結論
業種としての厳しさが目立つ。当ブログの基準では経営は良質とは言えない。
目次
事業概要
まずはGunosyの事業についてです。
Gunosyの事業はメディア事業で、種類としては
- 広告配信
- アドネットワーク
- マーケティングソリューション
とのことです。
Gunosyの強みはスマホ向けのアドネットワークという事なので、いずれの事業もその強みを生かす事業領域内にいるようです。
広告業はネットビジネスの定番ですが、その分栄枯盛衰の激しい領域です。特にニュースアプリ系はSmartNewsとかNewsPicksといったライバルや、日経電子版といったオールドエコノミー企業の電子版、Yahoo、Googleなどのネット大手とも競わねばなりません。少なくとも個人的なイメージではこの業界は差別化が困難な印象です。
その辺りを数値で検証していく必要があるかな、と。
セグメントの状況
Gunosyの事業は、メディア事業だけなのでセグメント別はありません。
ただ、2020年度から売上高の10%を超える会社としてCROOZ Media Partnersが出てきてます。
この会社は広告代理店のようです。
https://croozmp.co.jp/top-page/about/
事業フローでいう所の以下の部分ですかね。
おそらくCROOZ Media PartnersがGunosyの広告枠を買い取り、広告を出したい会社に提供するという形ではないかと。広告代理店を介すると手数料を取られるのでGunosyからすると利益は減るので直取引が理想なのでしょうが、卸売りがなくならないのと同様、どうしても広告代理店は挟まざるを得ないのかな、と。
広告宣伝の専門部署を自分で抱える余裕のない広告主、広告枠の販売部隊を少なく抑えたいGunosy、この2つを仲介するのが広告代理店の立ち位置かな、と。
まあ、売上の10.5%ということですからそれほど警戒する必要はないかと。
業績推移
利益率の推移は12.3%⇒19.6%⇒17.3%⇒15.2%⇒6.0%
付加価値率は案外平凡です。
GAFAMのように次のビジネスのために物凄い開発投資をしている、という事であれば仕方ない気がしますが、研究開発活動は以下。
研究開発費の総額は9百万円。
そんなに高度な事をしている印象はありません。
2019年5月期までは順調に売上も利益も伸ばしてますが、2020年5月期には売上が落ちてます。コロナ禍でそれほど影響が出そうな業種でもない気がしますから、理由を確認します。
売上は落ちているのに売上原価も販管費も増えてます。
ここから懸念されるのは広告業のコスト体質です。
製造業のように原料をどこからか調達して、付加価値をつけて販売する事業であれば、売上原価の中に売上に連動する変動費が入ってくるので、売上が下がると原価も減ります。
しかし、一般的に広告業は売上が減ろうと増えようと、原価(維持費)はあまり変わらないので、売上の減が赤字に直結します。その場合、先の利益率では安全余裕度が十分ではないと思います。広告業という売上のボラティリティの高い事業であれば、せめて20%できれば30%以上欲しいところです。
これを念頭に置いて、業績に関する経営者の分析を見てみますと。
広告単価の下落、コロナによる広告費予算の縮小ですね。
やはり広告業は景気の変動をモロに受けるようです。
経営の視点からすれば、広告費は削りやすい経費です。好景気の時は節税を兼ねた先行投資という意味でバンバン広告打ちたがる会社が増えます。ただ、赤字になりそうな時に広告を打つ会社は少ないと思います。
となれば、やはり広告費が収益源である会社は普段から利益率が高くないと、収益が落ちると急に赤字転落、なんてことになりかねません。
ちょっとここだけ見ると心許ないです。
財務指標
指標は売上の拡大とMAU数、1ユーザーあたりの収益性です。
いかにも成長期の企業らしい攻め重視の指標です。
ただ、それだけに付加価値率などの守りの視点はなさそうです。
戦略の方を見てみても、見事に攻めの話しかない印象です。
また人員の推移は以下。
おそらく子会社の人員増もあるのでしょうが、それでも5年で2.5倍になるのは中々の拡大スピードです。攻め重視のマネジメントと考えてよいと思います。
キャッシュフロー
投資CFは少なく、営業CFが潤沢な形ですが、直近は営業CFが赤字です。
理由を確認します。
大きく現金の減少に影響しているのは債務の支払です。
これはそんなに問題になる話ではないです。不景気で売上が落ちるのに伴って経費や仕入を減らせば、債務が減るのは当たり前です。
懸念としては、売上が落ちている割に売上債権はそんなに変わっていない点でしょうが、これはコロナ影響が始まったのが期末なので、まだ債権の回収に至ってないだけかな、と。2021年は営業債権が減る気がします。
丁度2021年5月期の決算短信が出てますから見てみます。
(。´・ω・)ん?
売上債権はあまり減ってませんね。
売上が回復したとかでしょうか。PLを見てみましょう。
(。´・ω・)ん?
やっぱり結構売上は減ってますね。
それならもっと売上債権減りそうな気がしますが。。
B/Sを見てみますか。
あ~そういう事ですね。そもそも売掛金の絶対額が少ないみたいです。
絶対額が少ないので、売上が減っても前期対比でそんなに減らないだけですね。
売上計上から入金までが速いビジネスなのでしょう。
入金が早く、資金繰りが楽な企業は手持ち資金が豊富なので、意思決定を早くできますし、金融機関の手配などお金のやり繰りに経営者が頭を悩ませる必要が無いので、これは一つビジネス上の強みです。
しかし、2021年の売上の落ち込みが凄いですね。
でも、それに合わせて結構コスト減ってます。2020年とほぼ同じくらいの利益水準に止めてます。これは頑張りましたね。。
経費の何を削ったのかと言えば・・・
広告費を70%カット(17億円ほどですかね)、アドネットワークにかかる媒体費とのこと。先の印象では固定費が多い印象でしたが、全体のコストがこれだけ削れるなら、少なくともアドネットワーク事業に関しては変動費が大きいようです。
しかし、広告業者自身が不景気になると真っ先に広告費を削るくらいですから、広告収入が如何に景気に左右されるかが良く分かります。
コスト削減の成果としては十分だと思いますが、この書き方だとマネジメントの頑張りがあまり見えません。意思決定によって削減したというより、ビジネス上の特質によって救われました、という印象です。これは質的に評価できないかな、と。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び同等物が90.8億円(71.1%)とかなり多いです。事業の性質上もキャッシュの入金が早いですから財務の健全性は高そうです。
売上債権の金額は10.3億円(8.0%)で滞留は42日ほどです。売上があれだけ悪化してこの水準なら全く問題ないと思います。
投資有価証券は11.0億円(8.6%)あります。
非上場の株式ということなので、運用というより事業投資なのでしょうが、減損処理を行っているという事は、それなりにリスキーな投資のようです。
Gunosyは小規模な事業買収、売却も行っているようです。
どうにもやってることが忙(せわ)しない感じがしますね。。
購入した会社はなんとなくIP系のような感じです。
売却した会社は請求書AIクラウド、流行りのAI関係ですかね。
金額が小さいので、影響軽微といえばそれまでですが、どちらというと本業と直接関係なさそうな事業をホイホイ売買しているのが質として不安です。
本業の経営に集中できているのかな、と。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債はゼロ、問題ないですね。
純資産は109.2億円(85.6%)で、対する資産リストは現預金が7割以上ですから、財務の健全性はとても高いです。
従業員の状況、役員報酬
年間給与は6百万だそうです。
5.5百万円なのか、6.4百万円なのかで結構印象は違いますが、ここ数年で新人が増えている事を考えれば、5.5百万円でもそこそこ良いのではないかな、と。
ただ、勤続年数2.2年はやはり短いです。単に一時的な業容拡大によるものなのか、それとも勤務環境が悪く人の出入りが激しいのか、見えない部分があります。
転職会議を見ても、どっちとも取れそうで判断に悩みますね。。
https://jobtalk.jp/companies/2184997/answers?question_codes=earns
一方、役員はどうかと言うと・・・
1人当たり平均20.0百万円ほどです。
一般社員の給与水準からみてもそれほど乖離してる印象はありません。
大株主の状況
創業者であり会長である木村氏が23.47%を保有しています。
後はKDDIが二番目という事で、何か所縁があるのか沿革を見てみます。
沿革にKDDIが登場するのは2016年6月ですが、投資したのは上場前の2014年のようです。
・・・
詳細が明らかにされていなかったこの大型調達が、ついに発表された。また、今回の出資はKDDIがグローバル・ブレインとともに手がけるコーポレートベンチャーファンド「KDDI Open Innovation Fund」ではなく、KDDI本体からの投資である。なお、Gunosyのバリュエーションは投資後で80億円程度と見られる。
また、今回の調達にあわせる形で、元Facebook日本副代表で現在はKDDI新規ビジネス推進本部 ビジネス統括部 担当部長を務める森岡康一氏が、1月にGunosyの社外取締役に就任している。
KDDIは事業上の繋がりを持ちつつ、一定数の投資をしているようですね。
Gunosyは一時期かなり有名になった会社ですから、それを上場前から出資していたというのは、さすが稲盛氏創業のKDDIだな、と。
ただ、いずれも独占しているようなレベルではないので、経営の独立性はある程度保たれているのかな、と。
株主還元
還元については明確な指針が無いようです。ただ、自社株買いについて触れているのは悪くないと思います。
状況が状況なので2020年5月期無配というのは別に異論ありませんが、過去の見てもずっと無配です。
成長投資で必要、という考えは理解できなくはないですが、「最適な時期に最適な手法」と言われても配当実績が無いのでは本当にやる気があるのかさえ分からないです。
自己資本利益率も決して高水準というわけではないです。
最適な時期に最適な手法、というのであれば、積極的に自社株買いを行いもっとROEを引き上げてほしいな、と。
還元方針は十分とは言えないと思います。
まとめ
GunosyはCMのお陰で非常に知名度の高い企業のように思います。ただ、ニュースアプリという事業は結構強力なライバルが多い業界だと思います。新聞の時代では情報産業は参入障壁が高い、利益率の高い事業でしたが、インターネットはそれを粉砕しました。現在のニュースアプリは情報を集めてくるだけなら初期投資もいらず、何か面白い機能が追加されても他社にすぐ真似されてしまう、差別化が難しい事業です。そんな中で頭一つ抜けるのは非常に困難な道ではないかと。マネジメントがよそ見をして他企業を買収したくなる気持ちは分かります。
ただ、当然ながらそれまで触れていなかった事業で成功するのは、競争が厳しい業界で勝ち抜くのと同じか、それ以上に困難な道です。会社を一つ買ってきたからといってうまくいくものではありません。新規事業にはあまり期待しない方がいいように思います。
また、事業上の施策の内容を読んでみても、あまりはっきりとしたビジョンが見えないな、と。規模の急激な拡大や目的のはっきりしない小型買収を見るに、現状の経営の質としてはあまり高くない印象です。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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私は本気で転職する気はなかった。
自分の市場価値を測り、他の会社を知ろうと思っただけ。
比べてみて今が最高だと思えばそこに居続ければいいし、ダメなら転職。
気が付いたら私は転職してた。
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正直しんどい事は多い。
ただ、不満はあるのに我慢するだけの、鬱な生活は消えた。
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