったので、おそらくコタはその背を追う形になるとは思います。
問題はコタにミルボンに追いつけるだけの体質が見られるかどうか。
有価証券報告書をもとに、会社の雰囲気を見ていきます。
セグメントの状況
コタの事業は単一事業ですから、セグメントの状況はありません。
しかし、製品・サービスごと、地域ごとの売上高があるのでチェックします。
地域ごとの売上が本邦のみという事で、ミルボンと違って海外進出はまだのようです。
そもそも同社には関係会社が無いので、拠点となる法人すらいないのが現状のようです。まずは国内でのシェアを取る事に注力しているステータスなのかな、と。
子会社の無い単体決算のみの企業は久しぶりですね。。
業績推移
利益率の推移は17.3%⇒18.8%⇒19.9%⇒20.0%⇒20.0%
ミルボンより若干良いですが、それは規模の小さい事によるメリットの範囲を出ない気がします。
経営方針
ミルボンと違って経営指標を立てているのは好印象ですし、具体的な数値に落とし込んでいるのはいいと思います。ただ、個人的にはもう少し上を目指して貰いたいな、と。
一時的に達成できていても、通常モードで達成できてない目標を据え置き続けるのは、不景気であってもこのラインをキープする、という意思表示に繋がるため、悪くはないです。
ただ、通常モードで達成できている指標だと、危機感が生まれず改善する意思のようなものが希薄になります。少し目標を上げても良いのではないかな、と。
ミルボンの基本方針は理想を追い続ける、といった印象でしたが、コタは堅実というか地に足のついた印象です。実際にやっていることは似ているのだと思いますが、こういった表現の違いにも経営者の考え方などが透けている気がします。
キャッシュフロー
基本的には営業キャッシュフローが潤沢なのはミルボンと同じですが、投資キャッシュフローが2年前、5年前に荒れてますので理由を確認します。
1-2年前
(。´・ω・)ん?定期預金?
4-5年前
(。´・ω・)ん?また定期預金?
投資キャッシュフローは定期預金の増減ですね・・・無形・有形固定資産もありますが、大した金額ではないです。
これだけの投資で生産が間に合うんでしょうか。。
ということで、ちょっと設備の状況をチェック。
唯一の生産工場である京都工場ですが、機械設備の帳簿価額が20百万円弱しかないです。なんか少なすぎる気が。。
ちなみにミルボンは以下。
17.5億円の機械装置及び運搬具があります。
コタはミルボンの1/7の売上高ですから規模に差があるのは仕方ないとしても機械装置の帳簿価額が1/89というのは違和感があります。
あくまで帳簿価額ですからコタが滅茶苦茶古い機械を丁寧に使い続け、ミルボンはガンガン新しい設備を投資し続けている、とかなら説明もつきそうですが、そんな事あり得るのかな・・・。。
一応、償却年数と償却方法もチェックします。
コタ
ミルボン
ここで若干差が出るとは思います。
8年で償却する場合、コタの採用してる定率法の場合は1年目に25%を償却し、ミルボンの採用している定額法は12.5%償却するため、コタの方が早く帳簿価額が減るのは間違いないと思います。
しかしこの金額差はそれだけでは説明がつかない気がします。
それと、コタの場合は研究所もなく、工場と本社以外は販売設備です。とすれば工場は研究所を兼ねているのか。。しかしそうなると、猶更資産規模に違和感があります。。
ほとんどの生産を外注して販売に徹するというOEM戦略を採っているために設備投資が少ないなら、体質として好ましいのですが、あまりそういった記載は見当たりませんでした。
事業リスクのところにも、いかにも製造業といったリスクの記載が多いです。
ちょっと何故こんなに違うのか理由が思いつかないっス。。
例えばコタが生産技術にほとんど追加投資せず、販売に特化しているだけであれば、短期的に営業力でミルボンに食い下がることはあっても、長い目で見れば質(生産技術)に投資しているミルボンには勝てないのではないかと。
単にミルボンが無駄な投資をしているだけだったり、「コタには超人的な研究者やエンジニアがいて、投資が少なくとも全然品質負けないよ」という事でない限り、投資額の差はそのまま品質の差に繋がる気がします。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び預金が49.3億円(47.5%)と、工場持ちの会社にしては比率が高いです。先の記載の通り、機械装置の帳簿価額が低い事もあるのだと思います。
売掛金は11.8億円(11.4%)、滞留期間は58日と問題なしです。ミルボンもですが、やはり業界の滞留期間は短めなんですかね。
商品~原材料は9.4億円(9.1%)で滞留期間は186日。ミルボン以上に長い印象なので、この業界は医薬品同様、生産のリードタイムが長いのかな、と。猶更、生産投資が少ないのが気にかかります。
有形固定資産23.1億円(22.3%)で、先に書いた通り販売施設が多い印象です。
正直この販売設備も自前で持っているというのはイマイチな気がします。
まずこんなに支店を持つというのも管理が煩雑になりますし、出退店の柔軟な意思決定がしにくい筈。賃貸で十分ではないかな、と。
あと、地味に賃貸物件を所有しているあたりからも、キャッシュフロー経営にとって鬼門である土地・建物を所有したがる前時代的経営の雰囲気を感じます。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債はゼロの無借金経営です。
純資産は77.4億円(74.8%)で十分ですね。
ちょっと気になるのが、役員退職慰労引当金をえらく積んでいるな、と。
勿論、引当対象者の年齢の影響もあるのでしょうが、他の普通の従業員の3倍以上なのは少々違和感があります。給与のあたりで注意してみる必要があるかな、と。
従業員の状況、役員報酬
勤続年数は悪くないですが、ミルボンの7百万円と比べると明らかに給与水準が低いな、と。
美容室業界は確かに低賃金労働、ブラック業界というイメージがありますが、同社のやっているビジネスはコンサル的な側面があるため、人材に依存する度合いが強い筈。となれば同業他社のミルボンとこれだけ格差があるのは好ましくないと思います。
一方、役員はどうかと言うと・・・
取締役の一人当たり平均は40百万円です。
平均金額的にはミルボンとそんなに変わらない水準ですね。。
ミルボンとはそもそも原資となる利益水準が違いますし、従業員との格差も結構ありそうなので、これも印象が良くないです。
大株主の状況
見た感じでは社長の小田氏と親族、資産管理会社で少なくとも19.68%は持っているのかな、と。
何でも自由にできる所有水準ではないにしても、従業員と役員報酬の格差や、不動産への投資などを含めて考えると、ワンマンな経営者像が浮かんできます。
株主還元
配当政策としては配当性向を明示しているのは良いですが、30%とそれほど高くありません。
成長中のコタが再投資に使うために配当に回す分を減らす、というのなら理由としては理解できるのですが、ミルボンと比較していくと、設備投資が少ない点や従業員の平均給与が少ない点からはあまり再投資に熱心という印象は受けません。
さらに利益の絶対額がミルボンとは違うのに一人当たりの役員報酬はあまり変わらないとなると、配当しない分って役員報酬に消えているだけでは?と思ってしまいます。
ミルボン対比で考えてあまり評価できないです。
まとめ
同じ業界でシェアトップのミルボンに追いつけ追い越せ、というストーリーを期待していたのですが、内容を追っていくとどうにも釈然としない部分が見受けられる内容でした。
当ブログでは顧客、社員、株主を会社の三大ステークホルダーであると考えており、この3者に対して適切な配分をするのがマネジメントの役割であり、その成果をもってマネジメントの力量をはかり、報酬を与えるべき、と考えます。
ただ、同社の場合は少なくとも社員、株主に対して十分な配分が与えられていないように感じました。
なんだかな、と。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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