企業分析アナトールの株式投資

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【2130】メンバーズ~有価証券報告書の読み方~

結論

目先の成績は優良。還元方針も好ましい。ただし、潜在的に事業体質の悪化が進んでいるように思える。人材の待遇改善について検討が必要ではないかと。

 

目次

 

前置き

メンバーズは調査対象外でしたが、読者様にリクエストされたため調査します。

 

事業概要

まずはメンバーズの事業についてです。

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メンバーズの事業は、以下3つのようです。

  1. EMC事業:大手企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進
  2. デジタル人材事業:デジタル系人材派遣
  3. その他事業:障がい者雇用支援、再生エネルギー発電事業

事業内容を見た時のキーワードはDXかな、と。

AI・RPA・DXは日本企業で今流行りの単語で、私の会社でも良く叫ばれてます。

【保存版】DXとは|日本企業の正しいデジタルトランスフォーメーションの進め方

かなり注目度が高く、盛り上がっている業界と考えられます。

 

これまで分析した会社でDXに関りがあるのが、AI insideやPKSHAです。

20世紀末に劇的に登場したパーソナルコンピューターやEXCELのような表計算ソフトは、人間の計算能力や事務処理能力を補い、仕事量を減らす事ができるため爆発的に広がりました。これはおそらく人類史上でもかなり革新的な出来事の一つに数えられる事象ではないかと思います。

今回のDXブームに対して、その延長線上のイメージを持っている方も少なくない気がしますが、個人的にはこの業界全般に対して私は正直懐疑的です。

今のところは時代に置いて行かれまいと、スポンサー企業が金を惜しまないため業界が潤っていますが、その効果が見込めない事が分かり一度熱が冷めた時、どこまで落ち込むのかは見えない怖さがあります。

実際、AI insideもPKSHAもその成長に疑問符がついてますから、現状の業績がどうあれ、その点は懸念として持っておく必要があると思います。

ただ、メンバーズは元々サイトデザイン制作とマーケティング支援の企業なので、その能力を活かしたDX(マーケティング、情報収集用のサイト作成、運営など)が主力と思われます。その点では、最近急激に成長してきたAI・RPA分野のDXよりは業績に信頼性があるとは思います。

 

あと、個人的にはその他事業の存在も気になります。

障がい者雇用支援、再生エネルギー発電事業は、いずれも自身の事業の社会的意義や収益性に自信がなく、本業に集中できない会社が手を出しがちな事業です。

本業として集中してやるならともかく、本業とあまりリンクしないのにこういった事業に手を出してしまうというのは質的に疑問符です。

 

セグメントの状況

メンバーズはネットビジネス支援事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略してますが、売上収益を分けているようです。

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  • Web製作:113.7億円(94.1%)
  • 広告:7.0億円(5.8%)
  • その他:0.2億円(0.1%)

 こういう売上の分類をしている所を見ると、最近のビックウェーブであるDXというパワーワードに乗っかるためにDXという触れ込みをしているだけで、1990年代からずっとあるWeb製作とマーケティングの会社なのかな、と。

 

 

 

業績推移

利益率の推移は10.1%⇒9.0%⇒10.9%⇒11.7%⇒10.3%

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利益率はあまり高いとは言えません。

しかも、5年前に比べると売上が倍になっているにも関わらず、利益率が変わらないというのも気になります。Web製作という事業の性質上、売上はマンパワーに依存する筈。売上が倍になり、しかも利益率が変わってないという事は、人員数も倍になっている事になります。

人員数を確認してみると・・・。

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やはり、明らかに急増してます。

人件費というのは最も削るのが難しい経費の一つで、売上が下がったところでおいそれと削る事はできません。となれば売上が少しでも減れば利益率は激減、下手をすれば赤字転落のリスクがあります。

ただでさえ新たな人員は教育などに時間を要し、製品・サービスの質に影響するため、

人を採用するのは売上の伸びより、ゆっくり慎重に行うのが経営の基本です。

しかしメンバーズの場合は、売上よりも明らかに早いペースで人が増えてます。

マネジメントの質が不安です。

 

 

 

財務指標

同社グループの指標はデジタルクリエイター数、売上収益で、還元方針としてはDOE5%を目指しているようです。

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株主還元方針の「DOEは5%」という目標は良いと思います。

具体的ですし、純資産対比で配当を決めるのは良い傾向です。

しかし、他の指標は正直不安です。

グループ全体にしても事業別にしても、全体的に絶対数値しか見ておらず、効率の観点が抜け落ちています。この方針では、売上が伸びても利益率が伸びないのも当然です。

売上が伸びても固定費が膨らんだ場合、損益分岐点が上がるわけですから、会社の体質としては悪化する筈。これまた傾向として心配です。

 

 

 

キャッシュフロー

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営業CFは順調です。

投資CFは3、4年前に荒れてます。

事業内容がWeb製作と運用ですから投資はサーバー程度な筈なので、何らかの買収なり投資なりをしているのかな、と。見てみます。

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先ず4年前は子会社の取得をしている模様。

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ポップインサイト社という「ユーザーがWebサイトを利用する模様を動画形式で把握することのできるユーザー調査ツール」を作っている会社さんを子会社化したようです。

本業のWeb製作をサポートする機能のようですから、質的には問題なさそうな事案です。発生したのれんも1.2億円ほどなので、メンバーズの利益を考えれば、全損してもクリティカルなダメージには至らない規模です。

これについては問題ないかと。

 

3年前のその他投資の収入は、はっきりとは書かれてなかったですが、D.A.コンソーシアムホールディングス株式会社ではないかと。

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同社は2018年10月に博報堂の完全子会社となってますから、持ち分について売却したものと思われます。これもやむを得ないので問題ないかと。

 

キャッシュフローの動きに特別おかしな部分はなさそうです。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び同等物が41.4億円(47.9%)と十分な水準です。

売上債権の金額は28.4億円(32.9%)で滞留は86日ほどです。企業向けのサービスですから、これくらいの滞留は違和感ありません。

IT企業らしくシンプルな資産リストで低リスクです。

 

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債はゼロです。キャッシュフローに余裕があるわけなので、有利子負債を借りる必要性はないでしょう。

その他の流動負債が19.7億円(22.8%)と結構割合が多かったので一応内訳を確認。

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特別リスクのあるものはないと思いますが、未払有給休暇がありました。

これは珍しいな、と。

有給休暇引当金とは? IFRSと日本基準の違いまとめ! 計算式と計算方法 - カオナビ人事用語集

有給休暇引当金とは、「未払有給休暇」とも呼ばれ、決算時に算出される負債性引当金のことです。その年に従業員に対して給付された有給休暇のうち、未消化の有給休暇の残高日数に対して各日給を乗じて算出を行います。つまり、消化されていない有給日数のことを、「企業が負うべき債務」と考えて債務計上を行うのが有給休暇引当金です。

日本では有給休暇を取らないでいると、どんどん消えていくだけですが、海外では有給休暇を取らないと、有給休暇を会社が買い取らないといけないと聞いたことがあります。メンバーズではちゃんと書い取る制度があるのかもしれません。いいな~。。

有給休暇が消えていって企業の得になる制度だと、 滅私奉公を美徳とする日本人のメンタリティでは、ついつい休まなくなるので、働き方改革を標榜する企業は、どんどん採用してほしい制度だな、と個人的には思います。

そういう部分も日本の労働生産性の低さを助長しているのではないかと。

純資産は46.1億円(53.4%)です。

パーセンテージとしてはそれほど高くないですが、資産にも負債にも大きな問題は見当たらないため、文句なしの水準です。

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

給与が31歳で460万円とかなり低めですね。ここ数年で倍以上になっているので仕方ないとはいえ、勤続年数3.1年で大丈夫なのか心配になります。

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正直従業員の待遇については不安しかないです。

事業リスクでも触れられてますが、Web製作やマーケティングという仕事は人材の確保が最も重要です。だから大量に採用したいというのは分かりますが、大量採用して待遇がこれでは、果たして優秀な人材は本当に残るのか疑問です。

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それこそWebサイト制作など、PCがあればできる事業なので、優秀な人間なら低賃金で働かず、フリーランスなどに転身できてしまいそうなものです。正直、採用を増やすより待遇を良好にすることの方が重要ではないかな、と。


一方、役員はどうかと言うと・・・

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1人当たり平均31百万円ほどです。社員と結構格差がある印象です。

ROEは20%前後となかなかの高水準ですから、株主にとっての評価とすれば悪くありません。

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しかし、従業員があの水準では、搾取しているという誹りをされる恐れもありますし、例えば 労務上の問題を抱えるリスクもあります。労基署に誰かがそれを訴え出て問題になれば、給与は上げざるを得ず、業績に大きな悪影響が起こる事も考えられます。

 

 

 

大株主の状況

創業者の剣持氏とその資産管理会社で24.53%を持っているようです。

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結構な影響力ですから、不公平な力を行使していないか確認です。

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剣持氏自身は特に取引は無いようです。

もう一方の大株主であるデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社が取引をしているようです。同社は先に出てきたD.A.コンソーシアムホールディングスの子会社で、メンバーズの役員を同社の役員が兼任していましたが、21年6月で任期満了になったようです。

2018年まではメンバーズ側も株を持っていたため、相互持合いの関係だったのでしょうが、2018年で売却し、今回役員の兼任も解かれ、少しづつ関係が離れてきたようです。

いずれはデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社も大株主から名前が消える事も考えられます。

当ブログの評価的には持ち合い株式は資金効率の悪化に繋がるという観点から、関係性が解かれるのはポジティブな変化という印象です。

 

 

 

株主還元

DOEを5%と設定し、なおかつこれを達成しています。

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同社がROEをそれなりに高水準に達成し続けているのは、単に増益しているだけでなく、DOEベース配当還元する事で、純資産を適切な割合で削っている事が理由と考えられます。

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これは還元の方針として好印象です。

 

 

 

まとめ

株主還元の方針と実際に出している利益率は悪くないと思います。しかし一方で事業領域の曖昧さや、事業自体の性質に不安が残ります。ここ数年の売上増に伴う固定費の増は、損益分岐点を引き上げて収益体質を弱めているように思います。人員増のスピードが早すぎるのは大きめの懸念材料です。

人材というのは企業利益の源泉である一方で、大きな損失にも負債にもなり得るという事を忘れてはならないように思います。もっと経費を人材採用人数よりも待遇向上と採用費用に充てて質の向上を目指さなければ、今後大きなしっぺ返しがあるのではないかと。

 

本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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