結論
優秀ではあるが偉大と言える水準ではない印象。今のご時世で新オフィスとかに投資するのは、考え方として古い気がする。。
目次
前置き
TISは調査予定にはありませんでしたが、読者様にリクエストされたため分析します。
事業概要
まずはTISの事業についてです。
TISの事業内容はサービスIT、BPO、金融IT、産業IT、その他に分類されます。
分類こそ分かれてますが、情報化投資に関わるシステム開発やコンサルティング業なのかと。
事業内容だけ聞くとスマートな印象がありますが、企業から受託してシステムを開発するビジネスは一般的に利益率は低くなりがちです。
パッケージ化されたシステムであれば一つ完成してしまえば後は売っていくだけなので利益率が高くなりますが、得意先に合わせたシステムは毎回顧客ごとに新しく開発する事になり、維持管理するのも大変なのでコストが嵩みます。
うちの会社も独特のシステムを使っている業務があるんですが、仕様が独特過ぎて仕様書見ても分かる人がいなくて、問題があっても改善できず放置されてたります。顧客に合わせたシステムをゼロベースで作るのって本当に難しいですし、維持も大変なんでしょうね。。差別化もなかなか難しい業種ですし。
あと、何か問題が発生した時の訴訟が怖い。
実際同社グループの会社も訴訟提起されてるっぽいです。
セグメントの状況
TISはセグメントを先の4つ(その他はスルーします)のセグメントに分類してます。
サービスIT:1,255.2億円(26.3%、利益率6.5%)
BPO:337.0億円(7.1%、利益率7.8%)
金融IT:1,144.7億円(24.0%、利益率13.0%)
産業IT:2,027.0億円(42.5%、利益率9.5%)
やはりあまり利益率は良くないですね。
金融以外は一桁ですから当ブログの方針としては利益率がアウトの水準です。。
なぜ、低利益率や赤字が顧客、社員、株主にとって望ましくないのか。|フリーランスのエクセル屋さん|note
業績推移
利益率の推移は6.4%⇒6.9%⇒8.1%⇒9.2%⇒10.4%
全体的には売上の伸びに合わせて利益率も向上していますが、好景気の影響以上の上昇率ではないように思います。
それと2016年3月期に包括利益が赤字になってますので、一応原因を確認してみます。
その他有価証券評価差額金ですね。
2015年3月期は大幅に益に出て、翌年に大赤字とは珍しいですね。特にこの時期は市場で混乱があったわけじゃないと思います。
一体何がそんなに大きく減ったのか確認します。
注記を見てみると、結構な株式を売却しています。
つまり、その他有価証券を売却する事で、有価証券評価差額金という名の含み益をP/Lの実現売却益に変えたというわけですね。
実際に見に行ってみます。
確かに売却益が発生してます。
投資有価証券評価差額金から投資有価証券売却益への変更は、記載する場所が変わったに過ぎないため、直接的な包括利益の赤字の理由ではありません。
包括利益が赤字の本当の理由は投資有価証券売却益と相殺されている以下です。
減損損失が生じた事で、TISは赤字になっています。
詳細は以下。
ほとんどデータセンター事業の建物および構築物の減損です。
年間の経常利益が240億の会社にとっては致命的ではないにしても、130億円の減損損失は大きいです。。こういった事があるため、当ブログではアセットレス経営を推奨し、耐用年数が長い建物や構築物はあまり保有しない体質の会社を高く評価します。
資産規模の大きさは企業のリスクそのものです。
こういった大規模損失を防ぐためにも、マネジメントは売掛金、棚卸資産、固定資産といった資産は、大きな損失に繋がるリスクを孕んでいる事を常に意識し、アセットスケールをできる限り最小限にする努力が必要です。
今の資産状況がどんなものかは分かりませんが、突然こういった減損処理をする必要に迫られるというのは、良くない兆候かと思います。
経営方針
同社は戦略ドメイン比率、営業利益、営業利益率、ROEを指標としているようです。
財務指標の選択としては悪くないですし、具体的な数値をあげているのも良いと思いますが、決して目標は高くないです。もう一歩ほしいな、と。
キャッシュフロー
2017年3月期の営業キャッシュフローが少ないですね。
投資活動によるキャッシュフローは基本的に毎年バラバラな印象です。もともとそれほど投資の必要はないでしょうから、何かしら財テクやら買収をしているのではないかと。
2016年-2017年のキャッシュフロー計算書を確認してみましょう。
営業キャッシュフローが2017年に落ちているのは税金の支払いのためですね。
業績が上向いているために税金が増えたのも当然ありますが、2016年の減損損失と投資有価証券の売却のせいかと思われます。
ちょっと理解が面倒かもですが、前年の注記の税効果会計関係を見ます。
税務上は認められない会計上の損失である減損損失と、それまで税務上の益金と認められていなかったその他有価証券評価差額金の利益実現によって、繰延税金資産が膨れ上がってます。
繰延税金資産は税務と会計の費用認識の差なんですけど、簡単に理解したい人は前払法人税と理解すればいいんじゃないかと思います。会計上は払う必要のない税金をいっぱい払いましたよ、という意味で考えればよいです。
まあ、これ自体はマネジメントの意思決定に関係ない部分なのでスルーしてよいです。
直近2年の投資キャッシュフローの傾向も確認します。
エラく有形固定資産を売却してますね。
売却による収入が購入を上回るというのはあまり見ないケースです。
当たり前ですが売却額って購入額より安いのが普通ですからね。
何らかの意図を感じるので経営者の説明を引きましょう。
有形固定資産の売却は整理圧縮に伴うもの、という記述。
これだけでは分からないので、経営方針のあたりを探すと。
なるほど、豊洲に新拠点を開設しようとしているわけですね。
だから既存オフィスを売却する事に決めたと。
これからの時代はアセットを持つほど不利になると思うので、既存オフィスなどの資産整理は良い決定だと思うんですが、この書き方だと多分新しくまたオフィスを購入するんじゃないかな。。
一応設備投資の計画を見てみると。
2021年度に220億円の投資を予定しているようです。昨年の経常投資が150億らしいので差額の70億くらいが豊洲オフィスにかかるのかな、と。
個人的には自前でオフィス買う必要ない気がしますが。。
特にテレワークが浸透してきている現在では、会社が自前で持つ必要性は低下し、オフィス自体の価値も下がりつつある気がします。オフィスや維持費に金をかけるくらいなら、従業員の待遇改善や研究開発にお金かけた方がいいんじゃないかな、と。
東京地区でグループの新拠点を開設 | ニュースリリース | 2019年度 | ニュース | TIS株式会社
もしくはリアルは最小限にして、ゲームみたいなオフィス空間作った方がよほど今風です。こういうの↓
マンガ記事㉘在宅ワーク~あふたー株式会社~ - フリーランスのエクセル屋さん
システム系の会社ならリアルの不動産なんて買わずにこういうの作ってほしいっす
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び同等物が551.8億円(14.4%)と割合としては少なめです。
売掛金の金額は973.9億円(25.4%)で滞留は80日ほどです。問題ないです。
有形固定資産540.4億円(14.1%)は割合としてそれほど大きくはない印象です。
データセンターだけだからなのでしょうね。製造業の工場とかだとこうはいきません。
豊洲の新オフィスができたらここに加わるのかな、と。
投資有価証券は791.1億円(20.7%)とかなり積み上げてます。
債券投資みたいな保守的な運用ではなく、比較的リスクを取った株式で運用をしているようですね。しかし含み益が相当あるところを見ると、かなりの長期で保有しているのでしょう。一応方針を確認。
純投資はしてませんよ、あくまで取引先との関係強化や協業が狙いですよ、と。
こういう書き方をすると、なんとなく真っ当な感じはするんですけど、個人的には賛同しかねます。持ち合い株の議論と同じで、特に売却するでもなく、ずっと株を持っているだけだと、資本効率が悪くなります。
自己資本利益率は以下の通りですが、決して良いわけではないです。
本業で何があっても良いように一定の手元資金として残し、寝かせておくのももったいないから超長期的視点で株を持っている、という純投資ならば仕方ないですが、単に取引先の株を持ってたいだけ、というのは、あまり合理的な発想ではないと思います。少しでも売却して自社株買いなどで還元すべきではないかな、と。
そもそもなぜ取引をするのに相手の株を持つ必要があるのか。。資本による圧力かけないと自社サービスを利用してくれない、あるいは協業してくれないほど会社に魅力がないのか、と。
オフィスの新設より前に、今一度資本効率について検討してほしいな、と。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は209.8億円(5.4%)と少し借りてます。正直、投資有価証券とかを売却すれば持つ必要のない負債という気がします。有利子負債のレバレッジをかけてあの自己資本利益率というのもやはり資本効率に難あり、という印象です。
純資産は2,479.6億円(64.8%)です。資産欄にはのれんのようなリスキーな資産はそんなになかったので、十分な水準ではないかと。
従業員の状況、役員報酬
これだけの従業員規模でこの給与は中々だと思います。平均勤続年数も長いですね。
この業態で、しかもこの従業員規模でこの水準というのはあまり見ないんじゃないかと。。よほど待遇が良いのか。。従業員からすると良い会社なのかもしれません。
一方、役員はどうかと言うと・・・
1人当たり平均43百万円ほどです。
若干、会長兼社長の桑野氏の報酬に傾斜している感じがしますが、会社の規模や一般社員の給与を考えれば、非常識というほどではないです。
大株主の状況
特定の意思決定権者がいるわけではなさそうです。
浮動株も結構あるようなので、自社株買いの余地も十分ありそうです。
株主還元
株主還元の記載は良くできていると思います。
具体性もありますし、実際に実現できているところも好ましいです。
ただ、現状のROE水準の妥当性や、利益ベースでの配当性向ではなく純資産対比でのDOEの導入など、もう一歩進んだ検討が欲しいところとは思いました。
同社は投資有価証券を処分して自社株買いや配当を実施すれば、ROEの水準からみてももう一段階上に行ける気がします。
まとめ
優秀ではあるが、偉大と言える水準ではない印象の会社でした。
私の中の偉大な会社の条件に「どっかぶっ飛んでる部分」があるんですが、TISの場合は良くも悪くも常識の範囲にいる印象でした。
あと、中計とかは概要しか触れてなかったですが、以下のような事が書かれてます。
DXやスマートシティ構想に、成長著しいASEAN諸国へのグローバル展開。記載上は凄くスマートっぽくて、何かやってくれそうな感じがします・・・。
ただ、風呂敷が大きすぎて具体的にTISが何をどこまでやれるのかが私には見えません。こういうの読むとなんか凄そう、とか思うんですけど、お金の流れで追っていくと、取引先の株を持ったりオフィス買ったりと、やっている事は結構昔ながらという印象で、マネジメントの意思決定にぶっ飛んだ考えや新しいものを感じないんですよね。。
まあ、単に私の感度が低いだけかもですので、あくまで参考程度に。。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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