結論
無味乾燥な書くことのない会社かと思いきや、うらやまけしからん役員報酬。。
目次
事業概要
まずはノエビアHDの事業についてです。
ノエビアHDの事業は化粧品事業、医療・食品事業、その他の事業の3つです。
その他事業の内容を見ると航空機部品の仕入れ販売とか、相当手広い商売をやっている印象です。事業内容を見てもこの会社のコアが何なのか良く分かりません。
技術なのか、サービスなのかほかの何かなのか。。
経営方針から何か読み取れないか見てみます。
えらいざっくりした方針しかないですね。
どんな会社でも当てはまりそうです。
やはりどんな会社なのかが見えない印象です。
セグメントを見てどの事業に比重があるのかを見てみます。
セグメントの状況
ノエビアHDの事業は化粧品事業、医療・食品事業、その他の3つです。
化粧品事業:387.4億円(74.4%、利益率24.5%)
医薬・食品事業:112.7億円(21.6%、利益率11.1%)
その他事業:20.8億円(4.0%、利益率0.5%)
化粧品事業がメイン事業のようです。
利益率も高く、化粧品だけなら素晴らしい事業です。
これだけに集中しているなら分かりやすいのですが、その他事業や医薬・食品に手を出している意図がいまいち見えません。先の経営方針で見た通り、うちの会社はこういう事をしたいんだ、という主張のようなものが見えないな、と。
なので、どういう経緯でこんな形になったのか見てみます。
なるほど、祖業は航空機関連部品、医療機器及び日用品の輸入販売という商社的な会社だったようです。そこから自然派化粧品の輸入販売を開始して成長、製造販売を開始。ついには企業買収によって航空運送事業へ参入、医薬品事業へ参入、という流れですかね。。
元々が商社的な会社であれば、特定の事業に関する拘りや信念みたいなものが感じられないのも無理はない気がします。色々手広くやっていて、ミラクルヒットした商材に資源を投入して成長した感じで、良くも悪くも特定の商材に拘らないタチのかな、と。
ただ、コングロマリット企業や商社の評価額が低くなりがちなように、同社のように一貫した意図の見えない、複数事業を営む会社は投資家に好まれないだろうな、と思います。
業績推移
利益率の推移は15.3%⇒18.9%⇒20.0%⇒20.7%⇒15.9%
良い利益率で推移していますが、やはりコロナ影響で売上も利益率も下げています。
主力となる化粧品は、女性が外出を自粛すると間違いなく消費量に響くでしょうから、納得の業績です。赤字などにならないのは利益率という安全余裕度が高いからかと。
この業績に対してどのような考えで臨んでいるのか、見ていきます。
経営方針
具体的な数値目標はありません。
なんというか、経営方針でも思ったんですけど全体的に熱意が感じられないですね。
淡々と当たり障りない項目を入れていっているような無味乾燥な印象です。
一応目標であるROEの推移を見ると。
う~ん・・・明らかに悪くもないですけど特別良くもなく、そもそもあまり意識している感じじゃないです。
売上が増えたので営業利益も伸びてROEも増えました、逆の場合はそのまま、という印象。マネジメントが意識しているならもう少し違う動きをする気がします。
キャッシュフロー
フリーキャッシュフローは十分です。
化粧品の製造なども行っているとのことですから、投資活動のCFも安定して推移しています。この投資CFの動き、営業CFと動きがリンクしているようなので、キャッシュフローベースでの管理をされているのかな、と。
あと3年前に財務CFの金額が大きいので一応見てみると。
自己株式の取得をしてます。
お金の管理はかなり良くできている印象です。
しっかりした財務担当がいるんですかね。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び預金が294.6億円(36.8%)と、工場持ちの会社にしては多少比率が高めです。売上債権は92.3億円(11.5%)、滞留期間は65日と問題なしです。
商品~原材料は80.8億円(10.1%)で滞留期間は157日。意外に長めですね。
当然、滞留が長くなると評価額が下がる事があり、同社の場合は下がった分の簿価を切り下げ、売上原価として処理しているようです。
ちなみに会計基準においてはたな卸資産の評価方法は複数の方法が認められており、どの方法を採るのかは注記に書かれてます。
なんか・・・色々使ってますね。。認められている方法をコンプしている気が。。
あ、売価還元法がない。どうでも良いですね。。
余談ですが、ノエビアHDのように業績の良い企業は心配いらないでしょうが、業績の悪い会社なんかは、ここの在庫の評価方法を変更することでPLの数値を弄ろうとしたりする企業があったりします。
ブログには載せてませんが、この前結構怪しい会社がありました。
普通は
企業会計原則の一般原則その5、継続性の原則
企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。
に引っかかるので会計士が止めるんですけどね。
会計士も会社から監査報酬を貰う側ですから、強面の経営者からごり押しされると、「ちゃんとした理由さえ作ってくれれば、みだりに変えているわけじゃないからいっか」とならざるを得ないこともあるそうな。
なので、業績の悪い会社のPL数値を見る時は、評価基準にも注意するか、CF計算書のフリーキャッシュフローを見るようにしましょう。CF計算書はそういう小細工が通用しない資料なので。
有形固定資産230.2億円(28.8%)で、半分以上が土地です。
主要な設備の状況を見ます。
工場を持っているからそれが大きいのかと思いきや、統括業務をする本社の建物で自社ビル、という奴でしょうか。
工場ならこの有形固定資産の金額も致し方ないかと思いましたが、段々とオフィス系の不動産価値が下がりつつある現在は、逆風のポートフォリオかな、と。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債はゼロの無借金経営です。
ただ、あまり見ない負債で長期預かり保証金というのが128.9億円(16.1%)もあります。注記に何か説明がないか見てみます。
営業保証金・・・何のことか良く分かりませんね。しかも負債という事はどこからか保証金を払ってもらっているということですが、どこが払うのか・・・という事でヒントを求めて重要な契約へ飛びます。
多分これかな、と。
要は販売会社に販売を委託して、在庫が途切れないようにする代わりに、販売会社からは在庫の持ち逃げとか貸し倒れが無いように営業保証金を取っているのかと。
とすればこの分はプール金ですから資金繰り的にはプラスの負債ですね。
特に問題はないかと。
純資産は522.4億円(65.3%)で十分ですね。しかも負債といっても有利子負債はなく、営業保証金はプール金なので、財務は盤石です。
従業員の状況、役員報酬
勤続年数は一見短いように見えますが、ノエビアHDが設立して10年ほどですから、ここは仕方ないかな、と。
ただ平均年齢に比して給与水準は低めな印象です。
確かにもともとの商社的ビジネスは利益が薄いので、これくらいの水準でも不思議はないですが、現状のノエビアの業績を鑑みるにもう少し高くても罰は当たらないんじゃないかと。。
一方、役員はどうかと言うと・・・
絶句・・・
取締役の一人当たり平均は244.8百万円です。
しかし明らかに創業者一族の取り分が多い・・・二人だけで10億超貰っとる。。
うらやまけしからん。
これまで百社以上見てきましたが、従業員と創業家の給与格差という意味では群を抜いている気がします。従業員の方はこれ知っているんですかね。。
一向一揆が起きそうです。立てや皆の衆(従業員)
大株主の状況
株式会社エヌ・アイ・アイと大倉氏お二人でほとんど50%抑えてますね。
株式会社エヌ・アイ・アイの代表は大倉性の女性のようですから、おそらく親族でしょう。
普通はこんな役員報酬にしていたら大株主が文句を言いそうなものですが、どんな役員報酬であれ通せてしまう株主構成なわけですね。
しかしこういうのって、やって良いとか悪いとか以前に私だったら世間の目(役員、従業員含む)が怖くてできない。。見習いたい、この度胸。
起業家はこれくらいの度胸がなきゃうまくいかん、と言われている気分です。
株主還元
配当政策は凄くシンプルで安定配当が目的です。
ただ一見やる気がない株主還元にも見えるのですが、数値ベースで見ると配当性向はかなり高いです。利益よりも配当が多いくらいです。
半分は創業家の懐に入るんだろ、という見方もできますが・・・
まとめ
財務状態は盤石で、業績も悪くありません。
ただ有価証券報告書を読んでいて、これを書いている人は多分「タスク」をこなしているだけなんだろうな、という気がします。要は提出しなきゃならないから書いているだけで、投資家に対して会社を知ってほしいとかは一切ない感じ。
株主構成を考えれば納得です。実質的に創業家にしか見せる必要はなさそう、そして創業家の人は読まなそうです。
金の動きを見れば経営者の考え方とか視点は見える気がしますが、今回はかなり露骨な例でしたね。。他の役員は普通の水準で自分たちだけ10億て・・・。
役員報酬の決め方って非常に難しくて、10億が適正かどうかなんて、正直誰にも分からないです。ノエビアHDは包括利益が61億円の会社ですから、創業者兼経営者がそれくらい貰ってもおかしくない、日本の企業は役員報酬が少ないからダメなんだ、なんて意見もあると思います。
ただ、私個人の意見としては多すぎだと思います。
これが非上場で創業者の100%所有会社なら、役員報酬をいくら出したところで、左のポケットから右のポケットに移すだけの話なので、誰も文句は言いません。
ただ、上場企業である以上、役員報酬は少数株主のポケットからも出されていることになるので、いかに創業者で大株主とはいえ、事業のリターンを公平に配分する義務があると思います。
ここでいう「公平な配分」とは、創業者としてのリターンは配当で還元され、経営者としての報酬は役員報酬で還元されるという事です。そして経営者の報酬はあくまで、ほかの従業員や役員の延長線上で考えるべきであり、現状のような従業員や他の役員と著しく報酬が乖離しているのは、明らかに配分が不公平です。
マネジメントという仕事は、確かに大きな責任を伴う難しい仕事ですが、事業が損失を出したからと言って経営者の報酬がマイナスになるわけではありません。ある程度支給額が保護されているという点では従業員や他の役員と同列の雇われ人です。
そんな立場や一般的な報酬水準を考えると、どんな規模の上場企業の経営者であっても、容認できる役員報酬の上限はせいぜい2億円くらいじゃないかと思います。欧米企業の水準がどうとか関係ないです。
それ以上の報酬が欲しいなら自分で株を買って、他の投資家同様ちゃんとリスクを取った上でリターンを得るのが、上場企業の経営者としてのフェアな対応ではないかと。
まあ・・・結論から申し上げますと10億の役員報酬めっちゃうらやまけしからん。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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