企業分析アナトールの株式投資

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【1926】ライト工業

結論

特筆すべき点はいくつかあるが、ガバナンスや株主還元は改善の余地ありかと。事業ニーズの高まりによる業績向上は期待できても、内発的な改善はあまり期待できないかな、と。

 

目次

 

前置き

ライト工業は調査対象外でしたが、読者様にリクエストされたため調査します。

 

事業概要

まずはライト工業の事業についてです。

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f:id:umimizukonoha:20210907211211p:plainライト工業の事業は

  • 建設事業
  • その他事業

とのことです。

建設事業と一口に言っても、その内容は様々です。

プラントの建設から一般住宅、道路の舗装など、それぞれ特色があって面白いので、建設事業は内容を一応チェックしておきます。

記載によると「法面保護工事、地盤改良工事を主体とした土木工事業及び建築事業」という事ですが、法面保護工事、地盤改良工事とは何ぞ。

という事で調べます。

法面保護工の種類と新しい手法│重機・専門技能不要の低コスト工法とは - MakMaxプラス

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地盤改良工事とは?工法別のメリット・デメリットと費用 | ジャパンホームシールド|住まいの安心研究所

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なるほど・・・ここを見る限りでは、建設事業と言いつつ何かを建設するというより、その一歩手前の地ならしというか地面を固定する土木寄りの印象です。

法面保護工は、日本のように山だらけで土砂崩れなどの災害が多い国では需要が多そうです。こういうのを依頼するのはおそらく地方自治体でしょうから、法面保護工については公共投資系のビジネスなのかな、と。

地盤改良工事の方は政府、民間いずれもニーズがありそうな工事です。米国やベトナム合弁会社を設立して海外進出しているのも地盤改良工のようです。海外の公共投資需要は普通に考えるとその国の企業が優先されますから、海外進出している地盤改良工事は民間需要を取りに行っているのではないかな、と。

経営者の分析を読み進めると工事種別の売上がありました。

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  1. 斜面・法面対策工事:政府系(406.0億円)
  2. 基礎・地盤改良工事:民間系(362.3億円)
  3. 補修・補強工事:政府系(56.3億円)
  4. 環境修復工事:民間系(27.5億円)
  5. 建築工事:民間系(153.4億円)
  6. 一般土木・その他工事:民間系(78.2億円)

ざっくり顧客層から、上記のような構成ではないかと推測します。

概ね政府系と民間系が半分づつでバランスは取れてるのかな、と。

政府系に偏り過ぎていると公共投資が削られたときに影響が大きそうですし、かといって民間も景気の振れ幅に敏感ですから、政府系と民間系で事業バランスが取れるに越したことは無いと思います。

その他事業の方は建設資材の販売やリース、福利厚生施設の管理は、本業の補助としてあってもいいかな、とは思いますが、介護に参入しているのは若干不安です。

多角化経営をしようとしている際に真っ先に手を出しがちなのが、介護系と発電系です。どういう風に自社を定義しているのかを確認しておきます。

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筋が通った書き方で分かりやすいですね。目指すべき理想にも「国土」という文言を使い、暗に自らの事業領域を定めている点も好印象です。

やはりライト工業の事業領域は国土を強化する特殊土木という位置づけなのでしょう。

介護に参入している理由は良く分かりませんが、方針がここまでしっかり書けているのであれば、あまりよそ見をしそうにありません。あくまで社会貢献の一環や余剰人員の受け皿といった位置づけで、金額的にも大した影響が無いのかもしれません。その辺りの規模間はセグメントで見てみます。

セグメントの状況

ライト工業のセグメントは先の2つです。

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  • 建設事業:1,076.5億円(98.5%、利益率10.9%)
  • その他事業:16.0億円(1.5%、利益率1.6%)

やはり建設事業の売上がほとんどで、その他事業はあまり全体に影響ありません。その他事業の中にはリースや商品資材販売といった本業をサポートする事業も含まれているので、訪問介護事業はさらに影響軽微でしょう。しっかりした方針からも読み取れるように、ライト工業は本業に集中できている会社のようです。

ただ、売上高利益率は高いとは言い難いです。業種として利益を出しづらい業界であるのは否めませんが、特殊土木という独自の企業分野を開拓してきたという割には付加価値率には反映されていないのかな、と。

 

 

 

業績推移

利益率の推移は9.7%⇒9.2%⇒9.8%⇒9.0%⇒11.2%

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かなり安定した推移です。

それなりに民間の割合も多いですし、直近はコロナショックもあったので、もう少しブレてもいい気がしますが。。

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こういった工事は基本的に受注生産かつ長期に渡る工事なので、計画を立てやすいのかもしれません。

 

 

 

財務指標

グループの目標は売上、営業利益、ROE、配当性向とのこと。

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実に無難というか、当たり障りのない数値を並べている印象です。

指標で質を管理したりするといった、指標を積極的に活用してマネジメントする意図は感じられません。「こうなればいいな」「大体こんな感じになるんじゃないかな」という願望や予想レベルではないかと。

会社としてのあるべき理想を指標にまで落とし込んでいないのではないかと。

少なくともマネジメントの評価はできません。

 

 

 

キャッシュフロー

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FCFが常に黒字で、投資CFが営業CFの中に納まるように調整している感があります。

直近の投資CFの内訳を見てみます。

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有価証券の売買や投資不動産の取得などを通じて投資CFが営業CFの枠内に収まるように調整している感じです。この辺りの資金管理は慣れている感じがしますね。誰かの一存でああしろ、こうしろ言っていても、こうは綺麗にいかない気がするので、FCFをどれくらいに収める、みたいな基準があるんじゃないかな、と。

規律はしっかりしている感じがします。

 

 

 

B/S(貸借対照表

資産の確認です。

f:id:umimizukonoha:20210909033015p:plain現金及び同等物が282.6億円(25.1%)は意外に少なめです。

売上債権の金額は393.3億円(34.9%)で滞留は133日ほど。若干長めではありますが、業種柄支払サイトは長くなりがちなセクターですから仕方ない気はします。(完成工事未収入金は長期に渡る工事での売上債権と同義と見做してます)

有価証券、投資有価証券、投資不動産の投資三種は124.4億円(11.0%)あります。

このうち投資有価証券については47.8億円が非連結子会社及び関連会社に対するものらしいです。

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具体的にいうと以下のような会社達ですね。

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このあたりは戦略上必要な投資なので固定分としても、残った76.6億円ほどが純運用投資なのかな、と。同社の場合、キャッシュフローの出入りをここで調整しているのではないかと。

短期で持つ有価証券、そこそこ長期保有の投資有価証券、現物アセットの不動産と、金額的にもバランスの取れた構成なのかな、と。個人的には不動産投資って証券投資に比べると流動性やROIに難があるので、選択する事自体あまり良くないと思ってますが、一般論としてのリスク分散を意識しているなら方向性としては間違ってないのかな、と。

有形固定資産は220.0億円(19.5%)とそれほど多くないです。

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一番割合として大きいのは本社事務所ですね。R&D(研究開発センター)、機材センタを合わせると94.8億円、全体の43.1%を占めてます。

残りは各拠点、支社の統括事務所がポツポツとある感じですね。

当ブログの方針として、有形固定資産を自前で購入するのは、キャッシュの負担を重くし、戦略上無駄に地域性のリスクを負う事になるという理由から、質的なマイナス評価になりがちですが、同社事業の場合、日本の地盤全体を対象としており、既に全国の主要都市を網羅している感じですから、地域性のリスクとかそういう問題はないです。どこに進出する、といった意思決定をする必要が無いので、各地方支社に固定資産を所有するのも合理的な判断と言えるのかな、と。

負債、純資産を見てみます。

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有利子負債は8.2億円(0.7%)と僅かです。グループ全体からすれば借りる必要のない金額ですから、グループ内でキャッシュを融通するCMSのような機能がなく、どこかの子会社で独自に借入をしているのではないかと。

CMSCMSで維持に色々手間がかかる仕組みですから、独自採算でどうにかなるのなら別に問題は無いと思います。ここは大きな問題は無いと思います。

純資産は759.2億円(67.4%)と平凡な水準にも見えますが、支払手形や工事未払金といった営業債務が多いですし、資産リストの方も、営業債権が多いです。事業の性質上、この辺りは致し方ない部分なので、その分を差し引いて考えると、財務安全性はかなり高いように思います。

 

 

 

従業員の状況、役員報酬

平均勤続年数も給与水準もかなり高いですね。

一般的に土木とか建設系って低くなりがちな印象ですが、この辺りは独自性の強い事業をしているという事で社員への待遇を手厚くできるのかもしれません。

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結構歴史の長い会社なのに、労働組合が結成されていない点も興味深いですね。

福利の向上を図るための互助機関だけがある、というのもまた合理的。

労働組合もなく、あれだけの待遇を勝ち得ているのは、逆に言えば労使関係が上手くいっているという事ではないかと。ある意味それは労使の理想形です。

転職が当たり前になり、終身雇用制度が壊れつつある現代においては、労働組合は誰得?な制度となりつつありますから、どこの会社も同社のような形になれば良いのに、と思います。


一方、役員はどうかと言うと・・・

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1人当たり平均32.1百万円ほどです。

ここまでの内容を見ていると、結構しっかりした内容で規律もあるようなので、役員報酬の水準としては無難か控えめな数値なのかな、と。

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ROEはもう少し欲しい気はしますが、あまり欲は言いますまい。

どちらかというと気になるのは役員の人数ですね。

社内取締役10人もいるのか、と。取り締まりすぎじゃないでしょうか。

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取締役の人数が多い会社などは経営執行体制と取締役会の混同が多い気がします。

経営執行体制は社長、もしくは会長を頂点とした事業に精通した執行役員だけで構成され、取締役会は経営トップ、並びにその執行体制が一般的、俯瞰的に見て株主の利益にかなっているのかを監督する役割を担います。

勿論、ある程度事業の内容を理解していなければ執行体制の監督などできませんから、自然と社内の人間が取締役にならざるを得ない状況はあると思います。しかし、ここまで人数が膨らむと経営の意思決定機関としても鈍くなりますし、責任が曖昧になって監督機関としての機能も怪しくなってきます。そもそもそんな多人数で何を議論する事があるのか、あったとしてそれは必要な結論に至っているのか。。

この辺りはしっかりできている会社の方が少ないので仕方無いと言えばそれまでですが、ここまで見る限りでは合理的な部分の多い会社なので、ここにもメスを入れてはどうかな、と。

 

 

 

大株主の状況

特定の意思決定に介入できるような大株主はいないようです。

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株主還元

還元について具体的な方針は出してません。

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冒頭の経営方針のところで配当性向30%と示されている通り、中期経営計画ベースなどでは配当性向ベースで目標を示しているようですが、個人的には物足りない内容です。

先ず、何故DOEではなく配当性向ベースなのか。

ROEはライト工業は10%を少し超えたレベルだが、これは適正な水準と言えるのか。

配当と自社株買いはどういう基準で決定をしているのか。

この辺りの議論が全く伝わってきません。

社内取締役10名、社外取締役5名、監査役4名も居て、この辺りは誰も指摘しないんだろうか。。

別にライト工業に限った話ではなく、日本企業は資金効率とか、株主利益について議論する文化があまりない気がします。顧客と従業員に対して奉仕することだけ考えていればいい、というスタンスが多いです。

ただ、水を無理にせき止めていれば水が腐ってしまうように、或いは食事ばかりして運動や排せつに気を配らない人が病気になるのと同様に、入りと同じくらいに出す事を意識しなければ、組織は機能や質が低下します。

経済の原則からいえば、お金というものは流れる事で初めて社会が豊かになるため、ただ金を集めて還元に無関心な会社は、もっと経済に流せるお金をせき止めて景気停滞を生み出していると言えます。

本来そういった部分に考えを巡らせ、還元方法を検討するのが株主利益を守る取締役会の役割の一つなのですが、人数が多い割に還元方針を見ているとその辺りをちゃんと考えているのかいな・・・という感じです。

 

 

 

まとめ

従業員の待遇も良いようですし、労組が無いというのも意外でした。ただ、株主還元にあまり関心はないのかな、と。

事業領域の設定や給与水準、キャッシュの動きなど、ポイントポイントでしっかりした部分は見えます。ただ、ガバナンスの体制や還元の方法など、もう少し検討してほしい部分もある気がします。

業績的にはここまで安定した推移をしていますが、正直有報からはさらなる業績向上、といったようなガツガツした感じも見られませんし、利益率向上を目指すような施策や意欲も感じませんでした。

ここ最近、水害とかが多いので事業上のニーズが高まっている気がするので、外的要因による成長はあるかもしれませんが、少なくとも現状、自発的な変化等を期待できる体制ではない気がします。

 

本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。

 

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