結論
体質としてはかなり良い印象。足元の業績はコロナ禍でかなり苦しい状況ではあるが、財務状況や経営陣の質を考えると、この苦境を乗り切り、コロナ後に復活する可能性は十分あるかと。株価次第で購入を検討したい。
目次
事業概要
まずはリンクバルの事業についてです。
リンクバルの事業は、大別して二つです。
- イベントECサイト(machicon JAPAN)運営サービス
- WEBサイト運営サービス
祖業であるmachicon JAPANは結構有名だと思うんですが、街コンのまとめサイトですね。
街コンは、街ぐるみで行われる大型の合コンイベントである。一般的な合コンと異なり、参加者は少ない場合でも数十名以上、規模の大きいものでは3000名弱にもなる。同性2名以上で1組となり、開催地区の定められた複数の飲食店を廻る。各店舗でリストバンドなどの参加証を呈示することで、制限時間内であれば定額で飲食が可能という内容で開催されるものが多い。最近は1店舗を貸切とするような「店コン」を、街コンというケースがほとんどとなっており、年間で40万回以上開催されている。婚活にくらべ気軽に楽しく参加できるのが特徴で、若い参加者を中心に盛り上がっている。
・・・
現在は街コン情報のポータルサイト「街コンJAPAN」がほぼルールとなっており、申し込み各種集客サイトというよりも街コンJAPANから申し込んでいるのが一般的である。ただ、厳しいキャンセル規定や問い合わせが難しい状態であるため、街コン業者のサイトがある場合はそちらから申し込んだ方がメリットが高い。
私も独身時代に2、3度利用しました。他の飲み会で知り合った妻と結婚してからは利用することはありませんでしたが、結婚してなかったらちょくちょく利用していたかもしれません。
実際、社会人って出会い少ないんですよね。社員の多い大手企業なら社内で見つかるかもしれませんが、社内恋愛って失敗の時のハードルが高くて敬遠しがちです。社外の友人の紹介とかをしてもらおうにも、地元で就職してなかったり転勤が多かったりすると、地元の友達からの紹介とかもあまり期待できないですし。
そういう社会人からすると、新しい出会いを作る機会って、こういうのしかない気がするんです。。そういう意味では街コンという企画自体は今後も一定数の需要がある気がします。
その街コンのWikipediaから「街コンJAPAN」がほぼルールと言わしめるリンクバルの独占力は中々ではないかと。
このmachicon JAPANでの売り上げが、全体の9割を占めるとのことですので、現状のリンクバルを理解するにはこの事業を把握すれば良いかと。
他の事業は将来的な投資、もしくはmachicon JAPANのビジネスをサポートするのが狙いなのかな、と。
- 「KOIGAKU」:恋愛に悩む大人の女性向け記事サイト
- 「CoupLink」:オンラインで恋活・婚活するためのアプリ
- 「人事トーク」:求職中の学生と求人募集中の採用担当者との出会い
- 「Pairy」:カップルが思い出を共有できるアプリ
KOIGAKUとCoupLink、Pairyはまさにリンクバルの事業領域である「出会い」をテーマにしたサービスで、本業をサポートするタイプのものに見えます。
ただ、人事トークは正直こじ付け感があります。。確かに「就職は恋愛・結婚と同じ」なんてセリフは良く聞きますが、イコールリンクバルの事業領域が活きるわけではないかと。リンクバルの事業領域で学生と採用担当者の出会いを扱うと違う意味に聞こえてしまうのは私だけだろうか。。
一応見てみます。
うーん。。新しい切り口ですね。本当に男女のマッチングアプリとUIが似てて、かなり採用担当者との距離が近そうです。
会社の採用に近くなりすぎるのも、近いからこそ見えなくなる方が多い気がしますし、断り辛くなったりするのでどうなんだろう、と思います。私は使うなら無難にリクナビとか大手サービスを使う気がします。個人的には難しい事業ではないかと。
あと、懸念事項として言及せざるを得ないのは、この恋活とか婚活系のサイト、アプリってかなり多いので、競争がかなり厳しい業界な気がします。
事業上のリスクでも触れてます。
ちらっとA8.netで調べただけでも「出会い」関係の案件が結構あります。
例えば以下。
同業者
結婚相談所
結婚相談所(特化型)
結構高額な単価で出ていますから、それだけニーズの高い分野と推測されます。上記のような専業以外でも、色んなIT系企業が手を出しているイメージがあります。
こういう分野で重要なのは、やはりSEOかと思います。
よって、出会いに関するビックワードである「恋活」と「婚活」の2つでGoogle検索しておきます。
検索キーワード「恋活」では1位、2位を取ってますね。
検索キーワード「婚活」では広告を除けば6番目ですね。
おそらく、キーワードとして「恋活」より「婚活」の方が一般的ですし、参加者の真剣度も高いでしょうから、収益性は「婚活」の方が高いでしょうが、それだけに大手も沢山参入していて競争も多いです。その中で6位なら十分健闘していると思います。
そもそも、リンクバルの専門領域である街コンは「婚活」の一歩手前の「恋活」のイメージが強い印象ですから、そこで1位2位が取れているのは大きいのではないかな、と。
私も婚活パーティーに一度参加してみたことがあるんですが、料金は高いし参加者の真剣度も高すぎて、相手をじっくり見れなかったので、以降は専ら恋活で検索してた覚えがあります。
リンクバルの事業上の強みは男女の出会いの中でもライトな「恋活」のシェアが大きいのがポイントなのかな、と。
セグメントの状況
リンクバルの事業はインターネットサイトの単一セグメントですからセグメント別はありません。
一応販売実績にサービス別売上があったので以下。
- イベントECサイト運営:85.7%
- WEBサイト運営:14.3%
割合としてはイベントECサイトが8割以上を占めてます。
あと、売上の12.9%を株式会社シャン・クレールが占めています。
シャン・クレールは先の「婚活」検索で4位に載っていた婚活サイトです。
おそらくリンクバルとパーティー情報を共有しているんじゃないかと思われます。
未払金の方でもシャン・クレールが出てくるので、リンクバルが人を仲介したらリンクバルの売上、逆にシャン・クレールに仲介してもらったらリンクバルの未払金という形なのかな、と。
この辺りは妥当な提携だと思います。
街コンは開催できてなんぼの商売なので、色んなサイトで参加者がバラけていたらニーズのある会も開けません。複数の大手サイトで同じ会を告知しておけば、それだけ開催できる可能性が高くなります。不動産屋同士が不動産情報を共有するのと同じメソッドですね。婚活というパワーワードで上位をキープしているシャン・クレールとの提携は双方にメリットがあると思います。
業績推移
利益率の推移は14.5%⇒18.6%⇒26.7%⇒37.8%⇒4.2%
目先の業績は明らかにコロナ禍のインパクトですね。
あと、ポイントとしては2017年9月から売上が伸びているのと、2018年9月期から利益率が急激に改善してますね。
2017年9月の売上が伸びている件は、2017年9月以前の業績推移を見てみます。
5.6%⇒14.6%⇒16.4%⇒14.5%⇒18.6%
こうして見ると、2017年が急激に伸びたわけではなく、2013年以降伸びていた売上が2018年以降伸び悩んでいる、というのが正しいようです。少なくとも2017年の経営分析では、売上の伸びに対して特別な施策を行っている印象はありません。
内容としてはサイト運営の一般的な対応ではないかと。
次に2018年9月期以降に利益率が大きく伸びている点ですが、売上が1.2億伸びたにも関わらず、1.6億減るという奇妙な現象が起きてます。
売上原価明細を見ても街コン系の原価が減っているのは分かるんですが、内容が分かりません。
仕方ないので経営分析を見てみますが・・・これでは分からぬ(ちゃぶ台返し)。
そしてサービス別の説明でようやく得心がいきました。
他者が主催する街コンイベントの売上が44.6%増、自社主催の売上が32.3%減と、あからさまに自社主催の売上構成が減ってます。
自社開催の街コンは運営経費を自社持ちするのに対し、他社開催の街コンイベントは人を仲介するだけのフィーなので、原価がかからないのも当然ですね。
この構造転換を経営者が意図的にやっているなら、かなりスマートな意思決定です。
戦略の所にそういった事は書いてません。
でもこれ意図的じゃないかな、と思ってます。
理由としては人員の推移です。
2018年でかなり人員を減らしてます。
減った理由は自然減としか書いてないので、はっきりとは分からないのですが、この構造転換に応じた人員削減ではないかと。
つまり、コストのかかる自社運営での街コンを減らし、他社が企画する街コンに人を紹介するビジネスモデルに転換し、社内の街コンの運営担当を減らすという意思決定ではないかと。
推測が当たっていたらコレ、かなりスマートな意思決定で評価高いです。
自社での街コンの運営には、ユーザーへの電話対応など、実務上煩雑かつ付加価値率の低い業務が付きまとう筈。リンクバルからすれば、そういった業務を他社に委託し、集客と紹介に集中した方が、ビジネスモデルとしてはるかに高付加価値なものになります。
さらに言えば、売上高利益率の高さというのは、売上が大幅に下がった時に赤字転落を防ぐことができます。2020年9月期にコロナの打撃を受けても赤字に転落しなかったのは、こういった転換ができていたためではないかと。。
しかし、人員減まできっちりできる会社などそうは無いと思います。そういった点から、この転換は経営者の意思決定としては、かなり優れている部類だと思います。
検索してみると、リンクバル自身のコメントは見つかりませんでしたが、ブリッジレポートさんが同様の分析をしてましたね。
ブリッジレポート:(6046)リンクバル vol.2 IRレポート「ブリッジレポート」 | ブリッジサロン
おそらくそういう事なんでしょう。
直近でのコロナ禍の影響や、業界としての売上の伸び悩みはあっても、この点は大きなプラスであると思います。
財務指標
リンクバルは具体的に財務指標を提示していませんが、戦略の中で売上拡大を目指す胸の記載がありました。
確かにリンクバルくらいの規模であれば、売上拡大が優先事項ですし、ビジネスの業態上、売上が伸びれば伸びるだけ利益率も向上するタイプなので、特別な指標は必要ないように思います。
ただ、あれだけ冴えた意思決定をしているように見えるのに、こういった部分で何も語らないのはちょっと違和感ありますね。。不言実行タイプなんでしょうか。当然のようにこれだけの構造変革を進めているのだとしたら逆に凄いです。。
キャッシュフロー
ほとんど投資はなく、直近のコロナ影響を除けば営業CFは潤沢です。
一応直近のCF計算書をチェックしてみますか。
運転資本の収支はトータルでほぼトントンで、主に営業CFを赤字にしているのは昨年までの法人税の支払いですね。コロナ禍直撃の会社からも徴収する国税恐るべし。。
質的には特に問題ない内容だと思います。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び同等物が18.2億円(80.1%)と、圧倒的な現預金レベルです。IT系の中でも安全性が凄いですね。無駄な投資などもしていないようですし、これは質的にも評価できそうです。
税金絡みの未収と繰延が合わせて2.1億円(9.1%)。現金とこれでほとんど資産リストが説明できてしまうという。。
多少、関係会社債権や破産更生債権といった怪しいものが見えますが、金額的にたかが知れているので、BSリスクは軽微と思っていいと思います。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債はゼロの無借金経営。
純資産が20.7億円(91.2%)であの資産リストという驚異の安全性です。
これならば、コロナ禍であってもそれほど怖くないです。
勿論PLでの赤字の程度は見ておく必要はありますが、少なくとも突然の減損で痛手をこうむるようなリスクはありません。これはマネジメントの守りの能力から見ても評価できます。
従業員の状況、役員報酬
まだ若い会社とはいえ、勤続年数は短く、給与水準はそれほど高くありません。
一つには外食産業に近いビジネスという事で、給与の平均値が低いという事もあるでしょう。
ただ、今後同社のようにサイト運営で食っていくことを考えていけば、質の高いマーケター、エンジニアは不可欠ですから、長く勤めてくれる有能な社員を引き寄せる必要があると思います。現在の人員数は前述の2018年の86人からさらに減って73人です。
これくらいの規模であれば、多少引き上げてもそこまで致命的な額にはならないと思うので、同社の給与水準を適切な水準まで引き上げていくのはひとつマネジメントの課題ではないかと。
一方、役員はどうかと言うと・・・
1人当たり平均23.8百万円ほどです。社員の水準から乖離はありますが、構造改革を推進できる優秀なマネジメントであれば、これくらいは貰って然るべき水準ではないかと。
大株主の状況
株式会社Kazyが38.61%、創業者の吉弘氏が23.27%を保有してます。
おそらく株式会社Kazyは吉弘氏の会社ではないかと。
検索してもKazyについての企業情報は分からなかったんですが、以前共同保有者に関する総括表で同じ名前で連ねてありました。
https://maonline.jp/db/shareholding_reports/S100LUQZ.pdf?embedded=true
となると、吉弘氏はリンクバルの過半数の議決権を持っている事になります。
吉弘氏だけに都合の良い取引がないかだけ、関連当事者取引を見て確認します。
関連当事者取引は子会社との取引のみ、基本的にないと考えてよいと思います。
報酬額から見ても吉弘氏はクリーンなのではないかな、と。
株主還元
リンクバルは成長過程であるため配当はしていません。
ただ、過去の実績として、自社株買いは2018年に実施しています。
https://ssl4.eir-parts.net/doc/6046/tdnet/1588628/00.pdf
還元の意思はあるものと考えてよいと思います。
ちなみにこの自社株買いを受けて株価は大幅に上昇してます。
正直、今の株価で自社株買いすればさらに効果的でしょうが・・・さすがにこのタイミングでやるのはまずいですよね。。
ちなみに2019年1月以降に株価が下落しているのは解せませんね。2019年の段階ではコロナ影響とかではないでしょうし、業績だって2019年9月期までは良好でした。となると、単に株価が上がりすぎていたから調整が入ったと考えるべきかと。
しかしそれにしても酷い。コロナ禍を予見していたかのような酷い下げ方です。逆にコロナが酷くなってからはそれほど下がってません。謎な動きです。。
まとめ
リンクバルの事業領域である「出会い」は特にコロナ禍で影響を受けやすい業界の一つです。街コンなんて速攻で自粛の対象です。
実際コロナが始まってから直近の決算、2020年9月期は大幅に収益を減らしてギリギリ赤字を免れている状況です。
【リンクバル】[6046]株価/株式 日経会社情報DIGITAL | 日経電子版
さらに直近の2021年3Qの業績を見てみると。
リンクバル[6046]:2021年9月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(非連結) 2021年8月4日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞
ついに赤字で着地しそうです。
というか2021年9月期の売上が2020年9月期の半分以下って、コロナ被害凄まじいですね・・・。
ただ、事業そのものの独占力や、それを活かす経営陣の意思決定には光るものがありますから、このコロナ禍が終われば業績が回復する余地は十分見込めるのではないかと。
株価をいくらで買うのかは考えなければなりませんが、どこかで拾う事を検討してみたいな、と。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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