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【4967】小林製薬~有価証券報告書の読み方~

結論

ビジネスとしてはかなり良いものを持っているが、資金の使い方や創業家の影響に古さを感じる。

 

目次

 

事業概要

まずは小林製薬の事業についてです。

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小林製薬の事業は国内事業、国際事業、通販事業の3つです。

随分ざっくりした分類してますね。。詳細を見ていくとかなりの業種があるようです。

製品ラインナップを見るとCMとかでよく目にする製品ばかりですね。製薬会社といっても、莫大な費用を投下して病院に専門的な薬を提供する会社と、大衆薬を作る会社があるようですが、小林製薬は後者のようです。

前者は顧客が限られており、開発のみに特化しているため、組織が大きくならないのですが、後者は顧客が一般大衆なので、製品企画~販売まで幅広い範囲の業務を網羅しなければなりません。組織規模というのは大きければ大きいほど管理が雑になりがちですから、これはビジネスモデルとしての弱みと言えます。

小林製薬の場合は物流や容器製作、販促なども別会社にしてグループ会社として一連の業務を網羅しているようです。

ちなみに清掃業は障害者雇用の会社さんです。大きな会社さんは一定の障害者雇用か、負担金の供出が義務付けられており、それを達成するためにこういった会社さんを持つことがあります。

障がい者雇用を通じた地域社会への貢献|障害者雇用事例リファレンスサービス|高齢・障害・求職者雇用支援機構

一応理念を確認しておきます。

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大衆薬を提供する企業の理念としては的を射ているように思います。

しかし一方で、小売や薬局、物流の会社まで自前で持つというのは考え方としてあまりスマートさは感じません。物流は付加価値率としては決して高くない事業ですし、理念から外れます。効率を考えると他社サービスの利用による代替などを検討すべきではないかと。

 

セグメントの状況

小林製薬の事業は国内事業、国際事業、通販事業の3つです。

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国内事業:1,251.6億円(79.8%、利益率19.8%)

国際事業:227.1億円(14.5%、利益率3.6%)

通販事業:90.7億円(5.7%、利益率3.1%)

ありがちですが国内事業がメインで国際事業、通販事業の比率、利益率は低いです。

先行投資の段階と考えるべきか、国際事業、通販事業に進出した時期を沿革で探ります。

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海外事業に進出しているのは1990年代からですね。既に20年以上経過してますから、初期投資段階というのは苦しいかな、と。

海外事業が難しいのはどの企業でも同じですが、法人を自前で設立して製品やサービスを現地販売、提供をしている会社は特に苦戦している印象が強いです。輸出だけしていたり、ロイヤリティビジネスしているところは海外売上も利益率が高かったりします。

要するに「自社しか提供できない部分」に集中している会社は強いです。

利益率が低いのは、付加価値の低い事業まで抱え込んでしまっている事もあるのかな、と。いずれにせよ低い利益率はあまり評価できません。

なぜ、低利益率や赤字が顧客、社員、株主にとって望ましくないのか。|フリーランスのエクセル屋さん|note

 

あと、調整額のところの資産額が本業の資産以上にあるのですが、これは資金運用の資産だそうです。これは相当ため込んでいそうです。。

 

 

 

業績推移

利益率の推移は17.1%⇒16.4%⇒17.4%⇒17.6%⇒18.4% 

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2016年~2017年に売上が一気に伸びています。

沿革を見てみると2016年にBerlin Industriesとその子会社を子会社化してます。

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連結対象が拡大したことで売上が増えているだけなので、これは本質的な増収ではありません。沿革を見ていると、小林製薬は本業強化という事で子会社化を繰り返しているようですから、増収=企業としての質が上がったわけではない、という点は注意が必要です。

 

売上がこれだけ増える子会社化をしてもその後の利益率が落ちてないところを見ると、Berlin Industriesは業績の悪くない会社なのかな、と。

ただ、そうなると買収額が高くなってのれんが膨らむことが懸念されます。そのあたりをどう処理しているのかはBSのところで見ていきましょう。

 

 

 

経営方針

小林製薬は具体的な指標を出さず、中計の業績予想を細かく出してますが、細かすぎてマネジメントがポイントを抑えられているのか見えません。

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小林製薬がそうなのかは分からないのですが、特定の指標で抑えるのではなく、かなり先の細かい数値を出している会社は大企業病に陥る、もしくは既に陥ってる可能性が高いので注意が必要です。

本来予算は年一回、中計は数年に一度作れば後は差が何故発生したのかを分析、改善して次回に活かせばよいだけです。もちろん、明らかに計画にインパクトが出るようであれば、その分を実績推移や概算インパクトを見込みに織り込む程度はしてもいいかもしれません。

ただ、大企業病にかかった会社は、膨大な工数をかけて全社をあげて年中予算を作り直し、そのために増えたコストを改善するためにまた予算を積み増すという、誰得な謎作業を延々と繰り返したりします。(ていうか、何度も作り直すってことは予算が当たらないってことで、どうせ当たらない予算なら何度も作る意味ないと思うんですけどね。。)

こういう状況を続けると、単にコストが嵩んで利益率が悪化するだけでなく、本質的改善よりも報告書作りに時間を割く人が増え、人間関係、社内環境も悪化します。

優れたマネジメントは、例えばROEやROICといった抑えるべき指標を明示し、諸々の条件は変わるけれど、ここを頑張ろう、というポイントだけ示すことで、最小限の報告で済むようにします。価値を生まないどころか環境を悪化させかねない活動を延々とさせません。当ブログが毎回、財務指標をチェックするのはこういったポイントをマネジメントが抑えられているのかを見たいためでもあります。

小林製薬の場合、指標を絞り切れてない感があるので、その点はマネジメントの質としてちょっと不安です。

 

 

 

キャッシュフロー

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営業キャッシュフローは製薬会社らしく潤沢ですが、投資キャッシュフローが乱れています。セグメントのところで触れたとおり、相当投資有価証券とかをため込んでそうなので、そこの売買があるんじゃないかと推測。詳細をチェックしていきましょう。

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534億円の定期預金を回してる。。凄いな。。 

余剰資金は買収にも使っているようです。

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ここの買収の影響は2020年時点ではまだ完全に反映されたわけではないですが、2016年の買収でも無茶な買収はしていない印象です。今回も目的は明らかで現在低利益率で推移している国際事業のテコ入れかな、と。

のれん自体は66.3億円と結構発生してますが、買収の目的自体は悪くないと思いますし、ニッチ市場でのブランドを持っている会社という事であればのれんの発生は致し方ないかな、と。何より同社のように500億円の定期預金を回しているような会社にとっては大きな出費ではない気がします。

今後の業績次第ではありますが、2016年のそれなりに大きな買収でも利益率は悪化していなかったので、業績への影響については配慮した買収ができているのではないかな、と。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び預金が782.5億円(32.8%)と、工場持ちの会社にしては多少比率が高めです。定期預金は毎年預けなおしているようですからワンイヤールール上もこの預金の中に含まれているのでしょう。

売上債権は528.5億円(22.2%)、滞留期間は128日と小売りもやっている割に回収スパンが長いな、と思って一応売り先を見てみると、半分くらいは医薬品の仲卸を通しているのですね。グループ内で小売りの会社を抱えているといってもそれほど大きな割合ではないようです。

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商品~原材料は141.4億円(5.9%)で滞留期間は79.1日。リードタイム短めです。病院とかに回す先進医療の医薬品とかは6-7か月とか普通だったのに比べると3か月弱というのは資金繰り的には良いですね。まあ、売上債権の回収がその分長いのですが。。

 

有形固定資産208.2億円(8.7%)で、工場持っている会社にしては凄く割合が少ないです。大量にキャッシュや有価証券を抱えているからでしょうね。。

主要な設備の状況を見ます。

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ちょっと見づらいですが、親会社は一部工場の建物だけ持っていて、子会社(富山小林製薬とか、仙台小林製薬とか)に貸し出しているようですね。

しかしなんでこんな中途半端な地域別の分社化をしているんだろう。建屋までまとめて子会社に渡せばよいのに。仲が悪いんですかね。グループ内管理面倒そうだな。。

事情が分からないので何とも言えませんが、一般論で言えばこういう分かりにくいのがそのままになっているのは、整理できない何らかの面倒ごとを抱えている可能性があるため、あまり印象良くないです。合理的な会社なら整理するんじゃないかと。

有価証券、投資有価証券は合計で505.6億円(21.2%)で多いですね。

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内訳としては株式が213.8億円(43.6%)、債券が191.5億円(38.0%)その他が93.0億円(18.4%)とバランスの取れた印象のポートフォリオです。株式の含み益が凄いので、多分結構長く保有しているものと思われます。

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上位の会社を見ていると、取引先とか関係しそうな所の株をずっと持っている感じですね。先方も小林製薬の株を持っているので、いわゆる持ち合い株式かと。

持ち合い株式は、マネジメントにとっては買収の危険が無くて安心なのかもしれませんが、資本効率は落ちます。もともとお金を大量に抱えている会社なので、全般的に保守的な考え方なのだと思います。

一応ROEも覗いてみます。

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あー。。これは意図的に自己資本利益率を10%前後になるように調整管理している印象です。全くのノープランで乱れているよりは良いですけど、うまくキャッシュを使えばまだまだ全然増やせるだろうにこの水準に止めている保守性は歯がゆいな、と。

のれんは72.8億円(3.1%)と全体から見れば軽微です。日本基準で20年以内での償却をしているようです。

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注記上の償却期間は上限である20年以内と書いておいて、2020年の買収では償却期間を10年にしているというのは、買収案件ごとに償却期間を変えているのかな、と。根拠は分かりませんが、きちんと考えられている感があります。

 

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債は微妙にあるんですが、多分子会社の分かと。実質ゼロの無借金経営です。

 

純資産は1,749.4億円(73.4%)で財務は盤石です。

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

勤続年数はそれなりです。給与は製薬会社の中では若干低い印象ですが、そこは大衆薬を扱っているからですかね。

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一方、役員はどうかと言うと・・・

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取締役の一人当たり平均は113百万円です。

従業員報酬に比べて高めだな、と思ったら、創業家への傾斜報酬。。

またこのパターンか。。もうMBOすればいいのに。。

 

 

 

大株主の状況

社長の小林章浩氏と小林財団が、創業家絡みの持ち分ですかね。

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役員報酬見ると創業家の力が強そうですから、一応関連当事者取引もチェックしておきます。

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いつも思うんだが、こういう会社の社員さんとかはこういう創業家の人たちをどういう風に思うんだろうか。。入社して数年で取締役に昇進、高額の役員報酬を受け取り続ける創業家。。代表者が血統で決まってる組織って少なくとも私は嫌ですけどね。。

まあ、普段仕事で関わらなかったらあんまり関係ないのかな。。

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株主還元

配当政策は特に根拠のない安定配当が目的です。

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配当性向的に見ても、30%~40%をうろちょろ。

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先に書いた通り同社のROEを見る限り、意図的に調整している感があるので、何も考えていないわけではないとは思います。しかし消極的。

あの役員報酬を会長に支払う度量はどこに・・・という感じです。

 

 

 

まとめ

財務状態は盤石で、業績も悪くありません。

買収によって業績が悪化しないところも結構スマートなイメージなので、意思決定としてうまくいっているのかな、と。

しかし稼いだお金の使い方がイマイチな印象です。創業家への還元は大きく、株主の還元はそれなりにしとこう、という感じ。

持ち合い株とか、やたら分社化していたりとか、定期預金をぐるぐる回していたりとか、全体的な雰囲気が古い感じがします。結局、そういう部分って意思決定者が創業家である限り変える必要がないのでしょう。彼らにとっては配当はそこそこにしておいて会社にお金をとどめておくか、役員報酬でたっぷりもらった方が自由に使えますから。そんな立場に私もなりたい・・・

しかし当然ながら、投資家にしてみれば会社のお金の使い方はリターンにかなりの影響が出ます。投資家はビジネスの力=投資家のリターンではないってことは注意しなければならないと思います。

 

本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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