企業分析アナトールの株式投資

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【7097】さくらさくプラスの優待新設について

結論

さくらさくプラスにこの施策が継続できるかは不透明だが、こうした優待は一定の条件を満たすと株価対策として面白いかもしれない。

 

さくらさくプラスという会社さんがこのリリースを出しました。

 

2単元(200株)の株式を保有されている株主を対象に半年に1度1万円分のクオカードを配るという優待を新設したそうです。

年間で2万円分のクオカードが入るのですが、この会社の2単元分の価格はこのリリースがある前では20万円程度、つまり年間利回りは優待クオカードだけで10%にもなってしまいます。これを受けて当然株価はストップ高

それはそうだろうな、と思います。年間利回り10%は普通に魅力です。

ただ、懸念されるのはこんなに大盤振る舞いして財務は大丈夫なのかな、という点。

 

施策のコストと会社の体力について

この施策によって会社にどれくらいのコスト負担が生まれるのか概算してみます。

同社の発行株式数は4,525,300 株だそうで、そのうち2,852千株が主要な株主です。

優待は「200株以上の株主に対して2万円のクオカードを配る」という事ですから、ここに名前のある200株どころではない株数を持っている方々でも、一人当たり年2万円しか配られません。よって、これらの大株主を基本的に売らないという前提で考えるなら、この66.13%分についてはほぼコストを意識する必要はないです。

この優待のコストは残りの浮動株33.87%が全て200株しか持たない株主になった場合に最大化するため、想定される年間維持コストは(4,525,300-2,852,000)/200×20,000円で大体年間で1億5000万円ほどかかることになります。

同社にこれを維持するだけの収益力があるかどうかですが・・・

損益計算上では安定して数億円の包括利益を出してますから、不可能ではないのかなと思います。一応キャッシュフローも確認してみると・・・

フリーキャッシュフローは赤だったり黒だったりで若干波があります。

事業は認可保育所運営の会社ということで、安定してそうなのに変だなーと思って当年のキャッシュフロー見てみたら。

仕掛販売用不動産の増減がキャッシュフローに大きな影響を与えてます。

なるほど、販売用不動産を開発して売却しているのですね。

確かにフリーキャッシュフローの動きは不動産業のそれですね。

事業内容を見れば確かにそれっぽいことが書いてます。

不動産業は羽振りがいい時は良いんですが、資金繰りに詰まると怖い業態なので、直近で羽振りがいいからといって油断はできません。不動産の関係で資金繰りが悪化した時、この優待制度が維持されなくなる可能性は念頭に置く必要があると思います。

一応B/Sの資産蘭を種類別に分類してパーセンテージでみると

有形固定資産: 61.0%

現預金: 10.9%

売上債権: 8.5%

在庫: 7.6%

投資: 6.8%

無形固定資産: 2.8%

その他: 2.5%

 

有形固定資産が結構な割合を占めていて、在庫(仕掛販売不動産)もそれなりにあります。決してキャッシュリッチな会社ではないです。うまくお金が回っているうちは優待も出せるかもしれませんが、後から重荷になってきたら廃止するという可能性もあると思います。。警戒はしておいた方がいいと思います。

 

今後について

優待は基本的に規模の小さい株主の方がメリットが大きくなります。10%の利回りというのはあくまで最低限の2単元の株だけを買った人にとっての利回りであって、沢山持っている人にとっては、恩恵が少なくなります。

むしろ、優待導入によるコストは包括利益から出てくるので、本来受け取れる筈だった利益が減る事になる大株主は損を被るする形になります。となると、大株主は長期的に見れば損なので今回の株価上昇に乗じて売却する事も考えられ、そうなればさらに少額株主が増えて、優待のコストが嵩んでくることが予想されます。

長い目で見るとちょっと苦しくなる気がする施策な気がします。

 

気付き

私は元々、株主優待は公平な利益配分とはいえないので、あまり賛成していません。ただ、今回のケースを見てちょっと思ったのは、安定株主がいる企業がうまい具合に調整すれば、かなり低コストで株価を劇的に上げる事ができる施策になって面白いかも、という事。

実際、この施策を導入したことで、同社の時価総額は1日で13億円以上(30%)上昇したわけです。年間MAXで1.5億円のコストアップがあるとはいえ、これだけ時価総額があがる効果があるなら、条件を考えて使いどころによっては有効な施策になりそうな気がします。

株価上昇の施策の王道は配当と自社株買いですが、自社株買いには会社法上の上限規制もありますし、配当も株価の値上げ効果はここまで大きくありません。

浮動株が少ない企業なら、今回の施策のように買い意欲をちょっと刺激するような施策を実施する事で、株価を効果的に引き上げ、既存株主のイグジットに利する可能性もある、と思いました。