企業分析アナトールの株式投資

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【5015】ビーピー・カストロール~有価証券報告書の読み方~

結論

英国の石油メジャーBPの販売代理店。英国紳士らしくきちんとBPカストロールの少数株主にも利益を落とす方針のようだが、それもBPに一存に委ねられている点は否めない。

 

目次

 

事業概要

まずはビーピー・カストロールの事業についてです。

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BPカストロールの事業は自動車用潤滑油の販売の単一事業です。

名前から分かる人もいるかもしれませんが、BPカストロールはイギリスの石油メジャー「BP」の子会社です。

BP (企業) - Wikipedia

BP(ビーピー 英: BP plc、旧ブリティッシュ・ペトロリアム 英:The British Petroleum Company plc)は、イギリス・ロンドンに本社を置き、石油・ガス等のエネルギー関連事業を展開する多国籍企業。現在世界の石油関連企業の中でも特に巨大な規模を持つ国際石油資本、いわゆる「スーパーメジャー」と総称される6社の内の1社である。

 

大株主の状況が以下。

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BPの日本子会社が過半数を占めてます。

 

外資本で印象的な会社は、中外製薬ですね。 

元々、当ブログの方針として、親子上場の会社は印象が良くないのですが、中外製薬の場合は優良体質の印象でした。

親子上場の状況であっても、優良体質と判断できた理由は、中外製薬は単に親会社ロシュグループの代理店というわけではなく、自ら創薬に挑んでおり、開発、製造、販売までを独自でやる力があった点です。ロシュから一方的に権利を付与されるだけでなく、逆にロシュに対してラインセンスを付与しているので、「やられっぱなし」にならないだけの力が見て取れました。

マネジメントのインタビュー記事でも、支配よりも提携(アライアンス)の印象の方が強かったため、確かに提携であると理解でき、問題なしと思いました。

状況としては似ているので、BPカストロールのビジネスが親会社であるBPにどこまで依存しているのか、抑えておく必要があるかと。

支配株主に関する事項についての文書を読んでみます。

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ちょっとこれを読んでいる限りでは、一方的にBPからライセンスを付与されている印象です。これは立場としてかなり弱い立場なのではないかと推測されます。

これは結構なマイナスポイントかと。

 

他社にビジネスの収益を依存するというリスク

ビジネスの収益を他社に頼りすぎて失敗した事例として有名なのは、やはり三陽商会バーバリーの一件かと。

三陽商会バーバリー社製のブランドに収益を依存していたのですが、バーバリーが直営での販売に乗り出し、三陽商会とのライセンス契約を終了したことで、一気に業績が悪化しました。

三陽商会 - Wikipedia

1965年(昭和40年)からは、英・バーバリー社製のコートの販売をおこなうようになると共に、1969年(昭和44年)以降はバーバリー他海外のコートメーカーとの技術提携により、各メーカーの製品の国内ライセンス生産へと移行する。またこれと共に、各世代をターゲットにしたファッションブランドの開発も積極的におこない、現在も女性向けブランド「EPOCA」や「FRAGILE」に代表される多数のファッションブランドを展開してきた。

大きな転機となったのは、2015年(平成27年)6月30日付でのバーバリー社とのライセンス契約の終了である。これにより日本におけるバーバリーの販売は英国本社が日本法人を通じて直営展開することとなった。

 三陽商会は2016年以降の業績が急激に悪化しています。

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三陽商会は2021年現在まで業績悪化は続き、復活のビジョンは見えていません。

 

ビジネスの主力を他社に依存している場合、こうしたケースが起こりうる事を忘れてはならないと思います。いつBPが自分の法人による収益を独占しようとするか分からないかと。(しかも、BPカストロールが儲かれば儲かるだけそのリスクは高くなる)

BPカストロールにはBPの資本が入っているので、BPカストロールが利益をあげればBPも儲かるわけですが、少数株主持ち分の利益を取りこぼしている事は事実です。いつ、その取りこぼしを回収しにくるかと思うと、今の業績がそれだけよかろうとも安心できません。

セグメントの状況

BPカストロールの事業は単一事業ですからセグメント別はありません。

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ただ、主要な顧客はオートバックスセブンがあり、この売り上げは全体の1/3ほどを占めるようです。一般消費者に直販する事はなかなかないでしょうから、一般消費者向けの製品はカー用品店に売っているのだと思われます。

 

 

 

 

業績推移

利益率の推移は25.0%⇒23.7%⇒19.4%⇒20.4%⇒22.6% 

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基本的に素晴らしい利益率なのですが、売上は減傾向です。

直近の売上減は、売上が大幅に下がっている割に経常利益がほとんど下がっていない奇妙な形です。理由を経営者の分析で確認します。

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新型コロナウイルスの影響はカーオイルには間違いなく打撃があると思うので売上減は納得です。ただ、なんで売上総利益がほとんど変わらないのかな、という所で、原油価格下落と聞いてピンときました。

確か2020年4月くらいに、コロナによる景気後退を懸念して一時原油価格がマイナスになるというビックリイベントがあったんですよね。。(その時の記事が以下)

BPカストロール原油からカーオイルなどを精製して売るわけですから、そりゃあ原材料価格が下がってウハウハになりますね。

売上は勿論落ちるのでしょうが、それ以上に原価が落ちるというわけですね。。

そう考えてみると原油価格暴落は、BPのような原油の採掘企業にとっては痛手ですが、BPカストロールのような中間加工者にとってはかなりの増益要因になり得るのかな、と。これはBPカストロールに限った話ではないので、一つ収穫ですね。

 

ちなみに2018年3月期に利益率が結構落ちているので、理由をを確認します。

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やっぱり原材料価格上昇の影響みたいです。

原油価格 金先物価格 リアルタイムチャート

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確かに値上がり傾向だけれども・・・そんな大層な上がり方はしてなさそうですけどね。。これでも悪化するのか。。

いずれにせよ同社の利益は原油価格に強く影響を受けるようです。

これに関しては誰にもコントロール不能ですから、マネジメントの責任ではないですが、ビジネスモデルの弱さを感じます。

 

 

 

財務指標

BPカストロールの指標は特定の指標ではなく業績目標プラス潤滑油市場のシェアです。。

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財務指標による体質管理をしているようには見えません。現状維持の延長という印象です。シェア5%ってそれほど高くもない気がしますし。良くしていこう、という意欲はあまり感じないですね。。
 

 

 

キャッシュフロー

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営業活動によるキャッシュフローの割に投資活動キャッシュフローがえらく少ないです。これは典型的なモノを仕入れて売る、代理店ビジネスの数字じゃないかな、と。

つまり自身で設備投資や研究開発等はしてないという事ではないかと。

一応重要な契約と研究開発費用をチェックしてみます。

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やはり・・・典型的な代理店ビジネスですね。

これはBPへの依存が強く、あまり独立性を担保できてない気がします。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び預金が1.7億円(1.2%)と、滅茶苦茶少ないです。

ただ、その代わりに、短期貸付金が93.5億円(67.5%)あります。

注記を見れば分かるんですが、この貸付金はBPグループのインハウス・バンクへの貸付です。

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インハウス・バンクというのはグループ内での金融子会社を指し、要するにCMS(キャッシュマネジメントシステム)のグローバル版です。

グローバル企業になると、多くの国でビジネスをしますが、資金配分の最適化のために金融子会社を作って、余剰資金を吸い上げ、適切な地域に融資したり資産運用したりします。アジアだったらシンガポールとかに集めるのが一般的です。

石油メジャーのBPグループならあって然るべきかと。

という事で、これに関しては短期貸付金はあくまで余剰資金をBPのインハウスバンクに預けているだけなので、実質現預金と同じ扱いでも良いと思います。

しかし一方で、こういうCMSに組み込まれているという事は、BPカストロールの自由意思で資金を使えない可能性もあります。つまり、親会社の指示で、株主に全然還元しないという選択肢も可能ではないかと。

親会社からすれば短期貸付金という形でキャッシュは吸い上げられるわけですから、わざわざ配当という形でBPカストロールの少数株主を儲けさせる必要はない気がします。

となると配当性向(投資家にどれくらい金を落としてくれるか)がどれくらいで推移しているかをチェックしておく必要があります。配当性向は以下。

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( ゚Д゚)

利益を100%以上還元しとる。。意図的に純利益に合わせてますね。すげー。

これは立派な方針ですね。

きちんと日本の法人で稼いだ分のお金を少数株主にも分配する気満々です。こういう事をしているなら、BPの方針は信用できます。

とはいえ今後もそうあり続ける保証はなく、BPの匙加減という気がしますから、リスク要素としては認識しておくべきかと思います。

有形固定資産は2.2億円(1.6%)でわずかです。一応詳細確認

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本社のみ、BPカストロール自体が無駄のない物流拠点といった印象ですね。

逆に言えば、BPから独立という可能性は皆無かと。

前払年金費用が5.8億円(4.2%)あります。

これは、BPカストロールが社員の退職金に充てるための拠出運用資産と、支払うべき債務との差額です。

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これはおそらく確定拠出制度(会社の拠出額が決まっている制度)ではなく、確定給付年金(社員に給付する額が決まっている制度)のため、仮に資産運用が失敗したら会社側が補填しなければならないようです。

2018年の時、株価の下落分を追加で拠出していることをにおわせる文言がありました。

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つまり株価が暴落して年金資産が減少した場合、会社はその分退職給付費用が増える事になるという事じゃないかと。これはちょっと制度として怖いですね。

あと、退職金に絡んでもう一点。

このコロナ禍でBPカストロールは早速早期退職を募集して人員整理をしているようです。

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このあたりはいかにも外資系らしくてさっぱりしてますね。

ただ、体質的には賛成です。仕事が無かったり適性がないのに無理にでも勤めさせようとする日本式の雇用体系の方が、私は結果的に全員を不幸にすると思います。

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債はゼロの無借金です。

あれだけ貸付金があるわけですから当然ですが。。

純資産は109.7億円(79.2%)で財務は盤石です。

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

勤続年数は長めで給与もそれなりですね。

販売代理店という立場上、過度な付加価値を求められる事もなさそうですし、目標も緩そうなので、無難な金額なのかな、と思います。

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一方、役員はどうかと言うと・・・

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取締役の一人当たり平均は13百万円です。

上場企業の役員報酬としてはかなり少ない方ですが、これもまた会社の性質上致し方ないのかな、と。

 

 

 

大株主の状況

大株主の状況は既にやったので飛ばします。

 

 

 

株主還元

 

先に書いた通り配当性向100%の会社なので、その通り書いてます。

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サラっと書いてますけど結構凄い事だと思います。

BPが今後ともこういう方針を貫いてくれれば良いと思います。

 

 

 

まとめ

BPの日本地区販売代理店という印象です。あくまで代理店業なので、企業としての意思や情熱、向上心はあまり感じらず淡々と収益を稼ぐスキームのイメージです。 

それでも現状で十分に利益率は高く、少なくとも今のところはBPの方針としてもきっちり配当を出してくれる方針のようです。この状況が続くのであれば、投資妙味のある会社さんだと思います。

ただし、BPの状況や原油価格、或いは今後の自動車市況の低迷、売上の減少などといった懸念材料も結構ありますから、投資するならそういったリスク要因を理解したうえで投資することをお勧めします。

 

本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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