企業分析アナトールの株式投資

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【6797】名古屋電機工業

結論

バリュー投資先としてはかなり手堅い投資先ではないかと。トップが株主還元に力を入れて、真剣に民需拡大or撤退に舵切すれば、一気に有望株になる可能性はある。ただ、こういう会社は基本的に変わらない気が。。

 

目次

 

前置き

名古屋電気工業は調査対象外でしたが、読者様にリクエストされたため調査します。

 

事業概要

まずは名古屋電気工業の事業についてです。

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名古屋電機工業の事業は

  • 情報装置システムの製造販売を行う情報装置事業
  • 実装プリント基板の検査装置の製造販売を行う検査装置事業

とのことです。

情報装置事業における主要製品は、ITS(高度道路交通システム)の開発分野に様々な側面で係わる道路交通に関連した「情報収集」から「情報処理」及び「情報提供」までを行うシステム製品が大半。

検査装置事業における主要製品は、電子機器の小型・軽量、高性能化に対応し、レーザー、X線、画像処理などの技術を使用したプリント基板のはんだ付け外観検査装置、実装部品検査装置。

う~ん・・・明らかにBtoB事業です。

素人の私にはそれが凄い製品なのか汎用品なのか分かりませんね。

例によって例のごとく、分からない業界は無理に将来性や事業リスクについては触れず、数値分析をベースとすることで、マネジメントの意思決定や資金の使い道など、その体質に着目して分析を進めます。

セグメントの状況

名古屋電機工業の事業は先に記載されていた通り、情報装置事業、検査装置事業の2つのセグメントに分かれています。

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  • 情報装置事業:204.4億円(94.7%、利益率27.4%)
  • 検査装置事業:11.5億円(5.3%、利益率▲27.8%)

主力の情報装置事業はかなりの利益率です。

一方で検査装置事業はかなりの赤字ですね。新規参入で先行投資中、というなら仕方ないですが、この事業って6年前も赤字みたいです。

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一応6年前からの検査セグメントの実績を追ってみましょう。

2016年:15.9億円(利益率▲29.6%)

2017年:13.5億円(利益率▲47.4%)

2018年:25.3億円(利益率▲9.1%)

2019年:31.6億円(利益率11.6%)

2020年:24.7億円(利益率9.6%)

2021年:11.5億円(利益率▲27.8%)

これはかなり厳しい状況です。

19年-20年にようやく黒字化したかと思いきや、21年に再び赤字転落。

売上としてもかなり波があるようですし、あまり安定したビジネスになりそうな雰囲気はありません。当ブログの考えからするとリストラ対象とすべき案件ではないかと。

なぜ、低利益率や赤字が顧客、社員、株主にとって望ましくないのか。|企業分析アナトール|note

ただ一方で、この事業を経営者が切れない理由もあるのではないかと。

事業リスクにこういう記述がありました。

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情報装置事業は主に官公庁向けの製品であり、検査装置事業は自動車関連やエレクトロニクス機器関連という事です。

推測ですが、名古屋電機工業は得意先を官公庁だけでなく民需向けの事業を加える事でリスクヘッジしようとしているのではないかと。官公庁向けの製品だけ作っていると、国の財政政策次第でどうとでもなってしまうため、民需の製品を手掛ける会社さんは多いです。

一部の売先に依存しないよう分散するのは経営者が採るべき施策の一つであり、それ自体の意思決定は無難かと思います。ただ、現状まで赤字を繰り返し、売上も安定しない状況を見るに、早急に事業内容を見直す必要があるのではないかな、と。

いずれにせよ何らかのリストラクチャリング(再編成)が必要かと。

 

 

 

業績推移

利益率の推移は1.7%⇒5.3%⇒7.7%⇒9.4%⇒21.2%

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あからさまに2021年が良化しています。

先ほど見た通り検査装置事業は赤字ですから、情報装置事業が大幅増益になったことが要因と思われます。P/Lから理由を探ってみます。

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2020年-2021年対比で売上は増えているに、売上原価が減るという不可解な現象が起きてます。注記を見ると以下のような形。

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たな卸資産評価損が戻入益が発生しているのと、工事損失引当金戻入益の発生です。

たな卸資産評価損は、昔売れないと思った資産を評価減したものが、突然売れたので、大幅な利益になったものと考えられます。

工事損失引当金繰入の方は、見込みの損失を仮計上していたのを戻したものです。

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名古屋電機工業は工事進行基準という、長期に渡る工事を進捗によって収益認識する会計手法を取っているようです。

不確実性のある収益のため、引当をしているようですが、懸念されているトラブルが起こらなかった場合、戻り益が生じます。今回はこれも大きな増益要因になったようです。

この辺りが要因だと思うんですが・・・経営者の説明ではこの辺りの詳細な理由が良く分かりません。

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今後持続するのかそうでないのかがいまいちわかりません。

行間を読む限り、公共投資次第なのであまり期待しない方が無難かな、と。

 

 

 

財務指標

グループの目標は売上220億円と営業利益率10%とのこと。

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営業利益率10%というのは決して高い水準とは言えません。

ただ、現状の同社の利益率を見る限りでは現実的な数値なのかな、と。

この目標だけだと、現状維持する程度の意思しか感じないので、戦略や方針全体についても見てみます。

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いまいちフワフワしている感じで、目指すべき着地点がハッキリしません。

これを見た社員が、目指すべき理想をはっきりイメージできるかというと無理じゃないかと。。少なくとも私だったら今の仕事を、今まで通りにやる事しか考えないと思います。となれば現状維持以上の事は見込めない気がします。

方針や戦略、指標としてはいまいちではないかと。

 

 

 

キャッシュフロー

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うーん。。投資CFはそんなに多くないですが、営業CFが乱れまくってます。

こういう営業CFが乱れる要因でありがちなのは、売上債権と在庫です。

売上債権の回収が一時期に偏ったり、一部の取引先に偏ったりしていると営業CFが滞るのが一つ。在庫についてもうまくジャストインタイムに生産ができない場合などは在庫が溜まりやすく、営業CFが悪化します。

事業リスクを見てみると、売上債権については主力の情報装置が官需という事もあり、時期による偏りがあるようです。特に下期末での売上確定が多いようです。

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あと、得意先も限られるでしょうから、1案件ごとの売上が大きそうです。

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実際、経営者の説明のところでも、売上の期ズレがありました。

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こういう大型案件がゆっくり流れていくビジネスの場合、当然キャッシュが入らない間の維持費を払うために資金繰りをする必要があります。

官需は貸し倒れの可能性はまずないですが、資金の時期集中がある事や、公共投資が財政によって変動するのが課題です。赤字であっても検査装置を続けているのはその辺りの弱みを解消するためかな、と。

在庫の方も、評価損した在庫を売却したらしいことから、貯めていた在庫が突然売れるという事もある業界なのかな、と。

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資金繰り的にかなり難しい業界なのではないかと。

 

一応直近2年で答え合わせしておきましょう。

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やはり、キャッシュフローの乱れは売上債権、仕入債務、在庫といった部分です。

こればかりは、官需である限り如何ともしがたいです。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

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現金及び同等物が62.4億円(25.8%)は工場を持つ会社でも若干少ないかな、と。

売上債権の金額は105.6億円(43.7%)で滞留は179日ほどです。

債権回収日数がかなり長いですが・・・ここでポイント。

毎回さらっとやってますが、債権回収日数の算式は以下です。

債権回収日数=期末時点の債権額/年間売上×365日

実はこの指標、売上が時期で偏る会社に対してミスリードを起こす欠点があります。

具体例を上げましょう。

例1:毎月100万円、年間1,200万円の売上をあげる3月決算の会社

この会社が期末に債権を300万円残っていたら、それは順当に考えれば1月、2月、3月の債権が残っているわけですから、回収期間は3か月であると考えられます。

これを債権回収日数の式に当てはめると

債権回収日数=300万円/1,200万円×365日=91.25日

ざっと3か月でイメージ通りと言えます。

しかし次の場合どうか。

例2:期末の3月に1,200万円の売り上げが確定した3月決算の会社

3月に確定した売上を即金で払うことなどあり得ないですから、3月末のBSには売掛金1,200万円が残る事になります。

これを債権回収日数に当てはめると以下

債権回収日数=1,200万円/1,200万円×365日=365日

債権回収日数は365日!( ・`ω・´)キリッ

いや、そんなわけないですよね。

これは3月末にまとめて債権があがってきただけで、その債権が365日滞留するかどうかなんて、ここからはわかりません。

つまり、この債権回収日数という指標は、

  1. 売上が年間である程度バラけている
  2. 売り先が一部に偏っていない

というのが前提としてあり、この前提から離れるだけ実態から乖離します。

一般的にこの指標が実態と乖離しやすい業種として、チョコレートの専業メーカーがバレンタインデーに売上が集中するため、この指標を用いるとミスリードを起こす、という事例が挙げられます。

こうした指標は数字だけが一人歩きして、その弱点を理解しないままに使用してしまいがちなので、ビジネス分析に用いる場合はこうした弱点を念頭に置いておかねばなりません。

数値は嘘をつきませんが、数値を扱う人間は嘘もつきますし、往々にして解釈も間違います。自戒の念を込めて肝に銘じましょう。

以上、ポイント解説でした。

閑話休題

前提に照らすと、今回の名古屋電機工業も実態と乖離するんじゃないかと。

官需は期末検収、かつ売り先も集中してますので。。

という事で、今回は回収期間にはあまり意味が無いと考えた方が良いです。

そもそも官需で支払いがされないというのは先ず考えられないので、滞留の懸念である貸倒リスクについては、問題ないと考えてよいと思います。どちらかというと、懸念されるのはキャッシュインのタイミングに波があるため、繋ぎ融資が必要になるという、資金繰りの方かな、と。

在庫27.7億円(11.4%)もそれなりですが、これは簿価切り下げを行っているためか、それほど大きくはありません。滞留日数も73日ほどと一見して問題はなさそうです。

有形固定資産は24.1億円(10.0%)と意外に控えめです。

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こうして見ると土地が半分を占めており、設備投資自体はそれほど大きくない事業なのかな、と。考えてみると投資CFもそれほど多くなかったですね。

そう考えると官需でキャッシュフローが荒れる、という点を除けば資本効率も良さそうなビジネスなのかな、と。

投資有価証券は10.2億円(4.2%)あります。

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投資有価証券は満期保有目的の有価証券や関連会社、その他株式と無難な配分です。

その他株式は取引先会社の株式を長期で保有しているのかな、と。

以下がそのリスト。

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株式持ち合いは資本効率的にはマイナスです。

ただ全体割合から見れば軽微ですし、長期的にプラスのリターンを得ている以上、大きな問題にはならないかと。
 

負債、純資産を見てみます。

f:id:umimizukonoha:20210811232918p:plain意外ですが、有利子負債はゼロのようです。

売上債権の滞りがあれだけあっても、借入をしなくて済むのは純資産162.2億円(67.1%)をそれなりに積んでいるのと、設備投資がそれほど多く必要ないビジネスであることが大きいのかな、と。

時期的には3月末時点が一番売上債権が溜まるタイミングと推測できますから、そのタイミングで借入が無いなら、基本あまり銀行借入に頼らず運営しているのかな、と。

経営者の説明を見てみると金融機関には当座借越契約を結んでいるだけっぽいです。

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堅実な運営かな、と。

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

従業員の待遇は中々だと思います。

勤続年数も長いですし労組もあるので、社員からすれば安定した会社という印象を受けます。

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一方、役員はどうかと言うと・・・

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1人当たり平均28.9百万円ほどです。

社員給与と会社の規模を考えた時、若干高めな気がします。

付加価値率は先に見た限りそれほど高くない印象ですし、ROEはというと・・・

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直近の数値は例外として、他の時期のROEは結構平凡かそれより少し悪い印象です。

勿論、決して非難されるような報酬水準ではないですが、それだけ貰うなら検査装置セグメントをどうにかして、ROEや付加価値率を上げてほしい気がします。

 

 

 

大株主の状況

筆頭株主の名電興産は服部哲代氏の会社とのこと。社長の服部氏と同性ですから、親族の会社ではないかと。

2018年に持ち分を減らしているようです。

名古屋電機について、名電興産は保有割合が減少したと報告 [変更報告書No..7] | 大量保有報告書 - 株探ニュース

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合わせても意思決定権を掌握するレベルではないです。

しかし個人の名前が結構多いですね。。

同社は直近の業績が伸びた影響でかなり株価が上昇していますが、それでもPBRが0.67倍というかなりのバリュー株です。

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伸びる前は500円程度とすると、一番少ない方だと70百万円ほどでも大株主リストに名を連ねる事ができます。個人のバリュー投資家でもそれくらいなら出せる方がいても不思議はありません。

なので、ここに名前が出ている人は個人のバリュー投資家の方なのかな、と。

お金持ちですね~いいな~。

 

 

 

株主還元

還元について具体的な方針は出してません。

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配当性向の実績は以下

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正直かなり低いです。

事業の性質上、自由になる金が少ないというのは勿論あるでしょうが、配当性向を10%まで抑えて株主に我慢を強いて、検査装置事業は赤字ってどうなんだろう、と思います。あと、同社の株価がここまで低いなら、配当を出すよりその金で自社株買いして消却したら既存株主の取り分が増えるので株価暴騰する気がします。今の方針だとそれもあんまり検討すらされそうにないのが残念です。。

同社は名証二部上場という事で、あまり取引されにくい会社であるため低PBRで放置されている面はあるかもですが、株主利益をあまり考えていなそうな部分も不人気の理由にあるのではないかと。

 

 

 

まとめ

事業が官需という事で業績と資金繰りに波のある事業なのかな、と。

こうした事業はできるだけ民需などにシフトして安定した業績を出せるようにするのがセオリーではあるので、検査装置への進出は方針として間違っていないとは思いますが、安定した利益を生むまでに時間がかかりすぎている気がします。方針としてもフワフワしてますから、果たして今後民需事業を拡大していくことができるのかは、個人的には疑問です。

一方で同社は名証二部の上場に加え、上記理由も相まってか、過去から非常に低い評価(低PBR)で放置されています。そのため、もし同社が自社株買いを真剣に考えて実行すれば、それだけで同社の価値はかなり上がると思います。

資産としてはそれほどリスク資産は多くない印象ですし、無借金経営ですから、爆上がりの期待できるバリュー投資先としてはかなり手堅い投資先ではないかと。

ただ、こういう会社さんってほとんど変わる事ないんですよね~。。ここからの爆上がりにはあまり期待しない方がいいのではないかと。

 

本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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