結論
目標の設定の仕方は良いが、実際の行動が伴っていないように感じる。少なくとも現状は黄色信号。ただ、将来的に課題が改善されるなら大きな飛躍する可能性高し。
目次
事業概要
まずは相模ゴム工業の事業についてです。
相模ゴム工業の事業はヘルスケア事業、プラスチック製品事業、その他の3つです。
ただ、この説明だけですと分かりにくいので、セグメントの状況説明のところを見ます。
ヘルスケア事業はコンドーム等でプラスチック製品事業は食品用包装フィルム等のようです。
コンドームはニーズがなくなる事はまず無いですし、なんとなく性的なアイテムは儲かりそうなイメージがあります。数値を確認してみましょう。
セグメントの状況
相模ゴム工業の事業は先の3事業です。
ヘルスケア事業:49.7億円(75.7%、利益率33.5%)
プラスチック製品事業:13.3億円(20.3%、利益率6.0%)
その他事業:2.6億円(4.0%、利益率▲40.6%)
あからさまにヘルスケア事業の収益割合が高く、利益率もヘルスケアだけが高いです。
当ブログの方針に照らせばプラスチック製品事業とその他事業は撤退すべき事業かな、と。
なぜ、低利益率や赤字が顧客、社員、株主にとって望ましくないのか。|フリーランスのエクセル屋さん|note
そもそもどういった意図で事業をやっているのかも確認してみます。
本質を突いた方針のように感じます。
「量的追及に主眼を置かず、利益の最大化に重きを置く」の部分もポイント高いです。
企業における方針は経営者と社員が仕事に打ち込むうえで目指す指針です。そして指針というのは「やること」よりむしろ「やらないこと」を明確に打ち出す事で、やるべきことが明確になったりします。
例えば「全部頑張ろう!」って目標を掲げられたところで、社員はむしろ今頑張ってないと言われてるようで正直イラっとしないでしょうか。私はイラっとします。
一方で「量を追う事はしません」という目標を掲げれば、「大量に売れる廉価品よりむしろ少数でも心に刺さるような付加価値の高いモノを作る事にフォーカスしているのだろうな」となんとなく製品開発、生産、販売の方針が見えてきます。
これは組織の方針として重要な部分です。
相模ゴム工業の方針は好感が持てる内容になっていると思います。
しかし一方で、現実の利益率からすると、プラスチック事業やその他事業は明らかに利益率が低いか赤字です。それは6年前から変わってません。
付加価値のサービス、製品を重視するという方針からすれば、利益率という概念はまさに達成しておかねばならない基準です。将来的に達成できる見込みがあるなら良いですが、特に展望もないのに継続しているのであれば、それは看板に偽りあり、で経営の質としいてはマイナスです。
あと、ちょっと気になったのが、同社サイトを見るとコンドームが主力のように見えるのに、有報ではあえて「ヘルスケア」とちょっとぼかしているような印象があります。もしかすると、コンドームという商品の性質上、性的な商品という事で世間にアピールし辛いため、類似の技術を使った他の事業もやることで、製品そのものより技術の会社、という印象を作りたい意図もあるのかな、と感じました。
(これは勝手な推測なので違ってたらごめんなさい)
ただ、個人的にはどれだけ技術的に応用が利いても、利益率が低く、ニーズが無い事にリソースを割くのは経営者として良くないんじゃないかと。
なぜ、低利益率や赤字が顧客、社員、株主にとって望ましくないのか。|フリーランスのエクセル屋さん|note
そのビジネスが高い収益性を保っている限り、そこには間違いなくその製品やサービスに価値を感じ、必要としている人がいるハズです。高付加価値を顧客に提供できる自社のビジネスについて胸を張って、高い利益率の事業に集中してほしいなと。
例えばコンドームのビジネスで言えば、「人々の性生活を豊かに」「子作りを計画的に」することのできる重要で、誰にでも誇れる素晴らしいビジネスだと思います。
少なくとも、その製品やサービスについて理解の無い人々の世間体とかを気にして収益性の低い事業に進出したり、曖昧にお茶を濁したりする必要はないと思います。
相模ゴムの方針には付加価値の高いビジネスをする事を示唆する事が書かれているので、粛々と選択と集中を実行に移していってほしいな、と思います。
余談
世間に喧伝し辛いビジネスを見て思い出すのはR・J・レイノルズとフィリップ・モリスのエピソードです。かつて日本よりも喫煙者に厳しいアメリカで、たばこビジネスを展開していた2社は、ある時期の方針が真逆だったそうです。
2社が同じくらいの規模だった頃、R・J・レイノルズは世間の印象の悪いたばこビジネスに見切りをつけ、多角化という道を選んでどれもうまくいかず衰退し、愛煙家の経営陣が率いるフィリップ・モリスは断固として愛煙家の権利を守るために積極投資した結果、急激に成長したらしいです。
このエピソードから得られる教訓は以下ではないかと。
「顧客でもない世間の顔色を見てビジネスをしてはならない」
「世間」なんてものは本当にあてにならないです。
酒が違法だった時代もあれば、大麻が合法な国だってあります。
世間にはウォルト・ディズニーの作品を見続ける子どもを不健康だと罵る人もいれば、マクドナルドのハンバーガーを食べて体調を崩したという人もいます。
しかし、それ以上の人々を幸せにして、高い収益性を継続する事ができているなら、それは誰が何と言おうと偉大な会社で、胸を張るべきサービスであり製品です。
一時代、一地域の倫理感に捉われず、社員の方々が自分たちはこれだけの利益を上げているんだ、これだけの付加価値の高い仕事をしているのだ、と堂々としてもらうのが、経営者の手腕であり会計の一つの役割ではないかと、ブログ主は思ってます。
業績推移
利益率の推移は11.0%⇒27.1%⇒30.0%⇒14.6%⇒20.3%
売上は右肩上がりなのに利益がえらく暴れてますね。
一番利益率の変動が激しい2018-2019年を確認してみます。
先ず目につくのは売上が伸びているのに粗利率が落ちている事です。
47.5%⇒42.1%
おそらく何らかの理由で原価が膨らんだのだと思うのですが、相模ゴムは製造原価計算書が無かったため内訳が無く、原因が分かりません。
で、さらに下に目をやってみると、為替差損益が凄いです。
そこで「あ~そういう事か」と気づきました。
結論から言いますと、相模ゴム工業は海外でものを作っているので売上原価が外貨建になっているため、為替の影響で毎年売上原価が増減しているのではないかな、と。
連結売上が為替で増減するケースは以前、売上のほとんどが海外のシマノで説明しましたが、売上原価が海外というのは初めてだった気がします。
一応注記で換算基準を確認します。
ですよね~。
裏どりのために関連情報を見てみます。
やはり、売り先はほとんど日本なのに、有形固定資産はマレーシアが多いですね。
一応設備の詳細も見ておきます。
日本でもいくつか工場はありますが、マレーシアのコンドーム工場がぶっちぎりですね。規模が桁違いです。
すなわち、相模ゴム工業はマレーシアで作って日本で売るというビジネスモデルで、マレーシアで作っているから原価が外貨建てになってて、連結決算で日本円に換算する際に、外貨の動きによって粗利が増減するというわけかと。
そこに債権債務の為替差損益が発生していたら、そりゃあ利益が荒れますね。
こういう外貨建の取引が多い会社さんのBS、PLは単年で見ても為替影響がデカいので、数年単位の平均とかをとってみた方が良いと思います。
平均を取って考えると利益率はざっくり20%くらいのビジネスなのかな、と。
十分高い水準かと思います。
ただ、正直コンドームだけにリソースを集中すればもっといい業績になるんじゃないかな、と。
財務指標
相模ゴム工業の指標は利益率と純資産比率、そして安定した配当です。
利益率に財務健全性、そして株主還元と、質的にバランスの取れた指標を掲げていると思います。
さらに方針の中でも書かれていた通り、ここでも売上は追わず利益率重視、というのも一貫していて合理的です。
ただ、外貨建取引の都合で利益が変動するにしても、おおよその目安としてどれくらいの利益率を目指しているのかくらいは具体的に示してほしいところです。
でなければただ言っているだけなのか、本気で目指しているのかが分かりにくいです。実際、セグメント別で見てみるとプラスチック事業などはずっと赤字が低い利益率で継続しているわけですので、本気で目指す気があるのか分かりません。
キャッシュフロー
営業C/Fも結構荒れてますし、投資C/Fは営業C/Fを超過している年が多いですし、財務C/Fはプラスが多いです。
営業C/Fと財務C/Fで吸い上げた金を投資C/Fにガンガン入れていく感じですかね。
中々強気の資金戦略です。傾向の顕著な2、3年前の投資C/Fの内容を見てみます。
定期預金のような「なんちゃって投資」ではなく、しっかり有形固定資産への投資です。経営者の分析を見るにマレーシア工場の増強、設備の更新のようです。
確かに売上はこの5年右肩上がりですから、増産や設備の更新は違和感ないですが、それにしても急激に増やしすぎな気がします。
その資金はどうやって集めているのかというと・・・
借入によって集めているようです。
指標の中で純資産比率を入れていたので、あまり借入をしない会社さんなのかと思ってましたが、そういうわけではなさそうです。
良くも悪くもこういう投資C/Fが営業C/Fの枠に収まらない会社さんは、キャッシュフローを統制する機能が無く、トップの意向が強くてあまり安定性がない傾向があります。景気の伸びと投資がうまくミートすれば大きく伸びるでしょうが、外した時はかなり怖いです。自己資金ならまだしも借入金ですから、逆風が吹いたときにどうなるのかが少々不安です。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び預金が15.7億円(9.7%)と少な目です。
工場を持つ会社にしても結構薄い印象です。
売掛金及び電気記録債権が24.6億円(15.2%)で滞留期間は137日、結構長いですね。
棚卸資産は15.1億円(9.3%)で棚卸回転期間は152日 。これも長い。
これに加えて固定資産98.7億円(61.1%)もあるわけですから、諸事情があるのかもしれませんが資金繰りかなりキツいでしょうね。。
ちょっとこれは財務的な統制が利いてない懸念がありますね。。
儲かっている時は大丈夫でしょうが、景気が悪化して在庫とか滞留して工場の稼働率が落ちたら一気に減損とかになる可能性が高いです。2021年3月期も大型の投資を計画しているようですし、お金は大丈夫なんかな、と。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は56.8億円(35.2%)と結構あります。あれだけ滞留期間の長い資産リストだと致し方なしという感じですが、不景気はかなり苦しくなる水準じゃないかと。
純資産は72.1億円(44.6%)と、割合としては低いですね。
目標に純資産比率とあったのでこれは意外です。
利益率の件もそうでしたが、指標の立て方は的を射ているのに行動が伴っていない感がありますね。
従業員の状況、役員報酬
勤続年数は長めですが、給料水準がサービス業並みですね。。
あくまで提出会社の状況なので、マレーシアの子会社の分は入らず統括会社での給与でこれですから、かなり低い気がします。
一方、役員はどうかと言うと・・・
取締役の一人当たり平均は10.5百万円です。
かなり少ないですね・・・。というか取締役多いですね。9人も必要だろうか。
あと、気になるのは取締役の中に創業家らしき方が3人名を連ねてます。
当ブログの方針として、同族による経営はマイナスポイントです。
給与水準から見て、創業家がありえない報酬を受け取るような無茶はしていないとは思いますが、それでも長男の賢介氏が若いうちから要職を任されるというのは、会社の仕組みとしてリスキーです。現社長の一郎氏も入社二年後には社長室室長になってますし、明らかに同族による経営支配が根付いてる印象です。
大株主の状況
大株主の中には先の役員お二人と相模産業があります。
あまり情報がありませんが、相模産業は創業家の会社ではないかな、と。
関連当事者情報を見ておきます。
製品の販売代行をしたり不動産賃貸をしている会社ですから、創業家の資産管理会社なのかな、と。
株主還元
あくまで高い還元ではなく、安定した還元、というスタンスです。
実際、配当性向はかなり低い水準です。
先に見た通り資金事情がかなり苦しいですから、出したくてもそんなに出せないのだろうな、と。
しかし、こういう所読んでいると、通り一辺倒な書き方でなく、しっかり考えて書いている感じがします。ただ、経営状況がそれに追いついていない感があります。
これ、相応の知識経験を踏まえた財務のプロとかが入って資金繰りを改善すれば、理想に実態が追いつきそうなポテンシャルがあるんじゃないのかな、と。
創業家ベースのマネジメントに収めておくには惜しい会社な気がします。
まとめ
目標はかなり的を射ている気がするのですが、それを実践する意思決定はFCFが赤字になる投資をガンガンしていてかなり怖いです。売掛金や在庫、固定資産といったリスクの高い資産が多いので、その点を見直さないと、いずれ不景気が来た時資金がショートしてしまうのではないか心配です。
現時点では体質的に怖いですが、目標通りの事業の選択と集中を行い、資産を整理すれば大きく飛躍できそうな大きなポテンシャルを秘めている会社ではないかと。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
有料note
2020年の投資、分析をざっくりまとめた有料noteを作成しました。
Free-EX Report(2020年版)|フリーランスのエクセル屋さん|note
買って頂けるととても嬉しいです。
企業分析リンク
www.freelance-no-excelyasan.com