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【9432】NTT~有価証券報告書の読み方~

結論

元国営とは思えないほどのしっかりした体質を感じる。しかし、事業の性質としてコモディティビジネスであることは否めず、規模が大きすぎて状況がざっくりとしか把握できない。いっそのこと、事業を解体して複数に分かれてしまってはどうかと思う。

 

目次

 

前置き

NTTは調査予定にはありませんでしたが、読者様にリクエストされたため分析します。

 

事業概要

まずはNTTの事業についてです。

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NTTの事業内容は、以下5つです。ざっくりイメージも添えてみました。

移動通信事業・・・携帯電話

地域通信事業・・・固定電話(県内)

長距離・国際通信事業・・・県や国を超えた通信

データ通信事業・・・ネットワークシステム等

その他の事業・・・不動産とか金融、電力など副業的な事業

 

セグメントの状況

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移動通信事業:4.6兆円(38.5%、利益率18.6%)

地域通信事業:2.4兆円(20.0%、利益率16.3%)

長距離・国際通信事業:2.1兆円(17.5%、利益率5.0%)

データ通信事業:2.1兆円(17.9%、利益率6.1%)

その他の事業:0.7兆円(6.0%、利益率12.8%)

移動通信事業が最大の売上で利益率が高いのはまあ妥当かと思います。今は一般家庭にはあんまり固定電話とかなく、みんな携帯電話かスマホですからね。

地域通信事業も多いですが、これについては個人ではなく法人とかなのかな、と。会社とかは今でも固定電話番号が普通ですから、そこからかけていれば、自然NTTにお金が入るわけですね。

長距離・国際通信事業とデータ通信事業の利益率が悪いのは結構意外です。海外への電話とかかなり高いからがっぽり儲かっているイメージでしたが、そうでもないようです。

しかし、NTTなんて歴史が古くて規模がデカいだけなんじゃないかと思ってましたが、利益率もちゃんとしてますね。。 イメージだけで判断するのは良くないですね。

 

あと、NTTの大きな特徴が大株主です。

元々が国営企業ですから、今でも財務大臣が大株主のトップです。

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これはJTと同じですね。

 JTはちょっと天下りっぽい雰囲気がありましたが、NTTを見てみると、政府系の経歴を持つのは武川氏のみでした。

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そしてこの方に関しては天下りというより、元男女共同参画局長である点が大きい気がします。

NTTは女性管理者比率の目標を掲げていますから、社外取締役として元男女共同参画局長で、現在は昭和女子大学教授の武川氏を招くのは、別に違和感はない気がします。

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政府関係者だから、という印象はないですね。

で、よく見たら関連当事者の注記にその旨の記載がありました。

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日本たばこ産業の場合は、日本政府が株を持っていなければならないですよ、という事しか言っておらず、暗に政府の介入があることを示唆してます。

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同じ政府が権力を持つ会社でも、JTとNTTの関与レベルの違いは明らかです。こういう所にも会社の体質が表れてくるんじゃないかと。

 

余談

 

ビジネスも政府もおおもとの目標は人々の前進と幸福の最大化である点は同じです。

しかし、そこに向かい合うスタンスは真逆です。

ビジネスは経済合理性に見合わない行動は極力排除し、採算の合わない部分は次々に切り捨てねばなりません。それが短期的には厳しい選択であっても、長い目で見れば社会の新陳代謝を促し、幸福の最大化に繋がります。

一方で政府は経済合理性に見合わずとも、それを理由に弱者を切り捨てる事はしません。特に日本は全ての国民に対して基本的人権を認めており、如何なる理由であれそれを切り捨てる事は許されません。

ビジネスは常に経済合理性に沿った取捨選択を迫られ、政府は切り捨てず救済する方法を求められる。

この二つの組織の価値観の相違は、そこに所属する人の考え方に強い影響を与えますから、意思決定の地位にそれぞれ違う立場の人間を配置するのは大いなる誤りであると当ブログでは考えます。

政府の人間が企業に天下るのは問題だが、ビジネスの人間が政に進出するのはアリじゃないか?という意見も聞きますが・・・某アメリカ大統領のケースを考えるとう~ん・・・という感じです。あれはまさに政治において、経済合理性や選択と集中を進めてしまった結果ではないかと。

NTTの経営に政府が関与しないというのは、政商分離という観点から、非常に良い事だと思います。
 

 

 

業績推移

利益率の推移は14.8%⇒14.1%⇒13.2%

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業績はあまりコメントする事も無いんですけど、2017年からIFRSに移行してます。

これまたなんか意外。お堅くてそう簡単に変化しないものかと思いきや会計基準をぱっと変えてしまうんだ、と。

しかも変える前は米国会計基準っぽいです。

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多分米国基準を採用していたのは以下が理由じゃないかと。

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沿革見てみたら1994年にニューヨーク証券取引所に上場してます。

今でこそ日本基準ってIFRSや米国基準と大差ない(個人的には今はむしろ日本基準の方が妥当と思います)感じになってますが、1990年代前半は海外の基準に比べて全然整備が進んでなくて、日本基準自体が国際的に信頼されていなかったと聞いたことがあります。

会計基準 - Wikipedia

日本の会計基準の中心となる「企業会計原則」は、戦後の民主化政策の一環として1949年に制定されたものである。その後、企業会計原則だけではカバーしきれない論点(連結財務諸表など)について、新たな会計基準が追加されていった。

1990年代後半の会計基準の追加(あるいは改正)は、主に会計基準の国際的調和という観点に基づくものである。いわゆる金融ビッグバンの一環として「会計ビッグバン」とも呼ばれる会計基準の大改正である。

 

1994年にニューヨーク証券取引所に上場するなら、当時の日本基準に準拠したままでは上場はできないため、米国基準に移ったのかな、と。

さらに2017年には会計基準の主流であるIFRSに移行したのでしょうね。

別にここから何か言えるわけではないのですが、本当に「ちゃんと」してるな、と。

私の中でNTTって変化を嫌って、とにかくお堅くて古臭い「The お役所」のイメージしかなかったので、こういった柔軟な対応をしているというのは意外です。

 

 

 

財務指標

NTTは継続的な配当の実施と、資本効率の向上(おそらくROEのこと)が指標となるようです。

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再生可能エネルギーの活用とか、女性管理者比率とかはちゃんと目標設定しているのに、財務指標については具体的な数値設定が無いのはイマイチです。。

しかし、配当や自己株式の取得をすることでROEを向上させる、という目標そのものは、NTTのように規模が大きく成長余地の少ない企業の目標としては的を射ています。

 

 

 

キャッシュフロー

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フリーキャッシュフローは安定して黒字です。

問題なさそうですね。 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び同等物が1.0兆円(4.5%)と全体の比率から見るとかなり少ないです。少ないといっても現金および同等物が1.0兆円もあるわけですから、現金が少ないというより、他の資産規模が莫大すぎる、ということではないかと。

売上債権の金額は3.5兆円(15.2%)で滞留は108日ほどです。3か月以上とちょっと長いですね。ただ、注記を見てみるときっちり信用リスクを管理して内容を開示しているので、問題ないのかな、と。きっちりしてるな~

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売却目的で保有する資産が1.3兆円(5.9%)あります。前年対比で5.6倍くらいになってます。そもそも売却目的で保有する資産ってなんなのか。以下説明。

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なるほど・・・。これはまた良い兆候です。

常に既存のビジネスについて、継続的使用と売却取引による回収価額を比較して、より良い方を検討している事になります。

減損の判断とかは実際この比較をするわけなんですが、実際にしっかり売却目的で保有する資産を分けて記載している会社はあまり見ません。金額から見ても、かなり大規模なリストラクチャリングですし、これはなかなかできるものではないと思います。

有形固定資産は9.1兆円(39.5%)とかなり多いですね。工場を抱える企業と同じくらいの水準です。内容を確認します。

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基地局とか電信柱とかなのでしょうね。

電線とか電信柱って普通の機械設備より構築物の分類でしょうから、耐用年数が長く、回収に時間がかかると思われます。

となれば、資金繰りはかなり厳しい筈。

勿論歴史の長いNTTですから、それなりの純資産は積んでいるとは思いますが、負債なくしてこれだけの固定資産を維持するのはキツそうな気がします。

無形固定資産は1.7兆円(7.4%)です。

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ほとんどがソフトウェアですね。

減損テストなども毎期行われているようですから、無駄になりそうなものはそれなりに排除していっている印象です。

投資不動産は1.1兆円(4.8%)あります。

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賃貸オフィスビル等を持っているようです。

昨今のコロナによってここがどれくらい減損を生じさせるかが気になるところです。NTT全体から見れば軽微かもしれませんが、元々の金額が金額ですからね。。

しかし1兆円越えの資産ですら全体の比率では4.8%にしか当たらないというのが凄いですよね。まさにガリバー企業です。

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債は4.2兆円(18.3%)と結構借りてます。

資産リストを見る限り耐用年数の長い固定資産が結構ありますから、運転資金が必要なのは致し方ない気がします。有利子負債の水準は妥当なものかと。

資産リストを見ているとリスク資産がチラホラ見受けられますから、純資産が棄損する可能性は結構あると思いますが、それでもよほどの事がない限りは問題ない財務基盤を有しているようです。レバレッジもそのあたりをきちんと意識しているような気がします。

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

あくまでNTT本社の人員の給与ですが、922万円とかなり高めです。いいな~。。

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調査前の公務員的なイメージであれば反感を覚えたかもしれませんが、有価証券報告書の内容から伝わってくる「キッチリ感」を考えると仕方ない気がしてます。

これだけの規模でそれなりの利益率を出してますから。。

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色んな優良企業を見てきた私ですから、決して満足のいく率ではないのですが、それでもこれだけの規模でこのROEを出せるというのは立派です。

一方、役員はどうかと言うと・・・

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1人当たり平均49.5百万円ほどです。

会社の規模を考えると良心的な報酬設定です。

従業員の給与や、会社の規模、質などを考慮すると多すぎるってことはないかと。

 

 

 

株主還元

冒頭描いた通りの還元方針です。

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具体的な数値が無いので、配当性向を確認してみます。

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かなり出してますね。

自己株式の取得もちょいちょいやっているようなので、株主還元に関しても信頼できそうです。

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まとめ

個人的なイメージで、私はNTTに対して良い印象を持っていませんでした。

以前スマホをドコモで購入していたのですが、格安スマホに移るという話をしたら、格安スマホはドコモの回線を勝手に使っていて場合によっては差し止められる云々、機械音痴の私には理解不能な話を並べ立て、散々に引き止められてうんざりしました。。

ということで、よほど酷い内容なんじゃないかと思っていたのですが、俯瞰して見る限りでは、かなりきっちりした内容でした。

明朗会計で要所要所がきちんと書かれており、多分これ以上は書けないだろう、という所まで書いてある感じです。全部は読む気にならなかった。。

この辺りはおそらく米国に上場するにあたり、あらゆる要望に応えるように整備したのだろうと推測します。

では、投資先としてどうなのかな、という所を考えるとかなり悩ましいです。

内容からすると信頼できる印象ではあり、業績も規模にしてはかなり立派です。

しかし、規模が大きすぎると、どうしたってざっくりとしか見えないです。大まかに見ると問題なさそうに見えても、どこかに落とし穴がひそんでいるかも分かりません。事業としてかなり難しいのかもしれません。

(実際私はドコモに対してあまり良い印象を持っていない)

さらに将来的な成長可能性を考えた時に、この事業は差別化の難しいコモディティビジネスである上、これだけ規模が大きいと伸び率には限界が出てきます。

巨大な事は力がある事を示すこともありますが、現代ビジネスにおいては弱点となる事がほとんどです。

ゴリアテダビデが並んでいたら、ゴリアテからは離れてダビデをしっかり分析してダビデに賭けるべき、というのが当ブログの意見です。

 

本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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