結論
ビジネスの着眼点も面白いし、業績も悪くない。ただ、直近買収したHOTARUは課題の多い会社を抱え込んでしまった感がある。第三者委員会の結論を待ちたい。
目次
前置き
グレイステクノロジーは調査予定にありませんでしたが、読者様にリクエストされたため分析します。
なお、同社は2021年11月9日(つまり昨日)に以下の発表をしています。
グレイステクノロジー[6541]:特別調査委員会の設置及び2022年3月期第2四半期決算発表の延期に関するお知らせ 2021年11月9日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞
上記発表は要するに以下
- グレイステクノロジーは一部の取引について、2017年3月期から2022年3月期第1四半期までの期間において、会計処理の適切性に疑念があることを認識
- グレイステクノロジーとは利害関係を有しない外部の専門家を委員長とし、外部の専門家で構成される特別調査委員会を設置する
- 事実関係の調査及び決算数値の確定作業には一定の時間を有することから、2022年3月期第2四半期決算発表を延期
さらに、この件に関する影響額は一切不明との事。
これを受けて株価は一日で30%下落してます。
そりゃあ、「影響額も分かりませんが、とにかく疑義があるので第三者委員会設置してこれから内容を調査します」とか言われたらみんな怖いですよね。。
ただ、個人的に興味深いのは以下の部分。
このたび、当社は会計処理の適切性(以下「本件会計処理」といいます。)につき外部からの指摘を受け、社内調査を進めた結果、一部につき不適切な会計処理が行われていた疑念があることを認識いたしました。
ほう(-。-)y-゜゜゜
最初のトリガーが「外部」からの指摘ってことは、つまり外部からでもおかしいと分かるという事なのかもしれん、と。むしろ、外部から分かるなら日頃から企業分析している私はその兆候に気づかねばダメじゃないだろうか、と。
ということでブログ主の分析能力テストも兼ねて、気づくかどうかやってみようと思います。
今回の分析では、先ず通常通り、会社自体の体質分析をしたうえで、最後に一体どこが会計処理の適切性に疑義が生まれ得るのか、推理してみたいと思います。
ただし、当然ながら私はグレイステクノロジーの関係者ではない、一介の経理マンなので、推測が外れても悪しからずご了承ください。
事業概要
具体的には以下2つの業務に分かれます。
マニュアル作成専門とは、とてもユニークな事業ですね。
私も仕事上マニュアルを作ったり読んだりする事は多いですが、マニュアルって作る人ごとに癖があり、非常に読みにくかったりする事が多々あります。専門の規格とかがあるともっと色々楽になるんじゃないかと思いますが、社内で統一を図るのはかなり大変です。専門の方が入ってそれが楽になるなら、確かに任せてみたい分野ではあります。
製品のマニュアルなどは特に、製品のユーザビリティに直結するので、下手に片手間で作るより、表現のプロフェッショナルにお任せするのはアリかもしれません。
事業の性質としてはマニュアルの指導であるコンサルビジネスと、マニュアル支援のシステム導入をするITビジネスを兼ね備えた形かな、と。
いずれも付加価値率が高くなりやすい業種です。
セグメントの状況
グレイステクノロジーは先のMOSとMMSの2つのセグメントがあります。
- MMS事業:12.9億円(47.8%、利益率80.2%)
- MOS事業:14.0億円(52.2%、利益率32.8%)
いずれも利益率高いですが、MMS事業の利益率の高さは凄いですね・・・
利益率が高いのは良い事ですが、会計処理の疑義の後だと手放しで賞賛し辛いですね。一応前年のセグメント別も見ておきます。
- MMS事業:12.0億円(63.3%、利益率69.1%)
- MOS事業:7.0億円(36.7%、利益率55.2%)
2020年 VS 2021年では利益率が結構動いてますね。
MMS事業の売上はほぼ横ばいにも関わらず利益率が伸びてます。
このMMS事業の利益率の伸びの理由はどこにも書いてません。
事業別の説明は以下。
経営成績の分析の所はPLの数値を並べているだけで分析じゃないですね。。
一応、決算説明会資料を覗いてみましたが、ここにも特に理由は書いてません。
https://ssl4.eir-parts.net/doc/6541/ir_material_for_fiscal_ym/100244/00.pdf
社内の財務分析はほとんど機能していない印象です。
単体の人員が以下の通り、かなり小規模なのでそこまでやれるマンパワーが不足しているのかもしれません。
となると推測しかできませんが、MMS事業はクラウドサービスの提供がメインなので、機能追加やバージョンアップなどがコストになると思われます。
クラウドサービスは一度作ってしまえば、大きなトラブルや機能追加さえ無ければ高い利益率を維持する事は十分考えられます。アップデートのあるなしでコストが増減して前年対比で利益率が変わる事もあるかと。
利益率が異常なほど高いという事以外、ここはそれほど違和感ありません。
一方のMOS事業は売り上げが倍になってますが、利益率は下がってます。
これについては直近にあった「HOTARU」買収の影響と推測されます。
HOTARUの売上高は6.6億円と、前年対比でMOS事業の伸びた売上の金額とほぼ一致しますし、利益率も単体決算に比べると高くないので、この買収分で利益率が下がったものと推測します。
ここまで見ている限りでは、異常なほどの売上高利益率を持つものの、元々の事業が高い付加価値率になりがちなIT事業とコンサル事業ですし、規模がそれほど大きくない事もあるので、あり得ないレベルではないのかな、と。
業績推移
利益率の推移は29.1%⇒31.4%⇒37.6%⇒49.8%⇒55.2%
売上の伸びに伴って大幅に利益率を上げてますね。
2017年のセグメント売上を見ておきます。
- MMS事業:5.2億円(51.8%、利益率55.0%)
- MOS事業:7.0億円(48.2%、利益率45.1%)
いずれも5年前の段階で利益率が高いですが、5年後に売上が伸びるとさらに利益率が伸びていますから、経費に含まれる固定費※の割合が多いのかと思われます。
※固定費は本社経費とか減価償却費とか、売上が伸びてもあまり増えない経費
これも別に違和感ないですね。。
一応、直近のPLと売上原価明細を見ておきますか。
粗利高っ・・・87.3%って。。
いやしかし事業の性質上、原価の無いタイプの事業ですからこれも問題ないかと。
むしろ何を原価にしているのかが気になります。
売上原価明細を見てみましょう。
売上原価のうち外注費が8割近いですね。
外注の内容はおそらくマニュアルのテクニカルライターや翻訳者に払う外注費用のようです。そうしたコストであれば年によって原価が増減するのも理解できます。
自社の社員の給与は原価にしておらず、おそらく販管費の方に含まれているのかと。
問題なさそうですね。。
財務指標
グレイステクノロジーは売上規模の拡大を目標としており、各PL数値の目標を設定しているようです。
グレイステクノロジーはまだまだ規模小さな会社ですから、目標は別に売上高の成長だけで良いと思います。売上100億円くらいまでは売上の成長を目指すだけでも良いのではないかと。そもそも付加価値率は高いのでその点は別に注意する必要もないです。
キャッシュフロー
業種の性質上キャッシュフローは十分に入ってきている印象です。
2021年は営業CFが入りすぎていますが、これは買収の影響でキャッシュフローが色々混乱※しているだけかと。
※キャッシュフロー計算書は前年と当年のBSの差を積み上げて出す方法(間接法)が一般的で、期中に買収をすると前年と当年のBSの範囲が変わってしまって、分かりにくくなります。
2020年度の投資が多いので内容を確認します。
1億円の定期預金ですね。
大きな投資はなく、潤沢なフリーキャッシュフローが見込める事業のようです。
B/S(貸借対照表)
資産の確認です。
現金及び同等物が41.9億円(65.8%)とかなり現金多めです。事業の性質でしょうね。
売掛金は6.2億円(9.7%)で滞留期間は84日。そんなに違和感ない滞留期間ですね。
在庫が1.2億円(1.8%)、滞留期間は65日。これもまた違和感ないですね。
有形固定資産は7.8億円(12.2%)、ほとんど買収したHOTARUのものですね。
元々建屋も土地も自前で持つ必要のない業種です。
そもそもHOTARUはどういう会社で、どんな買収だったのか、確認しておきましょう。
HOTARUは創業60年以上のマニュアル制作の老舗だそうです。
事業としてはグレイステクノロジーに近いので、買収の質としては悪くありません。
ただ、もう少し読み進めると気になるのが・・・
負ののれんが2.2億円発生しているんですが、違和感あるんですよね。
のれんというのは例えば純資産が2億円の会社を3億円で購入した際、連結上のプレミアム分である1億円を計上する資産勘定です。
負ののれんはその逆で、純資産が3億円のものを2億円で購入して帳簿上1億円得をすることになったとき、差額を計上する勘定です。
普通は買収って売り手有利ですから、負ののれんが発生する事ってあまりないです。帳簿上の純資産額より安く売るケースで考えられるのは、赤字を垂れ流し続ける企業、つまり価値を棄損し続けている場合です。
ただ、HOTARUの業績ってここで見る限りはそんなに悪くないんですよね。買収時の数値は営業利益が出てます。
なんでグレイステクノロジーは負ののれんが発生するほど安く買えたのか、そしてHOTARUの売主は何故売ったのか。違和感あります。
負債、純資産を見てみます。
有利子負債は23.9億円(37.6%)と結構借りてます。
内訳としてはHOTARUの買収のために借りた有利子負債と、元々HOTARUが持っていた有利子負債とがある筈です。
単体決算を見てみるとグレイステクノロジー本体が借りているのが13.7億円ですから、残りがHOTARUが元々抱えていた借金10.2億円かと。
純資産は32.0億円(50.3%)とそれなりに積みあがっています。有利子負債も多いですが、キャッシュが資産リストの半分以上を占めているグレイステクノロジーあれば、これくらいの純資産比率でも無茶ではないと思います。
従業員の状況、役員報酬
正直、コンサルやIT業界の中では給与はかなり低い方だと思います。
あと、勤続年数がかなり短いです。40人という人数で別に従業員人数が増えているわけでもないのに5.7年って、結構辞めているのではないかと。
給与の水準が低く従業員が定着しない。しかも人数が少ないとなれば、当然ながら会社としてのノウハウの蓄積は困難になります。これはかなりの不安要素です。
一方、役員はどうかと言うと・・・
社内の取締役1人当たりの報酬は平均15百万円ほどです。
上場企業としてはかなり少ない方だと思いますが、従業員給与や会社の規模を鑑みれば妥当な水準かと。というかこれくらいの規模で取締役が5人もいるというのも若干多い気はしますね。
大株主の状況
創業者である松村氏が9.85%持っているだけで、他には意思決定を行使しそうな大株主はいません。松村氏にしても2021年の4月にお亡くなりになっています。
どなたが相続するのかは分かりませんが、これだけの割合であれば、少なくとも大株主が経営に影響を及ぼす環境にはなさそうです。
株主還元
具体的な目安は書かれていませんが、安定した配当については心がけている感じがします。
ROE自体がそれなりに伸びているため、配当性向がそれほど多くなくとも、株主への還元率は悪くないのではないかと。少なくともこの5年ほどは。
不適切な会計基準についての考察
一通りの分析を終えたので不適切な会計基準に話を戻しましょう。
不適切な会計基準には2通りのパターンがあると思います。
- 会計士が関与するパターン
- 会計士にバレないようにやるパターン
正直、1はあまり可能性としては高くないように思います。
マイナーな監査法人が、監査を請け負うために経営者に抱き込まれて粉飾を見逃してしまう、というケースはあるかもですが、監査法人として大手のEY新日本監査法人がそんなことをするメリットはかなり少ないように感じます。勿論可能性はゼロではないですが、リスク高すぎです。つーか、会計士までグルになってたら素人には分かりっこ無いと思います。
そうなると、会計士の目を誤魔化すタイプの会計処理ですが、基本的に監査の目をかいくぐる手段って、私が知る限りそんなに多くないと思ってます。
具体的にいうと以下の二つくらいしか私は知らない。
しかし、いずれも在庫と売掛金いうBS勘定に兆候が表れます。
で、BSを見る限り、仮に上記の両方を実行していると仮定しても、MAXで在庫+売掛金の7.3億円が架空になるだけなので、純資産32億円のグレイステクノロジーにとってはそこまで大きな問題にはならないのではないか、という気がします。
あと、何より腑に落ちないのは、別にそんなことしなくてもグレイステクノロジーは債務超過というわけでもなく、それなりに順調に収益をあげているのに、そんな事をする必要がどこにあるのか、という。そこがやっぱり腑に落ちない。
不適切な会計基準というのは、苦しい業績で銀行などに融資を打ち切られたくないような会社が苦し紛れにやったりする事なので、基本的に優良な業績のグレイステクノロジーがやる必要性を感じません。あるとすれば社内でのプレッシャーがあまりに厳しくてやってしまった可能性ですが・・・ただそれでも最悪で7.3億の損失だと思うんですけどね。。
で・・・色々考えた末に、かなり大胆な新案を一つ。
2020年に買収したHOTARUが不適切会計をしていた可能性は無いだろうか、という。
一通り有価証券報告書を見ていて違和感があるのは、HOTARUを純資産以下で購入している事なんですよね。。売り手がなんで会社をそんな値段で手放したのか。
例えば実はもっと帳簿価額としては低い価値だったのを、色々水増ししていた可能性は無いだろうか、と。HOTARUは上場企業ではなかったから、会計士監査も受けておらず、高値で売るために手心を加える余地があったのではないか、と。
以下はHOTARUの決算公告の貸借対照表です。
純資産は10億円以上あるのですが、対応する資産には2億円近い売上債権、棚卸資産は1億円近い。建物や土地も持ってますけどこれは本当に今もその価値があるのだろうか、減損すべきところをしていなかったのではないか、とか。HOTARUのBS勘定ははグレイステクノロジー本体よりも怪しむべき数値が多い気がします。長期貸付金というのも関係会社に対する貸付らしいのですが、貸し倒れのリスクはないのかな、とか。。謎が多い。
しかし、仮に不適切な会計処理がHOTARUの事だとすると、今度は以下の文章がひっかかる。
https://ssl4.eir-parts.net/doc/6541/tdnet/2044013/00.pdf
当社は、本件会計処理の適切性につき外部からの指摘を受け、事実経緯の確認のために社内調査、検討を進めた結果、一部の取引について、2017年3月期から2022年3月期第1四半期までの期間において、会計処理の適切性に疑念があることを認識いたしました。
グレイステクノロジーがHOTARUを連結に加えたのは2021年3月期からなので、もし不適切な会計処理がHOTARUの事だとしたらこんな表現をするだろうか・・・。HOTARUの財務諸表が2017年3月期以降で改ざんされている可能性もあってその事を言っているのならばあるかもですが・・・ん~・・・わからん。
私は実現可能性から考えれば、非上場だったHOTARUの財務諸表の改ざんの方が現実味があると思いますが、やっぱり断定はできなさそうです。。
第三者委員会の結論を待って答え合わせすることとしましょう。
まとめ
ビジネスの着眼点も面白いですし、創業者に固定資産を持たないファブレス的観点があるのは悪くないと思います。ただ、直近買収したHOTARUは土地建物を持っていたり長期貸付金を持っていたり、大量の有利子負債を抱えていたりと課題の多い会社を抱え込んでしまった感があります。今の業績だけを見れば悪くはないですが、利益の源泉たる社員の勤続年数、給与水準、人数などを見ていると、今後も問題なく安定運営されていくのかは疑念を抱かざるを得ないです。
「不適切な会計処理」が一体どこまで波紋を広げるのかは不透明ではありますが、仮にそれを乗り越えたとしても、グレイステクノロジーの抱えた課題は、それさえ解決すれば終わる話ではないと思います。
本記事は主に有価証券報告書を元にした筆者の私的見解であり、特定の意思決定を推奨するものではありません。また、内容に対して適切と思われる指摘があれば、迅速に加筆修正致します。
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