結論
当ブログにおける半導体業界代表の有力候補。強いて言えば自社株買いの積極導入によるROE向上や取締役の三親等以内の人間を入社させないなどの異族経営に踏み出してほしい。
目次
事業概要
まずはディスコの事業についてです。
ディスコの事業は半導体製造装置(精密加工装置)、精密加工ツールの製造・販売、およびそれに伴う保守サービス等です。今盛り上がっている半導体関係の会社ですね。
かなりシンプルな事業説明で、事業への自信のようなものを感じます。
ただ、これだけだと情報が足りない気がするので、事業のリスクも見ます。
先ずこの2つで何となくの概要が掴めますね。
シリコンサイクルの影響を受ける、というのはその通りで半導体の会社はもともと結構波が激しい事で有名です。
シリコンサイクル(半導体サイクル)とは - IT用語辞典 e-Words
最近はAIやら仮想通貨やらで半導体の需要がうなぎ上りで、正直個人的には「このままもう需要は下がらないのでは?」なんて気もしてますが、「もう下がらないのでは?」という時点からの暴落を繰り返してきたのが市場の歴史。警戒するに越したことはないかと。そして同社の場合はその対策としてWill会計、PIMと呼ばれる活動があるそうです。初めて聞く活動ですね。
先ずはWill会計です。
個人別管理会計(Will会計) | 組織経営 | SDGs / ESG / CSR | DISCO Corporation
2003年から独自の管理会計手法である「Will会計」を導入しています。「部門Will会計」として、Willという単位にて、業務収入や人件費、設備費といった支出などを可視化し、部門の採算管理に活用しています。なお、一般的な管理会計における固定費・変動費のほか“意志費”という独自の経費管理区分を加えることで、個々の経費に対する意義・意味がより明確となっただけでなく、市況に応じたフレキシブルな経費管理を可能としました。なお、Will会計を直接部門だけでなく間接部門含む全社を対象とすることで、ディスコ全体における収益への意識向上と、経費に関するガバナンス強化を実現しています。さらに、2011年からは「個人Will会計」として、管理会計を従業員一人ひとりに落とし込んでいます。これにより、すべての仕事は従来型の指示・命令によって配分されるのではなく、上司や他部門・他者から提示された、Willで値付けされた案件を、メンバーが自分の意志で選択して取り組む形へと変化していきました。この「個人Will会計」の展開が、働きがいやパフォーマンスの向上・意志決定のスピードアップを促し、ひいては生産性の向上につながっています。今後もWill会計の活用により、組織経営の強化を進めてまいります。
ちょっとこれだけ読んでも「?」なんですがさらに詳細を見ると、この制度はかなり面白い。
ディスコには、独自の管理会計「Will 会計」という仕組みがあります。これはWill(=意志)という社内通貨を用いて業務やサービス、備品等を金額換算し、収支を管理するものです。これを社員一人ひとりに適用し、個人で収支を管理する仕組みを「個人Will 会計」と呼んでいます。
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Will会計の下での業務の代表的な進め方が「社内オークション制度」。これは公開された仕事を「これくらいのWillで担当したい」という意志を示して落札する制度です。社内”オークション”とある通り、人気がある仕事は安くてもやりたい人が多いので価格が下がっていき、逆に人気のない仕事は価格を上げないと落札してもらえません。出品者と希望者両者の合意によりWillの価格が決定し、仕事がスタートします。
ディスコでは、多くのWillを獲得する働き方のみを推奨しているわけではありません。困難なプロジェクトで多額のWillを稼ぐ人もいれば、Willの獲得よりも早く帰れる仕事を選ぶ育児中の社員もいます。ライフスタイルや能力に応じてどう働くかは自由であり、オークションでのスタンスも、各人の意志や状況によってさまざまです。
これはかなり面白い制度です。
私も大手企業に勤めているため、如何にすれば社員が能動的に、そのポテンシャルを発揮できる環境ができるのかを色々考え、似たような制度のアイディアを考えていました。しかしまさか既にやっている会社があったとは。。
大手企業で問題として多いものには例えば以下があります。
- 社員のモチベーションがあがらない
- 忙しい社員と働かない社員が混在する
- 人事評価が恣意的、もしくは複雑
こうした組織問題の根底には、「仕事は上から割当てられるもの」というボトルネックがあるのだと私は推察します。
一般的な組織は、チーム(部署)に仕事と人を割当て、チームのリーダーが仕事をメンバーに配分します。要は社員は与えられた仕事を淡々とこなす受け身でしかありません。それを能動的にこなせる人も中にはいるのかもしれませんが、おそらく業務がある程度定型化されている大企業では少数派です。
一方で、仕事をオークションで決めるやり方は、当人が主体的にこれをやる、と決めるわけですから、モチベーションが上がるのは勿論、報酬も事前に決めてあるため評価で揉める事もありません。何より「ただ組織にいるだけ」の人は自然報酬が減ってお払い箱になるのではないでしょうか。
一般的な制度は共産主義的発想、オークション形式は資本主義的発想と言えます。歴史を振り返ればどちらが人類の性質に適合し、発展に寄与しているのかは明らかと思われます。経済のみならず組織人事もまた「神の見えざる手」に委ねた方が概ね合理的なのではないかと。
ディスコのWill会計は一般的な組織における問題点を解決し得る可能性を提示しているように感じます。実に興味深いです。
続いてPIMですが、以下の通り。
PIM(Performance Innovation Management)とはディスコが独自に進化させてきた業務改善活動です。日常業務などにおいてあるべき姿を描き、その姿に近づくために測る指標、目標値を設定。日々指標を測定して、目標値との乖離の理由から気づきを得て、メソッドを変えることで仕事を進化させていきます。
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改善を実行したらそれで終わりではありません。毎月、他部署と対戦形式の1分プレゼンで改善内容を披露し、その勝敗を社員のWill投票によって決めていきます。つまり、優れた改善アイディアを考えて実行することは、仕事を進化させるとともに、Will収支にも多大な影響をおよぼすのです。
この方法によって刺激される社員のプライドや闘争心が、改善活動を企業文化として定着させるほどに後押ししています。PIMの公式対戦数は年間約4,800試合にもおよびます。
実に面白い。Willによって改善評価をリアルにした感じですね。
これ、私が昔考案したインナーミッション形式(以下)に狙いが近い気がします。
他に思いつく人間がいるだろうとは思っていましたが、まさか本当に実践してしかも既に進化させてる組織があるのは驚きでした。世界は広い。
これは是非ともディスコには大きなパフォーマンスをあげてもらい、メソッドの合理性を世にアピールしてもらいたいものです。
ただ漫然とシリコンサイクルに応じた業績変動に身を任せるのではなく、既存の方法に捕らわれない組織制度に着手し進化させていっているのは素晴らしいです。
勿論、こうした新しい取り組み自体が上手くいくかどうかは正直分かりません。ただ、事の成否は関係なく、こうした本質を突く先進的な取り組みは、質の良い企業しか断行できないと思います。
これは当ブログの基準では最高ランクの質的評価に値します。お見事。
セグメントの状況
ディスコは、単一事業ですのでセグメント別はありません。
しかし地域ごとの売上があるのでチェックしておきます。
中国と韓国と台湾が多いですね。
半導体の大手と言えば台湾TSMC、韓国三星(サムスン)、アメリカIntelというイメージですが中国が一番多いということは大手以外にも多く出しているという事なのかな、と。あと、有形固定資産が日本に多くあるという事は、日本で生産後各国に輸出するのが基本のビジネスモデルと推測されます。
と思ったら事業リスクに書いてありましたね。
となるとディスコは、単なるシリコンサイクルだけでなく、チャイナリスク、為替影響も業績に大きく影響するようです。しかしこれは投資家にとっては朗報で、そうした逆風が吹いた時期こそ投資家にとっては買い時と言えます。そういうピンチが無いと株価は割安になりません。基本的に質の良い会社は業績が悪化しても乗り越えるだけの力を持っているものなので、株価が下がった時に復活を見込んで購入すれば、大きく儲ける事ができる可能性が高いです。
これはフォローしていきたい会社です。
業績推移
利益率の推移は23.6%⇒31.5%⇒26.4%⇒27.2%⇒29.3%
製造業としてはトップレベルの利益率です。
気になるのは2018年と2021年ですね。売上も利益も妙に伸びてる。
2018年に関しての業績説明は以下。
例えば買収とかそういう特殊事情は無さそうです。
一応地域別売上を前年対比で見てみてみます。
中国の伸びが大きいですが、それ以外は基本的にはどこも満遍なく伸びている印象。
中国なのですが、この2018年はドル円も円高にふれているのですが、ドル元ではもっと人民元高が進んでいる様子です。
つまり対円でも人民元の価値が上がってるのかな、と。外貨建ての売上というのは基本的に期中平均レートで円換算されますから、人民元の価値が対円で上がった分も売上が伸びているように見えるのではないかと。
後はおそらく需給なのではないかと。為替影響を除いたとしても、需給だけでこれだけ売上が変わるのだとすればやはり変動しやすい業界なのかな、と。
2021年も同じように見てみます。
やはり中国の伸びが特に大きくそれ以外はそれなりの伸びです。
人民元の変動を見てみると、やはり人民元の価値が上がっているようです。
グローバルカンパニーは為替の影響は免れ得ないようですね。
特に人民元は如何ともしがたし、という所。
しかし、ディスコの売上高利益率は多少の為替変動ではびくともしない厚さですから、いきなり赤字転落、という可能性は低いのではないかな、と。
財務指標
ディスコの掲げる指標は経常利益率20%以上と、RORA20%以上だそうです。
経常利益率の分厚さは凄いですし達成できているので問題ありません。
RORAはあまり聞きなれない指標ですが、要するにリスク資産に対してどれだけのリターンをあげているかを示す指標のようです。私がBSを見る時の見方と同じですね。
これはまた管理のレベルが高い。。
シリコンサイクルを考慮に入れるために4年平均のRORAという、的を射た管理方法に加え、具体的な数値目標を立てており、なおかつ水準は高水準。
文句のつけようがないですね。。
不遜ながら、組織への考え方とか、財務指標の立て方とか、ディスコの仕組みを考えた人はブログ主と考え方が近い気がします。気が合いそう。
キャッシュフロー
FCFは安定こそしてませんが、営業キャッシュフローに対してある程度余裕のある投資キャッシュフローになっているため、収支は問題なさそうです。需給が大きく変動する業界ではそこを一定にするのは困難でしょうから、そこは仕方ないかと。
一応投資CFが大きく出ている2020年を覗いておきましょう。
多少定期預金分もありますが、ほとんど有形固定資産ですね。
前年対比で大幅に増えてますから、詳細を見ます。
茅野工場、桑畑工場の建設工事です。
工場の詳細は以下。
目的は生産能力の増強、対応力強化、合理化投資ですね。
余計な買収や副業に対する投資ではなく、あくまで本業を強化する投資ですから、質としては良質です。毎年発生するわけでものいので、過剰投資でも無さそうです。2020年、2021年に次々完成して生産能力の向上に繋がる見込みです。
内容として問題ないと思われます。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び同等物が1,098.1億円(33.4%)と工場持ち製造業らしい無難な水準です。
売上債権は331.7億円(10.1%)で滞留日数は66日。これはかなり短めです。半導体業界は債権の滞留が長い事が多いので、これはポジティブな印象です。
在庫は557.5億円(16.9%)、在庫滞留は268日。リードタイムが結構長そうですね。ただ、これについては事業のリスクで少し触れてます。
単に滞留しているだけでなく、政策的な在庫の積み増しもあるものと推測されます。半導体のサプライチェーンは長いので、重要性の高いモノは何かあった時のためにいくつかストックしておかないといけなかったりします。ここは業種の特性として仕方ない面がある気がします。
一応たな卸資産については収益性の低下が起こった場合は簿価切り下げを行って適宜PLに反映させていますから、よほど大きな変化が無い限りは突然の評価損のような事は起きないと思います。
有形固定資産が1,084.5億円(33.0%)と資産の中ではそれなりの割合です。キャッシュフローのところでも触れましたが、設備投資の構成は非常にシンプルです。
本社・開発・国内販売拠点が東京
生産拠点が広島2工場、長野1工場
(それぞれ北米、欧州、アジアの統括拠点なのではないかと)
装置メーカーでよくあるのは大きな得意先の近くに常駐の事務所を設けたりする事なんですけど、拠点が増えると人員の配置ロスとかも生じるので、無駄が増えます。細かいんですけど、大きな組織がシンプルであり続ける事は積極的にシンプルにする意識が必要です。各拠点の役割分担がシンプルでわかりやすいというのは質的な強みだと思います。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債はゼロの無借金経営ですね。FCFがずっと黒字ですから方針として借金をしないつもりなのでしょうし、借りる必要も無いのかと。
純資産は2,523.5億円(76.7%)と分厚いですね。盤石です。
従業員の状況、役員報酬
従業員の給与は9.7百万円と製造業では相当な高水準ですね。
半導体業界は全体的に高付加価値かつ潤っている業界ですから、高めなのは当然ですが、グループで4,000人超でありながらこれだけの高水準を維持している会社は凄いですよね。。やっぱ今更ながら製造業に勤めるなら半導体業界がいいですね。。
一方、役員はどうかと言うと・・・
取締役1人当たり平均167.3百万円ほどです。やはりかなり高いですね。ただ従業員給与の高水準や、ディスコの質的な高さを鑑みるに法外とは思いません。
多少取締役の中でも関家氏に傾斜している感はありますが、関家氏の役職を見ると
CEOとCOO、開発本部長を兼務されてるんですよね。。
確かに高くもなるかな、と。ここは仕方ない気がします。
こういうのを見ていると思うのは、利害関係者の中でも投資家と社員は本当に業界をしっかり選んで投資or入社した方が良いということですね。投資家や従業員は、膨大なお金と時間を会社に投資する事になるわけですが、同じ苦労をしても業界が潤っているのか、苦しいのかで、得られるお金は相当違う気がします。
単に目先の割安感とかだけ見るのではなく、その業界の展望や全体の利益率などを見つつ、体質のしっかりした会社を選んでいくことが重要な気がします。
その点、半導体業界は当面かなり有望な業界なのでしょうね。
大株主の状況
一見すると目立つ大株主はいなそうですが、まず株式会社ダイイチホールディングスの代表は社長の関家氏です。
http://www.kabupro.jp/edp/20071009/R070H404.pdf
さらに、株式会社ダイイチも名前からしてダイイチホールディングスの関係会社でしょう。調べてみると関家氏と同性の方が代表をしてます。
http://www.kabupro.jp/edp/20080124/R080I1PD.pdf
関家氏の関係者と考えるのが妥当かと。
さらにオレンジコーラルは住所がダイイチと同じですから、ここもまた同じでしょう。
となれば関家氏は実質14.28%の意思決定権を掌握しているのかと。
一応関連当事者取引も見ておきます。
基本的には役員のストックオプションの行使のみです。
ストックオプション制を採用している以上はこの部分は仕方ないですね。(本当はストックオプションなどせずに自分で市場から買ってほしいものではありますが)
私的な管理会社との取引などは無いので、この部分は良いかと。
ただ、見ていると、ストックオプションの行使をしている中で、関家英之氏という名前があります。2021年では役員の中に名前がありませんが、2020年には常務として名前が載っています。
おそらく社長の関家氏の親類でしょう。経歴を見る限り、そこまで特別扱いされている印象は受けないので、おそらくある程度のフェアに見てはいるのでしょうが、社長の関家氏は株主総会でも発言権が大きいわけですから、この点は注意すべきです。
もし関家氏が今後自身の親族を優遇するような人物であれば、一族の私用企業と化す可能性もあるため、その点は警戒すべきかと。
株主還元
連結ベースでの半期純利益の25%とのこと。
ただし、内部留保に必要のないお金ができたら配当に上乗せする旨もキッチリ書いてます。かなり具体的に書いているのも非常に好印象ですね。よく考えてあります。
そして実際の所の単体ベースでの配当性向推移が以下。
非常に高水準です。
一応ROEも見ておきます。
こちらの方も悪くはないのですが、もう一歩ほしい、といった印象です。
配当は十分出しているので、後は自社株買いなどで純資産を圧縮する事でROEを高める施策があっても良い気がします。単なる配当での還元だけでなく自社株買いなどの還元方法についても、何らかの言及やルール設定があるとさらに望ましい気がします。
具体的には「PERかPBRが一定倍率以下の間は自社株買いを続ける」とかです。
こうしておくと、株主は株価が割高の時は配当を享受し、割安になると会社が自社株消却をして持ち株の価値が割り増しになるため、市場がどちらに転んでも安心して見ていられ、安定株主になりやすいです。
まとめ
トータルで見てかなり有望な会社です。個人的には今まで見てきた半導体関連の会社の印象値では、東京エレクトロンと並びます。
強いて懸念を挙げるなら社長であり大株主である関家氏の報酬が他の取締役よりも高く、それだけ役割が多いという事は、ワンマン経営となるリスクがあります。また、前年まで親類と思われる方も役員だったため、その辺りをどう考えているのかも気になる所です。正直、キーエンスのような異族経営に踏み出してほしいな、と思います。
しかし同社の導入しているWill会計のような非常に面白く先進的な取り組みが、ワンマン的な発想の企業に実行できるとは思えないので、個人的には上記懸念は無視できるのではないかと思います。
売上規模の面からも東京エレクトロンに比べれば小さいですから、小規模のメリットなどもあり、東京エレクトロンとディスコであれば、投資先としてはディスコの方を優先するかもしれません。
当ブログではいずれ、優れた体質と思える企業を業界ごとに一社づつ選び、ポートフォリオを組み上げたいと思ってますが、ディスコは半導体業界の有力候補としておきたいと思います。
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