結論
不動産関係の企業には珍しい、数値上は申し分のない企業。ただ、プロ経営者の報酬にまつわる部分に懸念あり。当ブログでの三大ステークホルダーの一角である「社員」に対しての還元強化を検討すべきではないかな、と。
目次
前置き
カチタスは調査予定にありませんでしたが、読者様にリクエストされたため分析します。
事業概要
まずはカチタスの事業についてです。
カチタスの事業は中古不動産を仕入れ、リノベーションを施した上で販売する事業です。ざっと読んで思うのはしっかり書いてるな~という事。
ビジネスを仕入、商品化、販売の3段階に分けきっちりデータを元に説明してます。
物件の仕入れ方法は以下の2つがあります。
買取
主に個人が所有する物件を、相続や住み替え等の売却事由に起因して発生する売主本人からの仕入れ
競売
各地方裁判所より、競売物件として公告された物件に入札し、落札することによる仕入れ
ただ、現状の割合から見れば買取仕入れがほとんどです。
以下の理由から今後も買取仕入れの方に力を入れていくようです。
- 安定した中古住宅の仕入れと、リフォーム費用の平準化、安定化のためにも買取仕入の増加を仕入れにおける主たる方針としております。
- (競売仕入は)築古物件を内覧しない状態で仕入れると、当初想定していない瑕疵が発見されるリスクが高いことや競落価格が上昇傾向であること
商品化
当社は、設立以来累計販売件数6万件以上の中古住宅の再生販売を行ってきたリフォームのノウハウを明文化することで、工事会社や担当者に因らずリフォーム工事の品質を確保し、過去にクレームになってしまった事例等の再発防止に努めています。
・・・
リフォーム内容をパターン化して、企画~発注~施工の期間を短縮化することで早期商品化を図り、在庫回転率の向上を図っております。
仕事のプロセスを重視してパターン化する意識が高そうです。
コスト削減に積極的な点や、在庫回転率を意識している所も好印象です。
かなりスマートな説明だと思います。
販売
特に他の不動産会社と違った印象はありませんが、こういう部分をわざわざ書いてくるあたり、各工程についてプロセス改善への意識が高い事を感じさせます。
当社はオープンハウス等に来場されたお客様にアンケートを配付し同日に回収しております。アンケートにご回答頂いたお客様が物件購入に至らないとしても、今後購入いただける見込のお客様としてリスト化し管理しております。この様な取り組みによりお客様からの問い合わせを増加させることで、リフォーム中の成約を増加すべく努めております。
あとは、カチタス自身と傘下のリプライスのビジネスモデルの違いについても説明しています。
当社の中古住宅再生事業の特徴は、地方都市の築20年~築40年という築年数の古い戸建の住宅を中心に安価に取得した上で、耐久性の確保と見栄えを良くすることを目的に外壁の塗り直し等の外装の修繕を行い、間取り変更や設備類の交換等で居室内を住みやすくし、さらに駐車スペースの拡大や庭木の伐採、門扉の刷新などまで含めて現代的な生活スタイルに合うリフォームを実施することで、そのままでは買い手が付かないような中古住宅を魅力ある住宅に蘇らせて販売することであります。
また、ターゲットエリアを人口5万人から30万人規模の地方都市としております。当該エリアは人口流動性が低いことに起因して、築年の浅い良質な中古住宅の流通量が少なく、また新築住宅の供給も少ないことから、リフォーム済み中古住宅の顧客ニーズが高いエリアと言えます。一方、競合他社にとっては、築古の中古住宅、特に戸建住宅に潜む特有のリスク(隣地との境界不明瞭や蟻害の発生等)が大きいこと、取引事例が少なく参考情報が少ないこと等からビジネスリスクが大きく、進出が難しい市場であると認識しています。当社はこの他社が進出することが難しい市場で一定の販売価格を維持しながら事業を展開できているものと認識しております。
リプライス
リプライスの中古住宅再生事業の特徴は、当社と異なり、都市郊外等の比較的築年数の浅い中古住宅を取り扱い、設備類を全面交換したり住宅の構造部分までリフォームを行ったりするのではなく、壁紙や床材交換、水周り設備の一部交換等といったパッケージ化された簡易的なリフォームを行い、清潔で快適なリフォーム済み中古再生住宅として販売することにあります。
リプライスは、1989年以降に建築された築10年~30年の住宅を多く取り扱っているため、比較的築浅ゆえにリフォーム工事の期間を短縮化して在庫回転率を向上させるというビジネスモデルが確立されております。
また、ターゲットエリアを人口30万人から50万人の三大都市圏の郊外や地方都市の中心部としております。リプライスの取扱物件は築浅中心で、かつ、エリアが当社に比して都市部に寄ったエリアであることから、競合他社は多く存在するものの、物件に関する情報を分析する専門部署(分析部)を設け、当該部署が独自の不動産売買のデータベースを基に中古住宅再生事業において重要な知見である「仕入・販売における適正な価格の算出」を行うことで、競争優位性を確保しております。
マーケティングとその根拠、競争優位性にも触れていて、分かりやすいです。
ビジネスモデルの違いもはっきり分かります。
このターゲティングが適切なのかは分かりませんが、とりあえずこれを書いた人はたたき上げの商売人というより、コンサル系の人ぽいですね。インテリっぽい雰囲気です。
そう思って社長の新井氏の経歴を確認。
やっぱりコンサルのベイン・アンド・カンパニー出身ですね。
書き方がコンサルっぽい視点ですから納得です。こういうのって必ずしも社長が書いているわけではないでしょうが、社長の雰囲気ってそのまま会社の雰囲気になるので、結局内容が社長に寄ってるので面白いです。
しかし、政治家秘書というのは面白い経歴ですね。
面白そうなのでもう少し掘ってみるとこんなのが出てきました。
新井氏は創業者ではなくプロ経営者なのですね。
正直、個人的には所謂プロ経営者と呼ばれる人に、あまり良いイメージがありません。企業というのは内燃機関のように、以下の流れで成長すると当ブログでは考えます。
①創業者の情熱をエネルギー源とし
②熱量を正しく推進力に変えられるよう仕組みを整え
③常に全体の状態と方向性について正しい舵取りをする
プロ経営者と呼ばれる人たちは②、③についてはできる事もあるでしょうが、企業のエネルギー源である①を会社全体に浸透させることができないように思います。
如何に仕組みを整えて正しいかじ取りをしても、核となるエネルギーが無ければ、会社は段々とエネルギーを失います。特に企業が大きくなればなるほど、エネルギーは分散され、段々その形を失っていくのではないか。。私はそう考えてます。
その辺りがどうなのか、今回の分析と今後何年かの実績で検証していきたいですね。
セグメントの状況
カチタスの事業は中古住宅再生事業の単一セグメントですのでセグメント別はありません。
業績推移
利益率の推移は7.8%⇒9.8%⇒10.7%⇒11.0%⇒11.4%
利幅は十分とは言えませんが、順調に業績を伸ばしていってます。
業績上は特に指摘点のない、かなりの優等生という雰囲気です。
財務指標
カチタスは売上高、営業利益を財務指標としているようです。
不動産関係の事業で一番気を付けなければならないのは在庫管理です。不動産は金額が大きく、状況によっては大きな値下がりもする、扱いが難しい商材です。例えば営業CFとかFCFといったキャッシュベースの指標がないのは若干不安です。
あと、BSに対する利益率などの意識が無いのも残念な点です。規模が小さい会社であれば売上と利益を延ばすだけでも良いかもしれませんが、既に同社の売上規模は1,000億に迫っており、規模の問題を無視できるレベルではありません。
こうした財務指標をマネジメントが挙げてないのは、管理の質としてマイナスの印象です。
キャッシュフロー
FCFはやはり推移としてはかなり凸凹してますね。
ポイントとしては営業CFの推移です。
4年前がマイナスなのと、直近が大きな黒字であるのが目立ちます。
先ずは4年前から内訳を見てみます。
やはり大きいマイナスは在庫の増ですね。
そしてその分の運転資金は短期借入金による借入金です。
不動産デベロッパーのようにずっと営業CFが赤字とかではないので、まだよいですが、この辺りの統制が利いて無いのは、どこかのタイミングでタガが外れた時が怖いです。
一方で逆に直近は営業CFが大きく黒字です。
これまたやはり棚卸資産の減少です。
これが意図的に在庫を減らす意思決定をしている、とかなら良い傾向ですが、経営者の説明を見てみると。。
意図的という感じではないですね。
コロナ影響で仕方なく仕入れが減りました、という印象です。
これまた管理している雰囲気を感じません。
ただ、驚くべきは仕入が減ったのに売上の方は伸びているという事です。
こういう所からも、不動産業界はやはり今活況なのではないかな、と。
他の不動産デベロッパーとかもかなり利益出してますから、中古不動産といえど例外ではないのだろうな、と。
ちなみに最近、中国の恒大集団が破綻するのでは、という話がチラホラ聞かれます。
不動産の価格下落は色んな所に波及する事が多いです。サブプライムローン問題も元は不動産の話ですし、日本のバブルも不動産がメインでした。
恒大集団が仮に破綻したとして、どこにどれだけ影響が出るのかは分かりません。ただ、そうした状況になった時でも大丈夫なスタンスを経営者は取る必要があると私は思います。
カチタスのFCFは黒字で、新築を提供するデベロッパーに比べれば価格的にはリスクは低いですが、マネジメントの意図的な統制を感じないため、油断はできないかな、と。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び同等物が191.1億円(34.4%)は多いですね。キャッシュフローで見た通り、仕入が少なく、売上が増え、キャッシュインが増えたためですね。
在庫は334.3億円(60.2%)。前年より減っていますが、結構な割合を占めてますね。。
在庫の滞留日数は162日・・・う~ん。。不動産をリノベして売るわけですから、工事のリードタイムを考えれば、滞留日数として決して長くはないように思います。つまり差し迫った問題はなさそうです。
ただ、この直近の年はコロナによって在庫が減り、売上が伸びている瞬間の日数ですから、昨年も一応見てみます。
前年は405.1億円(75.8%)が在庫です。ほぼ在庫ですね、凄い。
滞留日数は211日。う~ん。。これでもそれほど問題ない気がしますね。
そういえば事業の中で在庫回転率に言及していましたから、指標としての管理はしていなくとも、在庫の滞留については気を配っているのかもしれません。
ただ、それでも不動産は油断できません。
在庫が総資産の6割を占めている場合、純資産がどれくらいあるのかが重要になってきます。つまり、将来的に在庫の価値が下落し、減損損失を計上した時にどこまで耐えうるのか、です。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は192.5億円あって、担保設定してます。
まあ、この辺りは不動産会社としては普通なのかな、と。
純資産は282.4億円(50.9%)と不動産会社にしては悪くないです。この点は直近で短期借入金を返済して財務状態が良くなっている事もあります。
現在の在庫の価値がよほど棄損されない限りは、問題ない水準です。
あともう一点。
カチタスは在庫の評価方法として以下のような方法を採ってます。
滞留期間が1年を超えると10%の評価損、3年を超えると20%の評価損を計上するようです。さらに、市況が著しき悪化した場合にも言及してます。
今まであまり不動産会社は多く見てないですが、具体的な評価方法にまで言及している会社は無かった(見落としているだけかもですが。。)気がするのでこの点はプラスの印象です。
私が以前いた半導体製造装置関係の会社は、在庫が1年滞留したら50%減、2年滞留したら評価額は1円、という評価減を実施していました。なので10%、20%程度の評価損が果たして十分なのか、というのは分かりませんが、確かに半導体製造装置部品と違い、不動産はある程度マーケットの存在する市場ですし、回転率も悪くなさそうなので、バブル崩壊や大恐慌レベルの危機ならともかく、平時の設定としては妥当かと思います。
純資産比率としてはそれなりに高い上、こうしてきちんと滞留資産に目を配る制度作りを考えると、在庫についても一定の信用もおけます。どこまで意図的かは分かりませんが、FCFがここしばらく黒字である点も考慮に入れると、トータルで見てカチタスは不動産業界の中ではかなり堅実なスタンスではないかと思います。
従業員の状況、役員報酬
平均給与が随分低いですね。。
不動産業界は基本的に高めですし、今は活況なのでもっと多いイメージです。中古住宅といっても住宅は住宅。販売は難しいでしょうからこんな給与で人が居ついてくれるのかな、と少々不安です。
一方、役員はどうかと言うと・・・
1人当たり平均34.3百万円ほどで、従業員に給与と比べるとちょっと高めかな、と思っていたら・・・新井氏の報酬が1億なんですね。。
という事は他の取締役の方は、11.3百万円ほどという事になります。
新井氏への報酬がズバ抜け過ぎな気がします。
社員や他の役員の方の報酬に比べてトップの報酬が多いというのは少々怖いです。
仮に新井氏が報酬に見合うだけの仕事をしていたとしたら、あまりに一人の人間に依存している(ワンマン)事を意味しますし、役割などと関係なくこれだけの報酬を一人に与えるというのは、システムとして問題です。
一応形としては独立社外取締役を含む報酬諮問委員会の審議を経ているとはいえ、基本は報酬を社長が決める仕組みのようですから、決めたのは新井氏本人かと。
これってつまり、自分は一般社員平均の20倍以上、他の取締役の10倍近い報酬を受け取るのが妥当であるとご本人が考えているということですよね・・・すげーな。。
カルロス・ゴーン氏を彷彿とさせる自信。。これがプロ経営者なのか。。
大株主の状況
社長の新井氏どころか個人株主も見当たりません。ニトリホールディングスが筆頭株主です。
沿革を見ると、ニトリホールディングスとは資本・業務提携しているようですね。
株式会社ニトリホールディングスとの資本・業務提携に関するお知らせ|プレスリリース|企業情報|中古住宅買い取りならカチタス
中古住宅再生事業を全国展開する株式会社カチタス(群馬県桐生市、代表取締役社長 新井健資、以下カチタス)は本日、株式会社ニトリホールディングス(北海道札幌市、代表取締役社長 白井俊之、以下ニトリ)との間での資本・業務提携に合意しました。これによりニトリは株式会社アドバンテッジパートナーズ(東京都港区、以下AP)がサービスを提供するファンドが保有するカチタス株のうち34%相当を譲り受けます。
カチタスは2012年6月に新井健資が社長に就任して以来、APの過去の投資先における事業改善のノウハウ・ネットワークを活かしながら事業成長に取り組んできました。リフォーム済み中古住宅を安定的に販売するために不安定だった不動産競売から直接買い取りへと仕入ルートを転換し、旧社名のやすらぎから社名を変更してTVCMやネット広告などのプロモーションを強化、新卒採用を開始して従業員育成も体系化し、リフォームの品質向上も推進しました。さらに累計4万戸以上の販売実績によって蓄積した仕入・リフォーム・販売のノウハウを形式知化し、2016年3月には同業の株式会社リプライスと経営統合した結果、2017年3月期は北海道から沖縄まで2社合わせて全国123店舗で4400戸以上の販売を実現しました。なお、2016年2月には中古再生住宅事業者のトップランナーとして地方における空き家問題への対応などを評価され、「先進的なリフォーム事業者表彰 経済産業大臣賞」も受賞しております。
なるほど、元々アドバンテッジパートナーズという投資ファンドが株を持っていたのをカチタスとニトリの資本提携という形でニトリに売却したわけですね。それでニトリ以外に大株主がいない、と。
同時に、新井氏がやすらぎ(現カチタス)に来た経緯も推測がつきました。
アドバンテッジパートナーズはベイン・アンド・カンパニー出身の2名によって設立されたプライベート・エクイティ・ファンドという事らしいので、新井氏は古巣であるベイン・アンド・カンパニーの人経由の紹介なのかな、と推測。
いくらリクルートでやり手だったとしても、突然ヘッドハントされて社長に据えられるなんて話はちょっと腑に落ちなかったので、このストーリーなら納得です。
株主還元
還元については配当性向30%以上という事で、不動産会社なら無難なレベルかと。
当ブログの方針として、一般企業だと純資産の積み上げはあまり賛同しませんが、不動産関係の会社は事業の性質上在庫のリスクが大きいため、何かあった時のために、少しでも純資産を積み上げるというのは必要な事だと考えます。
実際に出している配当は以下。
安定はしてませんが、記載の通り積極的に配当を出している感じがします。
配当原資となるROEも見てみますと。。
あ~これは凄いです。
純資産を蓄積してリスクに備えつつ、これだけの自己資本利益率を維持しているわけですから、文句はつけられないですね。FCFは黒字ですし、BSの安全性も悪くない。
数値の面でこの会社に課題を見つけるのは難しそうです。
まとめ
業績やFCF、BSの安全性などを見てみましたが、FCFが赤字になっている印象が強い不動産業界にしては珍しく、適切な運営がなされ、かなりリスクが抑えられている企業のように感じました。
強いて懸念を挙げるのであればやはり「人」かな、と。新井氏の報酬が高い事が問題というより、新井氏の報酬だけが高いという点が懸念です。
正直、会社の成長や業績などを総合的に勘案した時、新井氏の報酬水準が不適切とは思いません。順調に業績を伸ばし、適切なリスクヘッジをし、あれだけの利益率を達成できる経営者はなかなかいないのではないかと。
しかし、それらの業績は新井氏一人の力で成し得たものではなく、協力する役員や社員の活躍があってのことではないかと。それを適切に報いる態度が見られないのであれば、それは長期的には組織に何らかのひずみとして現れるのではないか、と。
今のところその兆候は見られないですが・・・はてさて。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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